新着情報

2020.08.02

新型コロナウイルスより怖い「心を蝕むウイルス」の感染拡大

 長かった梅雨がようやく明け、8月に入り一気に夏本番。暑い日が厳しくなりました。
 今年の夏はいつもとは違う「夏」を私たちは経験し、過ごさなければなりません。
 新型コロナウイルスの感染が再拡大している中、私たちは一人一人基本的な感染予防をしていかなければなりません。マスクに関しても、熱中症に注意しながら、必要に応じて外すなどして調整していかなければなりません。

 新型コロナウイルスの感染拡大以上に私たちが脅威を憶え、そして危惧することは新型コロナウイルス感染拡大と共に、「心を蝕むウイルス」の感染拡大です。
 「自粛警察」と呼ばれる恫喝行為の拡大。一方新型コロナウイルスに感染した人たちに対する誹謗・中傷。感染した人たちを悪者扱いにしてしまう。県境をまたいで従事する人たちやその子供たちへの差別、そして医療従事者への差別など、新型コロナウイルスの感染拡大と同様、あるいはそれ以上の社会的な脅威と言わなければなりません。私たちはこの「心を蝕むウイルス」の感染拡大を広げてはいけません。収束に向けて私たち一人一人が取り組んでいかなければなりません。この「心を蝕むウイルス」は私たちの力で収束させることが出来ます。

 感染を防止することを一番に考えた場合、どうしても感染しないためには相手を疑う、そして自分自身を疑う。「相手を、そして自分を疑う気持ち」が大きく心を占めてしまいます。そのことが大きく自分を支配してしまうと、相手に対しての優しさがどんどん失われてしまいます。感染してしまった人には今以上の優しさを注ぐことを忘れてしまうと、自分自身がどんどん壊れてしまっていきます。「心を蝕むウイルス」に対しては「相手を包み込む優しさ」という抗体で感染をブロックしていかなければなりません。

 私たちの不安はやはり新型コロナウイルスはどうゆうものなのか。感染してしまった場合はどうなってしまうのか。など私たちの不安を取り除く情報が全く国や自治体から発信されていないことにあると思います。ニュースを見れば、「感染者数が何人、過去最高の発生者数だ。」とか、「自粛要請をする。」、「食事は2時間」、「5人以上の会食は自粛する。」などの情報は流れていますが、そのことも大事ですが、わからないことがまだまだ多いのだと思いますが、私たちの不安にしっかり答え、正しい情報を国や自治体がしっかり伝える姿勢もほしいと思います。例えば、親が感染し、子どもは感染していない。そんな時親が入院、隔離された場合は子供はどうなるのか?子供の生活や面倒は行政がしっかり守り保障してくれるのか。家庭内に介護される高齢者がいて、介護している人が感染して入院、隔離された場合に、その介護を受けていた人の生活はどうなるのか。また一人暮らしの方が感染を起こし、自宅待機になった場合、都会なら宅配によって食事は摂れますが、そういう体制がない場所では外出することもできず、その人の食事はどうするのか。本当に身近な、そして一番大切な問題が多くあります。
 また新型コロナウイルスに感染した場合、周りの目はどうなのか、誹謗中傷を受けてしまうのか。そういった場合、今いる場所で暮らし続けられるのか、等私たちを取り巻く不安は多く、そのことに押しつぶされかねません。こういった私たちの不安に国や行政はしっかり耳を傾け、寄り添い、支え共に新型コロナウイルスが収束するまで戦う姿勢を見せて欲しいと思います。

 新型コロナウイルスの感染以上に「心を蝕むウイルス」の感染拡大が本当に心配です。私たちの力で、この「心を蝕むウイルス」の撲滅に向けて一人一人できることを取り組んでいかなければなりません。

2020.07.31

肛門ポリープってなに?悪性なの?良性なの?

 さて、今回は肛門ポリープに関してお話したいと思います。
 肛門ポリープは裂肛(切れ痔)などによく合併します。排便時に肛門上皮が切れてしまうのが裂肛ですが、切れたり治ったりすることを繰り返すことによって肛門ポリープが出来てきます。また内痔核にも一緒にできることがあります。この場合も内痔核が腫れたり治まったりすることでできてきます。
 ではどうして肛門ポリープが出来るかをお話します。

 肛門の出口から、約23㎝まで肛門上皮と言って皮膚の部分があります。その奥が直腸になります。この肛門と直腸との境目に歯状線という部分があります。見た目が歯の様に見えるので歯状線と言います。歯状線の部分には細長い凸凹した部分があります。これを肛門乳頭と言います。移行上皮と言って普通の皮膚とは少し違うものでできている肛門乳頭にできる炎症性・線維性に肥厚した肛門乳頭を肛門ポリープと言います。

 原因としては下痢や便秘などを繰り返すことで裂肛や内痔核などが発生して、その慢性的な刺激によって炎症を起こし、線維化を起こし肥厚して大きくなりポリープになっていきます。でも肛門ポリープは大腸や直腸などの粘膜にできるポリープとは違います。したがって癌化することは有りません。ちょっと違いますが「ペンだこ」の様に慢性の刺激炎症によって起きる炎症性のポリープです。
 悪性化しないのですが、慢性の刺激や炎症が続くことで段々大きくなっていくことがあります。したがって肛門ポリープの大きさはさまざまです。肛門乳頭が少し大きくなったような米粒大のものから、親指大まで様々です。形も色々で、えのきだけのようなポリープもあれば、なめたけのような大きさのものもあります。また、柔らかいもののあれば、炎症が繰り返すことで硬くなったポリープもあります。

 症状としては肛門ポリープだけではポリープが大きくなって、排便時に肛門の外側に出てくるようにならない限り、肛門ポリープ単独の症状はあまりありません。
 裂肛に合併するときは裂肛の症状が主体で、排便時の痛みや出血があります。肛門鏡などで観察すると裂肛による慢性の炎症で肛門ポリープを合併していることがあります。
 また、内痔核が腫れたり治まったりすることで炎症を起こし肛門ポリープが出来てきます。この時も肛門ポリープ単独の症状はなく、内痔核の症状、排便時の出血や違和感そして排便時の内痔核の脱出といった内痔核の症状が主体となります。ただ。内痔核が脱出してこなくても肛門ポリープだけが大きくなり排便時に外に出てくることもあります。また内痔核が排便時脱出してくることで初めて、肛門ポリープも出てきて内痔核以外に何か出てきているといった症状で肛門ポリープを確認することもあります。
 ですから、肛門ポリープだけですと大きくなって排便時に肛門の外側に出てくるようになって初めて肛門ポリープに気が付くことがほとんどです。
 でも肛門ポリープは癌化することは有りません。肛門の中だけにあって、排便時にも肛門の外に出てこず、症状がなければそのまま放置しておいて、全然大丈夫です。
 でも大きくなって排便時に肛門の外に肛門ポリープが出てくるようになった際は、スッキリ治そうと思うと肛門ポリープを切除しなければなりません。
 裂肛に肛門ポリープが合併した場合は、裂肛そのものが慢性化していて裂肛根治術が必要な場合が多いので、裂肛根治術の時に一緒に肛門ポリープを切除します。肛門ポリープが排便時に出てくることで裂肛そのものも治り難くなります。また内痔核の脱出と一緒に肛門ポリープも出てくるようでしたら痔核根治術をしながら一緒に肛門ポリープを切除します。
 内痔核の場合、ジオンによる四段階注射法での痔核硬化療法(ALTA療法)の適応である内痔核に肛門ポリープが合併していた場合は、肛門ポリープは切除して、内痔核に対してはALTA療法を行うといった方法で治すこともあります。

 肛門ポリープだけが単独で排便時に肛門の外に出てくることもあります。その場合は、肛門ポリープの根元に局所麻酔をして肛門ポリープを切除することがあります。この時は入院での手術ではなく、外来での手術になります。肛門ポリープだけの切除ですと、術後や排便時の痛みはほとんどありません。手術を行った後は710日間後に受診していただき、痛みや出血など症状がなく、スッキリしていれば治療は終了となります。比較的簡単に終わります。
 肛門ポリープ、放っておいても癌化しない、悪いものではないと言っても、大きくなって排便時に肛門の外に出てくるようになると、やはり嫌な症状になります。そういった場合は手術で肛門ポリープを切除してスッキリするといいと思います。
 気になる症状があれば、受診して下さいね。

2020.07.31

7月が終わり、新型コロナウイルスの感染再拡大のなかで

 7月も終わり、そして梅雨明けにもなりました。そのような中、新型コロナウイルスの感染が再度拡大してきています。そのような中、今、感じることをお話したいと思います。

 緊急事態宣言後に、いったんは新型コロナウイルスの感染者数は減少しました。でも完全に収束ことはできませんでした。現在、緊急事態宣言時以上に感染者が増加しています。
 このことは、「自粛」だけでは新型コロナウイルスの感染を完全に収束することはできないということが明らかになったのだと思います。やはり、感染拡大を収束させるには、新型コロナウイルスに対して安全に使える治療薬、そして予防策や症状を軽減させるためのワクチンが副作用なく接種できるようにならなければなりません。そしてこのことで新型コロナウイルスの感染拡大を収束させることが出来るのだと思います。
 でも、自粛をするな、自由に活動してもいいということではありません。私たち一人一人が出来る感染対策を今以上にしっかり取り組んでいかなければなりません。
 治療薬やワクチンが実用化されるまでに私たちが今できることは、新型頃のウイルスの感染拡大のスピードを抑え、そして重傷者をふやすことな私たち皆の命を守ることです。

 このためには早期に新型コロナウイルス感染者を診断して早期に治療に移行できる体制をとることだと思います。PCR検査の拡充もその一つです。それには、PCR検査に関わる医師やなどのスタッフや検査技師の確保増員。そして検体を運ぶ人たちの確保も必要でしょう。またその結果を迅速に報告する体制も必要です。そして、新型コロナウイルス感染患者を受け入れる側の医療従事者には十分なマスクや防護服、フェイスシールドなどの十分な装備が滞りなく供給できる体制が担保されることで医療従事者も新型コロナウイルスに立ち向かえるのだと思います。
 現時点の病院等の医療機関では、345月で、新型コロナウイルスの感染患者さん以外で延期になっていた患者さんの手術などの治療に当たっているため、今の時点で新たに新型コロナウイルスの感染患者を受け入れることには後ろ向きなのだと思います。一端、一般患者さんの受け入れ体制の移行した病院等では急に再度新型コロナウイルス受け入れ体制に戻すことは難しいのではないかと思います。そうすると、新型コロナウイルスの患者の入院、そして、それ以外の患者さんの治療を同時に、そしてこれまで通りに行っていくとなれば、新型コロナウイルの感染患者さんを受け入れる施設や体制を新たに増やさなければならないと思います。これは入院だけでなく、外来においても同じだと思います。やはり、発熱外来を持つ新規の公的外来医療機関、公的入院医療機関を作り新型コロナウイルス感染患者さんと、一般の患者さんを分けて治療できる体制が必要だと思います。

 また、保健所の機能拡大や、感染症に関しての保健所を支援する体制や新たな感染症対策に関しての行政機関の設置等も考えなければならないと思います。保健所は普段から感染症対策の中核機関であり、一端感染が拡大した際には最前線に立つ行政機関です。そのためにも保健所の設置個所を増やしたり、そこに従事する職員の増員も必要になると思います。これまでのような、いかに職員をリストラするか、また民間への委託を増やすかという政策から、行政が責任をもって市民の命や健康、そして暮らしを責任をもって行う体制へと政策を変換することが必要ではないでしょうか。また、新型コロナウイルスの感染者を早く見つけ、早く封じ込めていくには小さな地域での体制が必要かと思います。住宅地、オフィス街、歓楽街、等々、各地域によって全く抱えている問題が違います。またそこに住む人たちの人口構成なども地域地域でまったく違います。京都府、京都市と言った大きな地域での感染対策ではなく、各行政区単位、もしくはもっと小さな中学校区域単位などでの対策が必要になってくるのではないかと思います。そしてそこには医師がいる保健所と、地区医師会や地域の先生方との連携が大事になると思います。

2020.07.27

血栓性外痔核、「治りやすい」と「治り難い」との差

 本当はオリンピックが開催されていた4連休も終わり、新たな一週間が始まりました。京都は今日も雨ですが、そろそろ梅雨明けも近づいているようです。いよいよ暑さ厳しい夏が来ます。蝉の声も聴く様になり。夏本番だなあと思います。

 さて、今日は血栓性外痔核についてお話したいと思います。
 血栓性外痔核は肛門の外側の静脈叢に血栓が詰まって腫れて痛いというのが基本的です。でも血栓性外痔核と言っても様々な症状で患者さんは受診されます。例えば、「急に肛門が腫れてきて痛くなった!」と痛みが強く出る患者さんもいれば、「肛門に何かできて、痛くはないが異物感がある。」と痛みを訴えない患者さんもいます。血栓性外痔核も痛みが強いこともあれば、痛みがなく、ただ違和感や異物感だけのこともあります。
 また、「拭いても拭いても血が止まらない!」とびっくりされてくる患者さんもいます。
 このように血栓性外痔核でも様々な症状で患者さんは受診されます。
 また血栓性外痔核の治り方にも違いがあります。痛みは強いが直ぐに治まってしまう血栓性外痔核があると思えば、痛くはないが全然治らず、いつまでたっても違和感や異物感がある血栓性外痔核もあります。
 どうして、血栓性外痔核でも痛みがあったりなかったり、早く治ったり治らなかったりするのかに関して、私の思うところをお話します。

 このように同じ血栓性外痔核でも痛みや治り方に差が出るのは、どのような血栓がどう詰まったかによるのだと思います。
 例えば、痛みが強く腫れも強い血栓性外痔核は、小さな血栓が多数詰まって、そのことによって腫れが強いタイプの血栓性外痔核です。ただ、一つ一つの血栓が小さいので、消炎鎮痛剤の座薬を使うことで腫れは引いてきます。腫れているのが痛いので、腫れが引くと痛みはスッと楽になってきます。そして詰まっている血栓一つ一つは小さいので溶けて体に吸収するまでの期間はやはり短くなります。こういったタイプは痛みは強いですが、早く治る血栓性外痔核です。
 これに対して比較的大きな血栓が一つブチっと詰まると、それほど腫れは強くないので、痛みは楽です。でも大きな血栓が一つ詰まるので、違和感や異物感は強くなります。痛みは少ないのですが、血栓の一つが大きいので、溶けて体に吸収するまでにはどうしても時間がかかってしまいます。こういったタイプの血栓性外痔核が痛みはないがなかなか治らないタイプです。

 また、「出血が止まらない!」ということで受診されるタイプの血栓性外痔核は、比較的浅いところに血栓が詰まって、直ぐにその表面が破けてしまうタイプの血栓性外痔核です。
 詰まった時は痛みがあるのですが、破けて出血はしますが、破けることで痛みはスッと楽になります。痛みはキンキンに腫れているのが痛みの原因です。破けることでそのキンキンさがなくなり、血は付きますが、痛みは楽になります。
 また出血に関しても詰まった血栓が出てきているだけなので、傷口から絶えず出血しているわけではありません。かえって溶けて体に吸収される以上に破けたところから血栓が出ていくので、血が出てびっくりはしますが、こういったタイプも早く治ります。
 このように血栓性外痔核と言っても痛みや腫れだけでなく、様々な症状があり、血栓性外痔核のタイプによって治り方も違ってきます。

 でも血栓性外痔核の治療の基本は痛みをとることで、血栓は自然に吸収され治っていきます。でも血栓が大きかったり痛みが強い場合は、その症状を早く取るという目的で手術をすることもあります。
 自分の症状そして血栓性外痔核の性状を診て、一番いい治療法を選択して治していくのがいいと思います。

2020.07.26

妊娠中も大抵の治療が可能です

 7月も今週で終わります。京都は728日の火曜日頃に梅雨明け、そして本格的な夏を迎えます。
 今年の夏は、新型コロナウイルスの影響で、これまでとは違う夏を過ごすことになると思います。五山の送り火も縮小され、また各地の花火大会も中止。海水浴場の海の家などもなくなるところもあるようです。これまで過ごしてきた「夏」ではない「夏」を経験することになります。子供たちが楽しみにしている海水浴やプール。どうなるのかなあと思います。

 また夏と言えばビヤガーデン。今年はどうなるんだろう。密を避けながらのビヤガーデンになるんでしょうか。仲間たちと一緒に楽しくビールを飲む。今年は少し趣を変えた方法で夏のビールを楽しむことになるのでしょうね。
 でも、ある程度気分転換して、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むこともしなければ、ストレスばかり溜まってしまいます。なかなか難しいですが、新型コロナウイルスの感染に注意をしながらストレスも上手く解消していかなければなりませんね。

 さて、7月に二人の妊婦さんの手術をしました。妊娠中は何も治療ができないと思っている方が多いと思います。そんなことは有りません。肛門の病気では、たいていの治療を受けることが出来ます。
 軟膏などの治療はおなかの赤ちゃんには影響はありません。またどうしても妊娠中は便秘傾向になります。そういった場合には緩下剤で便の調整をすることもできます。渡邉医院では便秘の際はまずは酸化マグネシウムを内服してもらっています。この酸化マグネシウムもおなかの赤ちゃんには影響はありません。どうしても妊娠中は便秘傾向になり、これが原因で裂肛(切れ痔)や内痔核(いぼ痔)になります。これらの病気は緩下剤などで便の調整をして、軟膏をつけることで大抵の場合は良くなっていきます。

 また、内痔核が悪くなり、排便時の出血が多くなってきたり、排便時に少し内痔核が肛門外に出てくるようになっても、パオスクレー(5%フェノール・アーモンドオイル)による痔核硬化療法で、出血は治まりますし、第Ⅱ度程度の排便時に肛門の外に内痔核が出る場合も出なくなります。このようにパオスクレーによる痔核硬化療法も妊娠中でも可能です。
 ただ、第Ⅲ度以上の内痔核の治療に使うジオンという痔核硬化剤は妊娠中には使うことはできません。
 さて、妊娠中に急にお尻の具合が悪くなり痛みが出てくることがあります。一つは血栓性外痔核と言って、血栓(血豆)が肛門の外側に急に詰まって腫れて痛みが出る病気です。
 もう一つは内痔核に血栓が詰まって急に痛くなることがあります。そして血栓が詰まった内痔核が肛門の外に出たままの状態、嵌頓痔核になることもあります。
 そしてもう一つ痛みが出る病気に肛門周囲膿瘍があります。

 どうしても妊娠中は血栓ができやすくなるのかなあと思います。血栓が詰まって腫れると痛みが出ます。でも血栓性外痔核は基本的には自然に腫れが引いて痛みが楽になり、血栓は自然に体に吸収され治っていきます。でもあまり痛みが強い場合は局所麻酔をして血栓を摘出するとスッと楽になります。
 また内痔核に血栓が詰まってしまった場合も、血栓は自然に吸収されていくので、血栓が詰まった前の状態にまでは徐々に戻っていきます。ただ、内痔核に血栓が詰まって肛門の外に出たままになった嵌頓痔核はやはり痛みが強いです。この場合も局所麻酔で痔核根治術をすることがあります。
 また、血栓が詰まってはいなくても、排便時に内痔核が出てきて戻しにくくなったり、場合によっては出たままの状態になってしまうこともあります。この場合も痔核根治術をすることがあります。

 さて、肛門周囲膿瘍の場合は、そのままだと膿がどんどん広がり、痛みが強くなて行きます。肛門周囲膿瘍の場合は直ぐに局所麻酔をして切開して膿を出すとすぐにスッと楽になります。

 このように妊娠中も病気の種類や病状によっては局所麻酔で手術をして治すことが可能です。
 痛みが強く、それをずっと我慢している。そのストレスもお腹の赤ちゃんには悪い影響を与えてしまう可能性があるのではないかと思います。痛みの強い場合はしっかり手術をして治す方がいいと思います。
 また渡邉医院では手術の際に使う局所麻酔は塩酸プロカインです。手術に使う麻酔の量はそれほど多いものではありません。局所麻酔がお腹の赤ちゃんに与える影響はまずないと思って下さいね。また痛み止めも妊娠中に使える内服薬もあります。そのお薬を術後痛い時に内服してもらっています。
 ただ、手術をすることで、今ある痛みが取れてくれます。内痔核の手術の場合は術後排便時の痛みはありますが、その排便時の痛みも1週間ほどするとスッと楽になります。

 どうしても妊娠中は何の治療もできない。ただ我慢するだけしかないと思っている方が多いかなあと思います。そんなことは有りません。心配なこと、不安なことがあれば遠慮なくそうだんして下さいね。

2020.07.25

学会のもう一つの楽しみ

 去年の日本大腸肛門病学会は、台風の影響で途中で中止になってしまいました。発表を予定していたのですが、発表することなく、学会は終わってしまいました。そして、今年は今のところ、11月に横浜で開催が予定されていますが、新型コロナウイルスの感染が再度拡大している中、開催できるかどうか心配されるところです。
 学会では、多くの先生の研究成果や経験等、日々の診療にとても役に立つ発表を聞くことができ、とても有意義な時間を持つことが出来ます。そして実際、学会で学んだことを日々の診療に応用して生かしていったり、また学会で得たことをヒントに、さらなるステップアップに必要な研究や調査に関してのデザインを作ることが出来ます。
 このように日々の診療に役立ち、今後の進歩のために大事な勉強の場です。そして、もう一つ学会で面白いのは、医師以外の方々の講演会が企画されることです。
 前回10年前の学会の内容を紹介しましたが、この浜松で開催された学会では、スズキ自動車のスズキ株式会社代表取締役会長兼社長の鈴木修氏の特別講演がありました。「俺は、中小企業のおやじ」という題での講演でした。この時の内容が面白かったので、紹介しますね。
 10年前に私が書いた記事を一部転記しているので、鈴木氏の年齢等はその当時の時として読んで下さい。

 鈴木氏は1930130日生まれで、80歳。壇上に立たれた鈴木氏は80歳とは思えない若々しさを感じました。70歳で会長に就任された際に、「かつては人生50年といっていたが、いまの平均寿命は70歳超。ならば年齢も7掛けで考えるべきではないか。70歳といっても7掛けすれば49歳。だから退くのではなく昇格した。まだまだ現役でバリバリやっていく。(2000年)」と著書に書かれたそうです。こんなこともあって、講演会の紹介では80歳に7掛けをして56歳と紹介されました。講演の内容は如何にして経費を削減して経営を立て直すかを面白く講演されました。少し内容を紹介します。

 まずは「三歩で歩くところを二歩にする努力をする。」でした。部品を取り付けているときは仕事をしているとき。部品をとりにいている間は仕事をしているのではない。部品を取りにいく時間を短縮することで増収につながる。

 また、筆記用具を赤と黒のボールペン二本にして、鉛筆や消しゴムを使わないようにしたという。消しゴムを使うのは鉛筆を使うからだ。それならいっそ両方ともやめて報告書などすべてボールペンで書くようにした。部下から「ボールペンで間違ったらどうしましょう?」の問いに、「二本線を引いて修正印をおしなさい。」と。さらに「そんなことをしたら報告書がきたなくなります。」に対して、「きたない報告書を書くようなやつは、まとめる能力が疑われる。」と。こんなやりとりがあって、鉛筆や消しゴムの経費が節約でいた以外に、報告書もきれいになったとのことでした。

 他にもいろいろ話をされました。政治家が「検討します。」は「何もしない。」ということ。「前向きに検討し善処します。」は「少し時間をおいて何もしない。」ということ。政治がなにもしてくれないのなら、自分たちで頑張るしかないとも力強く話してられました。

 やはり大きな企業になるとちょとしたことが経費の削減になり、またそのために苦労、努力しているのだなと感心しました。

 企業の経費節減の方法がすべて医療にあてはまるとは思いません。でも参考にできるところは参考にしながらやっていこうと感じました。

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの学会や研究会、懇談会が中止になっています。今年の日本大腸肛門病学会は1113日、14日の2日間。横浜のパシフィコ横浜ノースで開催が予定されています。今年のテーマは「挑戦と検証(Challenge and Inspection)です。

 無事開催されることを期待しています。

2020.07.25

便が漏れる、下着が汚れる

  いつの間にか便が出てしまっていて、下着を汚してしまったり、我慢しきれずに漏れてしまったりするということで受診される患者さんが多くなってきたような気がします。とても嫌な症状なのに誰にも相談できない。家族の人にも相談できず一人で悩でいる。そんな患者さんがいらっしゃいます。
 「外出した時に勝手に出てしまったらどうしよう。」とか、「間に合わなかったらどうしよう。」などを心配され、外出することもできずに身体的だけでなく、精神的にも大きな負担になってしまっている患者さんがいます。
 肛門の病気もなかなか敷居が高くて受診しにくいなか、いつの間にか便が出てしまう、下着が汚れてしまうといった症状は、なかなか診察にも来にくいと思います。でも同じ症状で悩んでいる患者さんは多いと思います。

 こういったいつの間にか便が出てしまう、下着が汚れてしまうといった便失禁には大きく二つの要因があります。

便秘の場合

 一つ目は、直腸に便が残ったままになっている場合です。
 直腸の中に便が残ったままになっていてスッキリ出ず、腹圧がかかったときに知らないうちに便が漏れてきたり、硬い便が直腸に残ったままになってしまい、その硬い便の隙間をどろどろの便が通り漏れ出てくるといった、便秘が原因の場合です。

下痢の場合

 二つ目は、下痢が我慢できない場合です。
 大腸の動きが過敏になりすぎ下痢状の便が我慢できずに出てしまう場合があります。

治療方法はそれぞれで違う。

 それぞれで治療方法は違ってきます。
 前者の場合は、緩下剤などを使ってスッキリ便が出るようにして、直腸内に便が残らないようにすることで症状が改善されます。また、下剤が正しく使われていない場合も起きることがあります。例えば、いつもダラダラ便が始終出てきてしまうと、便秘ではなく下痢だと思ってしまって、下痢止めを飲んでしまっている患者さんもいます。そうするとますます症状は悪化していってしまいます。
 また、直腸に便が詰まったままの状態ですとそれだけで肛門が痛くなってしまい、便が出せなくなってしまいます。スッキリ便が出るようにする必要があります。
 反対に、また便が詰まってしまったら苦しいから詰まらないようにしようと、下剤をたくさん飲んで、本当に下痢をしている患者さんもいます。気持ちはとてもわかるのですが、下痢も肛門にはよくありません。また下痢でも我慢できずに、勝手に出てきてしまうこともあります。やはり形があって柔らかな便がスッと出るように緩下剤を調整して正しく内服する必要があります。
 さて、後者の場合は、激しく大腸が動くことで下痢になってしまうことがあります。その時は、大腸の動きを整えたり、便の性状を柔らかく形のある便にする薬で改善することができます。また、脳と大腸には密接な関係があって、「また便が漏れたらどうしよう。」とか「我慢できなかったらどうしよう。」と思うことで大腸の動きが激しくなって、下痢が悪化してしまうことがあります。生活にリズムが狂ったり、ストレスによって大腸が激しく動くことで下痢になってしまいます。こういった場合は、内服薬を飲みながら、「具合よく便が出た。」、「いい便になってきた。」、「最近は便が漏れることが少なくなってきた。」といったポジティブな経験をすることでも大腸の動きが良くなり、便の状態が良くなっていくことがあります。

 また、肛門の筋肉を鍛える運動もあります。
 肛門を締める運動をするのですが、肛門をキュッ、キュッ、キュッと細かく絞めてもあまり鍛えられません。しばらくギュッと絞めたまま5秒ほど持続して緩める。またギュッと5秒ほど絞めては緩めるといった具合に、しばらくの間、持続して絞めるように10回ほどを繰り返し、2週間ほどすると段々肛門を締める筋肉は鍛えられます。
 こういった、いろんな治療法を組み合わせることで症状を改善することができます。なかなか受診しにくい悩みですが、意外と多くの方が悩まれている症状です。一度思い切って診察を受けることをお勧めします。悩みを話すことでも気持ちが楽になると思います。

 

2020.07.25

肛門科の苦悩とあるべき姿

 新型コロナウイルスの感染がまた拡大しつつあります。このような状況の中で、患者さんも医療機関を受診すると、そこで感染するのではないかという不安もあり。受診を控えている患者さんもいます。必要な医療は必要な時に受けることが大事だと思います。
 各医療機関も新型コロナウイルスに対して、感染しないように様々な感染対策をしてきています。また、患者さんの意識も変わり、皆さんマスクを着用して受診されます。このような中さらに安心して治療に専念できるように、今以上に対策を行っていかなければならないと思います。
 さて、各医療機関は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、経営的にも苦しい状態になっています。今年の34月のような状況がもう一度訪れると、経営が成り立たなくなる医療機関が多く出てくるのではないかと心配しています。そのような中で、ふと今まで書いた原稿をみていると、今から10年前の2010年に浜松で開催された日本大腸肛門病学会の原稿が目に留まりました。この内容を紹介したいと思います。
 この時点でもすでに肛門科では経営面などの問題点が揚げられていました。

 浜松で開催された学会の特別企画で「肛門科:クリニックの診療・経営戦略」というセクションがありそこで発表してきました。

 近年、肛門疾患の診断や治療法は様々な技術的な進歩によって、以前と比べて比較的容易に治療に関しての満足が得られるようになってきました。その反面、標準的な治療を蔑ろにする傾向もみられ、学会等においても様々な問題が惹起されています。また、肛門科の診療所では診療の内容の問題だけでなく、医療経済的にも苦悩しているのが現状です。

 肛門科の診療の形態には①無床で全ての手術を日帰り手術で行っている施設。②無床でも連携病院をもち、必要に応じて連携病院で手術して入院手術を行う施設。③有床で、入院手術を行う施設の三つの形態があります。

 また、医師も一人あるいは二人以上の体制があります。そんな様々な診療形態のなかで、日常の診療をどのようにしているのか、他の医療機関との連携や地域医療との関わり方などを示して、今後の肛門科の診療の問題点を明確にすること。また、患者さんの満足度、安全性、治療成績を向上させる工夫や経営戦略などやその苦悩について考えることを特別企画の目的としていました。私を含め13名の先生方がそれぞれの診療所、病院での取り組みや問題点などをシンポジウム形式で討論しました。

 渡邉医院は有床診療所で、診療の形態としては先ほどの三つの形態のなかでは、三番目の自院で入院手術を行い、肛門疾患専門での診療を行っています。この形態がとれる一番の要因は京都の西陣という地区での開業で、周りには多くの診療所や病院があり、肛門疾患だけを診察できるという環境があるます。地方の診療所や病院では、やはり周りの地域医療も支えていかなければならないため、肛門疾患以外の病気に関しても診療していかなければなりません。

 以前、私の大学のときの後輩が、肛門科で開業したいとのことで、当院に研修にきていました。自分の実家である山形県で開業をしたのですが、やはり地域医療にも携わらなければならないため、肛門疾患だけに特化した診療所の形態ではなく、さまざまな病気に対応せざるをえない環境のようです。

 こういった診療所の立地条件も大きく診療所の形態に影響してきます。渡邉医院が肛門疾患だけに特化して診療していけるのは、周りの診療所や病院の支えがあるからで、こういったことからも、病院と診療所、診療所と診療所の連携を今以上に強くしていくことが必要です。

 また、シンポジウムの中で、どのようにして患者さんにきてもらうかということについても討論になりました。

 私と同じように親子での医院の継承をした先生(この先生も私の大学のときの後輩で、一時当院に研修にこられていました。)が、医院を継承した後、患者さんが激減して40%減になったときの対応について話されました。このとき、「ひとりひとりをきっちりと診る。来た人が安心し、納得され、明るく元気になる。医療的な満足は当然として、治らない病気でも癒すことができる。」という理念をもって診療に努めることで患者さんが増えてきたと話されました。

 私も同様の経験をしました。私の父が病気で倒れ、京都に戻ってきたとき、もう26年前のことですが、私が診療を始めて1週間もすると患者さんが来られなくなり、いつも12時を待って午前の診療を終わる日が続きました。このときは、このままで診療をつづけていけるのかととても焦りました。患者さんが来なくなったとき、ねっとわーく京都という雑誌に「一代目他界、二代目闘病中、三代目奮闘中。渡邉医院を救うのはあなただ。」なんていう広告もだしました。今から思うと、なんという広告を出したかと思います。

 こんなとき、焦っている私に対して父が「何を焦っているんだ。診察に来られた患者さんを一人ひとりしっかり診察して治していけばいいんだ。」といいました。やはり患者さんも私の焦っている気持ちを感じられるのだと思います。
 満足度調査をした先生の報告があり、そのなかでもやはり患者さんは自分の訴えをしっかり聞いてくれて、病状をしっかり説明してともに治療し治してくれる医師に共感を持ち、信頼して病気を治すことに専念できる。こういった姿勢で医師は診療にあたらなければならないのだと確信しました。

 4年ほど前に肛門科不況がありました。肛門科を受診する患者さんがめっきり減った時期がありました。これは渡邉医院だけでなく、全国的な傾向でした。
 そんななか、様々なことを考えました。その中で一番感じたことが、診療だけでなく、肛門の病気やその治療方法などに関して、しっかりと正しい情報を発信できているかということでした。そしてそのことに対して、肛門の病気で悩んでられる多くの患者さんに正しく、そしてわかりやすく伝えていこうと、ホームページをつくり治しました。今後も患者さんが何を悩んでいるのか、そしてそれを解決するにはどういった治療があるのかなど、発信していきたいと思います。

2020.07.23

古典的治療法から新しい治療法へ。そのベストミックス!

 医学の世界は日進月歩で、どんどん新しい技術や治療方法、そして手術方法などが開発され、またそのことが一般的な技術や治療法、また手術方法になっていっています。

 でもこの新しい技術、治療方法、手術方法は、いきなり出てくるものではありません。古典的な治療方法を元に、歴史と共に進歩していきます。やはり、私たちはその進歩の歴史も勉強することが必要だと思います。そして、古典的な治療法と最新の治療法方が上手くミックスされることで、より良い治療を患者さんに提供できるのだと思います。
 また、新しい手術方法や治療方法があっても、そのもとになった基礎的な手術手技や治療方法はしっかりマスターして、何かの時には行えるようにしておく必要もあると思います。

 新型コロナウイルスの感染拡大で学会や研究会などが軒並み中止や延期になっています。肛門科の分野も同じです。私が京都に帰ってきて、一番勉強になり、大切に思っているのが年3回開催される近畿肛門疾患懇談会です。そこで、古典的な治療法を学ばれ、実践しておられる先生に初めてお会いしました。

 最初のお出会いしたきっかけは、今は亡き父と一緒に近畿肛門疾患懇談会に初めて出席したときだったと思います。その後も、何かと声をかけていただき、いつも顔を合わすと、「しっかり勉強しろよ。しないと親父さんに言いつけるぞ」とはっぱをかけてくださっていました。また、「自分だけでなく、これから肛門科を目指そうとする人のためにも勉強して、そのことをしっかり教えなければならない使命があるんだぞ。」とも言われました。

 さて、この先生は、古典的な治療法を勉強されている先生で、華岡青洲の時代の治療法などを調べ、実際に現在の医療に使えるようにしています。ちなみに華岡青洲は麻酔薬「通仙散(つうせんさん)」を発明し、世界で初めての全身麻酔による乳癌摘出手術に成功した外科医です。

 たとえば、文献をもとに様々な軟膏を調合したり、内痔核の手術では分離結紮法といって、内痔核を糸で縛って治していく方法を紹介し、実際この方法を使って治療されています。また痔瘻の治療でも、いまでは学会等で一般的になっていますが、シートン法といって、痔瘻の瘻管に輪ゴムを通して治していく方法ですが、もとは薬のついた糸(薬線)を痔瘻の瘻管に通して、痔瘻に状態に合わせてアルカリや酸の薬を糸にしみこませ痔瘻を治していく方法など、古典的な治療を紹介しています。
 痔瘻に関して、日本でも1823年文政6年に「要術知新」で杉田玄白と親交のあった大槻玄澤の子、玄幹が痔瘻を切開する痔漏刀の使い方を説明しています。この時代から、痔瘻の病態を知り、治療する手術道具が作られていました。

 以前に紹介した内痔核の治療法でジオンという痔核硬化剤を用いて四段階注射法という方法で治していく痔核硬化療法も画期的な新しい治療法というわけではありません。
 痔核硬化療法という治療法は私の祖父の時代からもうすでにあり、少なくても80年以上前から実際に行われてきた治療法です。
 また、ジオンという硬化剤も、もともと消痔霊という薬剤があり、これが内痔核の治療によく効くので、どういった成分がどのように効いて治っていくのか、副作用はなど臨床の試験をうけてできた薬剤です。もともとの薬剤があったのです。
 渡邉医院にも以前は第二リン酸カルシウムグリセリン懸濁液という痔核硬化剤がありました。主に内痔核からの出血を抑えるために使っていたようです。この薬剤も父が言うには、以前は卵の殻を磨り潰して粉にしたものをグリセリンに混ぜて使っていたのをヒントに祖父がつくったとのことでした。昔から代々肛門科の治療をしているところには、それぞれ秘伝の門外不出の薬があったようです。

 新しい治療法、新しい手術方法などどうしても目が行きがちですが、西洋医学だけでなく、東洋の、そして日本の古来からある古典的な治療法も、もっと見直していくことも大事だと思います。場合によっては、昔の医療のレベルで行っていて、現在にも応用できるものであれば、より安全な治療法かもしれません。

 こんなことを書いているうちに、少し思い出したことがあります。それは、蟻の顎を使って傷を縫合するという話です。以前に医学系の新聞で読んだことがあるのですが、とても面白く、昔の人はよく考えたなと感心しました。
 ちょっと調べてみると、この蟻の顎で傷を縫合する方法は、世界的に古くから行われていたようです。
 切った傷をぴったりと合わせて、合わせた傷にそって蟻に咬ませます。蟻は一端咬みついたら死んでも離さないので、咬ませた後、蟻の胴体をもぎ取って咬みついた頭だけにし、傷が治るのをまったようです。
 記録では紀元前1千年ごろから行われていて、ごく最近までアジア、アフリカ、南米の一部で実際に行われていたようです。実に面白い発想だと思います。
 この発想は今では皮膚縫合用ステープラといって医療用のホッチキスで傷を縫合する際に実際に応用されています。また皮膚の縫合だけでなく、腸と腸を吻合したり、切除した胃と腸を吻合したりする際に用いられている自動吻合器にも応用されています。私が大学病院にいたころ、17年前ではまだ手縫いでも縫合していましたが、いまではおそらく自動吻合器が主流だと思います。昔も今も発想は同じなんだなと感心します。
 でも、やはり機械は壊れたりしますし、具合よくできるとは限りません。
 大学にいた時、ずいぶん前ですが、胃癌の手術をする際に中山式ペッツといって、胃を切除する際に使う約30㎝程度の大きなホッチキスのような機械があります。これを使って胃を切除したときに、ステープラ(ホッチキスの針のようなもの)がうまく装着されていなく、使えなかった時があります。この時は切除した胃を全て手縫いで縫合していきました。

 やはり、何らかのトラブルがあった場合にもそれに適切に対応できる手技はしっかりと身に付けるという基本的なところはしっかりおさえておかなければなりません。このことは全てのことに言えると思います。

 昔からの方法、歴史をしっかり学び、そのうえで新しい方法を使い開発していく。また昔ながらの方法でも今に生かせるものがあれば生かしていくことが必要だと感じます。

 

2020.07.22

100%の手術⁉

 7月も後半を迎え、明日からは4連休になります。新型コロナウイルスの感染が再拡大をしている中、今日からGo Toキャンペーンが始まりました。それぞれの立場で、色々戸惑いがあると思います。でも今私たちが一番に考えなければならないのは、新型コロナウイルスの感染をこれ以上拡大させないことだと思います。それに向けた行動をしっかりしていかなければならないと思います。

 さて、こんな質問がありました。「内痔核は100%切除できますか?」という質問です。

 この質問はおそらく、「今ある嫌な症状を、手術することでスッキリ取り除くことが出来ますか?」だと思います。

 手術をしなければならないということは、これまで長い間お尻の具合が悪いのを我慢していた。そして具合の悪いのをずっと悩んでおられたのだと思います。
 治そうと決心した時、やはり手術をすることで、これまで悩んでいた嫌な症状がスッキリなくなって欲しい。もう悩まなくて済むようになりたい。こんな思いで「100%切除することができますか?」という質問になるのだと思います。

 でもこの「100%」の手術が100%できるか。このことはとても難しい投げかけです。
 患者さんは100%治して欲しい。そして私たち肛門科医も100%治したい。そんな強い気持ちで治療に臨みます。
 手術で治す。人の体にメスを入れて治していく。そこにはいろんなことが起こってきます。例えば、術前の診察以外に症状が加わる。内痔核であれば術前の診察した時以上に手術時に麻酔をかけたら腫れてくる。また、術前では腫れてこなかったところが少し腫れてくる。また麻酔をかけることで、予定していた部分以外にも少し腫れが出てくる。など、手術をする前にしっかり診断しておかなければならないのですが、どうしても手術をする際に術前の診察での診断とは違った状態が目の前に現れることがあります。
 このような場合、麻酔をかけたために腫れてきただけで、その部分は切除しなくてもいいものなのか、またはこの部分もしっかりと切除しなければならないのか。そこを判断しなければなりません。とても難しい判断になります。
 肛門の手術の場合、悪いところを取り除くを一番に優先してしまうと、手術の後の肛門の機能に影響が出てきます。毎日、気持ちよく排便できるというとても大切な機能を保つように手術をしなければなりません。できれば肛門にあまり大きな侵襲を加えることなく治していきたいという気持ちと、スッキリ取り除きたいという気持ち、この矛盾する二つのことを両立させなければいけない。ここに肛門の手術の難しさがあります。これにはやはり経験がものを言ってきます。
 やはり、十分に肛門の機能を残し、柔らかく肛門が治っていくようにすることを心がけながら、患者さんのこれまで悩んでこられた嫌な症状をしっかり治す。このことを考えて手術をしていきます。

 また、内痔核の場合、思い通りにスッキリ切除できたと思っても、術後に肛門の外側の外痔核部分が腫れてしまい、この腫れが治まった後に皮垂が出来て、その皮垂がまた患者さんの嫌な症状となり悩みの種にしてしまうことがあります。以前にもブログで紹介しましたが、手術後の皮垂が起きないように、術後の腫れを起こさないように手術をするのですがそれでもどうしても術後の腫れから皮垂になることは避けられません。その時は再度皮垂を切除することもあります。

 このように人の体にメスを入れて治すということする以上、やはり様々なことが起きてきます。そういったことを考えると、「100%切除できますか?」という質問に明確に「100%切除することが出来ます。」と答えられないところがあります。

 少し話は変わりますが、以前大学病院にいた頃先輩にこんなことを言われました。
 「自分の持っている力を100%出してする手術はするな。80%で余裕をもって手術をしろ。そしてその80%でできる手術の質や技術力を高めろ。」と。
 100%で目いっぱいの手術をすると、そこに何か予期せぬことが起きた場合、やはり余裕がなくなってしまいます。少し余力を残しながら、余裕をもって手術に臨むことで、何か起きた場合にも柔軟に対応できる、そんな余裕が生まれます。そして、この余裕をもってできる手術の質や技術を向上させることで、より良い手術ができるようになるんだと思います。そしてそのことが患者さんにとっても、術後に良好な経過や結果をもたらすことになると思います。

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