前回、裂肛の手術についてお話をしました。
裂肛による痛みで、内肛門括約筋の緊張が強くなることで、裂肛の状態が悪くなり、裂肛の手術は、この緊張が強くなった内肛門括約筋の緊張を取ることが目的だとお話しました。ですから、内肛門活躍人の緊張がとれ、元の状態に戻るため、排便時の痛みは比較的早くスッと取れてきます。特に裂肛の状態が悪く、内肛門括約筋の緊張が強く、痛みが強い人ほど術後の排便時の痛みは楽になります。
裂肛の手術をして肛門は緩まないの?
でも患者さんの中には「内肛門括約筋を切開するので、手術の後肛門が緩んでしまうのでは?」と心配される方もいます。でも、その心配は大丈夫です。そもそも内肛門括約筋の緊張が強くなったものを、正常に、元の状態に戻すのが裂肛の手術です。正常の緊張を緩めてしまう手術ではありません。
また、内肛門括約筋は、便が出ないように締まってくれる筋肉ではありません。直腸に便が来て便がしたくなった場合、肛門が閉まっていては便を出すことができません。内肛門括約筋は、直腸に便がきて、便意を感じたときに、脳が命令して、自分の意志とは関係なく内肛門括約筋を緩めて、便が出やすいようにします。内肛門括約筋は便が出ないようにする筋肉ではなく、便が出やすいように緩んでくれる筋肉です。ですから、この内肛門括約の緊張が強くなってしますと、便が出にくくなったり、便が出るときに傷がついて裂肛が悪化していってしまいます。
例えば、直腸に便がないとき、内肛門括約筋が100で締まっていたとしましょう。朝起きでご飯を食べて、お腹がぐるぐる動いて蠕動して直腸に便がおりてきます。そうすると、肛門が閉まっていては便が出ませんので、脳が命令して内肛門括約筋の緊張を取ります。では、50まで緩んだとしましょう。そうすると、直腸にある便が柔らかくて形のある便ですと、50以上の腹圧をかけると便が出ます。直腸に便がなくなると、また内肛門括約筋は100で締まります。このように、直腸にないときは内肛門括約筋は締まっていて、便が直腸に来ると緩んでくれる。そして直腸の便がすべて出てしまうと、また内肛門括約筋は締まる。こんな具合に内肛門括約筋は動きます。ですから、裂肛のために内肛門括約筋の緊張が倍の200になってしまったとしましょう。そうすると直腸に便が来て、括約筋の緊張が半分まで緩んだとしましょう。それでも100です。普通なら50以上の腹圧をかけたら便が出るところがまだ100でしまっているので、50の腹圧ではでません。さらに頑張らないと便は出ませんし、頑張るとまた切れて裂肛が悪くなってますます内肛門括約筋の緊張が強くなってししまいます。裂肛の手術は、この内肛門括約筋の緊張をとって正常にすることが目的です。ですから裂肛の手術をしても、肛門が緩んでしまうことはありません。
便が出ないようにする筋肉は?
では、便が出ないようにしてくれる筋肉は何かといいますと、肛門より奥にある、浅外肛門括約筋と恥骨直腸筋がその役割をしています。それぞれの筋肉が閉まっていて、直腸に便が来ないようにしています。朝起きて、食事をして大腸が蠕動を始めると、それぞれの筋肉が緩んで直腸に便が来ます。そうして直腸に便がきたら、内肛門括約筋が緩んで便を出しやすくしてくれます。トイレまで我慢して肛門を閉める筋肉は外肛門括約筋です。この筋肉は自分の意志で閉めることが出来ます。トイレまで我慢して、直腸にある便が出てしまうと、内肛門括約筋は締まり、また浅外肛門括約筋や恥骨直腸筋もしまり、直腸に便が来ないようにしてくれます。こういった具合に便は出るように、うまくなっています。
以前、側方皮下内肛門括約筋切開術と最大肛門静止圧との関係の論文を紹介したことがあります。(側方皮下内肛門括約筋切開術施行前後の最大肛門静止圧の経時的変化について。日本大腸肛門病学会雑誌 第58巻 第3号 2005)それをご覧いただければいいかと思いますが、内肛門括約筋の緊張の度合いを最大肛門静止圧が反映しますが、側方皮下内肛門括約筋切開術を行った場合、最大肛門静止圧の高い場合はしっかりと圧が下がり、最大肛門静止圧のそれほど高くない場合は、最大肛門静止圧の低下はそれほど下がってこないという結果でした。側方皮下内肛門括約筋切開術を行う場合、緊張の度合いによって、適度な緊張まで低下してくれるといった内容の論文です。
こういったことからも、内肛門括約筋を切開する。肛門のしまりが悪くならないかと心配かもしれませんが、そんなことはありません。極端に強くなってしまった括約筋の緊張をもとの正常な状態に戻すのが裂肛の手術だと思って下さい。