痔核根治術後の疼痛についてー特に術前最大静止圧による術後疼痛の比較検討ー日本大腸肛門病学会雑誌 第53巻 第4号 2000)
今回は痔核根治術後の痛みに関して、日本大腸肛門病学会雑誌に投稿し掲載された論文を紹介します。
以前、このことに関しての学会発表の内容を紹介しましたが、今回はそれを論文にしたものを紹介します。
以前から、肛門の診察の際の指診で肛門のしまりが強い患者さんほど術後の痛みが強いのではないかという、手術をする際の経験的な感触がありました。このことを科学的に証明しようと、肛門のしまり、内肛門括約筋のしまりを反映する最大肛門静止圧を測定して。その値と術後の痛みにつて比較して検討した論文です。結果は、やはり最大肛門静止圧が高い患者さん、つまり肛門のしまりが強い患者さんほど痛みが強いという結果です。肛門のしまりが強い患者さんは、肛門の緊張をとってあげる処置を加えることで、術後の痛みが楽になるという内容です。2000年の論文で少し古い論文ですが、今の手術の後の痛みをとる基本となる内容を書いた論文です。参考になればと思います。
痔核根治術後の疼痛についてー特に術前最大肛門静止圧による術後疼痛の比較検討ー
日本大腸肛門病学会雑誌 第53巻第4号 241-243 2000
抄録
痔核根治術後の疼痛について、術前最大肛門静止圧との関係を検討した。[対象]平成10年9月から平成11年3月までに痔核根治術を施行した146例を対象とした。[方法]術後3時間後の疼痛の程度を「痛くない」、「少し痛い」、「痛い」、「とても痛い」に分類し、疼痛の程度と最大肛門静止圧との関係を比較検討した。[結果]①術前の最大肛門静止圧について、「痛くない」群(88.5±36.5mmHg)と「痛い」群(118.9±38.0mmHg)との間で有意差を認めた(p=0.016)。②術前最大肛門静止圧が100mmHg未満の群と以上の群との間で、術後3時間後の疼痛に有意差を認めた(p=0.012)。以上より術前最大肛門静止圧が高い症例では、術後疼痛の出現する可能性が高く、内圧を下げる工夫で、さらに術後の疼痛を緩和できると考える。
論文
はじめに
内痔核に対する痔核根治術術後の疼痛は、手術を受ける患者にとって一番の不安であったり、また手術に迷う最も大きな原因である。当院のアンケートでも手術にふみきれない一番の原因は「術後の疼痛が心配」(70.5%)であった。最近、手術術式の進歩や、術後の処置などでその痛みは緩和されてきているが、避けては通れない問題である。同じ術式を同一術者で施行しても患者個々で、疼痛の程度は一定していない。肛門内圧(静止圧)が正常より高い症例のなかに術後強度疼痛の発生頻度が有意に高かった1)との報告があるが、術前から術後の疼痛について簡単に、しかも客観的に予想できる方法があるかどうかについて注目し、術前の最大肛門静止圧と術後の疼痛との関係を詳細に検討した。
対象および方法
対象は、平成10年9月から平成11年3月までに術前に最大肛門静止圧を測定し、痔核根治術を施行した146例(男性76例、女性70例、平均年令48.3才)である。方法は、術前に最大肛門静止圧を測定、術後3時間後に疼痛の有無を「痛くない」、「少し痛い」、「痛む」、「とても痛い」の4段階に分類し、疼痛の程度と最大肛門静止圧との関係を比較検討した。当院では全例1%プロカインによる局所麻酔下に手術を施行しており、麻酔の影響がなくなった時点で比較する必要があること。また、術直後と術後3時間後に疼痛の有無にかかわらず「先取り鎮痛」及び術後の疼痛緩和の目的で全例インドメタシン座薬50mgを挿入している。また鎮痛剤の内服は術後3時間後以降に、疼痛の有無によって内服をしてもいらっている。したがって、比較する際に条件を同じにする意味で、術後3時間後の疼痛を比較検討した。
痔核根治術施行部位数と術後の疼痛との関係についても検討した。肛門内圧検査にはコニスバーグ社のカテーテル型圧力トランスデューサー(Model No.P31)を用い、被験者を左側臥位にして肛門縁よりトランスデユーサーを挿入し、引き抜きで内圧を測定した。手術は同一術者がおこない、術式は半閉鎖術式で行った。
結果
術後3時間後の疼痛の程度はそれぞれ、「痛くない」が85例(58.2%)、「少し痛い」40例(27.4%)、「痛む」20例(13.7%)、「とても痛い」1例(0.7%)であった。
1)痔核根治術施行部位数と術後3時間後の疼痛
痔核根治術施行部位数と術後疼痛の関係は、「痛くない」、「少し痛い」、「痛む」、「とても痛い」の順に1箇所ではそれぞれ31例、14例、3例、0例。2箇所では、35例、17例、10例、1例。3箇所では、19例、9例、7例、0例であり、それぞれの群の間にはχ検定で有意差は認められなかった。
2)術前最大肛門静止圧と術後3時間後の疼痛
疼痛の程度と術前最大肛門静止圧との関係は、「痛くない」と答えた患者の術前最大静止圧のは88.5±36.5mmHgで、「少し痛い」100.9±38.0mmHg、「痛む」118.9±38.0mmHg、「とても痛い」160mmHgであった。統計学的検討(t検定)では、「痛くない」と「少し痛い」および、「少し痛い」と「痛む」との間には有意差を認めなかったが、「痛くない」と「痛む」との間には有意差を認めた(p=0.016)。
また、最大肛門静止圧が100mmHg未満(85例)と100mmHg以上(61例)とで比較すると、100mmHg未満では、「痛くない」57例(67.1%)、「少し痛い」22例(25.9%)、「痛む」6例(7.0%)、「とても痛い」0例(0%)に対し、100mmHg以上では、「痛くない」28例(45.9%)、「少し痛い」18例(29.5%)、「痛む」14例(23.0%)、「とても痛い」1例(1.6%)で、100mmHg未満の群のほうが100mmHg以上の群より有意に術後の疼痛が軽度であった。(χ検定、p=0.0126)
考察
痔核根治術後の疼痛は、手術術式の進歩や術後の創処置、管理の発達などで緩和されてきている。しかしながら、この術後の疼痛対策は痔核根治術を施行する上でさけてはとおれない問題である。同じ術者が同じように手術を施行しても、術後の疼痛は患者個々でまちまちである。また手術を施行するうえで、患者が一番心配しているのもこの術後の疼痛である。実際当院で、「手術をするにあたってなにが一番迷った原因でしたか?」のアンケートをとったが、回答のうち70.1%はやはり術後の疼痛であった。このことからも術前から、術後の疼痛の程度を客観的に把握できる指標が存在するか否かについては注目すべきである。術前の肛門最大静止圧が正常より高い症例に、術後強度疼痛を認めることが多いと報告しているものもあり1)、今回術前の肛門最大静止圧と術後疼痛、特に術後3時間後の疼痛について比較検討した。また、痔核根治術施行部位数と術後の疼痛との間に最大肛門静止圧以外に関連があるかについても検討した。
まず、術後3時間後の疼痛と、痔核根治術施行部位との関係をみると、1箇所、2箇所、3箇所のいずれも痛みの程度の分布は同じで、それぞれの群の間に有意差は認めなかった。当初術手術施行部位が少ないほど術後の痛みが軽度であると考えていたが、術後3時間後の痛みは、施行部位数とは関係がないことが判明した。ただ排便時の痛みに関しては、手術施行部位数が少ないほうが軽度である印象はあり、今後の検討が必要である。
術後3時間後の疼痛の程度と術前最大肛門静止圧との関係をみてみると、「痛くない」と答えた患者の術前最大肛門静止圧は88.5±36.5mmHgであるのに対して、「痛む」と答えた患者の術前最大肛門静止圧は118.9±38.0mmHgで、それぞれの群の間では有意差を認めた。したがって、肛門の緊張も術後の疼痛に影響を及ぼす一つの要因と考えられる。
次に術前の最大肛門静止圧が100mmHg未満の群と100以上の群との間で術後3時間後の疼痛について比較した。これは術前に術後の疼痛の程度を予測するために比較した。内圧を100mmHgで分けたのは、最大肛門静止圧の正常値は各施設によって多少異なるが、正常値の上限が100mmHg以下が多いので、2),3),4)これをもとに2群に分けて比較した。結果は、100mmHg未満では、「痛くない」と答えた症例が多かった。このことから術前の最大肛門静止圧が100mmHgより高い症例では術後の痛みが出現する可能性が高いことが示唆される。
以上より、術後3時間後の疼痛は痔核根治術を施行した部位の数ではなく、最大肛門静止圧が深くかかわっていることが考えられた。肛門内圧の高低ですべて痛みの程度が解るわけではないが、術前に最大肛門静止圧を測定することで、ある程度術後の疼痛を予測することができることは明らかである。術前の最大肛門静止圧が、正常より高い症例(100mmHg以上)では、術後の疼痛の出現する可能性が高いので、内圧の高い症例に対してどう対処していくかが今後の問題となる。このような症例に対して、消炎鎮痛剤などによる「先取り鎮痛」を考慮したり、術前のストレッチングを十分に行い、術後の過度の括約筋の緊張を予防する必要があると考える。また最近、裂肛に対してニトログリセリン軟膏を使用することで、内肛門括約筋の緊張をとり、内圧を下げることで治療する方法や5)、ボツリヌス毒素を肛門部に局注することで、これもまた内肛門括約筋の緊張をとり裂肛を治療する方法が行われてきている。6)これらはいずれも内肛門括約筋の緊張をとる作用があり、術前の最大肛門静止圧を下げる効果がある。今回の我々の結果を考慮すると、最大肛門静止圧が術前に高い症例では、これらの方法を用いることが有効と考えられる。
文献
1)辻 順行,高野正博,黒水丈次:痔核術後の疼痛の解析と対策.日本大腸肛門病会 誌 52:519ー523,1999
2)河 一京:直腸肛門内圧同調 Videodefecography による排便障害の検討ー Rectoceleを中心に.日本大腸肛門病会誌 48:289ー300,1995
3)Jen-Kou Lin:Anal Manometric Studies in Hemorrhoids and Anal Fissures.Dis Colon Rectum 32 :839-842,1989
4)M.Pescatori,G.Maria,G.Anastasio,et al:Anal Manometry Improves the Outocome of Surgery For Fistula-in-Ano.Dis Colon Rectum 32:588-592,1989
5)岩垂純一:裂肛の病態と、その治療:最近の知見を中心に.日本大腸肛門病会誌 50:1089ー1095,1997
6)D.Gui,E.Cassetta,G.Anastasio,et al:Botulinum toxin for chronic anal fissure.THE LANCET 344:1127-1128,1994
索引用語:内痔核、術後疼痛、最大肛門静止圧
「いちご大福」のレシピを紹介します。
今回はかんたん和菓子レシピということで、「いちご大福」のレシピを紹介します。
たまに、大福餅が食べたくなることがありますよね。初めていちご大福を知った時は、「大福の中にいちご!」とびっくりしました。良く考え付いたなと思いました。最近ではいろんな果物の大福が出ていると思います。私は結構あんこが好きで、あんこが入ったお菓子や、これからの暑い季節、かき氷は白玉小豆がいいなと思います。また最近はコンビニで小さなあんドーナツを買ったりしてしまいます。
話は脱線しますが、アンパンは粒あん派ですか?こしあん派ですか?私は粒あんが好きです。
さて今回は「いちご大福」のレシピを紹介します。
「いちご大福」
材料(12個分)1本当たり 100kcal 食物繊維1.3g ★上新粉 40g |
作り方 |
管理栄養士さんからの一言
2種類の粉を使うことで次の日でもかたくならないお餅です。
いちごのほかに、キウイやバナナや栗などいろいろなものが合います。
粒あんには食物繊維が多く含まれています。
6月のレシピを使っての献立を紹介します。
6月は、紹介したレシピを使って、一食の献立を紹介したいと思います。今までは、一つ一つのレシピでしたが、これからはそれらを使って移植の献立を提案できればいいなと思います。
6月は「鯵の焼き南蛮」、「ヤーコンのきんぴら」、「にらの黄味和え」それに加えて「サニーレタスの煮びたし」、「みょうがご飯」、「オクラとのりの澄まし汁」を加えた献立です。
6月の献立 1人分 600kcal 食物繊維7.0g
鯵の焼き南蛮 |
「サニーレタスの煮びたし」
材料(2人分)1人分 50kcal 食物繊維1.1g
サニーレタス 1株
管理栄養士さんからの一言
|
「にらの黄味和え」と「にらチジミ」のにらを使ってのレシピを紹介します。
今回はにらを使っての二種類のレシピを紹介します。一つは「にらの黄味和え」ともう一つは「にらチジミ」です。
「にら」と聞くと直ぐに頭に浮かぶのは「レバニラ炒め」です。そしてにらはなんとなく元気が出そうなイメージがあります。私の家では、にらと溶いた卵のお味噌汁を作ったりします。これも結構いけますよ。
ではまずは「にらの黄味和え」のレシピです。
「にらの黄味和え」
材料(2人分)1人当たり 40kcal 食物繊維0.5g 作り方 |
次は、「にらチジミ」のレシピです。
「にらチジミ」
材料(2人分) 作り方 管理栄養士さんから一言 にらは食物繊維も多い緑黄色野菜です。 |
「ヤーコンのきんぴら」のレシピを紹介します。
今回は、「ヤーコンのきんぴら」を紹介します。
ヤーコンってみなさん知ってました?私は知りませんでした。今回のレシピで初めて知った食材です。
ヤーコンをチョットネットで調べてみました。ヤーコンはキク科スマランサス属の多年草だそうです。根にフラクトオリゴ糖が多く、ナシのような食感と甘みがあって食用にされると書いてありました。見た目は長芋のような感じです。
ヤーコンの煮物や天ぷら、また、サラダなどにも使えるようです。
今回のレシピはヤーコンを使ってのきんぴらです。
「ヤーコンのきんぴら」
材料(2~3人分)1人当たり 50kcal 食物繊維1.0g
管理栄養士さんからの一言 |
「鯵の焼き南蛮」のレシピを紹介します。
6月はいくつかのレシピを紹介します。これまでは一つ一つ単独のレシピでしたが、6月はそれぞれのレシピを組み合わせて一食の献立として紹介もしようと思います。まずは、献立のメインとなる「鯵の焼き南蛮」のレシピを紹介します。5月に「アジの南蛮漬け」のレシピを紹介したばかりですが、焼き南蛮と南蛮漬け。チョット違うのでこちらも試してみて下さい。
「鯵の焼き南蛮」
材料(2人分)1人分 150kcal 食物繊維2.0g 鯵(中) 2尾 |
作り方 ① 玉ねぎ、パプリカ、ピーマンはうす切りにする。 🌼漬け込み時間🌼 管理栄養士さんからの一言
|
肛門の診察Part4 肛門鏡での診察
今回は、肛門鏡での診察についてお話したいと思います。
肛門鏡と言ってもいろんなタイプの肛門鏡があります。大きく二つに分けることができます。一つは、ストランゲ型、または二枚貝型とも言いますが。肛門を閉じたり広げたりして肛門を観察する肛門鏡と、もう一つは、筒形の肛門鏡といって、閉じたり広げたりせずに、肛門を観察する肛門鏡です。渡邉医院ではこのいずれの肛門鏡も使って肛門を観察しています。
肛門鏡によって、肛門の中の見え方が違ってきます。肛門の病気によって、また、何をしたいかでも肛門鏡を使い分けています。
例えばストランゲ型肛門鏡は、肛門鏡を肛門内に挿入して広げることによって肛門の中を観察します。したがって、肛門全体は観察できませんが、ある一方向に関して、直腸粘膜から歯状線、そして肛門上皮、肛門縁と縦方向でどのようになっているかを観察することができます。例えば、裂肛の場合、裂肛だけなのか、裂肛が原因での肛門ポリープの有無、皮垂の有無など、縦方向で裂肛全体を観察することができます。また痔瘻の場合は、原発口の確認ができます。内痔核の場合は、粘膜部分の腫脹が強いのか、また肛門上皮の部分の外痔核部分の腫脹はどうかなど、内痔核の場合も縦方向の内痔核の状態を観察できます。しかし、内痔核が大きい場合や、外痔核部分の腫脹が大きい場合は、ストランゲ型肛門鏡を広げた際にそこに入り込んでしまって、全体像が見えなくなってしまうことがあります。また内痔核が大きいと、同様に内痔核全体を観察することができないこともあります。こういった場合は筒形の肛門鏡で観察します。
このように、ストランゲ型肛門鏡は、肛門の縦方向の状態を観察するのに有効です。でも内痔核が大きかったり、肛門上皮の外痔核部分の腫脹が強い場合は十分に観察できないことがあります。
さて次に筒形の肛門鏡ですが、肛門の縦方向の観察するというよりは、肛門全周を横方向にみるのに有効です。でも、筒形の肛門鏡でも肛門鏡の先を手首を使って上下左右に動かすことで見たい方向の肛門を観察することができます。例えば内痔核の場合は筒形の肛門鏡をまっすぐに挿入すると、内痔核のできやすい右前、右後ろ、左の三か所の内痔核をすべて観察できます。また手首を効かせて肛門鏡の先を動かすことで、それぞれの内痔核を一か所づつ観察することも可能です。また外痔核部分の腫脹が強くても筒形ではその腫脹を押さえて、内痔核部分をしっかり観察することもできます。ただ、筒形の肛門鏡の見える範囲は肛門鏡の口径によって決まります。口径の小さい肛門鏡ですと、やはり観察できる範囲が限定されます。できれば太い筒形肛門鏡を痛みが出ないようにゆっくり挿入して観察することが大事だと思います。
筒形の肛門鏡での診察のコツですが、まずはゆっくり肛門鏡を挿入して、奥の方からゆっくり肛門鏡を抜きながら、内痔核の状態や肛門上皮の状態を観察していきます。ただ、内痔核の観察は、肛門鏡を挿入するだけでは十分に内痔核の状態を観察することはできません。挿入した後、ゆっくりと抜いていく際にしっかり観察することが大事です。また、ただ挿入して抜いてくるだけでなく、肛門鏡を抜いて観察する際に、便をする時のように、お腹に力を入れて、怒責しながら肛門鏡を抜きながら観察すると、内痔核の腫れ具合や、内痔核が脱出してくる内痔核か、そうでない内痔核かを診断することができます。
このように肛門鏡での観察は、1回だけではなく、もう一度挿入して患者さんに怒責してもらいながら抜きながら観察するなど、何回か観察していくことが大事だと思います。
もう一つ肛門の診察で大事なことは、患者さんに便をする時のように尾の加に力を入れて、怒責してもらったあとの肛門の状態を診ることが大事です。渡邉医院では、初診の患者さんには、肛門の状態をしっかり診るために、問診、視診、触診の後に、約40ml程度の微温湯を浣腸して、トイレで入れた微温湯を力んで出してもらってから、もう一度診察します。このことで、怒責する前と後での肛門の状態をしっかり診ることができます。浣腸前は脱出していなかった内痔核が、浣腸後に診ると脱出していたり、怒責することで、外痔核部分の腫脹を確認できたりします。このようにさまざまな方法で肛門を観察することで、患者さんの持つ、肛門の病気の診断や病気の程度を十分に把握でき、次の治療へと進んでいくことができます。
肛門の診察Part3 視診・触診
さて、今回は指診、触診についてお話します。
指で触って診察する。直接患者さんの身体を触っての診察になります。いきなり指を肛門に入れると、患者さんは、びっくりされますし、痛みを伴うことがあります。
潤滑油となる軟膏をつけながら、そして肛門の緊張をとりながらゆっくりと指を肛門に挿入していくことが大事です。
ただ肛門の診察をする際に、いきなり肛門に指を入れるわけではありません。肛門の周囲の状態はどうか、硬い部分や触ると痛い部分がないか。そういったことをまず確認します。
肛門周囲膿瘍の場合ですが、肛門の表面に発赤や腫脹があると、視診でも診断できます。でも、膿瘍が肛門の奥の方の深い部分に広がっていく場合は、患者さんは肛門の痛みを訴えられますが、表面的には発赤や腫脹なの何の変化が無いことがあります。このような場合、肛門の周囲を押さえるように診察していくと、硬く触れる部分があったり、押さえることで患者さんが痛みを訴えられることがあります。また、ゆっくり指を肛門に挿入していくと、表面的にはわからなかった膿瘍を触ることができます。その時は膿瘍を硬く触れたり、硬いがブヨブヨした腫脹として触ることができ、その部分を押さえると患者さんは痛みを感じます。こういったことで、肛門周囲膿瘍の広がりを判断することができます。
痔瘻の場合でも、肛門の周囲を注意深く触ると、瘻管の走行がわかります。膿のでる部分を痔瘻の二次口と言いますが、二次口から肛門の中に続く瘻管を触ることができます。まっすぐな瘻管なのか、曲がっているのかなどを確認することができます。
さらに、肛門の周囲を触ることで、括約筋の硬さや厚さなどもある程度わかります。慢性の便秘で、いつも頑張っている患者さんの場合は、この括約筋が厚く硬い印象があります。
このように、肛門の周囲を触診するだけでもいろいろなことがわかります。
さて、表面の触診が終わったら、今度はゆっくり指を肛門に挿入していきます。勢いよくぐっと挿入すると痛みを伴います。ゆっくりと患者さんの痛みが出ないように挿入していきます。ただ、裂肛の場合は、排便時の痛みが原因で、肛門の内肛門括約筋の緊張が強くなっています。裂肛の場合は痛みをどうしても伴います。ただ、肛門に指を挿入することで、ある程度、内肛門括約筋の緊張がとれるので、痛みがありますが、ゆっくりゆっくり指を挿入することで、裂肛による痛みを緩和することができます。言ってみれば柔軟体操のような感じです。このように裂肛の患者さんは、内肛門括約筋の緊張が強いため、肛門のしまりが強く感じます。またある程度慢性の裂肛になると、裂肛を硬く指で感じることもできます。
痔瘻の場合は、痔瘻の原因となる原発口を、硬さや、へこみで指で感じることができます。
ところで、肛門の病気で一番多い内痔核ですが、初期の内痔核はなかなか触診だけではわからないことが多いです。第Ⅱ度、第Ⅲ度の内痔核になりますと、内痔核を指で隆起した塊として感じることができることがあります。ただ内痔核は触診だけでは十分に診察することができません。肛門鏡での観察や、怒責診といって、排便するときのように、グッと頑張ってもらった後の肛門の状態などを見ていく必要があります。
後は、私の指では、肛門の出口から約10cm奥までとどくようで、届く範囲に、直腸癌やポリープがないかなどもわかります。直腸癌の約70%大抵が私の指が届く範囲の直腸にできます。また指を肛門から抜いた時に、指に血が付着していないか?付着していたらどんな性状の血がついているかなども診断の助けになります。
また、直腸は通常便が残っていてはいけない場所です。直腸に便が残っているということは、排便の状態が悪いということです。直腸に指を入れたとき、硬い便が残っている場合は、慢性の便秘があるのではないかと推測できます。また直腸に便が詰まっているだけでも肛門に強い痛みが出ることもあります。直腸に硬い便が」詰まっている状態では、摘便といって、指で便を出すこともあります。
このように、触診ではいろんな病気やその状態を知ることができます。
次回はなかなか触診では診断がしにくい内痔核の診断をどうするのか?肛門の診察に使う肛門鏡での診察についてお話します。
肛門の診察Part2 視診
今回は、視診についてお話しします。
肛門の状態を診る時、いろんなことが見えてきます。
まずは、肛門にできる皮膚のシワです。皮垂、スキンタグといいます。
皮垂はいろんな肛門の病気によって二次的にできる皮膚のシワです。内痔核が原因であったり、外痔核や血栓性外痔核の血栓が吸収された後にできたり。また裂肛が原因でもできてきます。
ここで、少し皮垂についてお話しします。皮垂の定義及び原因は、血栓性外痔核や嵌頓痔核が保存的治療によって治癒した後や、痔核手術後の治癒過程で発生した線維組織の増殖であったり、あるいは繰り返しおこる肛門皮膚の炎症などで肛門縁の皮膚に結合織の増殖をともなう繊維性のシワとされています。分類ではGoligherは皮垂を特発性と二次性とにわけ、特発性は明らかな原因のないものであり、二次性は出産、内外痔核・裂肛・などに関連しておこるものとしています。また、病理学的特徴では、肉眼所見では、外痔核領域にみられる肛門皮膚の線維性肥厚であり、組織所見では肛門皮膚の上皮の肥厚および上皮下の間質にみられる強い線維化を特徴とするとしています。
さて皮垂のある部位で、その奥に隠されている肛門の病気を推測することが出来ます。
例えば、皮垂が、内痔核ができやすい肛門の右前、右後ろ、左にあれば、今現在、皮垂の奥に内痔核があったり、以前、内痔核があったことをあらわします。また皮垂が裂肛のできやすい、肛門の前後にあれば、今現在裂肛があるか、以前裂肛になったことがあることを意味します。このように皮垂の部位によって、今ある肛門の病気や以前なったことのある病気を推測することが出来ます。
次に、視診で明らかにわかるものに、血栓性外痔核、陥頓痔核、肛門周囲膿瘍、そして肛囲皮膚炎などがあります。また肛門にできた尖圭コンジロームや疣贅、粉瘤なども視診でわかります。
血栓性外痔核は肛門の外側に血栓(血豆)が詰まって腫れて痛い病気です。血栓性外痔核のほとんどは、視診でわかりますが、肛門の少し中の肛門上皮の部分に血栓が詰まるタイプの血栓性外痔核もあり、この場合は視診だけでは解りません。
内痔核だけでは、視診だけでは解りませんが、陥頓痔核は、排便時に脱出してくる内痔核に血栓が詰まって外に出たままになっている状態の内痔核です。これも血栓が詰まって脱出したままになっている状態の内痔核を視診でわかります。また強い痛みも伴います。
肛門周囲膿瘍は、血栓性外痔核と異なり、肛門が腫れあがり発赤や腫脹を認めます。肛門周囲膿瘍も視診でわかります。ただ、肛門周囲膿瘍の中には、肛門の表面に膿瘍が広がるタイプでなく、肛門の奥の方の深い部分に広がるタイプの肛門周囲膿瘍があります。この場合は、痛みは強いのですが、視診では明らかな腫脹は認めません。この場合は指診が重要な診断方法になります。
この様に、問診と視診でずいぶん患者さんの持っている肛門の病気を絞り込んでいくことが出来ます。次回は、指診についてお話ししたいと思います。
肛門の診察Part1 問診
肛門の病気を治す際に一番大切なことは、患者さんの病気を正確に診断する事です。しっかり診断をつけることで、次の治療へと進むことができます。
さて、肛門の病気を診断は、患者さんの訴えを聞く問診、肛門の状態を目でみる視診、そして指で肛門の状態を見る指診の三つが大切です。そして肛門や直腸の一部を観察する際に肛門鏡を使います。いずれも大切な診察です。今回は、その中でまずは初めて患者さんとあって、行う問診についてお話ししたいと思います。
問診では、患者さんが今一番気になる事、心配なことを聞いて、その患者さんの訴える症状から病気を推察していく大切な診察です。肛門の病気での訴えで多いのが、出血や痛みです。
1)出血について
出血では、まずは出血の状態がどのようなものかを聞きます。例えば、排便時に痛みなく出血するのか、痛みが伴っての出血か。また、出血の仕方が拭いた時に着く程度の出血なのか、またはポタポタ落ちるような出血なのか。出血が下痢状に頻回に出血するのか。下着に血が付いている。などなど出血だけでもいろんな状態があります。
排便時に痛くなく出血する場合は、内痔核(いぼ痔)のことが多いです。出血の程度はさまざまで、排便後拭いた時に血が付いたり、ポタポタ血が落ちたり、場合によってはシャーっと音がして出血したりします。でも痛みは伴いません。
これに対して排便時に痛みが伴う場合は、裂肛(切れ痔)のことが多いです。出血に関しては、これも傷のつき具合でいろいろな程度がありますが、裂肛の場合は、痛みが伴います。
また、下着に血が付いている場合は、血栓性外痔核が破けて出血したり、痔瘻などが原因で、痔瘻では出血と膿が下着についていることがあります。また内痔核が脱出したままになっている場合も、出血や粘液で下着が汚れる場合があります。
さらに、肛門に皮膚炎があって、これが原因で下着に血が付くこともあります。
出血で、下痢状の出血が頻回に出たり、血の塊が頻回に出る時は、直腸や大腸の病気で出血している可能性もあります。この場合は、大腸内視鏡検査など、大腸の検査が必要だと思います。
出血が今回が初めてなのか、以前からあって、出血が頻回になったり、出血の量が増えてきたのかも治療の選択に重要です。
2)痛みについて。
痛みでは、排便時に痛みがあったり、排便後に痛みがしばらく持続する場合は裂肛のことが多いです。
排便に関係なく常に痛みがある場合は、血栓性外痔核や肛門周囲膿瘍の可能性が高いです。また内痔核に血栓が詰まって脱出したままになった状態になった陥頓痔核などがあります。血栓性外痔核は血栓が詰まって腫れて痛むのですが、時間と共に腫れが引き、痛みは徐々に軽減してきます。これに対して肛門周囲膿瘍は、炎症が広がり膿が広がっていくので、痛みはどんどん強くなっていきます。
陥頓痔核では、痛みが出る前に、痛みなく排便時に内痔核が脱出して押し込むなどの内痔核の症状があり、そこに血栓が詰まって、痛くなります。
この様に、痛みの状態、痛みの経過でも肛門の病気が推察できます。
3)その他の症状
その他に、内痔核では、排便後に便が残ったような違和感があり、頑張りたくなったり、肛門に痛みはないが、何か挟まったような違和感があるなどの症状がでます。
また痔瘻では、肛門から膿が出る、下着に膿が付いているなどの症状が出ます。
肛門の皮膚炎では肛門が痒くなる。いつもジクジクした感じ痔がするなどの不快感があります。
この様に、患者さんの症状を聞くだけでもある程度の肛門の病気が診断され、病気を絞ることが出来ます。
また、これまでに肛門の病気になったことがあるか?また、肛門の手術をしたことがあるかなども、治療に関して大切な点だと思います。
最後になりますが、今一番気になる症状をしっかり医師に伝えることが大事だと思います。
次回は視診についてお話しします。