2020年、渡邉医院の手術統計とその傾向
2021年、仕事はじめから1週間が経とうとしています。
年明けから新型コロナウイルスの感染拡大が進み、東京都を始め、1都3県に対して緊急事態宣言が出ました。京都も大阪、兵庫と一緒に緊急事態宣言発出の要請を国に対して出しました。連休明けにも宣言が出るのではないかと思います。
これまでの経験を生かして、各医療機関も感染対策にはしっかりと力を入れて取り組んでいます。体調が悪い時や、持病を持っている患者さんは、緊急事態宣言下でもしっかり医療機関を受診して下さいね。しっかり病気を治したり、定期の受診で健康を維持することも、新型コロナウイルス感染に対しての大事な対策の一つだと思います。
さて、2020年、1年が終わりました。去年1年間の手術統計と手術の傾向をお話したいと思います。
手術総件数
去年は、内痔核など基本的な肛門疾患に対しての手術件数は748件でした。男性は389件(52.0%)、女性は359件(48.0%)と男女比はあまりありませんでした。この傾向は例年通りです。
疾患別手術件数と男女差
疾患別の手術件数を男女でみてみると、
男性では、内痔核174件(44.7%)、痔瘻74件(19.0%)、裂肛24件(6.2%)、血栓性外痔核7件(1.8%)、肛門周囲膿瘍96件(24.7%)、皮垂(スキンタグ)13件(3.3%)、直腸脱1件(0.3%)でした。
女性は、内痔核149件(41.5%)、痔瘻11件(3.1%)、裂肛39件(10.9%)、血栓性外痔核15件(4.1%)、肛門周囲膿瘍19件(5.3%)、皮垂(スキンタグ)110件(30.6%)、直腸脱16件(4.5%)でした。
内痔核は男女ともほぼ同じ割合でした。痔瘻と肛門周囲膿瘍はやはり男性に多く、男性が痔瘻74件(19.0%)に対して女性は11件(3.1% )肛門周囲膿瘍も男性96件(24.7%)に対して女性19件(5.3%)でした。
裂肛に関しては、男性24件(6.2%)、女性39件(10.9%)で女性にやや多い傾向がありました。
男女差に大きな違いが出たのが皮垂(スキンタグ)です。男性が13件(10.6%)に対して女性が110件(30.6%)と女性に多い傾向があります。
また直腸脱の手術そのものが少ないのですが、男性では1件(0.3%)に対して女性は16件(4.5%)でした。やはり直腸脱は高齢者の女性に多くみられます。
血栓性外痔核に対しては、基本的にほとんどが保存的に治療しています。手術になった患者さんは血栓が大きかったり、痛みが強い患者さんに対して血栓摘出術を行っています。男性は7件(1.8%)、女性が15件(4.1%)でやや女性に多くみられました。妊娠中に血栓ができて痛みが強い患者さんに対して血栓摘出術を行うことも数件ありました。
次に、疾患別にみてみたいと思います。
内痔核
内痔核に対しての手術は痔核根治術、ジオンによる四段階注射法による痔核硬化療法(ALTA療法)、輪ゴム結紮法があります。
男性では、総数174件中、痔核根治術49件(28.1%)、ALTA療法111件(63.8%)、輪ゴム結紮法(14件(8.1%)であるのに対して女性では、総数149件中、痔核根治術100件(67.1%)、ALTA療法27件(18.1%)輪ゴム結紮法22件(14.8%)という結果でした。
この傾向も例年通りで、痔核根治術は女性に多く、ALTA療法は男性に多い傾向にあります。また輪ゴム結紮法も女性に多い傾向にあります。これはやはり男性と女性の内痔核の性状の違いにあります。男性では静脈瘤型の内痔核が多く、ALTA療法の適応になる内痔核が多く、女性の場合は皮垂(スキンタグ)を伴った内痔核や肛門上皮部分の主張が多い内痔核、そして輪ゴム結紮が多いのは粘膜脱型の内痔核が多い傾向があるためだと思います。
痔瘻
痔瘻に関しては、男性75件(87.1%)、女性11件(12.9%)と男性に多く認めました。
裂肛・皮垂(スキンタグ)・直腸脱
裂肛は男性が24件(38.1%)に対して女性39件(61.9%)、皮垂(スキンタグ)は男性13件(10.6%)に対して女性110件(89.4%)と圧倒的に女性に多かったです。また直腸脱は手術件数そのものが少ないですが、男性1件(5.9%)に対して、女性16件(94.1%)と女性に多く、高齢者の女性に多かったです。このように裂肛、皮垂、直腸脱は女性に多かったです。
2020年も手術の傾向は例年通りでしたが、皮垂の切除件数が増えてきている傾向があります。やはり、肛門に何かできていることが、痛みや出血が無くても気になるのでしょう。
2020年の手術統計と傾向についてお話しました。何かお役にたてばと思います。
「ミヤコが京都にやって来た!」脚本家 今井雅子さんに聞く。
私が医療指導したドラマ「ミヤコが京都やって来た!」が今度の日曜日1月10日から放映されます。時間帯が少し遅く、ABCテレビで毎週日曜日夜11:55~12:25です。
『京都の「町医者」ドラマが始動 脚本家 今井雅子さんにきく。」ということで京都府保険医協会が今回のドラマ「ミヤコが京都にやって来た!」の脚本を書かれた今井雅子さんにドラマの背景や見どころなどを聞いた記事を転載したいと思います。
内容を見てみると、私と少し重なるところもあります。
渡邉医院も私の祖父が開業して私で3代目。親から子、そして孫へと受け継がれてきた診療所です。しかも肛門科といった専門領域だけでの開業です。3代にわたっての経験が、今、日々の診療に活かされています。
また、私も父が病気で倒れ、急遽、東京から京都に帰ってきたというのも、佐々木蔵之介が演じる主人公「空吉」に似たところがあります。このような経緯も私に声がかかった理由かなあと思います。
では今井雅子さんの想いを紹介します。
この内容は、京都保険医新聞、2021年(令和3年)1月10日号、第3089に掲載された記事から転載しています。
ー今回のドラマが生まれた背景などをお聞かせ下さい。
「佐々木蔵之介さんが町医者のドラマを作りたい」ということで脚本のオファーを受けました。
京都の町を見せられるよう、自転車で往診するというスタイルもできていました。そこからキャラクターを肉付けし、エピソードを膨らませていった形です。長らく会っていなかった娘が転がり込んで来て、一緒に暮らしながら、娘が父親と京都を知っていく流れにしました。
娘から見て「医者らしくない、儲かってなさそうな医者」にしたいと思い、患者さんの頼みをどんどん引き受けて、便利屋のようになっている町医者になりました。
ー「町医者」のイメージは?
わたしが生まれる前に亡くなった母方の祖父が町医者でした。また、夫の父方の祖父も町医者で、実家には開業していた頃の名残があり、町医者という職業には親しみを抱いています。
「町医者」の言葉通り、地域に根を下ろし、親から子、さらには孫まで何代にもわたって患者さんと付き合いが続いているお医者さんというイメージがあります。
ー主人公の町医者に込めた思いをお聞かせ下さい。
主人公・空吉(くうきち)の名前は貧しい人々に念仏を唱えて回ったという空也上人から「空」のひと文字をもらいました。「空」は「くう」とも「から」とも「そら」とも読めます。
娘と会えなかった12年間の空白を少しずつ埋めていくなかで、最初は便利屋のように見えていた父が、「病ではなく人を診る医者」なのだと娘が気づき、見直していきます。
空吉もまた、日々の診療の中で、町医者だった亡き父の想い、志への理解を深めていきます。
日頃から患者さんの暮らしに寄り添っているからこそ、病気にも早く気づけるし、急病のときにも頼られる。患者とじっくり向き合えるのは、自分で往診のペースを作れる町医者だからできることかもしれません。
最近、患者の顔よりパソコン画面ばかり見ているお医者さんが多いなとさみしく感じているので、空吉のようなお医者さんがいたらという想いを込めました。
ー今回のドラマで一番感じてほしいところは?
京都は学生時代を過ごした町でですが、「京都の時間」が流れていると思います。それは、町の真ん中を流れる鴨川の存在が大きいと感じています。
空吉とミヤコ(京)に通じるのは、東京から京都に逃げてきたこと。そんな二人を見守る登場人物の一人のようなつもりで鴨川の描きました。京都の懐の深さを秋の鴨川の景色とともに感じてもらえたらうれしいっです。
寒い冬場の脱水と便秘
新年を迎え私たちにまず襲い掛かったのが新型コロナウイルスの感染のさらなる拡大です。1月7日には東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県に対して緊急事態宣言が出されようとしています。
このような中、私たちは、日常の手洗い、うがい、マスク着用等、これまでの感染対策をさらに強めなければなりません。
飲食店などが感染拡大を進めているような風潮になっていますが、飲食店に行ったら感染するわけではありません。多数の人たちが密になり、飛沫などが飛ぶことで感染が起きます。そこのところを私たちはしっかり認識しておかないと、非科学的な誹謗中傷や差別を生んでしまうことになります。
今、このような状況の中、私たちの本質、生き方が問われています。私たちが戦うのは新型コロナウイルスです。そのことをもう一度心に刻み、皆で感染対策そして感染拡大の収束に取り組んでいきましょう。
さて、話は少し変わりますが、患者さんの中に、「冬になって寒くなると便が出にくくなる。」という方がいます。寒いからあまり動かなくなるから便秘になる?それも一つの原因にはなると思います。でも一番は、冬になり寒くなることで私たちは脱水になりやすいということです。水分が足らなくなることで便が硬くなり、便秘になってしまいます。
脱水というと、熱中症など夏のイメージが強く、「冬に脱水?」と思う方も多いと思います。でも実際は夏と同じように寒い冬場にも脱水になることがあります。
ではどうして冬の寒い時期に、夏の様に暑くて汗をかくこともない冬場に脱水になるかをお話します。
冬の寒い時期に脱水になる、まず一つ目の理由は、寒い冬場は空気が乾燥していることが挙げられます。
また、昔の家と違って、今の住宅は気密性がとても高いです。こういった気密性が高い住宅の中でエアコンやストーブなどの暖房機器を使うことによって、室内の湿度がさらに下がっていきます。ふすまや畳は湿度を調整してくれる役割があるそうです。こういったものの使用頻度も減っていることも室内の湿度を下げる原因になっているとのことです。
乾燥した環境の中に私たちがいると、皮膚や粘膜、そして呼吸などで、自分が感じることなく、いつの間にか体の外に水分が出ていってしまいます。なつは、汗を書いたりして水分が出ていってしまうのを実感することが出来ます。でも寒い冬の場合は、こういった自分の知らないうちにいつの間にか水分が体の外に出ていってしまいます。このことを「不感蒸泄」といいます。このように寒い冬場は夏と違い自分が意識することなく体の外に水分が出ていき、知らないうちに脱水になってしまうことがあります。
もう一つ、脱水になってしまう原因は、夏と違って寒い冬場は水分の摂取量が減ってしまうことがあります。夏の様に熱く、汗をかくと必然的に喉も乾きます。また熱中症の予防のために、喉が渇く前に水分を釣るなど、脱水に対しての私たちの意識も違います。
これに対して寒い冬場では、体感温度が低い場合、喉が渇いたことを感じにくくなり、水分が十分に摂取されないことも要因になります。
このように、寒い冬場は外気の乾燥に加え、室内の暖房による湿度の低下による不感蒸泄の増加。そして夏と違い十分な水分摂取が出来ていないことが原因で脱水になります。
このことが便秘にも影響してきます。
やはり摂取する水分量が少なくなることで便に行く水分も減ります。このことで便が硬くなり便秘になってしまいます。
やはり、夏と同じように十分な水分の摂取が大切です。また、室内で暖房器具を使う時など、一緒に加湿器を使い室内の湿度を下げない工夫も必要だと思います。
頑張っても便が出ないのは、肛門に何かできているから?
渡邉医院は今週の火曜日、1月5日から仕事はじめ。1年が始まりました。どんな1年になるのか、どちらかといえば不安が多き1年の始まりとなりました。
今年は良い年だったと思えるように頑張りたいと思います。それには新型コロナウイルスの感染拡大の収束への光が見えることが大事だと思います。私たち一人一人が出来るの日常の感染対策が一番大事ではないかと思います。
さて今日は、排便に関して少し患者さんからの相談内容を紹介しながらお話したいと思います。
時々このような訴えをされる患者さんがいます。「そこまで便が来ているのに、いくら頑張っても出ません。肛門に何かできていて、それが肛門を塞いでいるように感じます。」とか、「頑張って便を出そうとすると、出ることは出るが細い便しかでない。肛門に何かできているから頑張って便を出したときに便が細いのでしょうか?」という訴えです。
いずれも、肛門に何か悪いものができていて、それが原因で便が出なかったり、便が細くなるのではないかという訴えです。
便が思うように出ない。頑張っても出ない。頑張って出しても細い便しか出ない。このような症状があると、やはり肛門に何かできていて、それが邪魔して便が出なかったり、細くなってしまうのではないかと考えるのは当然だと思います。
でもこういった症状が出るときは、まずは肛門に何かできているというよりは、排便の状態、便が硬くて出せないことが多いです。
以前どのように便が出るのかをお話したことがあります。
便がどのように出るかですが、直腸と肛門は便を出すところです。ですから直腸には便があってはいけないところです。
時々、直腸は便を溜めておく所と思っている方がいますが違います。直腸は通常は空っぽになています。便は直腸より奥のS状結腸にあります。朝、食事をとり、胃の中に何かものが入ると大蠕動と言って一気に腸管が動き出します。
S状結腸に合った便はこの蠕動運動で空っぽの直腸に運ばれてきます。なにも無い空っぽの直腸に便が来ると、「便がしたいなあ。」という便意になります。そうすると脳が自分の医師とは関係なく肛門の括約筋を緩めて便を出しやすくしてくれます。直腸にきた便の性状が柔らかくて形のある便であれば、腹圧をかけると便が排出されます。
例えば直腸に便が無い時に、肛門の括約筋が100で締まっていたとしましょう。直腸に便が送り込まれて直腸に便が来たら脳が命令して括約筋を50まで緩めたとしましょう。そうすると、直腸にきた便が柔らかくて形のある便であれば50以上の腹圧をかけることで排出されます。直腸の便がスッキリ出ると、また括約筋は100で締まります。こういった具合に排便します。
さて、直腸にきた便が硬い便だとします。そうすると、いくら肛門の括約筋が緩んでいたとしても頑張っても便は出なくなってしまいます。さらに頑張りが強いと肛門の静脈叢が鬱血して、肛門全体が腫れたような感じになってしまいます。
また頑張れば頑張るほど便は細くなっていってしまいます。頑張れば太い便が出そうですが、創ではありません。反対に細くなっていってしまいます。また柔らかくても出しにくいことがあります。この場合も頑張れば頑張るほど細くて出しにくくもなります。
このように、肛門に何かできていなくても直腸にきた便の硬さで頑張っても出ない、なにか肛門にできているような感覚になってしまいます。
このことは肛門が悪いのではなく、直腸にきた便が硬かったりして出しにくくなっているだけです。
ですから緩下剤などを飲んで柔らかく、形のある便にして排便を調整することでスムーズに出るようになります。
また、硬くなってしまった便を柔らかくしてくれる薬はありません。緩下剤は、硬くなった便を柔らかくする薬ではありません。硬くならないように柔らかくする薬です。一端硬くなって出なくなった場合は、硬くなった便を指などで崩して浣腸して出さなければなりません。
よく、便が詰まったので浣腸したが、浣腸の液しかでなくて、便は出ませんと言う患者さんがいます。その通りです。硬い便のまま浣腸しても出ません。硬くなった便を柔らかくしてから浣腸しないと出ません。硬くなった便はコンクリートと一緒で水をかけても柔らかくなりません。
常に緩下剤を内服して硬くならないように柔らかくて形のある便になるようにしながら便秘を治す必要があります。
そこまで便が来ているのに便が出ない。何か肛門にできているような感じがする方は、まずは緩下剤を内服して具合よく出るようにすることが大事です。
また頑張って出すと便が細くなるという方は、頑張らなくても便が出るように排便を調整することが大事です。頑張らなくても便が出た時の方が意外と太い便が出ます。
排便の具合で気になることがあれば相談してみて下さいね。
撮影現場の雰囲気
今回は、ドラマがどんなふうに撮影されていったかをお話しますね。
まず最初に、以前にお話しましたように、私のところに町医者とはどんなものかとか、親から子供へと診療所を継承するにあたって、どのようなことを感じたかなどの質問から始まりました。そういった質問を通じて、おそらく「町医者」のイメージ作りをされたのだと思います。
そして演出の方と美術の方が渡邉医院に来られ、祖父の時代から使っているカルテ台や器械棚、机などを参考のために写真を撮っていかれました。また、渡邉医院で最も古い「肛門科」の看板や、診察室や薬棚など診察室なども撮影されました。
また、実際に使っているカルテ用紙や問診表なども参考にされていました。
ドラマの中での佐々木蔵之介の診療所も町家で、そして昔ながらの診療所をイメージされているようでした。
実際の撮影現場で、それらのセットを美術の方が見せて下さいました。
昔ながらの時代劇に出てきそうな薬棚や診察室。また、レトロ風の薬袋なども内服用と外用薬様に分けて作ってありました。また、「肛門科」の看板を参考に「柿木医院」の看板も作ってありました。
渡邉医院で使っている古きカルテ台や器械棚、そして看板が役に立ったようです。
ドラマの診察室は少し小さい感じですが、いい雰囲気を出していました。もしドラマを観られるときはチャックしてみて下さいね。
このように、いろんなものを、実際のものを参考にして、ドラマのイメージにあったセットを美術の方々が作っていくんだなあと思います。
さて、実際の撮影ですが、やはり待ち時間が長いです。本番の撮影が始まるまで何回も何回もチェックしていきます。
まず、演出のスタッフの方が、本番時の俳優さんがいる位置にスタンバイして、光の当たり具合、影の出来具合をまずチェックします。ある程度準備をしてから、今度は実際に俳優の方がスタンバイします。そして光の当たり具合や影の付き具合、そして光の柔らかさ等本当に細かくチェックされていきます
ライトを少しずらしてみたり、そのために反射板などを動かしたり、布などで光の柔らかさを出したり、本当にとことんこだわって光と影を出しているんだなあと感じました。
居間で空吉(佐々木蔵之介さん)と娘の京(藤野涼子さん)と会話するシーンでは、空吉が居間に入ってくるシーンを空吉だけで何回か撮影。居間に座って京と会話するシーンも、まずは京の方から空吉の撮影、そして、次は空吉の方から京を撮影。そのたびに光の当たり具合、影の出来具合などを細かくチェックしての撮影。そして全体だけでなく手元だけの撮影。
一つのシーンを撮るのも、1回だけではなく、何回も何回も取り直してそのたびに光の当たり具合のチェック。
気の遠くなる作業を、それぞれの専門職の技術を駆使して撮影していきます。そうして撮影した細切れの映像を、最終的にはあたかも一連の撮影の様に途切れがわからないように違和感のない映像に編集していく。凄い仕事です。
また風呂上がりのイメージを出すために、メイク担当の方が、空吉の髪の毛をスプレーで濡らしていく。そのスプレーの中身もただの水ではないようなふんいきでした。
邪魔にならないように見ているのですが、どんどん撮影に入り込んでいってしまいました。
また撮影の際も、その場でどんどん変わっていきます。立って話をする場面が座っての撮影になったり。その場その場での状況に合わせて、最もいい状況を作り上げて撮影していくんだなあと感じました。その時は俳優さんの意見も取り入れられていました。
さて、今回、医療指導をするにあたって台本をいただきました。
医療シーンでは、台本では倒れている人の治療をするシーンでは、その内容はほんの数行しか書かれていません。その台本を元に、どのような病名にしたらいいか、倒れている人をどのような姿勢で診察して、そしてどのように処置をしていくかなどを指導していくことになります。
台本の行間を考えていかなければなりません。その時にはやはりもう一度救急に関しての本を調べたりして間違いのないように伝えなければなりません。ドラマを観ている方に違和感のないようにしなければなりません。緊張します。
少しでも撮影現場の雰囲気が伝わればと思いますがどうでしょう?
11月後半から12月頭にかけての撮影。とても楽しい、そして勉強になる経験をさせていただきました。
またこのような経験が出来ればいいなあと思います。できれば春夏バージョンが企画、撮影になればいいなと思います。またその時は撮影風景などをお話しますね!
ドラマの撮影に関わって。
以前、佐々木蔵之介さんが町者の役で主演するドラマ、「ミヤコが京都にやって来た!」というドラマの医療指導を、ひょんなことからすることになったというお話をしました。
1月10日、日曜日の深夜0時25分スタートの全6話です。秋から冬にかけての京都を紹介するドラマだそうです。評判が良ければ春夏バージョンも考えてられるようです。
少しですが、私もかかわったドラマなので、好評で、春夏バージョンができればいいなあと思っています。
さて、今回はその時の撮影で感じたことなどを少しお話しようと思います。
「ミヤコが京都にやって来た!」のホームページがアップされています。まずはどんな内容のドラマ化を少し紹介しようと思います。
ドラマのホームページには次の様に紹介してあります。
「京都で暮らす独り身男の元へ…突然、娘がやって来た!
昔ながらの町並みが残る京都で、小さな開業医を営む柿木空吉(佐々木蔵之介)
もっぱら往診が専門。腕利きの医者でありながら…
患者のお宅へ診察したついでに、買い物から枯れた盆栽の手入れまで御用聞きさながら、何でも引き受けてしまう人情派。
そんなある日、空吉のもとへ離婚以来12年間一度も連絡を取っていなかった娘のミヤコ(藤野涼子)が現れる。最後に会ったミヤコは8歳…
今、目の前にいるミヤコは二十歳になった、まばゆい成人の女性。
突然、京都にやって来た娘に動揺を隠せない空吉。
そんな父の想いとは別に…ミヤコはしばらく京都にいると宣言。
ミヤコが京都へ来た目的とは…? ミヤコが抱える知られざる秘密とは…?
12年ぶりの再会に、ぎこちなさを抱える父と娘が、美しい京都の町や人情深い人々との触れ合いを通じて、少しずつ心が通じ合ってゆくのです。
全6話でお送りするハートウォーミングな人情ドラマ。」
と、あらすじがアップされています。
以前、真矢みき主演の「捜査地図の女」というドラマで、実家の診療所のロケ地として渡邉医院が使われたことがありました。その時のお話を以前しました。いつもと違う世界の事なので、撮影現場を見ているのは、とても新鮮で面白いです。また、今回は医療指導という立場も加わり、以前のロケ地として渡邉医院が使われた時とは違って、一緒にドラマを作っているんだという気持ちも湧いてきました。
脚本家、演出、監督、俳優さん方、また、撮影の際のセットを作ったりする美術の方、衣装の方、そしてカメラマンや照明さん方などの撮影に関わる人たちなど多くの人たちと一緒になって作り上げていく。それぞれがそれぞれの専門技術をフルに発揮することでいいドラマが出来るのだと思います。このことは私たち医療にもつながるものがあります。
医療に関しても私一人では、渡邉医院で患者さんを診察し、治療していくことはできません。看護師さんや看護助手さん、そして事務のスタッフ。さらに宿直してくれているバイトの人たちのみんなの力があってこそ成り立ちます。その一人一人の持っている力が十分に発揮されることで良い医療を患者さんに提供できる。ドラマの制作とどこか似ています。
このようなことを、今回のドラマにおいて医療指導をした際に感じたことです。
次回は、実際の撮影がどのように行われていたかをお話したいと思います。
2021年 新年明けましておめでとうございます。
新年明けましておめでとうございます。2021年丑年が始まりました。
去年1年間、新型コロナウイルスの感染拡大の中私たちの生活は大きく変わってしまいました。まだまだ収束が見えないコロナ禍の中、新しい年を迎えることになりました。
今も続く新型コロナウイルスの感染は、これまで国が進めてきた医療提供体制改革や公衆衛生政策、そして保健政策など様々な問題点を明らかにしてきたと思います。
例えば、公立・公的医療機関に関しては、感染症病床の6割は公的病院が担っており、重要な役割を果たしています。しかし、国は地域医療構想の実現のために公立・公的医療機関の再編・統合を進めようとしています。新型コロナウイルスのような感染症など、民間医療機関では十分に対応できない医療を公的医療機関は提供し、国民の命を守るという大切な役割があります。それを今の国の改革では削減し縮小しようとしています。
また、私たち市民の最も近くにあって、感染症対策を展開するべき自治体の公衆衛生政策は、1994年の保健所法の廃止以降脆弱化しています。京都市においても、以前は行政区ごとのにあった保健所が廃止され、中央に集約され、どんどん行政が市民から離れてしまっています。
さらに、医療保険制度では、後期高齢者の窓口負担の2割化が進められています。また、高すぎる国保料を払えず、経済的理由で医療が受けられなくなっている患者さんもいます。誰もが必要な時に必要な医療を受けられる、そんな日本の皆保険制度、フリーアクセスが新型コロナウイルスの感染を今の状態に押しとどめていることは明らかです。これまで私たち国民の健康と命を守り続けてきた国民皆保険制度を崩そうとする国の政策にはしっかりと意見を述べ、対抗していかなければなりません。そして私たちの手で、今以上に充実したものにしていかなければなりません。
また、医療だけでなく、これまで進められてきた新自由主義改革によってもたらされた雇用の破壊の現状も新型コロナウイルスが明らかにしました。そして新型コロナウイルスの感染拡大が非正規労働者を中心に重くのしかかってきます。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、医療・福祉、雇用以外にも様々な問題が浮き彫りにしてきました。
私達は、これまで進められてきた社会保障の削減政策を止め、新しい福祉国家を求め、社会保障の充実を追求していく1年以しなければなりません。
今、私たちの本質、生き方が問われています。
全ての人たちが持つ最強の優しさで全てを包み込む、そんな思いを皆さんと共に持ち続けていきたいと思います。
今年1年、よろしくお願いいたします。
2021年1月1日
渡邉医院 渡邉 賢治
Twitterでの相談、利用してくださいね!
今日は12月25日。クリスマスです。皆さんMary Christmas!!
皆さんはどうお過ごしですか?今年は新型コロナウイルスの感染拡大もあって、自宅での家族だけでのパーティで楽しんでおられる方が多いのではないかと思います。
クリスマスの思い出、たくさんあるのではないかと思います。今年は特別なクリスマス。何か思い出になることがあればいいですね。
こんな日に、何か心和む話題はないかなあと考えるのですが、なかなかありません。少し寂しい日常です。
さて、渡邉医院も12月29日で仕事納めです。なんとなく、外来の診療をしていても、年末を迎えているような、そんな雰囲気があります。
久しぶりに受診され、年越しに備えて軟膏が欲しいとか、何時もの内服薬がなくなると困るので処方してくださいとか、年越しのためにスーパーや市場に年末年始の買い出しに行くような、そんな雰囲気もあります。
いつも思うのですが、渡邉医院は12月29にが最終で、新年は1月5日からの仕事始め。たった1週間のお休みなのですが、すごく長い休みが来るような、そんな雰囲気が患者さんの中にもあるような気がします。
何か緊急なことがあった場合の連絡先などは医院の留守電に毎年入れています。何かあればすぐに連絡を取れる体制は整えているので安心して欲しいなあと思います。
また今年の新型コロナウイルスの感染拡大もあって、なかなか医療機関に受診するのに迷われる患者さんもいらっしゃいます。とてもよくわかります。そういった患者さんにとって、お尻の病気で心配なこと、不安なことがあればTwitterでの相談ができるようにもしました。
多くの方がTwitterでの相談をされます。Twitterで相談だけの患者さんもいます。実際に診察をしていないので、正確かどうかはわかりませんがこれまでの相談に対しては適切に相談にのれているようです。例えば、「肛門が急に腫れてすごく痛い。」という相談がありました。Twitterでのやり取りで、肛門周囲膿瘍であると判断、直ぐに医療機関に受診して診てもらってほしい、そして切開して膿を出してもらってほしいと返事すると、その方はさっそく医療機関に受診され、切開して排膿してもらい楽になられました。その報告もTwitterでしてくださいます。
意外とTwitterでの相談も捨てたもんではありません。
また、なかなか肛門の病気を相談することが難しいことがあります。誰に相談したらいいのかわからないといった方もいます。自分一人でだれにも相談することもできずに悩んでいる方も大勢いらっしゃると思います。Twitterでの相談によって、「安心しました。」とか、「肛門科に行く勇気が出ました。」などというお返事をもらうと、嬉しくなります。
もっと多くの方が遠慮なくTwitterでの相談を利用してもらい、一人で悩むことなく安心していただければいいなあと思います。
自分の悩みは自分だけの悩みではありません。みんなの悩みだと思います。皆同じ悩みを抱いています。
一人で悩んでいる方は是非Twitterでの相談を利用してみて下さいね。
今日はクリスマス。Twitterでの相談をしていることを紹介して、私からのクリスマスプレゼントにしたいと思います。
内痔核の脱出のパターンで治療法が決まる。
先日、Twitterでもお話しましたが、「ジオンの注射で治しましょうと言われた。」といって受診された患者さんがいました。でも診察してみると、ジオンの注射では治らない、適応の無い内痔核でした。
このジオンによる四段階注射法での痔核硬化療法(ALTA療法)の適応の有無を判断することが大切になってくるのですが、なかなかこの診断をする際に間違って診断されることもあるようです。
ALTA療法の適応は、脱出する内痔核となっています。この脱出の診断が難しいようです。
排便時に内痔核が脱出する際にいろんなパターンで脱出してきます。一つのパターンではありません。この内痔核の脱出が全ての患者さんが同じような状態であるのであれば、脱出してくる内痔核にすべてALTA療法を行えばいいということになります。でも決してそうではありません。いくつかパターンを挙げてALTA療法の適応があるかどうかをお話します。
まず、このことを考えるのには肛門がどのようになっているかを知る必要があります。
肛門の外側(肛門縁)から約2~3㎝ほど皮膚の部分があります。この皮膚の部分を肛門上皮と言います。そしてその奥が直腸になります。肛門上皮と直腸の境目を歯状線といいます。内痔核はこの歯状線の直上の直腸粘膜の部分にある静脈叢が鬱血した静脈瘤のことを言います。この内痔核が排便時に脱出する(肛門の外に出てくる)様になるのを第Ⅲ度の内痔核と言います。この脱出してくる内痔核がALTA療法の適応となります。
ただ、この内痔核が脱出してくる際の脱出の仕方に色々パターンがあります。
一つ目のパターン
一つ目は、内痔核だけが排便時に脱出しくるパターンです。
このパターンは多くはありません。肛門上皮の部分にできるのを外痔核と言います。大抵は内痔核が脱出してくる際は外痔核成分も一緒に脱出してきます。
この内痔核だけが脱出してくるパターンはそう多くはないのですが、このパターの内痔核にはALTA療法が良く効きます。このパターンの場合は、脱出した内痔核を診ると、肛門上皮の部分はなく、内痔核が発生する直腸の粘膜だけが脱出しています。出たり戻したりするので、粘膜は赤くなっていて出血しやすそうな内痔核になっています。ですから症状としても痛みはなく、出血が主の症状になります。
二つ目のパターン
二つ目は直腸の粘膜の部分の内痔核の脱出が主で、肛門上皮の外痔核成分が少し一緒に脱出してくるパターンです。やはり内痔核が脱出してくるパターンは粘膜部分の内痔核だけが脱出してくるのではなく、外痔核成分と一緒に脱出してくるパターンが多いです。その外痔核成分の脱出の具合によってALTA療法の適応になるかどうかが決まってきます。
粘膜部分の内痔核の脱出が主で外痔核成分が少ない場合も、ALTA療法の適応になります。内痔核に対して四段階で注射することで内痔核が奥に引き込まれていきます。この時に一緒に外痔核成分も肛門の中に引き込まれることで脱出してこなくなります。
診察すると、粘膜部分の赤くなった内痔核が主で、肛門上皮の皮膚の部分が少しあるといった感じです。
三つめのパターン
三つ目は、外痔核成分が大きな内痔核の脱出です。この場合は、外痔核成分の大きさにもよりますが、やはりALTA療法の適応ではなく、痔核根治術の適応になることが多いです。
症状としては、出血はあまりなく、内痔核が脱出したり戻したりすることで外痔核成分の肛門上皮に傷がつくことで痛みが出ることがあります。
この場合は、赤くなった粘膜部分よりは、肛門上皮の皮膚の部分が多いといった感じです。
四つ目のパターン
四つ目のパターンは、外痔核成分がほとんどを占める内痔核の脱出です。
肛門上皮の部分の腫脹が強く、内痔核部分は少ないパターンです。この場合は肛門上皮の部分の腫脹が主で、粘膜部分はあまり見られません。これを内痔核と言っていいかわかりません。この場合は肛門上皮部分の腫脹が強い外痔核といったほうがいいかと思います。
症状としては出血はあまりなく、脱出したり戻したりすることで、肛門上皮部分に傷がつくと痛みが出てきます。この場合はALTA療法の適応はありません。痔核根治術による治療が必要となります。
このように排便時に内痔核が脱出すると言ってもいろんなパターンがあります。
ALTA療法の適応の有無を判断する際に最も大事なことは、肛門上皮の部分の腫脹、外痔核成分がどの程度占めているかです。外痔核成分の占めている割合が多いとALTA療法の適応ではなく、痔核根治術の適応となっていきます。
明らかに粘膜部分の脱出が多い場合はALTA療法の適応になります。反対に外痔核成分が多い場合は痔核根治術の適応になります。
ALTA療法か痔核根治術かを迷い判断が難しいのが粘膜部分の脱出と外痔核成分の脱出が同じ程度の場合や、粘膜部分の脱出が主だが、外痔核成分の腫脹もやや多いなあといった場合です。この時はやはりALTA療法と痔核根治術のメリット、デメリットをお話して患者さんと一緒に適応を決めていく必要があると思います。
肛門科で最も怖い病気、肛門周囲膿瘍からの壊疽性筋膜炎!
12月も後少し、残すところ1週間になりました。渡邉医院も12月29日が年内最後の診療となります。
大分昔のことになりますが、年末で今でも覚えている患者さんがいます。その患者さんは重症の肛門周囲膿瘍の患者さんでした。
年末に受診されて、診察したところ、肛門の後方、6時の方向に原因があり、膿瘍が左右に広がってくるタイプの肛門周囲膿瘍でした。肛門周囲膿瘍ですので、直ぐに局所麻酔をして切開して排膿をしました。次の日に受診してもらうと、膿瘍はさらに左右の前方に広がっていました。それに対して再度切開創を広げ対処しました。十分な切開で排膿できたため、その後は炎症は治まってきましたが、年末年始診療所に受診していただき、治療をする必要がありました。記憶に残る肛門周囲膿瘍でした。
また最近も同様の肛門周囲膿瘍を発症した患者さんが受診されました。初診の際は、肛門の後方から左前方に広がる肛門周囲膿瘍でした。かなり腫れていたのですぐに切開排膿を行いました。2時間程度病室で休んでもらい痛みが軽減し、出血もなかったので、帰宅してもらいました。次の日受診してもらうと、今度は後方から右側前方にまで強い発赤と腫脹を認めました。先ほどお話した患者さんと同じように急激に膿瘍が広がっていました。
こういった場合は小さな切開創では十分に排膿できないのと、このように急激に膿瘍が広がる場合は嫌気性菌の混合感染の場合が多いので、かなり大きく、前方から後ろまで10㎝以上の切開を行いました。切開創を見ると、組織が黒く一部壊死に陥ていました。また、原因である後方には示指が根元まで入るぐらいの膿瘍腔を形成していました。
この2回目の切開によって次の日には肛門から臀部にかけての赤く腫れた炎症もスッと治まってきていました。私は心の中で「本当に良かった!」と思いました。患者さんもよく頑張って下さったと思います。
十分な切開を行い十分に排膿が出来、周囲の炎症が治まってくるともう安心です。
ではなぜこのようになったかですが、いずれの患者さんも肝臓の機能が悪いこと、そして糖尿病の基礎疾患を持っていることが急速な炎症から膿瘍が広がっていったと思います。
やはり肛門周囲膿瘍を診た時は、十分に排膿できるように大きく切開することが必要ですし、場合によっては硬く炎症を起こしている部分まで大きく切開するということが必要だと考えます。
今回なぜこのような話をしたかというと、肛門の病気で命にかかわる可能性がある怖い、そして重篤な病気が肛門周囲膿瘍から起きることがあるからです。それが「壊疽性筋膜炎」です。
壊疽性筋膜炎は、肛門周囲膿瘍や痔瘻、外傷、尿路感染がきっかけとなって、陰部や肛門周囲に急速に広範囲に炎症が進行して発症し、急激な悪化をたどる感染症です。
陰部や肛門周囲に生じた壊疽性筋膜炎は「フルニエ症候群」とも呼ばれています。発症する患者さんの半数は糖尿病の人に発症します。年齢的には50歳から70歳代に多く見られ、男性と女性の比率は25対1とやはり圧倒的に男性に多く発症します。このことは、肛門周囲膿瘍や痔瘻が男性に多くみられることと一致します。
壊疽性筋膜炎の症状は、全身の症状と局所の症状とがあります。
全身の症状
全身の症状では、やはり38℃以上の熱発。そしてそのための吐き気。そして関節痛や筋肉痛などの症状が出ます。また全身の倦怠感もあります。言ってみればインフルエンザに感染した時のような症状です。ですから肛門の痛い症状と熱や倦怠感は別だと思ってしまう患者さんもいます。
また炎症が急速に進んでいくので、進行すると血圧が下がったりショック状態に陥ることもあります。また炎症が広がることで敗血症や多臓器不全を起こし、急速に命にかかわる状態になってしまうこともあります。
局所の症状
局所の症状は、やはり肛門周囲膿瘍と同様に、肛門周囲の腫れ、赤く腫れる、またその部分を触ると痛みが強い。また、壊疽性筋膜炎なので、皮膚が黒く壊死になっている。また、ガスを発生することがあるので、腫れているん部分などを触るとプチプチという捻髪音が聞こえ触った感じもプチプチした患者や、雪を握ったような触覚があります。このようにガスを発生する状態になるとかなり重症化していることを示します。
こういった症状が肛門周囲だけでなく、腹部にまで広がっていくこともあります。
このように炎症が肛門周囲だけでなく広がっていく原因は、細菌感染が皮下組織の筋膜まで達します。筋膜は全身を覆っているので、筋膜を通って全身に感染が広がっていってしまうためです。
原因は細菌感染
感染の主な原因菌はA群β溶連菌で、ほかに黄色ブドウ球菌、大腸菌などがあります。
これら好気性菌に嫌気性菌が混合感染すると壊疽性筋膜炎に繋がり重症化していきます。
したがって肛門周囲膿瘍は多くの原因菌は好気性菌の大腸菌ですが、そこに嫌気性菌が混合感染することがあり、このことから肛門周囲膿瘍から壊疽性筋膜炎につながる可能性が高くなります。
ただ、たいていの場合は肛門周囲膿瘍で治まりますが、最初にお話したように、肝機能障害があったり糖尿病であったり、感染に弱い基礎疾患を持っている患者さんの場合はリスクが高くなり注意が必要です。
治療
治療は、先ほどお話したように十分な、大きな切開を行い、膿瘍をしっかり出すことが大事です。そして嫌気性菌の関与の可能性もあるため、大きく切開して傷に十分な空気がいくようにする必要があります。また壊疽性筋膜炎の場合は壊死にいたった組織も徹底的に切除していく必要があります。
全身の治療
また、敗血症になったり、細菌性のショック状態に陥ることがあるので、全身に対しての治療も必要になってくることがあります。また肝機能が悪かったり、糖尿病があるのであればその基礎となる疾患の治療を十分に行うことも大切です。
今回は怖い話をしましたが、肛門周囲膿瘍が壊疽性筋膜炎に重篤化することもあるため、やはり肛門に痛みがある場合は、我慢せずにできるだけ早く肛門科を受診する必要があります。また肝機能障害や糖尿病がある場合はその基礎疾患の治療も必要になります。
今、新型コロナウイルスの感染が拡大して、収束が見えない中、熱発した患者さんはまずはかかりつけ医に電話連絡して相談するということになっています。でも、肛門が腫れ、肛門の痛みを伴いまた、熱発している場合は迷わず肛門科に連絡して相談してくださいね。