快便の秘訣Part1

肛門の病気にならないようにするには、気持ちよく便が出ることが大切です。よく、刺激物が良くないとか、アルコールが良くないなどと言われていますが、でも一番の原因は便を出すときにグッと頑張っている時間が長いことだと思います。
頑張っている時間が長くなく、スムーズに便が出ることが大切です。
今回は、快便の秘訣Part1をお話します。
快便の秘訣として、便に関しては、①便に程よい水分が含まれていること。②便のもとになる食物繊維があり、便の量があること。大腸に関しては、③大腸が具合よく動くこと。この三つがそろって気持ちよく便が出ます。
今日はその中の、①の便の中の水分に関してお話したいと思います。
便は柔らかすぎてもすっきりでません。ある程度の硬さがあるが柔らかい。便の中の水分の量で便の硬さ柔らかさはきまります。
便の中に含まれる水分が70%になると、もうカチカチの硬い便になってしまいます。反対に、便の中の水分が90%になると、水のような下痢になります。たかが20%ですが、カチカチの硬い便から水様の下痢になります。水分は1日に便や尿、そして汗などで約2Lの水分が体の外に出ます。したがって最低1日に2Lの水分を摂らなければなりません。でも2L飲むわけではありません。食事の中にも水分は含まれています。美味しく食事が摂れていると、食事を摂るだけで約1~1.5Lの水分を摂ることができます。でも足らないので、食事以外に約1Lの水分を摂る必要があります。でもこれも飲むだけでなく、果物を摂っても水分は摂ることができます。食事以外で1L水分が最低ほしいです。ただ、夏の暑い時期は汗などで、普段以上に水分が出ていきます。また、寒い時期も乾燥しているので夏と同じぐらい水分が出ていきます。夏だけでなく寒い時期も十分に水分を補う必要があります。
さて、便はどこで硬くなっていくのでしょう。
大腸は、上に行く大腸(上行結腸)、横にいく大腸(横行結腸)、下に行く大腸(下行結腸)、S字状結腸、そして直腸となります。便は上行結腸ではまだドロドロの下痢状の便です。これは摂った水分はまずは大腸まで来ます。どんなに硬い便が出る人でも、上行結腸ではまだ下痢状の便です。大腸を横行結腸、下行結腸、S字状結腸に進むにつれて、大腸から水分が吸収されて硬くなって行きます。食べたものが消化され吸収され便になるには早くて12時間、ゆっくりで3日です。ですから毎日便を出さなければならないわけではありませんが、3日までにはすっきり便が出る必要があります。
このように、ドロドロだった便は大腸を通過していく間に形になっていきます。
さて、便が出るときはどのようにでるのでしょうか。
便はまずは直腸より奥で待機しています。直腸に便があってはいけません。直腸と肛門とで便を出すところです。
直腸より奥に待機していた便は、おなかがグルグルグルと動くこと、蠕動することで初めて直腸に便が来ます。何もない直腸に便が来ることで、便がしたいなという便意がおきます。そうすると、頭が命令して便が出やすいように肛門の筋肉(内肛門括約筋)の緊張をとってくれます。肛門の緊張がとれ、腹圧をかけることで便がでます。直腸の中の便がすべてすっきりでるとまた肛門の筋肉(内肛門括約筋)はしまります。このように、柔らかい便が直腸にきて、もよおしたときに我慢せずに腹圧をかけるとすっきいり便が出ます。この時に便がしたいのに我慢すると便は硬くなってしまいます。
直腸に便が残ったままになっていると、直腸の粘膜から水分が吸収され、硬くなってしまいます。便が硬くなってしまうと、いくら頑張っても便がでてくれません。
それどころか、水分が吸収され便が硬くなって便が詰まってしまいます。いったん硬くなった便を柔らかくしてくれる飲み薬はありません。便秘のお薬はどんなお薬も便が硬くならないように、柔らかくしてくれるだけです。また硬い便が直腸につまった状態で浣腸しても、浣腸の液だけがでて、便はでてくれません。少ししんどいのですが、硬くなった便を崩して、柔らかくしてから浣腸することで便はでてくれます。便が詰まってしまうととてもつらいです。
ですから、便がいきたくなったら、我慢することなくすっき出してしまうことが大切です。
快便の秘訣その一は、水分を十分にとって、便がいきたくなったら、我慢することなくすっきり出すことです。
次回は、便の量を増やすことの大切さをお話したいと思います。
肛門周囲膿瘍344例の分離菌及び抗生剤の感受性の検討。

今回は、肛門周囲膿瘍344例の原因となった細菌と抗生剤の感受性について以前に検討した論文を紹介します。
肛門周囲膿瘍は肛門小窩に細菌感染を起こして膿瘍形成をする病気です。肛門周囲膿瘍に対してはまずは早急に外科的に切開排膿することが大切です。それと同時に原因となった細菌に感受性のある抗生剤を適切に使用することが必要になってきます。今回はその原因となった細菌の種類や感染の形式。またその原因菌に対しての抗生剤の感受性を検討した論文です。
原因菌の多くは大腸菌などのグラム陰性桿菌である腸内細菌が多く、セフェム系の抗生剤が感受性があります。ただ、肛門の深い部分に広がっていく肛門周囲膿瘍には嫌気性菌の感染が比較的多く認めます。この嫌気性菌にはセフェム系の抗生剤は感受性が低いです。嫌気性菌にはテトラサイクリン系の抗生剤が感受性が高いです。またニューキノロン系の抗菌剤も有効だと思いますが、原因菌となる大腸菌の中にはニューキノロン系に耐性の菌もあります。
肛門周囲膿瘍の広がり具合、表面に広がっているのか、深部に広がっていくのかなど診断しながら、原因菌を予想して、適切な抗生剤を使用していく必要があります。
今回の論文がその参考になればいいなと思います。
少し古い論文で、その当時のパワーポインとを開くことができなかったので、文章だけになってしまいました。
論文
はじめに
肛門周囲膿瘍の治療は、切開排膿や根治術が最優先される。また、適切な抗生剤の投与も必要である。今回我々は、肛門周囲膿瘍からの分離菌及び抗生剤の感受性を検討した。
対象と方法
対象は、H7年11月からH16年6月までに細菌学的検討を行った肛門周囲膿瘍344例(男性321例、女性23例、平均年令42.4才)とした。
採取した検体から分離された菌について分離菌の種類、分離状況、抗生剤の感受性について検討した。
抗生剤は、第1世代セフェム系セファレキシン(CEX)、第2世代セフェム系セフォチアムヘキセル(CTM-HE)、マクロライド系ロキタマイシン(RKM)、テトラサイクリン系ミノサイクリン(MINO)の4種類について検討した。
結果
344例の肛門周囲膿瘍から562株の細菌が分離された。分離菌数が1種類が174例、2種類が121例、3種類が41例、4種類が6例、5種類が2例であった。
分離された562株のうち、グラム陰性桿菌が388株(69.0%)と最も多く、好気性菌はEscherichia coliが212株(37.7%)、Klebsiella属が59株(10.5%)であった。嫌気性菌はBacteroides属が64株(11.0%)であった。グラム陽性球菌は125株(22.2%)で、Streputococcus属が74株(13.2%)と最も多かった。これら4種類で全体の72.4%を占めた。
感染状況は、単独感染が174例(50.6%)、混合感染は170例(49.4%)であった。単独感染では好気性菌が158例(90.8%)に対し、嫌気性菌は16例(9.2%)であった。混合感染では好気性菌のみの混合感染が90例(52.9%)に対し、嫌気性菌が関与する混合感染は80例(47.1%)と嫌気性菌の関与する割合が多くなった。
嫌気性菌は、単独感染は9.2%であるのに対し、2種類混合感染では56.1%、3種類以上混合感染では61.2%と菌種が増えるほど有意に分離される割合が増加した。Escherichia coliとの混合感染ではStreptococcus属が23.3%と最も多く、Klebsiella属、Streputococcus属とBacteroides属ではいずれもEscherichia coliとの混合感染が多く、それぞれ41.3%、39.1%、32.9%であった。嫌気性菌との混合感染では、Escherichia coliが14例(32.0%)、Streputococcus属は25例(28.7%)、Klebsiella属は8例(12.7%)であり、Klebsiella属の嫌気性菌との混合感染が少なかった。
抗生剤の感受性は、最も分離株が多かったグラム陰性桿菌のうち、好気性菌に関してはCTM-HEが最も感受性がある一方、嫌気性菌に関しては感受性が低く、嫌気性菌に対してはMINOの感受性が最も高かった。
考察
今回、肛門周囲膿瘍334例から合計562株の細菌が分離された。分離菌中グラム陰性桿菌が388株、69.0%を占めていた。分離された菌のうち、好気性菌ではEscherichia coliが212株、37.7%と最も多く、次いでStreptococcus属74株、13.2%、Klebsiella59株、10.5%であった。また嫌気性菌ではBacteroides属が64株11.0%と最も多かった。 感染状況では、334例中単独感染が174例(50.6%)、混合感染が170例(49.4%)と同程度であった。
嫌気性菌は単独感染が16例(9.2%)であるのに対して、混合感染では80例(47.1%)と嫌気性菌の関与が高かった。
2種感染と3種以上の混合感染とを比較すると、3種以上で有意に嫌気性菌の関与する割合が多かった。Bacteroides属はEscherichia coliとの混合感染が多かったが、Bacteroidese属はβーlactamase産生菌であることから、β-lactam系の抗生剤がEscherichia coliに感受性があっても、効果を示さない場合が有る。また、深部の肛門周囲膿瘍ほど嫌気性菌の分離率が高いと報告されている。
したがって、嫌気性菌が関与している可能性のある深部の肛門周囲膿瘍などに対して切開排膿する場合は、比較的大きな切開創を作り、十分なドレナージが必要と考える。排膿後は、創傷の治癒を早める上で抗生剤の投与は有用である。投与する抗生剤は分離される可能性の高い細菌に有効なものを選ぶ必要がある。したがって、好気性のグラム陰性桿菌に対して最も感受性の高かった第2世代セフェム系のCTM-HEが第一選択となると考える。ただ嫌気性菌に対しては感受性が低く、これに対してはテトラサイクリン系のMINOが有効と考える。
今後、肛門周囲膿瘍の肉眼的所見や肛門指診などの臨床所見と分離菌の関係を検討していく必要があると考える。
「新じゃがのジャーマンポテト」のレシピを紹介します。

新じゃがのレシピの二つ目、「新じゃがのジャーマンポテト」を紹介します。
私の妻は北海道出身です。じゃがいもをふかして食べるのって美味しいですよね。北海道では、ふかしたじゃがいもにバターをのせ、さらにそこにイカの塩辛をのせて食べます。ふかふかのじゃがいも、バターの風味、そしてイカの塩辛の塩味。結構いけますよ。一度試してみて下さいね。
そうそう、それから私の母が作ってくれたじゃがいも料理に、じゃがいもをサイコロ状に切って、スルメいかと一緒に天ぷらにする。これも結構いけます。ビールのお供にもいいかもしれません。
「新じゃがのジャーマンポテト」
材料(2人分) 1人分:208kcal 食物繊維 2.2g 新じゃが 4個 |
作り方 ① 新じゃがはタワシで汚れをきれいに洗い、皮付きのまま食べやすい大きさに切る。ベーコンは1㎝幅に切る。スナップエンドウは洗って筋を取っておく。 |
- 管理栄養士さんから一言
- ○栄養メモ○●
新じゃがには、ペクチンという食物繊維が多く含まれています。ペクチンは便を柔らかくする働きがあり、すっきりと出しやすい便を作ります。ペクチンは皮の部分の多いので、皮ごと調理するのがオススメですよ☆
「新じゃがと空豆の明太マヨサラダ」のレシピを紹介します。

今回は新じゃがを使ったレシピを二つ紹介します。まずは「新じゃがと空豆の明太マヨサラダ」のレシピです。空豆も湯がいてお塩で食べるのも美味しいですよね。それと新じゃがを使ったレシピです。
「新じゃが」って何かなと調べてみました。新じゃがは冬に植えたじゃがいもを通常の収穫期である秋よりも早く収穫したもので、皮が薄くみずみずしい触感が特徴とのことです。3月初めに九州から始まって、6月までに各地に新じゃがが出回るとのことです。
「新じゃがと空豆の明太マヨサラダ」
材料(5人分)1人分:170kcal 食物繊維 2.1g 新じゃが 1袋 |
作り方 ① 新じゃがはよく洗い、皮ごと水から15分程茹でる |
- 管理栄養士さんからの一言
- ○栄養メモ「ジャガイモの皮は捨てないで⁉」○●
ジャガイモの皮の部分には、ペクチンという食物繊維が多く含まれています。ペクチンは腸内の健康を保つほか、便を柔らかくしてすっきりと出しやすくする働きがあります。美味しい新じゃがの季節、皮ごと調理して、体に嬉しい栄養を丸ごと頂きましょう♪
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裂肛の分類と診断(臨床外科)

今回は以前、「臨床外科」という雑誌に原稿依頼を受けて書いた「裂肛の分類と診断」を紹介します。
少し長いですが、図も多く、見ていただけるとわかりやすいのではないかと思います。
【要旨】
裂肛は日常の診療でよく遭遇する疾患で、内痔核や痔瘻とともに肛門の三大疾患の一つとされている。女性では30歳未満に最も多くみられるのに対して、男性では40歳代にピークを認めた。発生部位は男女とも肛門の後方と前方に多く、男性では後方に女性では前方に多くみられた。肛門ポリープやskin tagの合併は女性に有意に多かった。最大肛門静止圧は男女とも年齢を問わず高値であった。裂肛は、①単純性裂肛、②脱出性裂肛・随伴性裂肛、③症候性裂肛に分類され、それぞれ急性期と慢性期に分けられる。裂肛は排便による肛門上皮の外傷から始まるが、これを繰り返していくうちに慢性化していく。早期に原因の除去や治療が必要と考える。
【はじめに】
裂肛は、肛門疾患の中で頻度が多く、内痔核や痔瘻とともに肛門の三大疾患の一つとされている。1)裂肛の原因の多くは、排便による肛門上皮の外傷がきっかけで、排便の状態がよければほとんどの場合は自然に治癒していくと思われる。
急性期においては排便のコントロールなどの原因の除去や外用薬による保存的療法をおこなう。しかし、保存的療法でも効果が得られないものや、再発を繰り返すもの、また疼痛が原因で内肛門括約筋の緊張が過度に強くなったり、内肛門括約筋の炎症によって線維化が生じ、肛門管の進展性が失われて器質的な肛門狭窄をきたしたりしたものに対しては外科的処置が行われている。1)このように、日常の診療でさまざまな病態の裂肛に遭遇する。
今回、当院で経験した裂肛について検討し、裂肛の診断や分類に関して述べたいと思う。
【年次別裂肛症例の推移】
1998年から2007年までに手術を施行した内痔核、痔瘻、裂肛は4934例であり、そのうち内痔核は3095例62.7%、痔瘻は881例17.9%、裂肛は958例19.4%で毎年ほぼ同程度の頻度であった。毎年平均して内痔核309.5例、痔瘻88.1例、裂肛95.8例を手術している。(図1)
裂肛の年次別症例の推移をみてみると、1998年から2007年まで外来を受診した裂肛患者の総数は平均361.2人で、ほぼ増減なく推移している。また裂肛に対して手術を施行した人数も年平均95.8人(男性36.8人、女性59.0人)と増減なく推移している。手術症例の男女比は男性361例、女性590例で1:1.6と女性が多かった。(図2)
【年齢別人数】
裂肛に対して手術を施行した症例958例の年齢別人数をみてみると、女性では30歳未満が最も多く、年齢とともに人数が減少していくのに対して、男性では40歳代に人数のピークを認めた。(図3)これは、裂肛症例は10~20歳代では著しく女性に多く、30~50歳代で男性の頻度が女性に近づきはじめ、60~70歳代では男性の方が多くなる傾向を示したとの報告2)と同じ傾向を示した。この傾向の要因として、性別や年代によって食習慣や生活環境などライフスタイルの変化が便秘などの排便異常を生み、これらを背景因子として裂肛が発生するからではないかと考えられている。2)
【裂肛の発生部位】
裂肛に対して手術を施行した症例958例について、裂肛の発生部位を複数同時発生箇所も含めて検討した。裂肛の発生部位の総数は1765箇所、男性620箇所、女性1145箇所であり、そのうち男女とも後方と前方に多く認めた。男性では後方が419箇所67.6%、前方は124箇所20.0%であり、女性では後方が638箇所55.7%、前方は386箇所33.7%であった。(図4)
裂肛の発生部位と男女間の比較をしてみると、後方の発生頻度は男性の方が有意に多かった。前方の発生頻度は逆に女性の方が有意に多く、性別によって発生部位の頻度に差を認めた。(図5、図6)
裂肛の発生頻度が肛門の前方後方多い理由として次のような要因があげられている。
解剖学的要因として、肛門の後方では筋性支持が弱く、また排便の圧は肛門後壁にかかりやすいことが後方に発生しやすい理由としている。2)また女性の場合は、肛門前方の支持が男性よりも弱いため前方にも発生するとしている。2)このことが男女間の裂肛の発生部位に差を認めた要因だと考える。
また、血流の要因として肛門の後方の血流が乏しく、また形態学的にも肛門後正中線上において毛細血管の分布が極めて少ないこと。また、肛門上皮への血管は括約筋を貫いているため括約筋の緊張が高まると血流低下を生じ虚血状態になる。このようにして生じた肛門後方の虚血が裂肛の発生の原因とされている。2)
【肛門ポリープ及びskin tagの合併】
1)肛門ポリープの合併
肛門ポリープの合併の有無を男女間で比較した。男性では肛門ポリープの合併は9.7%であるのに対して、女性では17.7%と有意に女性の肛門ポリープの合併率が多かった。(図7)
2)skin tagの合併
skin tagの合併の有無を男女間で比較すると、男性ではskin tagの合併が33.2%であるのに対して、女性では52.2%と肛門ポリープの合併と同様に、女性のskin tagの合併率が有意に多く認めた。(図8)
女性にskin tagが多い理由として、女性では幼少女児にもskin tagが多い事実から、膣との関連性があってskin tagができやすいのではないかと推察している報告もある。3)
裂肛の発生部位や、肛門ポリープ・skin tagの合併に男女差があるのはやはり、男女間の解剖学的な差が影響しているのではないかと考える。
【裂肛と最大肛門静止圧との関係】
裂肛患者においては最大肛門静止圧が有意に高いことが知られている。最大肛門静止圧は肛門括約筋のうち内肛門括約筋が80%の影響を与えているとされている。4)このことから、裂肛患者における排便後も持続する激しい疼痛は、内肛門括約筋の緊張亢進状態と考えられている。5)また、肛門上皮への血管は括約筋を貫いているため括約筋の緊張が高まると血流低下を生じ虚血状態になる。2)ことから、裂肛患者において内肛門括約筋の緊張の程度を知ることは、病状の把握や治療法の選択に必要だと考える。
当院における裂肛に対して手術を施行した患者の術前の最大肛門静止圧に関して検討した。
1)年齢別術前の最大肛門静止圧
術前に最大肛門静止圧を測定した症例は448例(男性146例、女性302例)であった。
術前の最大肛門静止圧は、男性は平均163.7mmHg、女性は平均123.9mmHgと高値を示した。また、男女とも年齢とともに最大肛門静止圧の低下は認めなかった。また男女間の比較では男性のほうが圧は高かった。(図9)
2)年齢別内痔核と裂肛の術前最大肛門静止圧の比較
手術を施行した内痔核と裂肛に関して術前の最大肛門静止圧を比較した。
術前に最大肛門静止圧を測定した内痔核症例は1601例(男性816例、女性785例)であった。
内痔核の術前の最大肛門静止圧の平均は、男性では1箇所切除(263例)118.7mmHg、2箇所切除(299例)119.5mmHg、3箇所以上切除(254例)109.3mmHg。女性では1箇所切除(284例)92.4mmHg、2箇所切除(271例)92.7mmHg、3箇所切除(230例)95.4mmHgであった。(図10、図11)
内痔核に関しては、年齢とともに男女とも術前の最大肛門静止圧は低下したのに対して、裂肛では男女とも最大肛門静止圧の低下は認められなかった。男女とも30歳以上では裂肛において有意に術前の最大肛門静止圧は高かった。
成人での最大肛門静止圧の測定で、20歳代より50歳代迄緩やかな圧の低下を示し、50歳代から60歳代にかけて急速な低下をし、その後は緩徐な低下を示したとの報告があり、6)内痔核の術前の最大肛門静止圧は同様の傾向を示している。裂肛では最大肛門静止圧がどの年代でも高く、年齢と共に低下することがないことから、排便時の疼痛が内肛門括約筋の緊張を亢進させ、これが繰り返されていくうちに裂肛の状態が増悪していくのではないかと考える。したがって、最大肛門静止圧の高値は、この内肛門括約筋の緊張を示しており、最大肛門静止圧の高値が裂肛の原因となるのか、または裂肛による二次的な変化を表しているのかは今後検討が必要であると考える。
最大肛門静止圧を測定することは、内肛門括約筋の緊張の程度を知ることができ、裂肛の病状の把握や治療法の選択に有用であると考える。
【裂肛の分類】
裂肛の分類にはさまざまな分類がある。裂肛の病期から①急性裂肛、②慢性裂肛があり、肛門の病態としては①単純性裂肛、②症候性裂肛、③脆弱性裂肛があり、症候から①単純性裂肛、②脱出性裂肛、③狭窄性裂肛がある。2)また、裂肛の発生要因で分類しているものもあり、①狭窄型、②脱出型、③混合型(狭窄型と脱出型が合併)、④脆弱型、⑤症候型としている。7)
診断・病態・治療が一体となった分類を提案しているものもあり、
Ⅰ度:きわめて単純な裂創で浅く狭窄のない急性例であり、合併痔疾患がなく保存療法が適応。
Ⅱ度:単純な裂創であるが括約筋が露見し、まだ肥大乳頭や見張り疣がなく保存療法が適応。
Ⅲ度:裂創が慢性化・潰瘍化し、肥大乳頭や見張り疣が軽度増殖し、機能的狭窄を生じ手術適応。
Ⅳ度:裂創が潰瘍化し、肛門ポリープ・見張り疣・肛門皮垂が大きく増殖し、狭窄も強く手術適応。
Ⅴ度:肛門管は完全に狭窄し、脱出もなく指が入らない絶対的手術適応。
としている。2)
さまざまな分類があるが、裂肛が発生する原因で①排便による物理的な外傷で生じる単純性裂肛、②内痔核や肛門ポリープなどの脱出性の肛門病変が原因でおきる脱出性裂肛・随伴性裂肛、③潰瘍性大腸炎やクローン病などの疾患により生じる症候性裂肛に分類し、それぞれの裂肛の状態で急性期と慢性期に分類すると解りやすいのではないかと考える。(図12)
組織学的には、裂肛の初期の段階(急性期)では表皮の脱落、潰瘍底の出血、間質の強い浮腫、好中球を中心とする炎症性細胞浸潤、小静脈の鬱血、血栓形成などの亜急性潰瘍の所見であり、創面は浅く表在性で、縦に走る縦走筋線維が観察される。1)7)慢性期になると、周囲の静脈叢内の鬱血、血栓形成、間質内の円形細胞浸潤、さらに線維性の増殖、皮下組織の肥厚、瘢痕形成の像が著明になり、肛門管の狭窄や見張り疣・肥大乳頭・肛門ポリープが見られるようになる。1)7)(図13)
さて、裂肛に対して手術を施行した症例で、手術を必要とした内痔核及び痔瘻を合併した症例を男女で比較した。
手術を必要とした内痔核を合併した症例は、男性では17.0%、女性では18.3%であり男女間には有意差は認めなかった。(図14)
痔瘻の合併は、やはり痔瘻が男性に多い疾患であることから、男性は13.6%、女性では3.4%と有意に男性で痔瘻の合併が多かった。(図15)ただ、女性において裂肛が原因での痔瘻も認められた。
【おわりに】
裂肛は外来診療で遭遇することが多い疾患である。早期の場合は、排便のコントロールなど原因を取り除くことで早期に治癒していくものと考える。しかしながら、裂肛の症状である排便時の痛みのため、排便への恐怖心などから排便を我慢したり、逆に下剤を過度に服用して下痢をさせてしまったりしている場合がある。このようなことを繰り返していくうちに裂肛の悪循環におちいり、慢性の裂肛へと移行してしまうことがある。(図16)やはり、早期に受診するように啓蒙し、裂肛の悪循環におちいる前に原因を取り除き、治療していく必要があると考える。
文献
1)岩垂純一:裂肛の病態と、その治療:最近の知見を中心に.日本大腸肛門病学会誌 50:1089-1095,1997
2)稲次直樹:裂肛の病態と診断について.日本大腸肛門病学会誌58:825-829,2005
3)松田保秀、川上和彦、浅野道雄、他:裂肛の診断・治療のコツと実際.臨床外科62:1331-1339,2007
4)Flenckner B,von Euler C:Influence of pudendal block on the function of the anal sphincter. Gut 16:482-489,1975
5)石山勇司、樽見 研:肛門疾患診断のポイント-保存的治療から手術療法まで-裂肛.外科治療86:155-160,2002
6)橋本忠明、勝見正治、浦 伸三、他:肛門疾患における肛門管静止圧及び肛門管収縮波について.日本大腸肛門病学会誌34:59-63,1981
7)辻 順行:裂肛外来治療のテクニック-保存療法、用手肛門拡張.臨床外科51:567-569,1996
8)荒川廣太郎:裂肛の成因と病理.日本大腸肛門病学会誌30:391-395,1977
「私は痔ですか?」

よく患者さんから「私は痔ですか?」とか、「いぼ痔ですか?」聞かれることがあります。
この答えは、なかなか難しいものがあります。というのも、「痔」という医学病名がないからです。
医学辞書を引くと「痔核」はありますが、「痔」はありません。
この図にあるように、国語辞書で「痔」と調べると、「肛門の病気。肛門周囲の病気」と書いてあります。皆さんが使っている、「いぼ痔」や「切れ痔」の病名は、「肛門の症状」に「痔(肛門の病気)」をくっつけてこれまで使ってきたのだと思います。
「いぼ痔」は、肛門の症状として、肛門にいぼのようなものがある肛門の病気、痔をくっつけて「いぼ痔」。
「切れ痔」は肛門の症状として切れた、出血したという「切れ」に肛門の病気、痔をくっつけて「切れ痔」
同様に、肛門に穴が開いている+「肛門の病気」で穴痔。痔瘻のことです。肛門が痒い+「肛門の病気」で痒痔。これは肛囲皮膚炎。
こんな具合にこれまで使ってきたのではないかと思います。
ですから、「いぼ痔」では、内痔核や外痔核。また皮垂など、触った感じや見た目にいぼのようなものがある病気をまとめて「いぼ痔」としていると思います。でもそれぞれ全く違った病気です。
特に内痔核と外痔核は全く違う病気です。
内痔核は肛門の出口から約2~3cm奥の網の目状になった静脈の流れが悪くなって静脈瘤となった病気を言います。症状としては、排便時に痛くなく出血したり、違和感があったりします。内痔核が悪化してくると、排便時に内痔核が肛門の外に出てくるようになります。場合によっては、出たままになって押し込めなくなることがあります。ただ、内痔核だけですと痛みはありません。
これに対して外痔核は肛門の外側の静脈が腫れたり、血栓が詰まって痛みが伴う病気です。肛門の外側にできているので、内痔核と違って、肛門の中に押し込むことはできません。
内痔核は痛みなく出血したり出てくる。そして押し込むことができる。外痔核は痛みがあって、血栓が破けない限り出血はしません。そして押し込むことはできません。でも全く違う二つの病気を同じ「いぼ痔」と言ってしまうので、患者さんはわからなくなってしまいます。
例えば、排便時に内痔核が外に出てきて押し込んでいる人に、血栓性外痔核になった人が、「急に肛門にいぼができて、いぼ痔になったみたい。どうしたらいい?」と聞くと、内痔核を持っている人は「出てきたら押し込んだらいいよ。」というでしょう。でも外痔核の人は、押し込むことはできませんし、押し込もうとすると痛みが強く、押し込むことができません。
こういったことが、お医者さんの中でも起きてしまうことがあります。「でてきたら押し込んでください」とお医者さんに言われると、痛くても頑張って押し込もうと患者さんはします。
内痔核と外痔核との見極めは、内痔核はある日突然、肛門の外に出てくるようにはなりません。排便時に出血したり、違和感があったり。また排便時に外に出てきても、最初のうちは押し込まなくても自然に中に戻ってくれます。そしてなにより、内痔核だけだと痛みはありません。内痔核に血栓が詰まったり、裂肛などが合併すると痛みが出てきます。
これに対して外痔核は、血栓が詰まって急に痛みがでて、肛門が腫れてきます。昨日までなんともなかったのに、いきなりできます。また、血栓が破けない限り、出血することはありません。
こんな風に内痔核と外痔核は見極めてもらえればいいと思います。
「切れ痔」については、出血するのが切れ痔だと思っている方がいます。排便時に出血する病気には裂肛と内痔核があります。裂肛は肛門上皮と言って肛門の出口から2~3cm奥まで皮膚の部分があります。この肛門上皮に傷がつく病気を裂肛といいます。便が硬かったり、反対に下痢の時に傷がつくことがあります。肛門上皮に傷が付くので痛みが伴う出血です。
これに対して、内痔核は排便時に痛みなく出血します。
このように、同じ「いぼ痔」といっても内痔核や外痔核という違った病気であったり、出血したから「切れ痔」と思っても裂肛だったり内痔核だったりすることがあります。自分の持つ病気の病名は正しく知ることが大切だなと思います。また医師も「あなたの病気はいぼ痔ですね」ではなく、ちゃんと「あなたの病気は内痔核です。」、「あなたの病気は血栓性外痔核です。」と正しい病名を伝えることが大事です。
「アサリと春キャベツの酒蒸し」のレシピを紹介します。

今回は「アサリと春キャベツの酒蒸し」のレシピを紹介します。
もうすぐ4月になりますね。周りは桜の花が満開に近づき、こころウキウキする季節ですね。
自宅の近くの公園の桜ももうすぐ満開です。
花粉症の方にはちょっとつらい季節かもしれませんが。
今回はアサリと春キャベツを使ったレシピです。
パスタと和えても美味しいんじゃないかと思っています。
ぜひ作ってみてくださいね。
「アサリと春キャベツの酒蒸し」
材料(2人分)1人分 130kcal 食物繊維3.0g アサリ 250g
管理栄養士さんからの一言 ○●アサリの栄養●○ |
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「アスパラのスティック春巻き」のレシピを紹介します。

今回は、「アスパラのスティック春巻き」のレシピを紹介します。
春巻きは私の好きな料理の一つです。パリパリした食感もいいです。
きんぴらごぼうの残りを春巻きの皮で包んで揚げる。中にチーズを入れたり、ソーセージを入れたり。また、あんこを春巻きの皮で包んで揚げる。結構いけますよ。
「アスパラのスティック春巻き」
材料(8本分)食物繊1本当たり 119kcal 食物繊維0.6g 春巻きの皮 4枚 |
作り方 春巻きの皮でいろんなものを巻いて揚げる。
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58歳になって思うこと。

先月の2月19日に58歳になりました。京都に帰ってからもう24年。あっという間です。私はまだまだ若いと思っているのですが、娘に「もうすぐ還暦だね。」と。年の経つのは早いものです。
58歳になっての思いをお話しします。
京都は、これから桜の咲く春に向けて知事選挙です。
いろんな意味で、今回の京都府知事選挙は重要な選挙だと思います。
そんな中、ふと思い出した父の文章があります。
今回はそのことについて紹介します。
父の書いた「痔のおはなし」の終わりに父の本質である詩を紹介しています。
ゲーテの「エグモント」の中で、クレーヘンが愛するエグモントを思って切なく歌う詩です。
よろこびと
かなしみと
あふるる思い
たちがたきせつなさに
なやみはさらず
天高くよろこびの声をあげ
死ぬばかり悲しむを
さちあるはただ
恋するこころ (栗原 佑 訳)
父はここで「常に広い世界の人民の苦しみ、なげき、あこがれ、たたかいを忘れずに、我々もまた人民の一人であることを自覚し、人民を恋するこころ。その幸せを身にしみて味わえるようになりたい。そのために、今やらなければならないことを迷うことなく進まなければならない。」と言いたかったのではと思います。
以前母が昔父が書いていた日記をみつけ、見せてくれました。1965年12月から書き綴った日記でした。父が37歳、私が5歳のころの日記でした。
最初の1ページ目には、「教授にすすめられ、気持ちを整理する意味で12月13日で、日記なるものをつけはじめようと思う。」と書かれていました。
内容の多くは当時、父が甲府市立病院に勤めていたときの手術予定のメモや、病院の内容が多く書かれていました。
そんななかに、私に関して書かれた部分がありました。一つは、
「文化の日。賢治、ピアノ。2回半最後を繰り返し大笑い。それでもほめてやろう。ただし、発表する場合には間違うことは聴いている人に失礼にあたることもいずれは云わねばなるまい。
賢にピアノを習わすこと。画家は目、音楽家は耳、香水、酒づくり、料理家は鼻、舌、その他触覚もあるが、それぞれ人より広い世界にすむことが出来る。そんな意味で、本来の仕事を見つけたら、それの助けとなるようなら許す。そうさせるようにしたい。
三高で極めてすぐれた勉強家がいた。これもピアノを弾けたことを思い出した。あんな形になってくれればよいが。」
もう一つは、
「賢は一応勉強はがんばっているようだ。問題は将来、正義漢になってほしい。何が正しい、何が誤りか。その判断をする基準をなににもとめるか。これを正しく身に付けてほしい。正しく生きぬくことの難しさを感じながら、自分自身をきたえ、深めていく人間になってほしい。そのことが身についた学問を生きた学問にすることであるのだから。しっかりやれ。賢!!」
37歳だった父が、5歳の私に残した言葉。
半世紀以上を生き、58歳になった私が、今子供たちに同じような言葉を残せるか。
今まで学んできたこと、経験してきたことが今生きた学問になっているのか?
今、本当にやらなければならないことをしっかり見つめ、それに進んでいるのか?
もう一度、父の日記や父の書いた文章を読み返し、できることを自分なりにしっかりやっていきたい。
皮垂を切除した405例の検討(臨床肛門病学、第7巻1号、2015)

今回は臨床肛門病学、第7巻1号、2015年に投稿した「皮垂を切除した405例の検討」の論文を紹介します。
皮垂はskin tag、スキンタグとも呼ばれています。肛門にできるしわのことですが、その原因には内痔核や裂肛、血栓性外痔核が原因となることが多いです。
最近、皮垂が気になり切除を希望される患者さんが多いです。「皮垂が気になる。」、「違和感がある。」、「排便後、拭きにくい。」などの症状を訴えられる患者さんが多いです。また、内痔核が飛び出たままになっているのではないかと心配されたり、何か悪性のものができたのではないかと心配される方もいます。
皮垂そのものは悪いものではなく、痛みや出血などの症状はありません。必ず切除しなければならないものではありません。でも、いつもいつも気になっているのもあまりよくないと思います。
渡邉医院では、皮垂が気になる方は切除をしています。切除にあたって注意している点は、皮垂の原因となる内痔核や裂肛などの病気の治療ができていること。そして皮垂を切除する際は、なるべく大きく皮垂を切除することなどです。皮垂の切除は外来での手術になり、入院はしてもらっていません。
今回紹介する論文は、男女差、年齢別による差、また原因疾患別の差、また、皮垂の発生部位などを検討しています。
まずは要旨を紹介します。
要旨
当院で経験した皮垂切除例について検討した。皮垂切除は、患者が切除を希望した場合に切除した。【対象】H7年7月~H27年1月までに皮垂を切除した405例(男性46例、平均年齢57.5歳、女性359例、平均年齢45.2歳。)
【結果】①女性に皮垂切除例が多かった。②原因(内痔核、裂肛)では、女性の若年層では裂肛が、年齢とともに内痔核が原因の皮垂が多かった。③男性では、内痔核が原因での皮垂が多かった。④年齢では、男性と比較して女性では50歳以下群に多かった。⑤皮垂の発生部位は内痔核、裂肛の好発部位に多く、右側にはほとんど認めなかった。
【まとめ】皮垂は、それ自体は病的意義が少ないとされているが、皮垂があることで皮膚炎の原因になったり、また違和感など、患者にとっては不快なものとなることもある。患者の希望がある場合は、皮垂の成因を十分に考慮して切除するとともに、切除にあたっては、原疾患が十分に治療されている必要があると考える。
論文を紹介します。
はじめに
肛門の皮垂は日常の外来診療でよく遭遇する。患者の主訴としては出血や痛みなどは認めないが、肛門部の違和感や不快感などがある。また、内痔核の脱出と勘違いし、押し込もうとする患者もいる。皮垂が原因で排便後に過度に拭きすぎ肛門周囲の皮膚炎を起こすこともある。しかし、病的な意義が少ないと判断され、特に治療せずそのままになっていることも多い。ただ患者にとっては皮垂があることが気になり、皮垂の切除を希望する患者も少なくない。今回、当院で経験した皮垂切除例405例に関して検討した。
対象
対象はH7年7月からH27年1月までに皮垂を切除した405例、男性46例(11.4%)平均年齢57.5歳、女性359例(88.6%)平均年齢45.2歳とした。
検討項目
対象症例について、①皮垂の原因、②皮垂の発生部、③性差、④皮垂の原因別の性差、⑤年齢差の5項目について検討した。
皮垂の治療方針
当院での皮垂の治療方針は、患者にとって皮垂が気になり、その切除を希望した場合に切除術を行っている。
皮垂切除は1%塩酸プロカインによる局所麻酔下に左側臥位で切除を行っている。術後は1時間安静後に出血の有無等を確認して帰宅させている。
皮垂の切除の際には、①切除する場合は、比較的大きく切除する。②裂肛が原因での皮垂では前後に皮垂ができることが多く、切除創が真正面や真後ろにできないように左右にずらして切除する。③内痔核が原因での皮垂の場合は、肛門管内まで少し創がかかるように切除する。以上3点について心がけている。
結果
1)性差
性差では男性が46例(11.4%)、女性が359例(88.6%)と女性で皮垂切除例が多かった。また平均年齢では男性57.5歳、女性45.2歳と女性が若い傾向にあった。(図1)
2)皮垂の原因
皮垂の原因としては内痔核、裂肛が多く、肛門手術後の皮垂も認めた。内痔核及び裂肛が原因での皮垂を男女間で比較すると、女性では内痔核が162例(45.1%)、裂肛が177例(49.3%)と女性では、原因の差は認めなかった。
男性では、内痔核が31例(67.4%)、裂肛が13例(28.3%)と男性では内痔核が原因での皮垂が多い傾向にあった。(図2)
3)皮垂の年齢別男女の切除症例数
女性では50歳以下で皮垂切除症例数が男性と比べて多かった。(図3)
4)皮垂の原因別切除症例数
女性では裂肛が原因での皮垂を切除した症例は30歳以下群にピークがあり、内痔核が原因の皮垂切除は40歳以下群から年齢とともに微増した。(図4)
男性では裂肛が原因での皮垂切除例は少なく、内痔核が原因での皮垂切除例は70歳以下群にピークを認めた。(図5)
内痔核が原因での皮垂切除例を男女間で比較すると、女性の場合は40歳以下群に一つのピークがあるが、その後は年齢とともに増加する傾向があった。男性の場合は70歳以下群にピークを認めた。(図4、5)
裂肛が原因での皮垂切除例を男女間で比較すると、女性では30歳以下群にピークがあり、年齢とともに減少した。男性では裂肛が原因での皮垂がそもそも少ないが、年齢には差は認めなかった。(図4、5)
5)皮垂の発生部位
皮垂の発生部位を大きく前後左右に分けると、前方199例、後方138例、左84例、右2例であり、右側にはほとんど皮垂は認めなかった。(図6)
考察
皮垂は日常の外来診療でよく遭遇する。しかしながら、病的な意義があまりないとされそのままにされている場合もある。患者にとっても、皮垂が気になる場合もあれば、全く気にならない患者も多い。患者の訴えとしては、「肛門に何かできていて気になる。」、「違和感がある。」、「異物感がある。」など皮垂そのものの存在が症状となる場合や、排便後きれいに拭けないと何度もこすり刺激を与えることで、皮膚炎を合併したり、このことが原因で肛門のべとつき感を訴えたり、皮垂による二次的な症状を訴える場合もある。
皮垂の定義及び原因は、血栓性外痔核や嵌頓痔核が保存的治療によって治癒した後や、痔核手術後の治癒過程で発生した線維組織の増殖であったり、あるいは繰り返しおこる肛門皮膚の炎症などで肛門縁の皮膚に結合織の増殖をともなう繊維性のシワとしている。1)、2)、3)分類ではGoligherは皮垂を特発性と二次性とにわけ、特発性は明らかな原因のないものであり、二次性は出産、内外痔核・裂肛・などに関連しておこるものとしている。4)1)また、病理学的特徴では、肉眼所見では、外痔核領域にみられる肛門皮膚の線維性肥厚であり、組織所見では肛門皮膚の上皮の肥厚および上皮下の間質にみられる強い線維化を特徴とする。さらに、炎症細胞浸潤はなく、Fibro-epithelial polypの形をとるとしている。1)
さて、今回の皮垂はGoligherの分類での二次性の皮垂であり、特に内痔核と裂肛が原因での皮垂について検討した。
性差では女性が88.6%と圧倒的に多く認められた。このことは、男性と比較して美容的な意味合いが強いのではないかと考えられる。このことは、皮垂切除の年齢別症例数をみても、女性では30歳以下群と40歳以下群に切除症例が多い点から、女性の若年者が美容的にきになる傾向があるのではないかと思われる。
原因別でみてみると、女性では内痔核が原因45.1%、裂肛が原因49.3%と差は認めなかったのに対して、男性では内痔核が原因67.4%、裂肛が原因28.3%と内痔核が原因での皮垂が多い傾向にあった。
女性全体では原因に差は認めなかったが、年齢別で比較してみると内痔核が原因の皮垂では40歳以下群に一つのピークがあるものの、年齢とともに皮垂切除例が増加していくのに対して、裂肛が原因での皮垂では逆に30歳以下群にピークがあり、その後年齢とともに減少していく傾向にあった。
このことは、裂肛が若年者に多い傾向があるのと一致していると考える。
また内痔核が原因での皮垂に関して、40歳以下群に一つのピークがあるのは、出産後に生じた内痔核による皮垂に対して、ある程度子育てが落ち着き皮垂の切除に踏み切るといった社会的な要素もあるのではないかと思われる。このような社会的要素は男性の内痔核が原因での皮垂切除でもあると思われる。男性の皮垂切除症例の年齢が50歳以下群から増え、70歳以下群にピークを認めるのも、仕事からリタイヤして手術の時間がとれるなどの理由もあると考えられる。
皮垂の発生部位の検討だが、前方が199例と最も多く、次いで後方が138例であった。
これは裂肛の好発部位であることが要因であると考える。また左側が84例であり、これに対して右側は2例であることも、やはり内痔核の好発部位に皮垂が発生しやすいことを現しているのではないかと考える。これらのことは、皮垂は原発性のものより、内痔核や外痔核、そして裂肛などによる二次的な変化として発生することが多いと考えられる。
皮垂は、それ自体は病的意義が少ないとされている。しかし、皮垂があることで皮膚炎の原因になったり、また違和感など、患者にとっては不快なものとなることもある。
当院での切除するにいたった症例は、全てが患者からの切除希望によるものである。患者の希望がある場合は積極的に皮垂を切除している。
ただ、切除する場合、裂肛による皮垂の場合は、前後に発生していることが多く、皮垂の切除創を真正面や真後ろにつくった場合、切除後に治癒の遷延を起こすことがある。
また、皮垂の原因である裂肛の治療が十分に行われていない場合、皮垂を切除した後に裂肛が悪化した症例も経験する。
一方、内痔核が原因での皮垂の切除の場合、ある程度肛門管内まで切除しないと、術後の浮腫が起き、再度皮垂を発生させる原因にもなってしまうことがある。
皮垂のみを切除する場合は、前提として、裂肛や内痔核などの原因疾患が十分に治療されていることが重要である。また、切除する範囲や切除後の創のデザインを十分に検討して慎重に切除する必要があると考える。
引用文献
1)高木 由利,荘司 輝昭:スキンタッグの治療“肛門美容形成”について,日本大腸肛門病学会誌61:147-150,2008.
2)武藤 徹一郎:C.痔核, 武藤 徹一郎編 大腸肛門疾患の診療指針 p41-p47,中外医学社,1986.
3)Richard T Shackelford:C43 Hemorrhoids, Robert Turell Diseases of the Colon and Anorectum, 2nd ed. VⅡ,p895-p940, W.B. Saunders Company, Philadelphia, London, Toronto, 1969.
4)Goliger JC, Duthie HL, Nixon HH: External Piles. Surgery of the anus, rectum and colon. 2nd ed. London. Bailliere Tindall & Cassell, 1975, p165-166