肛門の手術後の入浴は傷の治りを良くします。
肛門の手術をした後、次の日から入浴してもらっています。
傷があると、入浴できないと思っている方がいます。「お風呂に入ると、傷口からバイ菌が入って、化膿してしまうのではないか?」とか、「お風呂に入ると、しみて痛いんじゃないか?」とか、「お風呂に入ることで出血するのでは?」と思っている方がいると思います。いずれもそんなことはありません。
入浴することで、痛みも楽になり、傷の治りもよくなります。
渡邉医院では肛門の手術をした後、消毒はしません。消毒することで、反対に傷の治りを悪くしてしまいます。
消毒は細胞毒です。消毒することで細菌を死滅させます。細菌の細胞を壊すということです。消毒することで、治そうとしている傷そのものを悪くしてしまいます。
消毒を使うときは、「自分の体を犠牲にしてまでも」という枕詞をつけるとよくわかります。
例えば、転んで怪我をした場合、そこにどんな細菌がいるかわかりません。まずは、痛いですが、傷をきれいに洗った後、どんな細菌がいるかわからないので、「自分の体を犠牲にしてまでも」一度しっかり消毒します。また、手術などの時に消毒するのも、体の中は無菌です。からだの皮膚などにいる細菌が体の中に入らないように、「自分の体を犠牲にしてまでも」皮膚に刺激があるかもしれないけれどもしっかり消毒して、からだの中に入ってこないように消毒をします。ですから、自分の体や傷の治りがわるくなってもどうしても消毒しなければならない時に消毒をします。
こういうことから、渡邉医院では肛門の手術の後は消毒しません。消毒することで、しみて、痛みもありますからね。
では渡邉医院ではどうしているかというと、手術後診察する際は、微温湯で肛門の傷を毎回洗っています。汚れているから洗うのではなく、洗うことで傷の治りが良くなるからです。
洗浄便座の温水で洗うと、水圧をもって、エネルギーをもって、傷にぶち当たってくるのでしみたり、痛かったりします。でも入浴はざぶっと湯船につかるので痛みはありません。
手術後の痛みの原因には、手術後に傷が腫れてしまったり、肛門の括約筋が緊張して閉まることが原因の一つになります。
入浴することで、手術後の腫れがとれたり、ゆっくり温まることで、肛門の括約筋の緊張がとれ、しかも血液の流れも良くなるので、痛みがある人も楽になります。治ったかなと思うよになります。
しかも入浴することで、傷口から細菌が感染して化膿することはありません。
入浴は傷の治りにはとても有効です。
傷をごしごし洗うと痛いので、石鹸とかシャンプーついても大丈夫です。さっと洗い流してざぶっとお風呂に入って下さい。入浴剤も大丈夫です。いつもと同じようにお風呂に入って下さい。
肛門の手術後、痛みをしっかりとることで治りがよくなります。
どうしても肛門の手術をすると、排便時の痛みが伴います。
手術をすると1日中ずうっと痛みがあると思っている人がありますが、そんなことはありません。ちょっと考えてみて下さい。切り傷や怪我をしても常は痛くないけれども、傷をこすったりすると痛いですよね。
肛門の手術も一緒です。手術をしても1日中痛いわけではありません。ではいつ痛みが出るかというと、やはり排便時です。排便時はどうしても便が傷をこすって出てくるのでどうしても痛みがあります。
でも肛門の手術によってこの排便時の痛みにも違いがあります。
例えば内痔核に対して痔核根治術を行った場合は、排便時の痛みは7~10日間を過ぎると、手術96.5%の人が、スッと痛みがとれます。また、痔瘻の手術では、一番初めに便が出た時に、もう痛くないという人が60%になります。裂肛の手術では、裂肛の手術そのものが、排便時の痛みをとることが目的ですので、最初の排便の時から痛みは楽になっています。裂肛の患者さんの場合は、排便時に痛みが強かった人ほど、手術後の排便時の痛みはとても楽になります。
このように、肛門の病気の種類や、手術の方法で手術の排便時の痛みには違いがあります。
でもやはり手術をしていますので、まったく痛くないということはありません。
しかし、痛みを我慢して治すのではなく、しっかり痛みを取り除くことで、手術後の傷の治りはいいです。「痛いのを我慢したほうが早く治る。」と思っている方もいますが、そんなことはありません。消炎鎮痛剤などでしっかり痛みを取り除いたほうが、手術後の傷の治りはいいです。
さて、傷はいつ治っていくのでしょうか。傷は夜治っていきます。
日中は、見えるもの、聞こえてくるもの、そして仕事などどうしてもストレス多いです。そのストレスに打ち勝つために、日中はアドレナリンの分泌が高まっています。夜になると、様々なストレスが減って、このアドレナリンの分泌が低下 します。このアドレナリンは傷の治りには抑制的に働きます。ですから、アドレナリンの分泌が下がっている夜に傷は治っていきます。
では、人間はいつ痛みを感じるかですが、痛みは夜中から、朝方にかけて痛みを感じます。これは、肛門の手術後の痛みだけでなく、痛みは夜中から朝方にかけて感じます。
したがって、傷が治る夜に痛みがあると、どうしても傷の治りが悪くなります。夜中から朝方にかけての痛みをしっかり取り除くことが手術後の治りを良くしていくことにつながります。
ですから、夜中や朝方に痛みが出た場合は、しっかり取り除くために、消炎鎮痛剤を内服してもらっています。
そうすると、ストレスをしっかり取り除くことが手術後の傷の治りを良くすることになります。痛いのを我慢すること。これは一番のストレスになります。でもこの痛みは消炎鎮痛剤の内服で十分に取り除くことができます。また、肛門の手術後は、7~10日たつと、ほとんどの人がスッと排便時の痛みが取れてきます。この間の痛みをしっかりとることが大切だと思います。
痛みを我慢することなく、治していくことが、傷の治りを早くする一番の近道です。
洋式トイレ、和式トイレ、どちらがいいの?
前回、「温水洗浄便座の功罪」についてお話しました。今回もトイレつながりで、「洋式トイレ、和式トイレ、どちらがいいの?」についてお話したいと思います。
外来診療をしている時に、ときどき「トイレは和式がいいのですか?それとも洋式がいいのですか?」と聞かれることがあります。最近は洋式のトイレが多くなってきましたが、自分が使い慣れた方でいいと思います。和式も洋式もそれぞれ良い点や悪い点があります。便のしやすさには、排便時の姿勢が大いに関係します。
専門的になりますが、恥骨直腸筋と浅外肛門括約筋という筋肉が直腸を取巻いています。この筋肉が収縮して締まったり、緩んだりすることによって直腸と肛門との角度を作ります。この角度のことを直腸肛門角といいます。この直腸肛門角の角度が排便に大きく影響します。
例えば、立っている時や横になって体が真っ直ぐな状態では、直腸肛門角が鋭角になり、直腸に便が来ないように、便が出ないようになります。しゃがんだ格好では、直腸肛門角が鈍角、すなわち直腸と肛門が真っ直ぐな状態になり、便が出しやすくなります。
さて、和式と洋式のトイレをこの直腸肛門角からみてみると、和式ではしゃがんだ格好が強いので、直腸肛門角がより鈍角になり便が出しやすくなります。ただ、このしゃがんだ姿勢は、膝など足の具合が悪い方や、高齢の方には少ししんどい姿勢となります。
それに比べ、洋式トイレでは座った姿勢になるので、姿勢としては和式のトイレと比べて楽ですが、直腸肛門角は和式ほど鈍角にはなりません。洋式トイレに変えて便が出にくくなる人がいる理由はこの角度の問題です。特に、便座に座って背中が後ろにもたれるような恰好になると直腸肛門角がさらに鋭角になり便が出し難くなってしまいます。
こんな時は、便座に座り、少し前屈みになったり、足台を置きその上に足を置くことで前屈みの姿勢を強くしたりすることで、和式の時のように直腸肛門角を鈍化して直腸と肛門を真っ直ぐにすることができ、便が出しやすくなります。ちょっとした工夫で、便が出やすくなります。
どちらのトイレでも、力んでいる時間を短くしてすっきり便が出るようにしたいものです。
温水洗浄便座の功罪
1980年、今から38年前、「お尻だって洗ってほしい」という衝撃的なCM で温水洗浄便座がこの世に出現しました。今ではずいぶん普及してきています。便座には様々な機能が付き、洗浄の仕方も驚くほど進化をしていると思います。
私も以前、温水で洗浄すると肛門の血流がよくなるかどうかを実験し、調べたことがあります。常温水と42度の温水とで肛門を洗浄して血液の流れを測定して比べてみたところ、温水で洗浄することで血液の流れがよくなることが分かりました。やはり、温水洗浄便座で洗ったほうがお尻にはいいのだなと思い、この結果を学会にも報告したりしました。
ところが最近チョット困った現象も起きてきています。洗浄しているうちに、洗浄する水圧が段々強くなってしまうようです。あまり強い水圧で洗うと、肛門がむずむずしてきたり、肛門を傷つけてしまったりすることがあります。また洗浄する温水が肛門に当たると直腸まで水が入ってしまうことがあります。直腸に入った温水は、後から出てきて肛門がただれてしまったり、洗浄しているのに汚れたりすることがあります。また、洗浄する温水が直腸に入ることで、また便がしたい感じになって、これを繰り返すことでなかなかトイレから出られなくなってしまうこともあるようです。
洗っても汚れると、段々強く洗うようになる。強く洗うことで直腸に入った水が後から出てきてさらに汚れる。こんな悪循環にもなってしまいます。さらに温水で洗浄しても汚れてしまうと、肛門の締りが悪くなったのではないかと悩んでしまう人もいます。なぜか、洗浄のノズルのほうが悪いのでは、強く洗いすぎるのがよくないのではないかと考える人は少ないです。洗浄便座はずいぶん工夫され改良されてきていますが、完璧ではありません。その証拠に、洗浄の仕方もどんどん変わって新しいものが出てきます。私たちは、便利なものができると、それが完璧なものだと思い込んでしまうことが多いのではないでしょうか。
正しいと思っていたこと、間違いなど起きないと思っていたもの、信頼していたものがもろくも崩れる去る昨今、自分のお尻の方が精巧で完璧だと自信を持って下さい。洗浄便座も完璧でなく、まだまだ進化の過程なのだなと優しく見守って、温水洗浄便座を使うときは、軽く洗って軽く拭く程度にしましょう。
痔核根治術後疼痛の検討ー最大肛門静止圧との関連ー(第55回日本大腸肛門病学会)
内痔核に対して痔核根治術を行った後の痛みの強さの差に、内肛門括約筋の緊張の強さが影響してきます。内肛門括約筋の緊張が強いほど、手術を行った後の痛みが強い傾向があります。
痔核根治術を行う際に、術前、術後に内肛門括約筋の緊張をどうとるかが大きな課題となります。
緊張をとるために、麻酔がかかった後の術前の十分なストレッチングや緊張がとても強い場合など、場合によっては、痔核根治術を行う際に、内肛門括約筋の緊張をとる処置を追加したりもします。
また術後、排便時の痛みが強いと、このことが原因となって内肛門括約筋の緊張が強くなることもあり、術後は十分に痛みをとるなど、疼痛管理も重要になってきます。
これまで、この内肛門括約筋の強さと術後の痛みに着目して、検討を重ねてきました。
今回紹介する発表内容は、内肛門括約筋の強さを反映する最大肛門静止圧を測定して、その圧の強さと、痔核根治術を行った後の痛みについて検討したものです。
発表内容
前回の第54回日本大腸肛門病学会で、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満との間で痔核根治術後の疼痛の強さに差があり、100mmHg以上で有意に術後の疼痛が強く、術前からある程度術後の疼痛を予測できることを報告しました。今回は100mmHg以上でも術後の疼痛が軽度である症例があることから、さらに詳細に最大肛門静止圧と術後疼痛との関係を比較検討しました。
対象は、平成10年9月から平成12年4月までに痔核根治術を施行した416例、男性221例、女性195例、平均年令51.8才としました。
方法は、術前と局所麻酔後に最大肛門静止圧を測定。術後3時間後の疼痛の程度を4段階に分類して、前回の発表で有意差のでた「痛くない」と「痛む・とても痛い」との間で、比較検討しました。また、内痔核の切除個数による術後疼痛と、術前及び局所麻酔後の最大肛門静止圧との関係についても検討しました。手術は全例局所麻酔下でおこない、同一術者が施行し、術式は半閉鎖式を施行しました。
術後3時間後の疼痛の程度は、「痛くない」241例、57.9%。「少し痛い」103例、24.8%。と全体の82.7%を占めます。「痛む・とても痛い」は72例、17.3%でした。
痔核根治術施行個数と術後3時間後の疼痛を、100mmHg以上と未満で比較してみました。1個所の場合、術後3時間後の疼痛は、最大肛門静止圧が100mmHg以上でも未満でも有意な痛みの違いは認めませんでした。2個所以上痔核根治術を施行した場合では、最大肛門静止圧が100mmHg以上になると有意に術後の疼痛が強くなりました。
術後3時間後の疼痛と局所麻酔後の最大肛門静止圧との関係をみると、痔核根治術を2個所施行した場合、「痛くない」において有意に局所麻酔後の最大肛門静止圧が低値でした。
術前と比べ局所麻酔後に、最大肛門静止圧が術前の静止圧の何%まで下がるかを低下率と定義して、これと術後3時間後の疼痛を比較すると、2個所痔核根治術を施行した場合「痛くない」で、有意に最大肛門静止圧が下がっていました。
以上をまとめると、
内痔核の切除個数が2個所以上では、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上になると有意に術後の疼痛が強くなる。しかし、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上でも2個所切除例では、十分に局所麻酔後の内圧が下がることで、有意に痛みが軽度となることがわかりました。
そこで、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上で、局所麻酔後の最大肛門静止圧が十分に下がらず、術後の疼痛が強くでる可能性のある症例に対しては、局所麻酔後に十分にストレッチングをおこない、局所麻酔後の最大肛門静止圧を十分に下げたり、また、局所麻酔後の最大肛門静止圧が十分に下がらない症例に対しては、LSISを施行したり、ニトログリセリンやボツリヌス毒素などを術前から使用し、最大肛門静止圧を十分に下げておくことで、痔核根治術後の疼痛はさらに緩和できると考えます。
抄録を紹介します。
抄録
術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満との間で術後の疼痛の強さに差があることを報告した。今回さらに精細に術後疼痛と最大肛門静止圧との関係を比較検討した。
【対象】H10年9月〜H12年4月までに痔核根治術を施行した416例(男性221例、女性195例、平均年令51.8歳)を対象とした。
【方法】術前と局所麻酔後に最大肛門静止圧を測定。術後3時間後の疼痛を検討した。術前の最大肛門静止圧に加え、局所麻酔後の最大肛門静止圧、さらに内痔核の切除個数と術後疼痛との関連性について比較した。手術は全例局所麻酔下に半閉鎖式を施行した。
【結果】
①痔核根治術を施行した416例中「痛くない」241例(57.9%)、「痛む」72例(17.3%)であった。
②内痔核の切除個数による術後疼痛と術前最大肛門静止圧(100mmHg以上と未満で比較)との関連をみると、1個所切除例では100mmHg以上「痛くない」43例、「痛む」7例、100mmHg未満「痛くない」61例、「痛む」4例と有意差を認めず、2個所及び3個所では、それぞれ100mmHg以上「痛くない」31例、20例、「痛む」26例、18例、100mmHg未満「痛くない」52例、34例、「痛む」5例、12例と有意差を認めたp<0.0001。
③術前最大肛門静止圧が100mmHg以上の症例で、局所麻酔後の最大肛門静止圧と術後疼痛の関係をみると、1個所及び3個所切除ではそれぞれ有意差を認めなかったが、2個所切除例では「痛くない」28.3±10.2mmHg、「痛む」40.2±15.3mmHgとp<0.05で有意差を認めた。局所麻酔後最大肛門静止圧/術前最大肛門静止圧×100%を低下率とし比較すると、2個所切除例で「痛くない」20.9±8.4%、「痛む」30.1±16.4%とp<0.05で有意差を認めた。
【まとめ】内痔核の切除個数が2個所以上では術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上になると有意に術後の疼痛が強くなる。しかし、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上でも、2個所切除例では、十分に局所麻酔後に内圧を下げることによって有意に痛みが軽度となる。以上より、術前のストレッチングは術後の疼痛緩和に有効であると考えられる。また、局所麻酔後に十分内圧が下がらない場合は、LSISやボツリヌス毒素などで括約筋の緊張をとることで、術後の疼痛がより緩和されると思われる。
痔核根治術後疼痛に対するニトログリセリン軟膏の術前投与の影響ー特に最大肛門静止圧との関連ー(第56回日本大腸肛門病学会)
内痔核に対して痔核根治術を行う際に、術後の痛みをどう軽くするかが、私たち肛門科にとって大きな課題です。
術後の痛みの原因には切除する内痔核の個数も影響してきます。切除する内痔核が1か所ですむか、2か所以上になるかでも痛みに違いが出てきます。やはり1かしょの手術ですむと、術後の痛みは楽です。
もう一つ術後の痛みに大きく影響するのが、内肛門括約筋の緊張の強さです。内肛門括約筋の緊張が強い、つまり、肛門のしまりが強い人ほど術後の痛みが強い傾向にあります。
したがって、この内肛門括約筋の緊張をいかにとることによって、術後の痛みを軽減することができます。いかに内肛門括約筋の緊張をとることができるかが、大きな課題となってきます。
内肛門括約筋の緊張をとる方法として、麻酔が終わった後、ストレッチングといって肛門の緊張をとることをします。指で肛門を十分広げて緊張をとったり、肛門鏡を使って肛門を広げ緊張をとってから手術を行っています。
今回紹介する発表は、内肛門括約筋の緊張をとるためにニトログリセリン軟膏を使用して、ニトログリセリン軟膏を塗ることで、どのくらい内肛門括約筋の緊張がとれるか、またそのことで痛みの軽減につながるかについて検討した内容です。
結果は、ニトログリセリン軟膏を使うことで、内肛門括約筋の緊張がとれ、痛みが軽減されるという結果です。
しかし、残念ながら、このニトログリセリン軟膏は生産が中止されているため、今は使うことができません。
今後、肛門疾患に使うことができるニトログリセリン含有の軟膏が開発され、販売されることを期待しています。
発表内容。
私達はこれまで、痔核根治術後の疼痛について、術前の最大肛門静止圧が高い症例や、局所麻酔後の最大肛門静止圧が十分に下がらない症例で、痛みが強く出現することを報告してきました。今回、術前にニトログリセリン軟膏を投与することで、最大肛門静止圧を下げ、術後の疼痛を緩和できるのではないかと考えました。そこで、術前にニトログリセリン軟膏を投与し、最大肛門静止圧の変化や、術後の疼痛について比較検討したので報告いたします。
これまでの最大肛門静止圧と痔核根治術後の疼痛に関してのまとめです。術前最大肛門静止圧と術後疼痛については、「痛くない」で有意に術前の最大肛門静止圧が低く、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満とで比較すると、100mmHg未満で、有意に術後疼痛が軽度でした。また、局所麻酔後の最大肛門静止圧をみると、局所麻酔後に十分に静止圧が下がることで、有意に術後疼痛が軽減されました。
今回は、平成12年11月から平成13年4月までに0.5%ニトログリセリン軟膏を投与した後に痔核根治術を施行した90例を対象としました。
方法は術前と、ニトログリセリン軟膏投与後及び局所麻酔後の3点で最大肛門静止圧を測定し、術前とニトログリセリン軟膏投与後の最大肛門静止圧を比較、また術後3時間後の疼痛について比較検討しました。
まず、術前とニトログリセリン軟膏投与後の最大肛門静止圧を比較すると、ニトログリセリン軟膏を投与することで、有意に最大肛門静止圧の低下を認めました。ニトログリセリン軟膏を投与することで、投与前の約80%まで最大肛門静止圧が低下しました。
次に、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満との間で、ニトログリセリン軟膏を投与することで、最大肛門静止圧の低下に差があるかをみました。100mmHg以上では、ニトログリセリン軟膏投与後、75.2±20.8%まで最大肛門静止圧が低下するのに対して、100mmHg未満では85.7±17.2%までしか低下せず、100mmHg以上で、有意に最大肛門静止圧の低下を認めました。
ニトログリセリン軟膏投与後の最大肛門静止圧の低下を100mmHg以上と未満とで比較すると、100mmHg以上の症例で、最大肛門静止圧が低下する症例を有意に多く認めました。
次に、局所麻酔後の最大肛門静止圧と術後の疼痛についてみてみました。
これまで私達は、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上の症例で、術後の疼痛が強いことを報告してきました。そこで、100mmHg以上の49例について検討しました。49例中「痛くない」33例、「痛い」11例でした。それぞれの局所麻酔後の最大肛門静止圧は、「痛い」の群で有意に最大肛門静止圧が高い結果がでました。
そこで、局所麻酔後の最大肛門静止圧が38mmHg以上の症例11例で、ニトログリセリン軟膏投与後の最大肛門静止圧を「痛くない」5例と「痛い」6例で比較すると、「痛くない」群が、有意に最大肛門静止圧が低いことを認めました。
以上より、ニトログリセリン軟膏を投与することで、最大肛門静止圧を有意に下げることができ、特に今まで私達が報告してきた、術後の疼痛が有意に強く出る100mmHg以上の症例で、より有意に最大肛門静止圧を下げることがわかりました。このことから、ニトログリセリン軟膏を投与することは、痔核根治術後の疼痛を緩和する目的で有効な一つの方法に成りえると考えます。
抄録を紹介します。
抄録
我々は痔核根治術後の疼痛について術前の最大肛門静止圧が高い(100mmHg以上)症例や、局所麻酔後の最大肛門静止圧が十分に下がらない症例で痛みが強いことを報告してきた。今回は術前に、ニトログリセリン軟膏(以後GTN軟膏)を投与した症例について、最大肛門静止圧の変化や、術後疼痛との関係を比較検討した。
[対象]平成12年11月〜平成13年4月までに痔核根治術を施行し、術前にGTN軟膏を投与した90例(男性51例、女性39例、平均年令52.9才)。
[方法]術前、GTN投与後及び局所麻酔後の最大肛門静止圧を測定。①術前最大肛門静止圧とGTN軟膏投与後最大肛門静止圧とを比較。②術後3時間後の疼痛を「痛くない」、「少し痛い」、「痛い」、「とても痛い」に分類。それぞれの最大肛門静止圧と術後疼痛について比較検討した。
[結果]
①術前最大肛門静止圧(110.2±52.2mmHg)とGTN軟膏投与後最大肛門静止圧(90.7±41.1mmHg)との間には有意差(p<0.0001)を認めた。
②GTN軟膏投与後最大肛門静止圧は術前最大肛門静止圧の79.9±19.8%になった。
③術前最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満との間でGTN軟膏投与後最大肛門静止圧に差がないかをみると、100mmHg未満の場合、術前最大肛門静止圧の85.7±17.2%であるのに対して、100mmHg以上では75.2±20.8%と有意(p<0.05)に内圧が低下した。
④術前最大肛門静止圧が100mmHg以上の症例49例で検討すると、「痛くない」33例、「痛い」11例であった。この2群間で局所麻酔後最大肛門静止圧 を比較すると、「痛くない」27.5±13.3mmHg、「痛い」37.5±14.8mmHgとの間で有意差(p<0.05)で有意差を認めた。
⑤局所麻酔後最大肛門静止圧が38mmHg以上の症例で、GTN投与後最大肛門静止圧を比較すると、「痛くない」84.0±28.8mmHg「痛い」131.7±32.5mmHgと有意差(p<0.05)を認めた。
[まとめ]GTN軟膏を投与することで、最大肛門静止圧を有意に下げることができた。また、100mmHg以上の症例で有意に最大肛門静止圧を下げることや、局所麻酔後最大肛門静止圧が高い症例では有意に術前最大肛門静止圧を下げ、痛みを軽減することから、GTN軟膏投与は痔核根治術後疼痛の緩和に有用な可能性があると思われる。
痔核根治術、術前および治癒時での最大肛門静止圧の比較(第57回日本大腸肛門病学会)
今回は内痔核に対して痔核根治術を行った際の手術前と治癒時の最大肛門静止圧に関して検討した発表を紹介します。
最大肛門静止圧は、内肛門括約筋の緊張の度合いを知るために測定します。裂肛などで、排便時に痛みがあると内肛門括約筋の緊張が強くなってきます。
内痔核に対して痔核根治術を行う際も、術後排便の際の痛みによって内肛門括約筋の緊張が強くなる可能性もあります。また、術前に内肛門括約筋の緊張が強いと、術後の痛みや、排便時の痛みが強い傾向があります。
内痔核に対して痔核根治術を行う場合も、この内肛門括約筋の緊張を十分にとることで痛みが軽減します。麻酔をした後に十分にストレッチングといって肛門の緊張をとることが、術後の痛みの軽減に有効だと思います。また、術前にあまりにも内肛門括約筋の緊張が強い場合は、痔核根治術を行う際に、内肛門括約筋の緊張をとる手術を一緒に加えることもあります。
今回は内痔核の手術個数による痛みの程度や治癒時の最大肛門静止圧、治癒時までの期間などを比較検討した発表を紹介します。
発表内容
内痔核に対して痔核根治術を施行した際に、どの時点で治癒と判断するかについてはとても難しい問題だと思います。傷がふさがった時が治癒ではないと思います。私は一応、排便時の痛みがなくなり、傷がふさがり、患者さん側の症状がなくなって患者さんがすっきりした時点で治癒と判断しています。しかし、一端治癒したと思っても排便の具合などで痛みがでてきたり、場合によっては裂肛様になってしまうことも有ります。また、治癒と判断した時点で器質的な狭窄がなくても肛門の緊張が強いと感じ、実際に最大肛門静止圧が高くなる症例もあります。このことは、術後の疼痛が術後の最大肛門静止圧や創傷治癒に影響があるのではないかと考えました。そこで術後の疼痛の程度が、治癒と判断した時点でどのように最大肛門静止圧に影響を及ぼすかを、比較検討しました。また治癒までの期間の差についても検討しました。
対象は平成10年8月から平成14年までに痔核根治術を施行し、術前と治癒と判断した時点でそれぞれ最大肛門静止圧を測定した581例、男性336例、女性245例、平均年令55.9才としました。
方法は、術前と治癒時でそれぞれ最大肛門静止圧を測定し、以下の4つの点について検討しました。
1)術後3時間後の疼痛の程度を切除個数で、比較。
2)切除個数で術前と治癒時の最大肛門静止圧を比較。
3)術前と比較して、治癒時の最大肛門静止圧が低下及び不変群と上昇群の2群に分類し、切除した内痔核の個数でそれぞれの群を比較。
4)治癒までの期間の差について比較しました。
術後3時間後の疼痛の比較ですが、2箇所と3箇所の間では術後の疼痛には有意差を認めませんでした。1箇所では、2箇所3箇所と比較して有意に術後の疼痛が軽度でした。
術前と治癒時の最大肛門静止圧との差をみたスライドですが、2箇所及び3箇所切除した症例では有意に治癒時の最大肛門静止圧が高くなったのに対して、術後の疼痛が軽度であった1箇所切除群では、術前と治癒時との間で最大肛門静止圧に有意差を認めませんでした。
治癒時の最大肛門静止圧が低下及び不変群と上昇群とに分けて比較すると、1箇所切除で、2箇所切除より有意に低下及び不変であった症例が多く、3箇所と比較しても、同様の傾向がみられました。2箇所と3箇所では2箇所切除群で上昇した症例が多かったです。
これは、治癒と判断して最大肛門静止圧を測定するまでの期間が、低下及び不変群と上昇群との間に差がないかを確認しましたが、両群間に有意差は認めませんでした。
手術から治癒までの期間を切除個数で比較すると、やはり術後の疼痛が軽度で、最大肛門静止圧が術前と比較して上昇しなかった1箇所切除群で有意に治癒までの期間が短かったです。
以上をまとめると、術後の疼痛が有意に軽度であった1箇所切除群で、術前と治癒時の最大肛門静止圧に有意差はなく、また低下及び不変であった症例を多く認めました。このことも一因で、術後治癒と判断するまでの期間が短かったと考えます。
最後に、治癒と判断した時点でも術後の疼痛の影響で、内肛門括約筋の緊張がまだ高まった状態が続いていると考え、その後の排便等のコントロールなどのフォローアップが必要だと考えます。また、術後の疼痛を早期より十分に取り除き、術後の内肛門括約筋の緊張が強くならないようにしていくことも術後の創傷治癒を促進させる一つの方法となりえると考えます。
抄録を紹介します。
抄録
我々は痔核根治術後の創傷治癒に関して、術前および治癒時での最大肛門静止圧とを比較し、術後の疼痛との関連について検討した。
【対象】平成10年8月〜平成14年2月までに痔核根治術を施行し、術前と治癒と判断した時点の2回で最大肛門静止圧が測定できた581例(男性336例、女性245例、平均年令55.9才)とした。
【方法】術前および治癒時での最大肛門静止圧を測定。1)術前と治癒時の最大肛門静止圧を、手術で切除した内痔核の個数(1個所・2個所・3個所)でそれぞれ比較。2)手術個数間で術前、治癒時の最大肛門静止圧を比較。3)術後3時間後の疼痛を「痛くない」、「少し痛い」、「痛い」、「とても痛い」に分類。手術個数との間で比較。
【結果】1)1個所では術前と治癒時の最大肛門静止圧には有意差を認めなかったが、2個所、3個所では術前の最大肛門静止圧がそれぞれ105.6±53.0mmHg、100.5±42.0mmHgであるのに対して、治癒時は115.9±52.2mmHg、107.7±48.7mmHgとそれぞれ有意に圧の上昇を認めた。(p=0.0035、p=0.0239)2)術前・治癒時で最大肛門静止圧が高くなった症例と低下もしくは変化のなかった症例についてそれぞれの群で比較すると、1個所で2個所と比較して有意に内圧の低下した症例の割合が高頻度であった。(p<0.0001)3)術後3時間後の疼痛については、2個所3個所と比較して、1個所で有意に痛みが軽度であった。(p=0.0018、p<0.0001) 【まとめ】術後3時間後の疼痛が有意に軽度であった1個所手術の群で治癒時の最大肛門静止圧が術前と比較して有意差を認めなかったのに対して、2個所3個所の群では術前の最大肛門静止圧と比較して治癒時の内圧が有意に高まっていた。このことは治癒と判断した時点においてもまだ術後の疼痛の影響で、内肛門括約筋の緊張が高まった状態が続いているものと考える。以上から、術後の疼痛を早期より十分に取り除き内肛門括約筋の緊張が強くならないようにしていくことが創傷治癒を促進させていく一つの方法となりえると考える。
「糸こんにゃくと明太子の炒り煮」のレシピを紹介します。
今回は「菜の花のからし酢味噌和え」と「糸こんにゃくと明太子の炒り煮」の二つのレシピを紹介します。
今回は二つのレシピに関して管理栄養士さんからのコメントも一緒に紹介します。
「管理栄養士さんからのひとこと」
毎日の献立を考える際、「あと一品」に困ることってよくありますよね。今回は少ない材料で手軽に作れる副菜を2種類紹介します。
酢味噌は、味噌:酢:砂糖を2:1:1の割合で合わせるのが黄金比率。少しからしを効かせて大人の味に。栄養豊富でほろ苦い菜の花とよく合います。
こんにゃくは鈍った腸の動きを活発にし、お通じをよくしてくれます。安価でいつでも手に入るので、常備菜としてどうぞ。
「糸こんにゃくと明太子の炒り煮」
材料(2~3人分) 1人分 60kcal 食物繊維2.0g
糸こんにゃく 1袋
明太子 1/2腹
刻みネギ 適宜
サラダ油 小さじ2
★顆粒だし 小さじ1
★酒 大さじ1
★醤油 小さじ1.5
作り方
① 糸こんにゃくは適当な長さに切り、熱湯で3分茹でてアク抜きをする。 |
「菜の花のからし酢味噌和え」のレシピを紹介します。
もうすぐ2月が終わります。1月は長く感じましたが、2月はあっという間の1か月でした。
なんとなく寒さも和らいできたような感じがします。春が近づいてきたのかなと思います。
毎週月曜日に花屋さんに花を活けていただいていますが、今日は桃と菜の花でした。
今回は、「菜の花のからし酢味噌和え」のレシピをご紹介します。
菜の花は、色々な栄養素がギュッと詰まった優秀な野菜です!特にビタミンC含有量は野菜の中ではトップクラス!花粉症でお悩みの方におすすめです。
「菜の花のからし酢味噌和え」
材料(2~3人分)1人分 44kcal 食物繊維2.8g
菜の花 1わ
★味噌 小さじ2
★酢 小さじ1
★砂糖 小さじ1
★からし 適量
作り方
① 塩少々を加えた熱湯で菜の花をさっと茹で、水気を切る。
② ★の調味料を合わせて酢味噌を作る。
③ ①に②をかけたら出来上がり!
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裂肛に対して側方皮下内肛門括約筋切開術(LSIS)が最大肛門静止圧に与える影響。(第58回日本大腸肛門病学会)
裂肛は、排便時の痛みによって内肛門括約筋の緊張が強くなってきます。内肛門括約筋の緊張が強くなることで、排便時の痛みが強くなったり。、排便後の痛みの持続時間が長くなってきます。また内肛門括約筋の緊張が強くなることで、排便時に傷がつきやすくなってしまします。この内肛門括約筋の緊張の程度を知るために最大肛門静止圧を測定します。内肛門括約筋の緊張が強いほど最大肛門静止圧が高くなります。
裂肛の手術は、この内経文括約筋の緊張を摂って、正常にすることが目的になります。
今回は、裂肛に対しての手術に、側方皮下内肛門括約筋切開術(LSIS)という手術がありますが、このLSISが最大肛門静止圧に与える影響について検討した発表を紹介します。
発表原稿
裂肛に対して、内肛門括約筋の緊張をとり、最大肛門静止圧を下げる目的で、LSISが施行されています。今回、術前の最大肛門静止圧の違いで、LSISがどのように圧の低下に影響を与えるかについて検討しました。
対象は、平成10年9月から平成15年3月までにLSISを施行し、術前、局所麻酔後、LSIS施行後、治癒時の最大肛門静止圧を測定した154例としました。
方法は、術前、局所麻酔後、LSIS施行後、治癒時の最大肛門静止圧を測定。術前の最大肛門静止圧の低い順にA群からD群に分類しました。局所麻酔後、LSIS施行後、治癒時の低下率をそれぞれスライドのように定義して、各群で比較検討しました。
局所麻酔後の低下率を比較すると、A群で低下率が有意に少なかった。
LSIS施行後の低下率は、有意差を認めませんでした。
治癒時の低下率を比較すると、術前の最大肛門静止圧が高い群ほど低下率は大きかった。
術前の最大肛門静止圧が高い群で、治癒時の圧の低下が著明です。これに対して、LSIS施行後の最大肛門静止圧の低下には、有意差は認めませんでした。ではどの時点で治癒時の最大肛門静止圧の低下率に差がでたかですが、
術前の圧が高い症例では、炎症のために括約筋が硬く器質化した状態で、LSISによって括約筋を切開したことが圧を下げることに影響を与えたのに対して、術前の圧が低い症例では、括約筋の線維化がまだ進んでなく、柔らかい状態で、局所麻酔後の十分なストレッチングが圧の低下に影響を与えたと考えています。したがって同じようにLSISを施行したつもりでも、術前の圧が高い症例では、十分に括約筋が切開されたのに対して、圧の低い症例では、括約筋の切開より、ストレッチングによる括約筋の緊張の緩和が主体となり、必要以上に括約筋を切開せずにすんでいると考えています。そうすると、ストレッチングだけで十分圧が下がれば、括約筋の切開を加えず、十分圧が下がらない場合は、LSISで括約筋を切開する。このように、術中に最大肛門静止圧を測定することもLSISを施行する際の一つの目安となると考えます。
LSIS施行後の低下率は有意差を認めず、治癒時の低下率は、術前の最大肛門静止圧が高い群ほど大きかった。これは、術前の圧の違いで、LSISとストレッチングとの内肛門括約筋の緊張の緩和に与える影響が異なるためと考える。
抄録
裂肛に対して最大肛門静止圧(以下marp)を低下させる目的で、側方皮下内肛門括約筋切開術(以下LSIS)が施行されている。今回我々は、術前のmarpの値の違いで、LSISがどのようにmarpの低下に影響を与えるかについて詳細に検討した。
【対象】平成10年9月〜平成15年3月までに裂肛に対してLSISを施行し、術前(LSIS施行前)・局所麻酔後・LSIS施行直後・治癒時の4回marpを測定した154例(男性50例、女性104例、平均年令41.8才)とした。
【方法】術前、局所麻酔後、LSIS施行直後、治癒時の4回marpを測定。術前のmarpをA群(100mmHg未満)、B群(100-150mmHg未満)、C群(150-200mmHg未満)、D群(200mmHg以上)の4群に分類。術前と治癒時のmarp、局所麻酔後の低下率(100-局所麻酔後marp/術前marp×100%)、LSIS施行後の低下率(100-LSIS施行後marp/局所麻酔後marp×100%)、治癒時の低下率(100-治癒時marp/術前marp×100%)の4項目について比較検討した。手術は局所麻酔下に同一術者が施行した。
【結果】A、B、C、D、の4群間での比較で、治癒時のmarpはそれぞれ82.2±25.8mmHg、100.4±34.8mmHg、108.9±34.0mmHg、120.9±46.8mmHgで、A群で他の3群と比較して有意に内圧が低かった。(p=0.0264、p=0.0023、p=0.0026)局所麻酔後の低下率は66.2±18.1%、77.3±12.8%、78.0±11.5%、81.9±12.6%とA群で有意に他の3群より内圧の低下が少なかった。LSIS施行後の低下率は39.6±30.9%、42.4±33.0%、46.8±25.2%、32.1±36.3%と各群間に有意差は認めなかった。治癒時の低下率はそれぞれ-6.2±34.9%、18.1±25.8%、35.5±21.3%、47.2±21.6%と術前のmarpが高いほど有意に内圧が低下した。
【まとめ】LSISは、術前のmarpが高い症例ほど有意にmarpを低下させることがわかった。術前のmarpが低い症例では、LSISによる括約筋切開での圧の低下より、むしろ局所麻酔後のストレッチングが、一方高い症例では、LSISによる括約筋切開が治癒時のmarpに影響を及ぼしたのではないかと推察する。