痔瘻に対してのシートン法が痛いのは。

痔瘻に対してシートン法を行うことがあります。シートン法は痛みがないと言われていますが、私の経験ではやはり痛みが出る可能性がある治療方法だと思います。
今回はシートン法で痛みがでる原因をお話したいと思います。
シートン法は輪ゴムを痔瘻の二次口から瘻管を通して原発口まで確実に通して少しずつ輪ゴムを絞めて瘻管を開放創にして治していく方法です。痔瘻の根治術には大きく瘻管摘出術と瘻管開放術があります。シートン法は瘻管開放術の一つの方法です。痔瘻根治術の様に一気に瘻管を開放創とするのではなく、輪ゴムを少しづつ絞めていくことで時間をかけてゆっくりゆっくり瘻管を開放創としていく方法です。
数ヶ月かけて治していくのですが、その際に通した輪ゴムが劣化することがあるので、その場合は入れ替えたりもします。
渡邉医院では、瘻管が多岐に枝分かれしている痔瘻やクローン病や潰瘍性大腸炎などの基礎疾患を持っている患者さんの痔瘻などに対してシートン法を行っています。それ以外の場合は痔瘻根治術を第一選択にしています。
その理由として、痔瘻根治術そのものがそれほど術後や術後の排便時の痛みが強くなく楽であるということ、また術後3時間までの止血術が必要な出血がなければその後再度止血術が必要とする出血がないことなどからです。
さて、本題のシートン法が痛む原因ですが、一つは通した輪ゴムを強く締めすぎることにあります。
早く治そうとして輪ゴムを強く絞めてしまうと痛みが強くなります。輪ゴムの絞める強さは、患者さんが痛みを感じない程度に絞めていかなければなりません。渡邉医院でもシートン法を行うことがあります。その時の一番最初の時は本当にゆるゆるの状態にします。しばらくそのままの状態で経過を診て、ある程度日にちが経ってから痛みが出ない程度の輪ゴムを絞めるようにしています。ですから輪ゴムによるシートン法は治癒までには時間がかかります。
二つ目の痛みの原因には、輪ゴムを通すことでその輪ゴムによる刺激自体の痛みがあるのではないかと思います。
通した輪ゴムを強く絞めることをしなくても痛みを強く感じる患者さんもいます。瘻管内に輪ゴムがあることで、また輪ゴムによる刺激などが原因で痛みを感じるのではないかと思います。肛門周囲膿瘍の切開排膿をした後、痛みが強いとのことで当院を受診された患者さんがいます。傷に細いのですがドレーンが入っていました。これを取り除くことで痛みがスッとなくなりました。やはり傷口に異物が入っているということも痛みの原因になるのではないかと思います。したがって輪ゴムによって、絞めることだけでなく、輪ゴム自身の刺激によって傷を開放創にしていく治療なので、この刺激が痛みにつながる可能性もあるのではないかと思います。このことに関しては本当にそうなのかを検証する必要はあります。
また、シートン法が治り難くなることがあります。
輪ゴムを少しずつ絞めていきますが、絞めた輪ゴムの原発口側が肛門の外に外にと出てきてくれればいいのですが、反対に二次口側が肛門内へと入っていくようになると治りが悪くなってしまいます。緩んだ輪ゴムを絞め治すときにはこういったことも考えながら絞めていかなければなりません。
このようにシートン法は全く痛みがない治療法ではありません。輪ゴムの絞め具合や輪ゴム自身の刺激などで痛みが出る場合があります。しっかり痛みに対する対応をしながら治療を進めていかなければなりません。
またどうしてもシートン法では痛みが強い場合は、痔瘻根治術へ速やかに移行することも考えなければなりません。痔瘻根治術は皆さん痛みが強いと思っているようですが、決してそんなことは有りません。痔瘻根治術後の痛みは比較的楽で、排便時の痛みも思っているほど痛くありません。輪ゴムによるシートン法で痛みが強い場合は痔瘻根治術に移行することで痛みはスッと楽になります。シートン法でどこまで頑張るか、痔瘻根治術への移行のタイミングもしっかり見極めなければなりません。
ただ、シートン法で輪ゴムが瘻管内に通ているため、痔瘻根治術はその部分を開放創にしてあげればいいので、最初から痔瘻根治術をするよりは、輪ゴムが通ている瘻管を開放創にするだけなので、比較的簡単に痔瘻根治術は終わります。
輪ゴムによるシートン法はやはり痔瘻がどんな痔瘻であるか、原発口はどこか、瘻管はどう走行しているかを見極める診断能力と、二次口から瘻管を通り原発口に確実に輪ゴムを通す技術が必要とされます。
「輪ゴムによるシートン法は痛みがない。」と安易に勧めることなく、シートン法での治療の適応があるのか、シートン法による治療が患者さんにとって最適な治療なのかをしっかりと考える必要があります。
痔瘻に対してのシートン法って?

痔瘻の手術の中にシートン法という方法があります。今回はこのシートン法について少しお話したいと思います。
痔瘻の手術には大きく分けて、瘻管を摘出する方法、瘻管摘出術(fistulectomy)と瘻管を切開して開放創にする方法、瘻管開放術(fistulotomy)があります。シートン法は時間をかけて徐々に徐々に瘻管を開放していく瘻管開放術の一つです。
シートン法は二次口から瘻管を通て原発口まで輪ゴムを通して、この輪ゴムをゆっくりゆっくり絞めていき、瘻管を開放創とする方法です。
シートン法の特徴はゆっくりゆっくり輪ゴムを絞めていくことで徐々に瘻管が開放創となってきます。それと共に傷が修復していくという点です。
通常の瘻管開放術では、一気に瘻管を開放して開放創となります。その開放された傷が修復され治っていくのを診ていきます。
これに対してシートン法は瘻管を輪ゴムで絞めることで、絞めている方の組織が段々浅くなって、最終的には開放創となって輪ゴムが取れます。この時に開放創となる反対側の傷は修復されてきているので、輪ゴムが取れて開放創となった時はある程度傷が治っているという具合です。
ただ、痔瘻の手術で大事な点は、原発口、原発巣、そして瘻管を適切に処理することです。原発口や原発巣が十分に処理されないと再発したり、治らない原因になります。シートン法もこの原則は同じです。ですから輪ゴムが適切に瘻管を通り、原発巣、原発口を通っていないと治っていきません。この輪ゴムを適切に瘻管、原発巣、そして原発口に通すところにシートン法の技術が問われます。
痔瘻根治術の場合は手術の際に瘻管を確認してそして原発巣、原発口を確認しながら手術をすすめることが出来ます。でもシートン法の場合は瘻管や原発巣、原発口に輪ゴムが通っているかを確認することはできません。
ではどうするかです。痔瘻の瘻管の走行や原発口の位置を確認するのにゾンデといって細い針金のようなものを使います。
二次口からゾンデを挿入して容易にスッと原発口に到達する際は、瘻管から原発口まで輪ゴムをかけることは容易です。でもなかなかスッとゾンデが通らないこともあります。この時に無理やりゾンデも進めると、適切な原発口にゾンデが到達しないことがあります。無理やりゾンデを挿入することで、本当の原発口ではない部分に通してしまうことがあります。ここが難しいところです。
やはり手術に当たってはどこに原発巣、原発口があって、どのように瘻管が走行しているのかを的確に診断できることが必要です。特にシートン法を行う時はこのことが最も重要となるところです。診断能力が問われるところです。
さてシートン法は瘻管摘出法や瘻管開放術と違って時間がかかります。
シートン法で一番大事なところが早く治そうと思って輪ゴムを強く締めないことです。輪ゴムを強く絞めることで痛みが出て、締めすぎると痛みが強くなっていきます。またシートン法は言ってみれば傷を治しながら瘻管を開放創にしていくところに一番の利点があります。強く絞めてしまうと痛みが強くなるばかりでなく、治しながら開放創にしていくといったシートン法のいい点がなくなります。
一番最初に輪ゴムをかけるときは本当にゆるゆるの状態にします。そしてある程度日数がたってから少しづつ絞めていくようにしています。時間はかかりますがゆっくりゆっくり輪ゴムを絞めて、数か月にわたって治していくことが大事です。
ですから、シートン法を行う場合にはこのことを患者さんにしっかり話をして、シートン法での治療は長期戦になることを伝えなければなりません。そして緩んだ輪ゴムは少しづつ絞めていくのですが、その際も強く締めすぎず、患者さんが痛みを感じないように絞めることが大事です。ある先生がこんなことを言っていました。「シートン法は肛門にピアスをするみたいなもの。ゆっくり時間をかけて治すものです。」と。
患者さんにとって辛い術後出血

今回は術後の出血に関してお話します。
手術をする際にどうしても避けて通れないのが術後の出血です。術後の出血があった場合はどうしてももう一度麻酔をして止血処置をしなければなりません。
簡単に止血できる場合もあれば、出血している場所によっては止血処置が難渋する場合もあります。でも、肛門の手術を行うにあたって、術後の出血は起きることがあり、それに対して十分に対応できるようにしておかなければなりません。
術後の出血は患者さんだけでなく、私のとっても辛いことです。できればあって欲しくない。でも起きたときにはしっかりと対処しなければならない。そんな思いが常に手術をしているときにはあります。
患者さんにとって、術後の出血に対して止血処置をすることはとても辛いことだと思います。
例えばこれまで悩んできた肛門の病気をしっかり治そうするときは、「今回の手術で内痔核をしっかり治してしまおう!」「治すからには麻酔や手術は頑張ろう!」「手術をしたらスッキリ治るんだ!」などの思いを胸に、手術して治すということに納得して、決心して麻酔や手術を受けられます。このように覚悟の上での手術です。ですから手術が頑張れるのだと思います。
その覚悟に対して私たちも、痛みが少ない、そして術後の出血などがない手術をしっかり行わなければならないと思っています。
でも術後の出血はどうでしょう。患者さんには術後の出血があって止血処置をしなければならないことがあることや、痛みもそうですが、出血が一番困ることであることはお話します。でも術後の出血に対して止血処置をするところまで決心して覚悟している患者さんはいないと思います。ですから痔核根治術など、最初の手術は決心の上での手術。でも術後の出血に対しての止血処置は思ってもいなかったことになってしまうと思います。そうすると、自分の決心のなかになかったことをもう一度しなければならないことになります。
このことはとても辛いことです。「手術が終わったのに、もう一度手術!」「また麻酔をしなければならないの!」「また痛いことをしなければならないの?」「出血は治まるの?」など一気に不安が押し寄せてくると思います。
そういった時には冷静に、どこから出血しているのか、出血の具合はどうなのか、どうして出血したのか、止血処置が必要なのか、どうやって止血するのか、止血にかかる時間はどの程度か、また今回止血処置をしたら次に出血することはないのか、など患者さんにしっかりとお話することが大切だと思っています。
さて、このように出血に対してどのようにしているかです。
まずは手術が終わって1時間後に傷の具合を診ます。出血していないかどうか。また痛みの具合はどうかを診ます。1時間後に出血していなくても次は術後3時間後に傷の具合を診ます。止血処置をした後は処置後1時間後にもう一度傷の具合を診ます。そして、術後3時間後に診察をして出血がなければまずはその後の出血はありません。特に痔瘻や裂肛の手術の場合は手術の際に動脈を縛る部分がないので、動脈を縛ったところからの痔核根治術のような晩期出血はありません。内痔核の場合は、この動脈を縛ったところから術後7~10日後に1%ですが晩期出血が起きることがあります。このことを術後しっかりと術後の傷を診ながら患者さんにお話していくことが大事だと思います。
術後の出血は起きて欲しくありません。でもどうしても避けては通れないことです。出血があった場合しっかりそのことを患者さんに話、そしてしっかりと止血処置ができるようにいつも心がけていくことが大切だといつも思っています。
7月になって思うこと。

7月になりました。いよいよ下半期。上半期は、新型コロナウイルスの感染拡大で、大変な日々があっという間に過ぎていきました。
何があっても時は止まらず、私たちのことなどお構いなしで、どんどん進んでいきます。新型コロナウイルスの感染が拡大し、まだまだ収束が見えない中、時間だけは確実に、そして容赦なく過ぎていきます。自粛要塞などのなかで、仕事や生活が困難になっている中、なかなか支援策も届かない。支援策があってもどうしても時間がかかってします。そんな中、時間だけは進んでいきます。
時間が進むとで、同時に様々なお金が出ていきます。税金であったり、支払いであったり。また日々の生活に必要なお金だったり。必要な支出はどんどん出て行ってしまいます。少し時間が止まって、十分な支援が届くまで、少しは余裕ができるまで時間が止まって欲しいと思うのは私だけでしょうか?
新型コロナウイルスの感染拡大が収束したわけではありません。第一波がまだ治まらず引き続いているのか?ある程度落ち着いて第二波が始まろうとしているのか。なかなか判断が付きません。でも第一波の時に経験したことはしっかり検証して、給付や支援が速やかに行うことが出来なかった原因、自粛要請が正しかったのか?また新型コロナウイルス感染拡大に対しての医療提供体制がこれまでの政策方針でよかったのかなど速やかに考えていかなければ、第二波が訪れた時、また同じように後手後手になってしまうのではないかと思います。
また第一波の時は十分とは言えませんが、支援や給付金、補助金が支出されました。第二波、第三波が来た時に同じように財源を支出できるのか?できないのであれば、新型コロナウイルス感染拡大を抑えることと、経済活動を両立させるにはどうしたらいいのかを考えていかなければなりません。
全く未知の社会、生活に私たちは当面向き合っていかなければなりません。
今日の新聞で、新型コロナウイルス感染拡大によって3万人もの方が解雇されたという報道が掲載されていました。
私たちの生活をどう守るのか?解雇された方々をどう支援していくのか?また、学生さんたちの教育を受ける権利をどう守っていくのか?などなど検討し、早く解決しなければならないことが山積しています。
こういった時こそ、様々な人たちの意見を聞き、それを透明化して、より良い方向に進めていかなければならないのだと思います。
改めて、医療に関して新型コロナウイルス感染拡大後の問題点や改善しなければならないとは何かを私が思うところを紹介したいと思います。
私の母は認知症が進んでいます。新型コロナウイルスの感染拡大で世の中大変なことになっているなど全くわかりません。でもいつも笑顔で私を見てくれています。このような状況のなか、母の笑顔を見ると、ホッとします。そしてとても癒されます。私たちが大切に思う人たちを守り、笑顔でい続けてもらえるように、今私たちにできることは何かをしっかり考え、迷うことなく、そしてぶれることなく進んでいかなければならないと思います。
診断が難しい外痔核

6月も終わり、明日から7月になります。新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちは今までの経験したことのない生活を送ってきました。社会の在り方がガラッと変わってしまうような状況の中、早くも半年が過ぎました。
今年残された6か月、まだまだ私たちにとって予測がつかない日々が続くと思いますが、毎日の生活をしっかりと過ごしていきたいと思います。
今回は、診断しにくい外痔核に関してお話したいと思います。
外痔核と聞くと、直ぐに頭に浮かぶのは血栓性外痔核です。肛門の外側の静脈叢に血栓が詰まり、急に腫れて痛みが出る病気です。
血栓性外痔核の場合は、肛門の外側に血栓ができて、腫れて痛い状態で医療機関を受診されるので、一見しただけで直ぐに血栓性外痔核とわかります。また、肛門上皮に血栓が詰まって痛みが出ることもあります。この場合はパッと見ただけでは血栓性外痔核とはわかりません。でも肛門指診をすると、肛門内の肛門上皮に硬く血栓が詰まっているのを触知することが出来ます。また肛門鏡で観察することで、肛門の外側に血栓が詰まって居間くても診断は容易にできます。
血栓性外痔核の場合は血栓が詰まって腫れて痛いので、消炎鎮痛剤の座薬を使い腫れを取ると痛みは軽減されてきます。そして、詰まった血栓は時間がかかっても自然に溶けて体に吸収されて治っていきます。詰まった血栓が大きかったり、痛みが強い場合は、血栓を摘出することで痛みはスッと楽になります。でも血栓性外痔核は基本的には手術をしなくても痛みをとることで自然に治っていきます。
ただ、外痔核にはこのように血栓が詰まって腫れて痛い外痔核だけではありません。
肛門の外側の静脈叢が、排便の時などにグッと力を入れて力んだ時に、静脈瘤の様に腫れてくることがあります。この場合は血栓性外痔核と違って血栓が詰まっていないので、視診や肛門鏡での観察、そして触診では外痔核がわからないことが多いです。
患者さんの訴えとしては、「排便時に何か出てきて押し込んでいます。腫れていると痛みがあります。」という症状です。そして出血はなく、腫れて出てくるという症状です。
これだけを聞くと一見、内痔核があって排便時に内痔核が脱出してきて、その内痔核を押し込んでいるんだろうと考えます。でも肛門鏡で肛門内を観察しても明らかな内痔核の腫脹は認めません。
渡邉医院では、初診の患者さんは微温湯による浣腸をしてトイレでその入れた微温を出してきてもらい、グッと頑張った後の肛門の腫れ具合、内痔核の腫れ具合などを診るようにしています。
でも微温湯の浣腸でも内痔核の腫脹はなく、出ても来ないことがあります。こういった場合は、まず軟膏を使って様子を診てもらいます。それでも患者さんの症状が改善されないときは、もう一度浣腸をして頑張った後の肛門の具合を見せてもらいます。そうすると、1回では診断できなかった肛門の外側の静脈叢が腫れてくる静脈瘤性の外痔核を認め、診断がつくことがあります。
血栓が詰まったわけではないので、ただただ視診、触診、肛門鏡での観察では診断がつきません。また外痔核ですが、指で押し込むと鬱血して腫れた外痔核がへこんで治まります。患者さんの訴える症状だけでは内痔核の症状ですが、本当の病名は静脈瘤としての外痔核です。なかなか診断が難しいです。
こういった排便時などに頑張った時に、静脈瘤としての外痔核が出来る場合は、スッキリ治すには腫れてくる外痔核部分を切除する必要があります。内痔核の手術と違って、外側の静脈瘤の切除ですので、術後の痛みは内痔核の手術より楽です。また内痔核の様に根部の動脈を結紮することはないので、入院ではなく、外来での手術が可能です。
一端、静脈瘤としての外痔核だと診断がつくと、後の治療は決まりスッキリ治すことが出来ます。
このように内痔核と違って、外痔核は血栓性外痔核以外に静脈瘤としての外痔核があり、この場合診断が難しいことがあります。患者さんが「排便時に出てきて押し込んでいる。」という症状を訴えていても、明らかな内痔核の腫脹がない場合、患者さんの訴えと自分が診察した際の内痔核の状態とが一致しない場合は、静脈瘤としての外痔核がないかどうかをもう一度診察する必要があると思います。
新型コロナウイルスの影響で学会等が中止延期に

もうすぐ6月も終わり7月。いよいよ夏本番に入っていきますね。
新型コロナウイルスの感染拡大。少しは落ち着いてきたのかなあと思いますが、まだまだ東京などでは感染者が出ています。日ごろの手洗いやうがいなど、基本的な感染予防対策はしっかり行っていかなければならないと思います。
さて、この新型コロナウイルスの感染拡大の影響で様々な学会や研究会が中止になっています。私たちが関係する肛門科の研究会も同様に中止せざるを得ない状況になっています。
6月においても、年3回大阪で開催されている近畿肛門疾患懇談会が6月13日に予定されていましたが中止。また、今日6月28日は本来なら、東京の御茶ノ水にあるソラシティで第14回内痔核治療法研究会総会が開催が予定されていましたが、これも中止になっています。11月に開催される日本大腸肛門病学会総会は今のところ開催予定になっていますが、今後の新型コロナウイルス感染の状況によっては中止が余儀なくなる可能性もあります。
このように私たち肛門科医にとって、情報を収集する大切な学会、研究会が中止になっています。日々新しい治療法に関しての情報や今まで行ってきた治療について、多くの医師が集まり検討する機会がなくなってしまうのはとても残念です。早く新型コロナウイルスの感染拡大が収束して、肛門科の医師が熱く議論する場所が戻てくることを願うばかりです。
さて、本来今日は第14回内痔核治療法研究会総会が開催されていて、そこで私は発表する予定でした。そして、総会の後は東京で仕事をしている息子や娘に久しぶりに会って、食事をしながら親子、そして仲間として楽しい、そして有意義な話をする予定でした。これも中止。寂しい気持ちです。
さて今回の総会のテーマは、ALTA療法(単独療法、併用療法)を施行する際のインフォームドコンセントとし、
- 1)ALTA療法選択のインフォームドコンセント(適応、手技、成績など)
ALTA療法をどのように説明して行っているか?
- 2)ALTA療法有害事象のインフォームドコンセント
ALTA療法の周術期に生じる有害事象をどのように説明しているか?
この2つの主題で検討する予定でした。
私はこの2番目のALTA療法有害事象のインフォームドコンセントでの発表の予定でした。
今回はその発表に関しての抄録を紹介します。これまでもブログの方で、ALTA療法に関してその注射手技や成績、そして有害事象などお話してきました。詳しい内容はそちらの方を参考にして下さいね。
では、抄録を紹介します。
演題名:ALTA療法有害事象に対してのインフォームドコンセントの内容とそのタイミング
抄録
ALTA療法の出現までは、第Ⅲ度以上の内痔核に対して切除という方法で治療を行ってきた。したがって、患者に外科的侵襲を加え傷ができることによる排便時の出血や痛みのなどの苦痛はどうしても取り除くことが出来ない。そのため、いかに出血しないように、また術後の痛みを最小限にするか工夫がなされてきた。ALTA療法の出現で、内痔核の治療は一変した。ALTA療法は、適応をしっかりと見極め、四段階注射法という注射手技をマスターすることで比較的簡便で、しかも治療効果を得ることができる。そしてALTA療法の一番のメリットは患者が痛みを感じることなく治療できることにある。そのため、渡邉医院ではALTA単独療法を基本に治療を勧めている。さて、ALTA療法は低侵襲の治療方法だと言われている。しかし、ALTAを局注した部分では激しい反応がおきており、患者が痛みを感じないということでALTA療法が低侵襲の治療法と言っていいのかは疑問である。ALTA療法によって脱出や出血が早期に取り除かれ、患者のQOLは比較的早期に改善される。そして早期に社会復帰できる。しかしこのことが、ALTA療法を施行する医師、また受ける患者もALTA療法を安易に考える危険性がある。ALTA療法に伴う局所での反応は激しく、それによる有害事象が発生する可能性もある。このことをしっかりと患者に説明して同意してもらうことが必要である。渡邉医院ではALTA単独療法で血圧低下や徐脈の発生頻度は約1%、熱発の発生頻度は約4%である。また症状が無くても潰瘍形成など発生することもある。こういった有害事象をどの時点でどの範囲まで患者に説明するかは難しい問題である。一時に全てのことを患者に説明しても、患者がそのことを完全に理解することは望めない。必要な時に必要な説明をしていく。また患者が不安に思うであろう症状を先手先手で説明していくことが必要と考える。渡邉医院でのALTA療法やそれに伴う有害事象の患者への説明時期とその内容を報告する。
このような内容での発表予定でした。
やはり私たち医師は学会や研究会、また、論文等によってこれまで行ってきた治療法が正しいのか。また新しい工夫をしたがそれが適切なものなのか等、様々な多くの医師によって熱い議論をして検討して、スタンダードな治療方法にしていかなければなりません。独りよがりの診察、治療はとても危険です。こういった機会をフルに利用して自分を研鑽していかなければなりません。早く何の心配もなく持て、多くの医師が熱く語る機会が持てるように新型コロナウイルスの感染拡大が収束することを願います。
肛門ポリープって?

今、渡邉医院ではTwitterで肛門の病気に関しての不安なことや心配なことに対して相談を受けています。やはり、肛門周囲膿瘍であったり血栓性外痔核などの痛みに関しての相談が多いです。
その中で、肛門ポリープについて相談がありました。今回は肛門ポリープに関してお話したいと思います。
肛門ポリープの原因
裂肛が原因の肛門ポリープ
肛門ポリープの原因にはいくつかあります。まずは裂肛が原因での肛門ポリープです。
裂肛は便秘など排便時に肛門上皮に傷がつく病気です。排便時に切れたり治ったりすることで、裂肛の外側に皮垂が出来ることがあります。これと同じ様に裂肛の奥に肛門ポリープが出来てくることがあります。傷がつき炎症を起こすことでポリープが出来てきます。そしてこの肛門ポリープが排便時に肛門の外に出たり入ったりすることで裂肛が悪化したり、また肛門ポリープが大きくなってくることがあります。時々この肛門ポリープが出てきているのを内痔核が出てきていると勘違いする方もいます。
裂肛が原因で肛門ポリープが出来てくると裂肛そのものも慢性裂肛になっていきます。排便時の痛みが強くなってきたり、排便時だけでなく排便後の痛みが持続するようになっていきます。このようになると裂肛の根治術が必要で、裂肛の手術をする時に肛門ポリープも一緒に切除します。
また中には排便の状態が改善され、裂肛は治ったものの肛門ポリープだけが残り、この肛門ポリープが排便時に痛みはないものの肛門の外に出てきてしまうこともあります。この場合は裂肛の手術は行わずに、肛門ポリープだけを切除することがあります。
でもいずれの場合も肛門ポリープは軟膏や座薬で小さくなって治っていくものではありませんので、切除が必要になります。
肛門乳頭の肥大化
もう一つの肛門ポリープのできる原因は肛門乳頭の肥大化です。肛門と直腸の間に歯状線があります。この部分は火だ状になっており、そこに肛門乳頭があります。これが排便によって擦れたりして、炎症を起こして肛門乳頭が肥大化してきて肛門ポリープになることがあります。この場合は肛門ポリープが大きくなってくると排便時に肛門の外に出てくるようになります。この場合は裂肛による肛門ポリープではないので、排便時の痛みはありません。
でも排便時に肛門ポリープが肛門の外に出てくるとやはり痛みがなくても不快な症状になります。軟膏や座薬では小さくならないので、この場合も切除が必要です。
でもいずれの原因でできた肛門ポリープも炎症によってできて、大きくなってきたポリープですので悪性に変化していくことは有りません。排便時に肛門の外に出てきた李、挟まったような感じがあって、スッキリ治してしまおうと思った場合に切除したらいいと思います。ただ裂肛のが原因の場合は、排便時の痛みがあったり、場合によっては排便後の痛みが持続したりする症状が出てきます。この場合は裂肛そのものに対しての裂肛根治術が必要になります。その際に肛門ポリープが出たり入ったりすることで裂肛の治りを悪くするため、裂肛根治術の場合はこの肛門ポリープも一緒に切除します。
肛門ポリープの切除
肛門ポリープのみ切除の場合、渡邉医院では局所麻酔で行います。
肛門ポリープの根部に局所麻酔をして、肛門ポリープの根元を糸で縛って出血しないようにして切除します。肛門ポリープに切除だけでは入院になりません。術後1時間程度病室で安静に休んでもらい出血がないこと、肛門の腫れがないこと、そして完全に麻酔がきれた状態で帰宅してもらっています。
肛門ポリープの根元を縛って切除するだけなので、術後の痛みはほとんどないと言っていいです。また肛門ポリープを切除するだけなので、排便時の痛みもほとんどありません。術後1週間程度たって受診してもらい、痛みもなく、出血もなく具合が良ければ治療は終了となります。
このように肛門ポリープの多くは炎症によってできる炎症性のポリープで悪性化はしません。でも排便時に肛門の外にでてくる肛門ポリープは、軟膏や座薬では治っていかないので手術は必要になります。
肛門ポリープかなあと思った時は相談してみてくださいね。
皮垂(スキンタグ)切除後の皮垂

前回は、肛門の手術を行った後の皮垂(スキンタグ)に関してお話しました。今回はその皮垂を切除したにもかかわらず、もう一度皮垂が出来てしまうことに関してお話したいと思います。
皮垂は痛みが出たり出血したりなどの症状は出ません。皮膚のシワなので悪いものではありません。必ず手術して切除しなければならないわけではありません。でも何か肛門にできていて気持ちが悪い。排便後拭きにくい感じがする。拭きすぎて痒くなってしまう。皮垂があることそのものが気になる。など、悪い病気ではないのですが、皮垂が不快なものと感じることがあります。そういった気になることを我慢することは、精神衛生上もよくないと思っています。ですから皮垂が気になる方は切除をお勧めしています。また、皮垂の切除を希望されて受診される患者さんもいます。
患者さんはこの気になる皮垂を切除しようと決心して受診され、手術を受けられます。それなのに皮垂を切除した後また皮垂が出来てしまう。患者さんにとってはとてもショックなことですし、私自身とても辛いところです。
皮垂を切除した後に再度皮垂が出来ないように気を付けて手術をするのですが、どうしても術後に再度皮垂が出来てしまうことがあります。どんな場合に再度皮垂が出来てしまうのかを私なりに考えてみました。
皮垂のできる原因
皮垂が出来る原因ですが、前回、「肛門の手術後の皮垂(スキンタグ)」でお話しましたが、手術をした後の傷の周囲の腫れが皮垂の原因になります。また外痔核成分の静脈が手術をするという侵襲によって腫れてくることもあります。また手術操作で術後に血栓を形成することもあります。こういったことが皮垂が出来る原因になります。
ですから、皮垂を切除した後、その傷の周囲が腫れてしまったりすると、その腫れが引いた後に皮垂が出来てしまいます。
ではどんな時に皮垂を切除した後に腫れが出てしまうかです。
皮垂を切除する傷の大きさ
一つ目は、皮垂の切除する傷が小さすぎるときです。
傷は小さいほうがいいと思いがちですが、肛門の手術では、術後排便という傷には負担となることがあります。肛門の手術後は、傷を安静にして治すということはできません。どうしても排便ということがあるので、使いながら傷を治していくことになります。ですから小さな皮垂だから小さな傷、大きな皮垂だから大きな傷になるというわけではありません。便が出てもいいように、使いながら具合よく治っていくように傷を作ります。そうすると、皮垂を切除する傷が小さすぎると、術後排便などによって傷の周りが腫れてしまうことがあります。
皮垂を切除する場合はどちらかというと少し大きめの傷で切除する方が具合よく治っていきます。皮垂の切除の場合は、肛門上皮まで大きな傷が出来る訳ではありません。肛門の外側の傷になるので、大きく切除して肛門が狭くなったりはしません。
こういったように、皮垂を切除する際には少し大きめに切除することが術後の腫れを防ぐ一つの手段になります。
皮垂の原因は何か?
二つ目は皮垂の原因となった病気の種類で腫れが出る可能性があります。
皮垂の原因となる病気には裂肛や内痔核があります。私のこれまでの経験では裂肛が原因よりは内痔核が原因での皮垂を切除した場合に、術後に腫れる印象があります。
内痔核が原因での皮垂をその皮垂だけを切除するとどうしても腫れが出てくることがあります。ですから内痔核が原因での皮垂を切除する場合は、途中までは内痔核に対しての痔核根治術をするときと同じような感じで皮垂を剥離していきます。そして少し肛門上皮の中まで剥離して切除します。場合によっては、肛門上皮までできた傷は数針縫合することもあります。
このように皮垂だけでなく、痔核根治術の様に肛門上皮まで少し傷がかかるように切除することで術後の腫れが起きる頻度を下げることが出来ます。
裂肛でできた皮垂は、意外とその皮垂だけを形よく切除するだけで、術後の腫れが出ない印象があります。
このように何の病気でできた皮垂かで術後の腫れがでてくる違ってくるようです。そういったことを考えながら皮垂を切除していく必要があります。
皮垂のできる場所
三つめは皮垂のできる場所です。
皮垂が出来る場所の多くに、肛門の前後、時計でいうと6時と12時の方向があります。この前後の皮垂を切除した場合、傷の場所が皮垂の出来ていた場所と同じ真正面、真後ろにすると術後の傷の治りが悪くなったり、腫れたりします。
皮垂の出来ている部分をよく観察して。皮垂を切除する場合、真正面、真後ろに傷が出来ないように左右どちらかにずらして切除することが大事です。
このように皮垂を切除する傷の大きさ、皮垂が出来た元の病気、そして皮垂の出来ている場所が術後の腫脹やその後の皮垂の原因になると思います。こういったことを考えながら皮垂を切除する必要があります。
術後の排便の状態
さて、皮垂の切除後もとても大事なことは術後の排便の状態です。やはりここが一番重要です。術後、具合よく便が出るように排便の調整をしていくことも術後の腫れを侵さず皮垂にならない重要なポイントになると思います。
手術の際は術後の腫れが起きないように気を付けながら手術をするのですが、それでも術後の腫れを生じ、その後その部分が皮垂になってしまうことがあります。これから先もいかに腫れを起こさないようにそしてその後の皮垂が出来ないように注意すべき点は何かを検討していきたいと思います。
肛門の手術後の皮垂(スキンタグ)

今回は、肛門の手術後に起きる皮垂(スキンタグ)についてお話したいと思います。
皮垂の原因
皮垂のできる原因には様々あります。例えば内痔核が腫れたり治まったりして、このために内痔核が出来る外側に皮垂が出来ることがあります。また裂肛でも皮垂が出来ます。排便時に肛門上皮に傷ができるとその傷の外側が腫れます。切れたり治ったりすることで裂肛の外側に皮垂が出来ます。また裂肛があり、皮垂によって便が引っかかることがあります。このことも原因で皮垂が大きくなってくることがあります。また血栓性外痔核と言って肛門の外側の静脈に血栓が詰まって腫れて痛い病気があります。血栓は徐々に溶けて吸収されていくのですが、腫れが治まって血栓が吸収されても皮垂が出来てしまうことがあります。このように様々な肛門の病気で皮垂はできます。いずれの病気でも、皮垂が出来る原因はそれぞれの病気によって排便時に微小な血栓ができ、そのことによって腫れが生じ、その腫れが引くときに皮垂が出来るとされています。
さて今回は肛門の手術後の皮垂です。肛門の手術で皮垂が出来る原因には大きく二つあると思います。
術後の傷の腫れ
一つは、肛門の手術を行った時の傷の周囲の腫れが起きることによってできる皮垂です。特に内痔核の手術を行う時に起きやすいのではないと思います。
手術の際の操作が原因での腫れ
手術をする際に肛門を広げたり、内痔核を引っ張りながら周囲の組織から内痔核を剥離していきます。そして根部まで内痔核を剥離したら根部の動脈を結紮して切除します。
こういった手術を行う時の一連の操作によって術後に腫れを生じることがあります。また内痔核の手術をした後、肛門の外側の外痔核部分が手術操作によって腫れたり、術後に血栓が詰まったりすることがあります。
術直後には腫れてこない
しかし、こういった術後の腫れや血栓形成は、手術を終了した直後には起きてきません。手術を終了した直後にはスッキリ綺麗ないい傷だと思っていても、術後3時間後に傷の状態を観察すると、術直後にはなかった腫れや血栓ができてしまっていることがあります。こういった術後の腫れは、多くの場合が徐々に引き、皮垂とならずに治っていきます。でも場合によっては術後の腫れが引いてもその部分が皮垂となって残ってしまうこともあります。
この皮垂が気にならない患者さんもいらっしゃいますが、内痔核の脱出がなくなっても、やはりその皮垂が気になる患者さんもいらっしゃいます。そんな時は患者さんと相談してその皮垂を切除することがあります。
術後に皮垂を作らないためには
外痔核成分の処置
さて、術後の皮垂を作らないようにするにはどうするかです。
このことはなかなか難しいところです。術直後とてもきれいに手術が出来たと思っていても術後に腫れてしまうことがあります。でもそうならないように気を付けていることがあります。その一つは、内痔核などの手術後に腫れる原因の多くが外痔核部分の腫脹です。ですから内痔核の手術をする際に一番気を付けているところは、この外痔核が出来る部分の静脈がどうなっているかです。
手術をしている際に、この外痔核部分の静脈が少し腫れてくることがあります。こういった場合は、新しく傷を作ってその外痔核部分を切除するのではなく、内痔核の手術をした傷から、術後に腫れるのではないかと思われる外痔核成分の静脈を切除していきます。このことをアンダーマイニングと言います。内痔核が脱出してくる場合は多くは外痔核成分の腫脹も少なからずあります。こういった場合は、内痔核に対して痔核根治術をする際に、この外痔核部分の静脈をしっかりアンダーマイニングすることを心がけています。
皮垂が合併している内痔核の処置
また、内痔核だけでなく、皮垂も合併している場合は、皮垂部分を少し大きめに切除することを心がけています。痔核根治術を施行する場合、この皮垂部分の切除が少ないと、内痔核は治っても、皮垂が残ったり、この部分が術後腫れて皮垂になってしまいます。ですから皮垂を合併している内痔核の場合は、通常の痔核根治術よりも皮垂部分を大きく切除するようにしています。
術後に新たに血栓が詰まる
二つ目の皮垂が出来る原因ですが、術後排便の状態などが悪かったり、血栓性外痔核が出来てしまう要因が重なり、術後に新たに血栓が詰まってしまうことがあります。この場合は血栓性外痔核の後にできる皮垂と同じで多くは血栓が吸収されて皮垂を残さずに治っていきます。ただ一部血栓が吸収された後に皮垂がのころこともあります。ですから、術後に皮垂が出来ないためにも術後の排便の状態を良くすることはとても大切になります。
それでも皮垂はできることがある。
このように術後に皮垂が出来ないように気を付けて手術をしていくのですが、やはりそれでも皮垂が出来てしまうことがあります。
患者さんにとっては内痔核の脱出がなくなったとしても、また新たにできた皮垂が気になることになってしまいます。そんな時は患者さんと話をして、皮垂がやはり気になるときはもう一度その皮垂を切除することになります。私にとってもとても辛いことです。
今後も皮垂のできる要素がないかどうか、もしあればそこもしっかり処置をして1回でスッキリ皮垂を作らずに治していくようにしていきたいと思います。また術後に皮垂が出来てしまう要因などを科学的に検証していきたいと思います。
次回は皮垂を切除した後にできてしまう皮垂に関してお話したいと思います。
「あ行」は発しない!

梅雨の中休みで、今日はそれほど暑くもなく爽やかな日です。こんな日は気晴らしで散歩もいいかもしれませんね。ようやく都道府県間の移動も解禁され、少しずつ少しずつではありますが以前の生活に戻ってきています。
なんの心配もなく、楽しく生活できる日が来るのが楽しみです。そのためにも私たちは、うがいや手洗いなどの基本的な感染対策はしていかなければなりませんね。
今日は、患者さんに不安を与えないために心がけていることを少しお話しようと思います。
私が心がけている一つは、声のトーンは高くなく、そして本当にゆっくり患者さんにお話することです。
声のトーンが高く、そして早口でしゃべると、そのことだけでも患者さんはとても不安になると思います。そして私が伝えたいことが全く伝わらなくなってしまいます。この声のトーンを高くせずゆっくりしゃべることの大切さを知ったのは、ラジオやテレビに出させてもらった時でした。
特にラジオでは、話をしている私の顔は見えずに声だけです。番組の内容は肛門の病気に関しての質問に答えるといった内容でした。私が言いたいこと、伝えたいことがたくさんあって、それを一生懸命に伝えようとすると、どうしても早口になってしまいます。喋っているいるときは自分では全く感じなかったのですが、後から自分の喋っているのを聞いてみると、びっくり。自分が伝えたいことが全く伝わってきません。早口で何を言っているのかわからない。「これじゃあ全然伝えたいことが伝わらない!」と反省。
また、テレビに出させてもらった時、診療所の方にスタッフの方々が収録に来られました。その時、撮影用のカメラを向けられ、目の前にいるスタッフの方にお話しするようにしゃべったのですが、この時も緊張のせいもあってか、少し早口に。スタッフの方はとても上手で、「よかったですよ。でももう少しゆっくりお話ししてください。その方がしっかり伝わります。じゃあもう一回行きますね。」と。私を傷つけないように配慮して下さりましたが、「良くなりました。ではもう一度行きましょう。」と何回か繰り返して、最後にOKが出ました。
この時も、「こんなにゆっくり話さなければいけないんだ。」と思うほどのゆっくりさ。でも後から収録を観てみると、私が話していることが良くわかり、ちゃんと伝わる。声のトーンに気をつけて、ゆっくりしゃべることの大切さを知りました。このような経験から、患者さんとの会話だけでなく、例えば学会の発表や、いろんな会議での報告をするときなども極力ゆっくりとしゃべることに注意しています。
いくつか気をつけていることは有るのですが、もう一つだけ紹介します。
それは診察しているとき、また手術等処置をしているときには決して「あ行」の言葉を発しないということです。
例えば「あ」ですが、「あっ」とか「あ~」と声を発すると、患者さんは何か具合悪いことが起きたのではないか?何か失敗したのかなあ?予期せぬことが起きたのか?とすごく不安にそして心配になります。「い」や「う」もそうです。「あ」、「い」、「う」はすべて患者さんを不安にさす言葉です。ですからどんなことが起きても私は「あっ」などの声を発しないように自分自身で気を付け訓練しています。ですから大抵のことが起きても大きな「あ」の声は発しない自信があります。
また「え」はその音がなんとなく「否定」をあらわす印象があります。ですから何か聞く時も「え」とは聞かないようにしています。このことは私の父からも言われました。どんな緊急なことが起きても、急いで行わなければならない事態でも、動じることはなく、声のトーンを高めず、ゆっくりと話す。このことで患者さんの安心感を生むことが出来ると思います。またそういった話し方をすることで、周りのスタッフの気持ちも落ち着き、スムーズな対応ができると思います。
ゆっくり喋ること。意外と難しいですが、皆さんも是非やってみて下さい。周りの人たちの安心感を生むことが出来ると思います。