医師偏在対策に名を借りた医師コントロール

今回は、今国が進めている医師偏在対策とかかりつけ医登録制に関して、私たち保険医が問題としている点をお話したいと思います。
今、京都府の地区医師会の先生方との懇談会を開催しています。そこで私たちがプレゼンしている内容を紹介したいと思います。少し長くなりますが、一度読んでいただいて、今進められている国の改革の問題点を知っていただければと思います。
「医師偏在対策とかかりつけ医登録制について」
国がやっているのは医師偏在対策に名を借りた医師コントロール
国は「三位一体改革」と称して、「地域医療構想」「医師偏在対策」「医師の働き方改革」 を進めています。この改革は医療費の地域差縮減目標(医療費適正化)の達成のために組み 立てられたものです。中でも「医師偏在対策」は、医師不足地域への医師配置を進めるより も、医師の配置・就業を国のコントロール下に置くことに重点が置かれています。これを押 し返すことは、保険医の医療を守り、国民皆保険制度を発展させるための最重要課題となっ ています。以下、三位一体改革の内容とねらいを解説し、協会の考えを報告します。
1.都道府県による医師偏在指標を用いた医師確保計画策定
〇2018 年7月成立の改定医療法・医師法により、都道府県は 2019 年度中に医師確保計画 と外来医療計画を策定します。これまでの「人口10 万人対医師数」は、状況を十分に反 映した指標ではないとして、国は新たに「医師偏在指標」を示してきました。都 道府県はこれを用いて医師多数区域・医師少数区域を設定、三次、二次医療圏ごとに確 保すべき医師数の 目標を算出し、確保 方針と共に医師確 保計画を策定しな ければなりません。
○都道府県は医師少数区域において、2036 年を目標に医師を確保します。当面3年~4年 の計画期間で確保すべき人数は、「下位 33.3%を脱するために要する医師数」です。そ して、京都府のように医師多数三次医療圏(≒都道府県)に、医師少数区域がある場合 であっても、他の三次医療圏からは医師の確保を行わないこととするとしています。
〇この「医師偏在指標」は、2月公表後に4月と11 月に改定データが内示されましたが、 京都府の場合、とても地域の実態を反映したものとはなっていませんし、改定のたびに 変動して混乱を生じさせています。しかも、この指標を検証できるデータも公表されて いません。このため京都府は、医師の仕事量、患者受療率、地理的要因を加味した独自 の医師偏在指標を設定した上で、「京都府医師確保計画」の策定作業を進めており、12 月 に中間案が公表されました。
①医療需要(ニーズ)及び人口・人口構成とその変化②患者の流出入 等③へき地等の地理的条件④医師の性別・年齢分布⑤医師偏在の種別 (区域、診療科、入院/外来)―の5要素を考慮したものと説明。
〇国の指標では、京都・乙訓が医師多数区域、丹後、山城南が医師少数区域とされました。 この間の指標の変化は下記の通りで、丹後、南丹、山城南が変動しています。 4月の変化は、患者の流出入を反映したためとされており、医療機関が少ないために他 の医療圏に患者が流れている場合、医師数は充足となったのです。11 月の変化要因は明 らかにされていませんが、山城南のように「多数」から「少数」に振れるような指数に 合理性があるのでしょうか。
〇京都府の中間案で出された京都式の指標は、医師確保の重点順位を①丹後②南 丹③山城南④中丹⑤山城北⑥京都・乙訓とし、京都・乙訓は「府内の他の圏域に対し医 師派遣等の支援に努める」とされました。加えて二次医療圏よりも小さな単位で「医師 少数スポット」を定め、中丹、南丹のへき地診療所周辺の地域を指定しました。
〇協会は、中間案に対するパブリックコメントで京都府の姿勢について4点を評価しまし た。
①医師偏在指標について「京都式」を作ったこと
②医師確保計画策定に係る診療科別医師数調査を独自に実施したこと
③上記調査や独自指標で使用した医療機関へのアクセス状況を用いて、重点領域の設定 とその医療を確保する計画を策定したこと
④国が求めた外来医師多数区域での開業規制策を盛り込んでいないこと
その上で、そもそも二次医療圏単位で医療状況を捉え、施策を考えること自体に限界 があることを指摘し、より小さな地域で分析・検討する必要性を訴えています。
2.外来医師多数区域の問題
〇外来医療についても偏在指標が設けられ、外来医療計画が策定されます。京都・乙訓医 療圏と山城南医療圏が「外来医師多数区域」とされました。
〇これも2月データでは中 丹医療圏が多数区域とさ れていましたが、4月デー タでは多数区域から外れ、 山城南医療圏が多数区域 とされました。11 月データ はまだ示されていません。
○多数区域における新規開 業希望者は、①在宅医療、 初期救急、公衆衛生等、地 域に必要とされる医療機 能を担うよう求められ、② この方針に従わない場合、協議の場への出席が要請され、③協議内容は公表する―とさ れています。
○国は、これにより在宅医療の担い手確保など、地域医療の必要性の充足と医師少数区域 への開業誘導を考えているのだと思いますが、協会は、「医師少数区域」とされる地域が 発生・拡大しつつある根本原因(人口流出)に対する実効性のある対策が打たれないま ま、新規開業者を含めた開業医の犠牲によって問題を解決しようという政策手法には、 その実効性と権利侵害の両面から問題があると考えています。
○このため協会は、こうした危惧を厚生労働省医政局に直接質すとともに、会員署名「医 師偏在解決には〈開業規制〉ではなく地域再生と公的な医療提供体制再建が必要」150 筆及び要請書「医師偏在指標に基づく医師偏在対策は中止すべき」を5月 23 日に提出 して、再検討を促してきました。
○京都府に対しても再三働きかけを行ってきました。このたび京都府は京都府医師確保計 画(中間案)において、外来医師多数区域における新規開業者に求める事項として①診 療所の偏在・不足状況等の情報が容易に入手できるよう提供を図る②地域で在宅医療の 機能を担っていただけるよう、医師会や関係団体等と連携の上で、在宅医療に係る研修 への参加を促す③京都府内における病院、診療所の所在地や提供する医療機能の詳細情 報については、「京都健康医療よろずネット」に掲載―することと記載し、前述のように 国が求めた外来医師多数区域での開業規制策を盛り込んでいません。
3.京都府の 2036 年の必要医師数
○2036 年の必要医師数についても示されています。厚労省は必要医師数の定義を 「将来時点(2036 年時点)において」、国が「医療圏ごとに、医師偏在指標が全国値と 等しい値になる医師数」と定義しており、その考え方で出された数字です。
〇2036 年の京都府における必要医師数は丹後253 人、中丹483 人、南丹332 人、京都・乙 訓4375 人、山城北1105 人、山城南265 人で合計6807 人とされています。これに対し、 上位供給推計で 4006 人、下位供給推計で 1291 人の医師が過剰となるとしています。
4.診療科別必要医師数も公表
○厚労省は「診療科ごとの 2036 年の必要医師数」も示しています(2月27 日、医師需給 分科会)。都道府県ごとの2036 年の診療科別必要医師数では、京都府は各診療科が軒並 み「過剰」と推計されています。全体としては不足と推計される内科ですら448 人過剰 とされ、臨床検査・脳神経外科以外はすべて過剰とされています。
5.専門医シーリングの問題
○日本専門医機構は、医師需 給分科会の必要医師数推 計が出されたのを受け、診 療科別シーリングを各基 本領域学会理事長に通知 しました。9割の医師が取 得する専門医制度の都道 府県別・診療科別定員と は、事実上、都道府県別・ 診療科別の医師定数にな り得るのです。京都府は東 京都よりも多い 12 診療科 (シーリング対象 13 診療 科中)がシーリング対象と され、地域における医師確 保が更に困難になると懸 念されます。
※京都府のシーリング対象 科は、内科、小児科、皮膚 科、精神科、整形外科、眼 科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、 放射線科、麻酔科、形成外 科、リハビリテーション科
6.再編求める公的・公立病院名指し、民間病院でも
○厚労省は地域医療構想実現のために再編・統合を検証すべきとして 424 の公立・公的病院名の公表に踏み切りました(9月26 日)。が んなどの「診療実績が少ない」こと、「類似かつ近接」する医療機 関があることを理由として、府内では舞鶴赤十 字病院、市立福知山 市民病院大江分院、 国保京丹波町病院、国立病院機構宇多野 病院の4病院があげられています。
○協会は、「撤回」を求める副理事長談話を発出。指摘した 問題点は4点。
①公立・公的病院に限らず民間医療機関でも対象が挙げられるなど他に波及する懸念
②診療実績として出された基準は、地域で医療機関が担っている役割の限られた側面を 表すものに過ぎない。また、類似かつ近接する医療機関も対象とされているが、移動 手段が自動車か公共交通機関しかないうえに、それ自体が失われつつある地方の暮ら しの実態を無視するもの
③国が病床削減や医師配置を強制的手法でコントロールしつつも、地域医療構想や地域 医療対策協議会など都道府県での協議による結果だとして責任は取らない仕組み
④今回の措置は、地方の医師確保・偏在是正にも逆行し、政策に一貫性がないと指摘す べき医療界が、ワーキンググループで迎合ともとれる発言を行った問題
○全国からの批判の声に、厚労省は全国7会場で意見交換会を開催。唐突なデータ公表だ ったことなどを詫び、機械的に当てはめたデータであることを認め、このデータをもって再編統合を強制するつもりはないと説明するも、より地域医療の実態に即したものと なるようデータを活用し各自治体で議論を進めてほしいとしました。さらに、民間医療 機関でも同様のデータ公表の準備を進めると明言しました。
〇2020 年1月 17 日、厚労省は名指しした病院に対し、再編・統合を含む再検証を求める 通知を都道府県に発出しました。これは、混乱を招いた反省もなく、当初方針を貫こう とするものです。尚、厚労省は通知にあたり424 病院から東京都の済生会病院をはじめ 7医療機関を除外、代わって新たに約20医療機関を追加した新たなリスト(現在非公開) と、公立・公的と同様の指標で分析したと思しき約 3200 医療機関の民間医療機関デー タと「公立・公的と競合すると考えられる」約370 の民間医療機関リスト(公表可否は都 道府県に委ねるとされる。現在非公開)も送付した。
7.「かかりつけ医」登録制の問題
○「かかりつけ医」登録制を厚生労働省が検討していると6月に日本経済新聞が報道しました。 同紙によると国は、医療費抑制のために、患者が任意でかかりつけ医を登録し、診療料を月 単位の定額として過剰な医療の提供を抑えたり、かかりつけ医以外を受診する場合は負担を 上乗せして大病院や複数医療機関の受診を減らす案を検討する―としています。
○これは、まさに医療費総額抑制と同時に人頭登録払いを実現し、患者数に見合った医師数(開 業医数)を割り出して管理するための仕組みづくりとなるものです。患者側からはフリーア クセスの制限になります。協会は、「断じて容認できない」と理事会声明を公表。
〇「かかりつけ医」の登録制を求める動きが、野党の超党派議連からもあがってきています。 これに対して理事会声明を公表し、議員への働きかけを行っているところです。
○指摘した問題は、4点。
①「いつでもどこでも誰でも保険証一枚で必要な医療を必要なだけ保険で提供する」という 国民皆保険の理念による患者の権利保障と相容れない。フリーアクセス制限、医師のプロ フェッショナルフリーダムに基づく診察・治療の制限、患者登録によって導き出される「必 要医師数」に基づく自由開業制規制も危惧される
②医師・医療機関間に無用な競争が持ち込まれる。各医師が専門分野を持ち、患者を中心と して互いに協力・連携しあう状態も崩れる
③「予防医療」に対する過度な期待は、政権の発想とも符合する。予防は必要だが、それによ る医療費削減効果は認められないと指摘する識者は多く、患者の健康自己責任論の増長に 用いられたりすることも予想される
④想定されている「かかりつけ医」像は結局のところ内科系の医師だが、にもかかわらずなお、家庭医療専門医や総合診療専門医との混乱が見られる。既にかかりつけ医として診療 にしている開業医の実態に目を向け、再検証してほしい
※歴史的にみれば、1980年代の旧厚生省「家庭医構想」に対して、日本医師会は医師の分断、人頭登録払い(患 者に実際に提供した医療サービスに関わりなく、医療機関に登録された患者数に応じた定額の報酬を支払う 方式)につながるとして反発し、構想は頓挫。しかし、この考えは脈々と受け継がれてきたといえます。
8.国の狙い=医療提供者改革―医師配置の適正化
○2016 年10 月21 日、当時の塩崎恭久厚生労働大臣が経済財政諮問会議の場で、都道府県 別一人当たり医療費の地域差について、入院医療費は病床数・医師数が、外来医療費は 医師数が主な増加要因であると指摘。「医療費の地域差半減に向けて、医療費適正化を推進」すると述べていました。
○医療費の地域差半減は、「新経済・財政再生計画改革工程表」(以下、工程表)の政策目 標にも位置付けられています。このうち、病床配置の適正化については地域医療構想が 2017 年に策定されており、次は医師配置の適正化へ、国が本腰を入れているのです。
○医療提供者改革を通じて、国がやろうとしていることは次の3つ。
①医師の人数を地域 別・専門科別に管理できるようにすること
②医師の専門性に介入し、国のルールに則っ て素直に医療を提供する医師を育てること
③医師の仕事の生産性を向上させる=経済 活動の活性化につながり、富を生み出し、経済成長に資するような医師を育てること―。
9. 私たちの対案-医師偏在を生み出す構造問題を越えるための―
〇そもそも、医師偏在指標や診療科別必要医師数の計算に用いたデータや途中式などは一 切公表されておらず、検証・再現し得るだけの情報が公開されていない問題があります。
○「医師多数区域」での開業や医師確保を規制しても、少数区域での開業や就業が進むこ とにはつながりません。医師偏在の理由について、国は根本的な議論を避けたまま、私 たち医師の「自由」にすべての責任を負わせようとしています。医療制度は社会保障で あり、国が人々の生命と健康を守る義務を果たす仕組みです。強制的に都市部の医師を 地方へ赴任させるようなやり方は間違っています。
○医師偏在が起こる最大の理由は医療保険制度の限界です。日本の医療保険制度は、経済 が疲弊し、人口減少している地域では患者が確保できず、採算がとれないため、開業で きません。したがって今の仕組みのまま医師偏在を是正する方法は唯一、地域経済を再 生させることです。それまでの間は、公立医療機関を配置し、行政の責任で医師を確保 するしかありません。にもかかわらず、未だに国は公立医療機関を縮小する政策ばかり 進めています。国保直営診療所はじめ、公的な医療機関がその地域の医療保障をカバー できるようにするべきです。
○加えて、医師不足地域での医業を可能とする仕組み=当該地域における医業の採算ライ ンを明らかにし、採算点に達しない分の費用は全額国費で賄う制度を創設すべきです。 国の「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(2017 年)でも、44%の医師が 地方で勤務する意思を示しています。こうした医師の思いを前向きに支える政策こそが 必要と考えます。
○そもそも、医師の働き方改革における 1860 時間という「上限規制」などというとんでも ない提案がされてしまう背景には、医師たるもの国民の医療のために犠牲になって当た り前という考えがあり、医師は規制され、自由を制限されて当然の存在と国は考えてい るのかもしれません。とりわけ、開業医については、「働かせすぎの勤務医」に対し、「決 まった時間だけ働いて往診をしない開業医は多い」などと揶揄し、勤務医の働きすぎも、 医師偏在が解消しないのも、まるで開業医が悪いかのような論調が作られつつあります。
○あらためて訴えたいのは、医師の自由の大切さです。医師・医療機関は原理的には公的 な存在です。生存権保障の担い手であり、社会保険制度を通じて公費が投入され、それ によって医業を営んでいます。
○今後、医師をコントロールしたい国と地域の医療者の間でのせめぎあいはもっと激しく なると考えられます。協会は、開業医・勤務医の現場から反論するとともに、地域の患 者さんの声から、今回の医療提供者改革を徹底的に批判し、対案の提案を行い続けます。
今、母と関わるなかで

京都に帰ってきたのは私が34歳の時。父が病に倒れて急遽京都に帰ってきた。それからもう26年。今年の2月で私は60歳。還暦を迎えた。
京都に帰ってきたころはまだまだ私は若かった。長男が生まれ、5か月の頃。父が脳梗塞で倒れたが、父の看病は母が見てくれていた。診療所での診察や手術で目いっぱいと言うこともあったが、父や母の生活にはあまり関心を持つことはなく、自分たちの家族のことだけを考えていた。その頃はそのことに何の疑いも持たなかった。
今、母は認知症が進むなか一人で暮らしている。デイサービスやショートステイを使いながら暮らしている。ショートステイの日以外は、私は診療所に仕事に行く前に、毎日朝6時半ごろに母の家に行き面倒をみている。
そういう生活をしている中、ふと母のこれまでの人生を顧みることがある。母は自分がしたいことが本当にできていたのだろうか?と。
母は父と結婚して松本で暮らしていた。その頃私が生まれた。父の移動で私が3歳の頃に山梨県の甲府市に住むことになった。京都に帰ってきたのは私が小学5年生のころ、大阪万博が開催されていた夏の頃だった。父型の祖母が癌でなくなったあと、祖父が一人で生活し、渡邉医院を守ていた。そんな祖父を支えるために父が京都に帰り、肛門科渡邉医院を継ぐことを決心したからだ。
京都に帰ったきた後は、母は祖父の面倒をみたり、自分の親をみたり、また親戚の叔父や叔母の面倒も見ていた。そんな生活の中、時々冗談で「私の人生は看病の人生だ。」と言って父を困らせ、父は「そんなこと言わないでくれ。」と。
父が脳梗塞で倒れた時、祖父も心筋梗塞で入院。父と祖父の面倒を見るために二つの病院を駆け回り、そして、京都に帰ってきたばかりで、何もわからずにいる私を助けるために渡邉医院にも仕事に来ていた。
私も京都に帰ってきたばかりで、渡邉医院のことでいっぱいだったこともあって、母の生活に目を配る余裕はなかった。
祖父が亡くなった後は、父をみるだけになり、毎日父と一緒に渡邉医院に来ていた。食事は父と母と二人で。たまに私も加わることはあったが、あまり父と母の生活に寄り添うことはなかった。
そんな生活も父が亡くなってからは母一人の生活になった。たまに母と一緒に食事をしたりはしたが、母を一人っきりにすることの方が多かった。
そんな生活が数年たったころから母は認知症になっていった。はじめの頃は、まだ一人で診療所に来て受付をしていたが、段々一人では診療所に来れなくなり、また受付の業務もできなくなっていった。
認知症は始まると一気に進んでいくんだなあと感じた。今は、私のことがどこまでわかっているかわからない。でもいつも合うと笑顔で迎えてくれる。
そんな母と関わるようになって、最初の頃は、母を私の世界に引き戻そうとしていた。「認知症が進んでいく母」という現実を受け入れるだけの気持ちの余裕がなかったのだと思う。そうすると、「それはダメ」、「それはしてはいけない」、「それは違うでしょ」と母を自分の世界に戻そうとするとすればするほど、母を否定することになってしまった。またそのことで私自身もイライラしたり、気持ちがマイナスに向いていってしまった。そんな時ふと、「私自身が母の世界に入っていけばいいのでは。」と思い、そうすることに決めた。そうすると、今までは母の否定であったのが、「そうだね」、「そうしよう」と母の肯定にすべてが変わり、ガラッと生活が変化した。そのことで、「認知症が進む母」という事実を受け入れることが出来るようになり、私の心は優しさを取り戻すことができた。
母は、可愛らしく、そして素敵に認知症になっていると思う。
認知症が進む母と関わることで、私自身すごく心穏やかに、そして優しくなれたと感じる。
一緒に食事をしたり、時々コンサートに行ったりもする。コンサートでは、体を少し揺らしながら、手でリズムをとりながら楽しそうに演奏を聴いている。
また遊んでいる子供たちを優しい眼差しで、そして優しい笑顔で見つめている。時々こんなにも笑うかと思うほど顔をクチャクチャにしながら笑っている。そんな母の笑顔が私は大好きです。
微笑みながら私を見る母。その微笑みはいつも、そしてどんな時でも母親として私を見守ってくれている。
そんな母の笑顔をこれから先も見続け、そして守るために私たちは何をしなければならないのか。自分の意思を示せず、そして自分自身の権利を自分で守ることが出来ない母の権利をどう守っていかなければならないのか。私たちはしっかり考えていかなければならない。そのことが、これまで、そしてここまで私を育ててくれた母へ私がしなければならないことだと思う。
痔瘻根治術における男性と女性との違い

前回前々回と男性と女性との間の違いに関してお話してきました。今回は痔瘻根治術に関して男性と女性との違いについてお話したいと思います。
痔瘻根治術の総件数と男女差
これまで渡邉医院で行った痔瘻根治術の総件数は1780件。そのうち男性は1515件に対して女性は265件と圧倒的に男性に多い傾向にあります。男性は女性の約6倍です。この傾向は去年2019年の1年間でも同様の傾向にありました。
痔瘻の原因
痔瘻の原因は肛門腺の感染起こし、膿瘍を形成します。膿瘍は組織の弱いところから弱いところへとどんどん広がっていきます。自然に破れて膿が出て楽になることもありますが、たいていの場合は、切開して排膿をします。そして感染を起こした肛門腺の部分と切開して膿を出したところとの間に硬い管、瘻管を形成します。
切開排膿した後何の症状も無い方が70%ありますが、30%の方は、その瘻管を通って膿が出たり治まったりするなど嫌な症状が残ります。こういった症状が出ると痔瘻という病名が付きます。
なんの症状もない70%の方は特に痔瘻根治術をする必要がありませんが、排膿などの症状が続く痔瘻になった場合は、スッキリ治すには痔瘻根治術が必要になります。
肛門の括約筋の緊張の強さが痔瘻の発生に影響
痔瘻になる場合は、下痢などで肛門腺に細菌感染を起こすところから始まります。そしてどちらかと言うと、肛門の締まりが強い、すなはち括約筋の緊張が強い人に起きやすい傾向があります。このことを考えると男性と女性との括約筋の緊張の程度をみると、男性の方が括約筋の緊張が強い傾向にあります。肛門の括約筋の緊張を示す最大肛門静止圧の値をみても男性の方が女性より高い傾向にあります。こういったことからも痔瘻は女性に比べて男性に多く認めます。
痔瘻根治術の年齢別手術件数をみると、男性では20歳代から増加して、30歳代をピークにその後減少していきます。このことも若年者と高齢者を比べると、若年者の方が肛門の括約筋の緊張が強い傾向があり、そのことが若い層に痔瘻が多い理由だと思います。また高齢になってから痔瘻根治術をした方に話を聞くと、「若いころに肛門周囲膿瘍になって、特に症状がなかったので、今まで放置していたが、最近膿が出たり、少し痛みも出るなどの症状が出るようになったため受診した。」と言う方が多いです。ただ、基礎疾患に糖尿病や肝機能障害など、感染を起こしやすい要因をもった高齢者では、高齢での肛門周囲膿瘍から痔瘻へといくこともあります。ですから、感染を起こしやすい糖尿病や肝機能障害などはしっかり治療をしておく必要があります。
肛門腺の感染以外にも痔瘻の原因はある
また、痔瘻は肛門腺の感染だけでおきるわけではありません。裂肛が原因で、裂肛に細菌感染を起こし、そこから肛門周囲膿瘍になり、痔瘻へと進展していったり、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患が基礎疾患としてあり、その肛門病変として痔瘻になることがあります。この場合は女性でも裂肛から痔瘻になったり、炎症性腸疾患が原因で痔瘻になることもあります。ですから女性が痔瘻になることも珍しくありません。以前、「痔瘻は男性の病気だと言われました。私は特殊なのでしょうか?」と質問された女性がいらっしゃいました。そんなことはありません。女性でも痔瘻になることがあります。
もう一つ痔瘻が男性に多い原因とされているものがあります。それは、肛門腺は男性により発達していると言われます。動物などが縄張りを示すためにマーキングをしますが、肛門腺もこのマーキングの役割をしているとしているものもあり、男性に発達していると言われることもあります。このことも男性に痔瘻が多い原因かなと思います。
2019年の手術統計と重なるところもありますが参考にしてください。
裂肛根治術における男性と女性との違い

2月に入って初めての日曜日。朝は寒さが厳しかったですが、昼間は寒さが緩み過ごしやすくなりました。朝、防寒対策をして出かけましたが、そのままだと少し暑さを感じます。
京都は大事な大事な市長選挙です。京都市にお住いの方は、選挙に是非行って投票してきて下さいね。
前回は内痔核に対して外科的治療を行った患者さんの男性と女性との違いについてお話しました。今回は裂肛に対して手術を行った患者さんで、男性と女性との違いについてお話します。
裂肛根治術の総数と男女差
これまで渡邉医院で裂肛根治術を行った患者さんの総数は1940件です。そのうち男性は724件に対して、女性は1216件と圧倒的に女性の患者さんに多い傾向にあります。裂肛そのものが女性に多い傾向があるので、手術を行う患者さんの件数が男性より多いのは当然かと思います。やはり裂肛の原因となるのは便秘などの排便習慣です。男性に比べ、女性では便秘が多い傾向にあります。これはダイエットなども原因になることがありますが、やはり女性特有のホルモンによる要因が大きいと思います。
女性に便秘が多い理由、「黄体ホルモン」
女性に便秘が多い理由の一つに女性ホルモンである「黄体ホルモン」が便秘に関わっています。黄体ホルモンは大腸の蠕動運動を抑制する働きがあり、排卵から月経がはじまるまでの期間や妊娠後は黄体ホルモンの分泌が多くなります。そのため、この期間、便秘が起きやすくなります。こういったことも女性に便秘が多く、そのため裂肛になる傾向が男性より多くなります。
裂肛に対して裂肛根治術を行った女性の年齢別の件数をみてみると、やはり20歳代から30歳代にピークがあり、その後件数は減少していきます。20歳代30歳代はやはり便秘が原因になることが多いと思います。また30歳代は妊娠出産に際してどうしても便の調子が悪くなる傾向があります。これは妊娠中は黄体ホルモンの分泌が続き、出産まで子宮内膜を維持することにあります。こういったことからも、この年代での手術件数が多くなる傾向があるのだと思います。また黄体ホルモンは50歳ごろに急に分泌が低下して「閉経」が起きます。このことによって、黄体ホルモンによる便秘が軽減されることが50歳代以降、裂肛根治術の件数が減っていく理由かなあと思います。
括約筋の緊張の程度の変化
また高齢になるにしたがって括約筋の緊張が若年者と比較して少なくなることも裂肛の減少につながるのかなあと思います。ただ、どうしても高齢になるにしたがって大腸の動きなどが悪くなり黄体ホルモンによる影響以外での便秘の要因が出てきます。やはり、裂肛の原因となる便秘の解消が必要だと思います。
男性の裂肛のピークは40歳代から50歳代
男性の年齢別裂肛根治術の件数をみてみると、女性と比較して手術件数はグッと少ないですが、40歳代から50歳代にピークを認めます。女性と比較すると、約10歳年齢が高い傾向があります。このことは、やはり40歳代から50歳代の時期は、仕事をバリバリ行い、責任のある立場になることが多いと思います。そういったストレスなどが原因で便秘や下痢などの排便障害を起こし裂肛が増える可能性もあります。
裂肛に関しては、便秘などの排便障害が原因となります。男性と女性の間での便秘の原因の違いによって、裂肛の発生頻度、発生する年齢層に違いが出てくるのだと思います。
内痔核に対して外科的治療の男性と女性との違い

ようやく長かった1月が終わり2月になりました。これからはあっという間に時間が経過していくのだろうなあと思います。
新型コロナウイルスの流行がとても気になるところですが、手洗いうがいなど従来の対策をしっかり行って、適切に対応していきたいものです。
さて、今回は肛門の病気に関してはやはり男性と女性とでは違いがあります。内痔核でもその性状が男性と女性とではやはり違います。この内痔核の違いによって治療方法も違ってきます。そこで、今回は私が京都に帰ってきてから今日まで手術をしてきた患者について男性と女性との違いに関して検討してみました。
その第一弾として内痔核についてお話してご報告したいと思います。
内痔核に対しての外科的治療総数
これまでに内痔核に対して痔核根治術やジオンによる四段階注射法による痔核硬化療法(ALTA療法)を行った患者さんの総数は8458件です。男性は4422件、女性は4036件と男女差はあまりありませんでした。
痔核根治術、ALTA療法の男性と女性との違い
痔核根治術を行った件数は、男性では2645件に対して、女性では3311件と痔核根治術では女性の方が男性より多い傾向にありました。これに対してALTA療法は男性が1777件に対して女性では725件と、ALTA療法では男性の方が女性より多い傾向にありました。
やはりこのことは男性と女性では脱出してくる内痔核の性状が異なることが要因と思います。このことは男性と女性とでは内痔核の発生にちがいがあることにもつながるのかなあと思います。また男性と女性では解剖学的にも異なります。こういった男性と女性の差が内痔核の性状に違いが出て、さらにはその治療方法にも違いが出てくるのだと思います。
例えば内痔核に対してALTA療法の適応となる内痔核はどちらかと言うと静脈瘤型の内痔核が適応となります。外痔核成分や皮垂が大きく伴っている場合はALTA療法の適応になりません。症状でいうと、排便時の内痔核の脱出がありますが、しかも出血が伴う内痔核が適応となる傾向があります。男性の内痔核を診てみると、やはり静脈瘤としての内痔核が多い傾向にあります。
これに対して女性の内痔核では、皮垂を伴ったり、外痔核成分の多い内痔核であったり、粘膜脱型の場合が多い傾向にあります。あまり出血という症状はなく、脱出や痛みを伴うことが多いようです。また女性の内痔核を診てみると、肛門上皮部分の外痔核成分が多い内痔核が多い印象があります。肛門上皮の部分は痛みが伴います。こういった内痔核にはALTA療法の適応はありません。また粘膜の脱出とそれに伴った連続した皮垂が合併している症例が多い傾向もあります。
こういったことから男性ではALTA療法が、女性では痔核根治術が多い要因となると思います。こういったことからも男性と女性の内痔核の発生原因や発生の違いを検討する必要があると思います。
痔核根治術の年齢別による違い
次に痔核根治術を施行した患者さんの年齢別件数をみてみます。
男性では50歳代をピークにして増加、減少しています。これに対して女性では30歳代をピークに年齢と共に徐々に減少しています。この差は何だろうと考えてみました。内痔核ができる一番の原因は排便時の怒責の強さです。排便の時にグッと頑張っている時間が長いことが原因になります。そうするとやはり便秘などの排便障害が原因になります。男性の場合は50歳代、仕事をバリバリする時期、そして責任が出てくるころ、ストレスなどで便秘や下痢など排便の状態が悪くなるのではないかと思います。これに対して女性の場合は、30歳代と言うと妊娠出産が多い時期に一致します。また若い人はダイエットなどで排便の状態が悪くなるなどが内痔核の発生や症状の増悪につながるのではないかと思います。この差が男性、女性のそれぞれのピークの要因ではないかと思います。
ALTA療法の年齢別による違い
ALTA療法では男性では50歳代がやや減少する傾向がありますが、60歳代をピークに増加してそれ以降減少しています。痔核根治術よりも10歳ほど年齢が高くピークを認めます。
女性の場合は、もともとALTA療法の件数は少ないですが、60歳代をピークにしています。また、50歳代までは各年代にあまり差はありません。このことは高齢になると皮垂を伴わない粘膜脱型の内痔核が見られることがあります。粘膜脱型で、皮垂を伴わない場合もALTA療法が効く傾向があります。こういった女性でも年齢によって内痔核の性状が異なることがあり、これによって治療法に差が出てきます。
今後さらに、男性と女性とで内痔核の性状が異なる原因は何か、発生の仕方に差があるのか、また解剖学的要因が内痔核の性状に差が出てくるのかなど検討していく必要があると思います。
「ほんのり春の気配。2月の献立」のレシピを紹介します。

1月ももう数日で終わりますね。いよいよ2月!
個人的な話になりますが、私の誕生日は2月です。そして60歳になります。なんと還暦を迎えます。京都に帰ってきた時はまだ34歳。若い!
気持ちだけはまだまだ今でもその頃のままの気持ちでいます。でもその頃の写真と今を比べるとやはり全然違う。本当に若い。何かあっという間の26年だったように感じます。
でも京都に帰ってきたころを振り返ってみると、やっぱり今の方が手術など診察、診断、治療に関してはかなり進歩しています。祖父、父の歴史の上でさらに渡邉医院は進化してきていると確信しています。渡邉医院も90年、私も60歳。今年はさらなる進化に向けて頑張っていきたいと思います。
そんな思いで、2月を迎えようとしています。
さて、今回は「ほんのり春の気配」ということで、2月のレシピを紹介してきました。今回はそれの総まとめで、2月の献立を紹介します。「セリと長芋の柚子和え」のレシピを加えて紹介しますね。
献立は、「白身魚のわかめ蒸し」、「セリと長芋の柚子和え」、「牛乳茶碗蒸し」、「カリフラワーのパン粉がけ」、「カリフラワーのムース」そして「ご飯」の全6品です。
是非作ってみて下さいね!
「2月の献立」
・白身魚のわかめ蒸し・セリと長芋の柚子和え・牛乳茶碗蒸し・カリフラワーのパン粉がけ・カリフラワーのムース・ご飯
1人分 約650kcal、たんぱく質 40g、食物繊維 13g
「セリと長芋の柚子和え」
セリ 1把
長芋 5cm
めんつゆ 大さじ1
ゆずのしぼり汁 小さじ1
ゆずの皮 適宜
「作り方」
- ①セリはさっとゆでてざるにあげ、3cmの長さに切る。
- ②長芋は短冊切りにする。
- ③柚子の外側の黄色い部分を千切りにする。
- ④全てを和える。
- 「管理栄養士さんから一言」
-
セリ
セリは食物繊維、カロテン、ビタミンC、カリウム、鉄など様々な栄養素が豊富で免疫力・便通・血糖・骨や血液にも作用し、独特の香りにも鎮静効果などを持つ春の七草の1種です。また、生薬として食欲増進、解熱、神経痛などに使われるそうです。
渡邉医院の2019年手術統計とその傾向(痔瘻編)

今日は1月最後の日曜日。1月も後1週間やっと1月が終わります。2月に入るとあっという間に時間が過ぎていくと思います。先日、近畿肛門疾患懇談会の世話人会の新年会があり出席してきました。肛門疾患専門の世話人の先生方とお話ができ、有意義な一時を過ごすことができました。京都でも京都の肛門科のレベルアップのための勉強会が立ち上げられればいいなあと感じました。
さて、今回は渡邉医院の2019年の手術統計とその傾向として最後の痔瘻に関して報告したいと思います。
痔瘻の手術件数
2019年の痔瘻根治術の手術件数は64件。男性55件(85.9%)、女性9件(14.1%)と圧倒的に男性に多く、女性の約6倍でした。やはり痔瘻は男性に多く発生します。
痔瘻の原因は肛門腺の感染から肛門周囲膿瘍へと広がり、切開排膿を行ったり、自然に自壊して膿が出るところから始まります。原因となったところと膿が出た部分との間に瘻管が出来ます。再度感染を起こしても膿が体に広がらないように硬い瘻管ができ、その瘻管を通って膿が出るようにしてくれます。
でも、膿が出たり治まったりするのが嫌な症状になります。こういった症状が出た場合、痔瘻となります。痔瘻になるとスッキリ治すには痔瘻根治術が必要になります。
痔瘻が男性に多い理由
痔瘻になる場合は、下痢などで肛門腺に細菌感染を起こすところから始まります。そしてどちらかと言うと、肛門の締まりが強い人、括約筋の緊張が強い人に起きやすい傾向があります。したがって、男性と女性を比べると、男性の方が括約筋の緊張が女性より強い傾向があるため、男性に痔瘻が発生する割合が高い傾向があります。
ただ、痔瘻は肛門腺の感染だけでおきるわけではありません。裂肛が原因で、裂肛に細菌感染を起こし、そこから肛門周囲膿瘍になり、痔瘻へと進展していくこともあります。したがって、裂肛の頻度が高い女性にも裂肛が原因での痔瘻が起きる可能性があります。また、潰瘍性大腸炎やクローン病の肛門病変として痔瘻を認めることもあります。ただ、多くの場合が肛門腺の細菌感染で発生するので、男性に多いことになります。
また肛門腺は男性により発達していると言われます。動物などが縄張りを示すためにマーキングをしますが、肛門腺もこのマーキングの役割をしているとしているものもあり、男性に発達していると言われることもあります。
年齢別手術件数
次に年齢別の手術件数をみてみます。
年齢別にみてみると男性では20歳代から40歳代にピークがあり、その後は段々減少しています。また、この傾向は女性でも認められます。このことも若年者の方が肛門の括約筋の緊張が強く痔瘻になりやすいことを示していると思います。また、裂肛も若年者に多いため、こういったこともあり、痔瘻は若い世代に多い傾向があります。
ある程度年齢をいってから痔瘻根治術をおこなう方も、若いころに肛門周囲膿瘍になって痔瘻になった。特に症状がなかったので、今までそのままにしていた。症状がでてきたのと、この際しっかり治してしまおうと手術をされる方もいます。
さて、以前もブログで紹介しましたが、肛門周囲膿瘍になったら必ず痔瘻になるわけではありません。肛門周囲膿瘍で切開して排膿した後、約70%の方はその後なんの症状もありません。肛門周囲膿瘍になったら、必ず痔瘻になって痔瘻根治術をしなければならないではありません。
また排膿があって嫌な症状ですが、考え方を変えてみると、炎症を起こして膿が出来ても体に広がらないように体の外に出してくれている。ちゃんと瘻管によって膿が広がらないようにしてくれていると考えると、自分が自分の体を守るために作った瘻管が機能しているということです。
膿が出ている間は痔瘻は悪くなっていきません。慌てることなく、でもしっかり痔瘻は治していきましょう。
渡邉医院の2019年手術統計とその傾向(裂肛編)

昨日と今日、1月なのに冬とは思えないほど、なんとなく温かく感じます。
皆さんはどう感じられているでしょうか?
この暖かさ、地球温暖化の影響でしょうか?このままだと日本の四季がなくなってしまうのではないかと心配してしまいます。
さて前回は内痔核の手術統計とその傾向について報告しました。今回は2019年の1年間、裂肛に対して行った裂肛根治術について統計と傾向についてお話します。
裂肛の手術件数
2019年の1年間に裂肛に対して裂肛根治術を行った件数は43件です。男性は17例39.5%、女性は26例60.5%と女性が圧倒的に多いです。やはり、裂肛は便秘などの排便の状態が悪いことで起きます。特に便秘が原因となることが多いです。
裂肛は女性に多い
男性と女性を比較すると、やはり女性の方に便秘が多い傾向があります。これはダイエットも原因になることがありますが、やはりホルモンによる要因が大きいと思います。女性に便秘が多い理由の一つに女性ホルモンである「黄体ホルモン」が便秘に関わっています。黄体ホルモンは大腸の蠕動運動を抑制する働きがあります。ですから、排卵から月経がはじまるまでの期間や妊娠後は黄体ホルモンの分泌が多くなります。そのため、この期間、便秘が起きやすくなります。
こういったことが女性に裂肛が多い原因となります。
年齢別手術件数
次に年齢別の手術件数をみてみます。男性では30歳代から70歳代までほぼ同じ件数です。男性で仕事をバリバリ行っている現役世代では、やはり仕事などのストレスなどによる便秘などの排便障害が原因となっているのかなあと思います。また裂肛は便秘だけでなく、下痢でも起きます。ストレスなどで下痢をすることが多い方も裂肛になります。また、70歳代にも裂肛を認めるのは、やはり男女とも高齢になると便秘になる方がいます。食事の量が減ったり、水分の摂取が少なくなったり。また大腸の動きそのものも弱くなってくることで便秘になるのかなあと思います。ただ、年齢と共にやはり括約筋の緊張も柔らかくなってきます。肛門の括約筋の緊張が強いと裂肛になりやすいこともあり、男性も女性も高齢になると裂肛の手術が少なくなるのだと思います。
男性と比較して女性ではやはり、30歳代をピークに裂肛根治術が多くなっています。先ほどの女性に便秘が多くなる原因の黄体ホルモンの関係やダイエットなども要因となるのではないかと思います。20歳代から40歳代にかけては妊娠出産と言う時期があります。こういったことからも、この年代に裂肛根治術を行う件数が多いのだと思います。
やはり裂肛の原因は便秘などの排便障害が原因となります。そういった便秘になる社会的要因やホルモンなどの体に関わる要因などが多い時期に裂肛になり手術となるケースが多いのだと思います。
次回は痔瘻について報告しますね。
渡邉医院の2019年手術統計とその傾向(内痔核編)

1月はやっぱり長く感じます。お正月は、もうずっと前のことの様に感じます。まだまだ1月も三分の一残っています。今日は少し寒く感じましたが、今年の冬はやはり暖冬ですね。スキー場は雪がなく、本当に困ってられると思います。
今回から3回に分けて、去年1年間の手術の統計と傾向についてお話したいと思います。
2019年の1年間で渡邉医院で手術した件数は753件です。平均すると一月で63件の手術をしていることになります。
今回はその中で、三大肛門疾患である内痔核、裂肛、痔瘻について手術件数や男女差、年齢差について調べてみましたので報告します。
まずは内痔核です。内痔核に対して外科的治療を行ったのが398件でした。男性は198件、女性は190件と内痔核に対して外科的治療を行った件数は男性と女性では差はありませんでした。さらに内痔核に関しては、痔核根治術を行った患者さんと、ジオンという痔核硬化剤で四段階注射法と言う方法で痔核硬化療法(ALTA療法)を行った患者さんにわけてお話します。
痔核根治術では、総件数が267件で男性は97件(36.3%)に対して女性は170件(63.7%)と痔核根治術では女性が多い傾向にありました。
これに対してALTA療法では、男性が101件(77.1%)に対して女性が30件(22.9%)とALTA療法では男性の方が多い傾向にありました。
この男女差に関しては以前、日本大腸肛門病学会でも報告した時と同じ傾向でかわりはありません。この傾向を見ると、男性の内痔核は、静脈瘤型の内痔核が多く、また皮垂などを含めた外痔核成分が少ない内痔核の患者さんが多いことが解ります。これに対して女性の場合は、静脈瘤というよりは、皮垂などを含め粘膜部分と外痔核部分の成分が多く、ALTA療法では治らない内痔核である患者さんが多いということになります。したがって、男性と女性では内痔核の発生の仕方に関して違いがあるのかもしれません。男性と女性との解剖学的な違いが要因かもしれません。
また痔核根治術で年齢別に件数をみてみると、男性では30歳から60歳にかけて一つの山としてピークがあるのに対して、女性の場合は30歳から60歳にかけて男性と同様に一つのヤマとしてピークがありますが、もう一つ70歳から80歳以上にもう一つ大きな山があり、二峰性になっています。これは女性の70歳以上では内痔核の性状が静脈瘤型ではなく粘膜脱型になるからではないかと思います。
ALTA療法では、痔核根治術と同様に30歳から徐々に増え、50歳代で少し減少しますが、60歳代をピークに減少していきます。これに対して女性では、40歳代から70歳代にかけて微増で、ほぼ同件数でした。
こういったことからも男性と女性での内痔核の性状の違いや年齢によっての内痔核の性状の変化などがあると思います。例えば、男性の場合はやはり静脈瘤としての内痔核が多く、年齢と共に粘膜型へと変化していく。女性の場合は静脈瘤型と言うよりは、粘膜型であったり、皮垂や外痔核成分の腫脹が占める割合が多い内痔核でALTA療法ではなく、痔核根治術になってしまう。こういった内痔核の性状、発生の違いなどを今後男女間で検討していく必要があると思います。次回は裂肛に関して報告します。
「白身魚のわかめ蒸し」のレシピを紹介します。

今回は「白身魚のわかめ蒸し」のレシピを紹介します。
レシピを紹介する前に少し便秘についてお話したいと思います。
寒い時期に便が硬くなって出にくくなる患者さんがいます。この寒い時期、外は乾燥していますし、建物の中も暖房していて乾燥しています。夏と同様に体の外にどんどん水分が出ていってしまいます。夏は暑いし、汗もかく。水分がしっかり摂れて夏場は便の調子が良かったのに、寒くなったら出ないの原因はここにあります。この寒い時期もなかなか摂り難いのですが、夏と同じように水分を摂る必要があります。
また気持ちよく便が出るには、水分だけでなく、便の量も大事です。大腸の中にちょっとしか便がないと大腸を動かしてくれません。ある程度の量があると、便そのものが大腸を刺激して動きを良くしてくれます。また直腸にしっかり便が来ると、便がしたいという便意がしっかり出ます。そしてその便が出ることでスッキリ感もあります。
ただ、たくさん食べましょうではありません。同じ量の食事を摂っていても、柔らかくて消化のいいものを食べると、消化され吸収され便の量は少なくなってしまいます。時々便秘の人が「私は便秘なので、柔らかくて消化の良いものを食べています。」という方がいます。これでは反対に便は出なくなってしまいます。消化も吸収もされずに便となって出てくる食物繊維のものが十分あると、そこに水分が十分に行くと、量のある柔らかい便になります。やはり食物繊維を摂ることもも重要です。
でも、食物繊維と言っても、生野菜は量があっても繊維の量は少ないです。
今日紹介するような、わかめなどの海藻類やキノコ類の方が繊維は摂ることが出来ます。ですから便秘のことを考えると、「生野菜のサラダ」よりは「海藻とキノコのサラダ」の方がいいです。
ではそろそろ「白身魚のわかめ蒸し」のレシピを紹介しますね。
「白身魚のわかめ蒸し」
1人分 約150kcal、たんぱく質 16g、食物繊維 9g
材料(2人分)
白身魚 2切れ
(鯛、タラ、カレイなど)
生わかめ 200g
(塩蔵や乾燥でも可)
長ねぎ 8cm
生姜 1かけ
ごま油 大さじ1
酒 大さじ1
ゆず
ポン酢をつけて食べる
作り方
- ①魚に塩をして10分置き、水気を取る。
- ②生わかめはさっとゆで、3cmの長さに切る。
- ③長ねぎ、生姜は千切りにする。
- ④アルミホイルに②①③に順にのせ、酒をかけて水が入らないようにしっかり閉じて包む。
- ⑤フライパンに2cm程湯を沸かし④を入れてふたをし10分蒸す。
*④で皿に入れラップをして電子レンジでチンしても作れます。
管理栄養士さんから一言
わかめ
食物繊維がたくさんあります。ぬるぬるしている水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維の両方を持ち、良質のミネラルも豊富に含んでいます。
ヨウ素の過剰症をさけるため継続的なとり過ぎは避けましょう。