渡邉医院では、手術を受けられて入院された患者さんにアンケートをとっています。ほとんどの患者さんがこのアンケートに答えてくださっています。
患者さんの生の実際に感じた声を聞くことができ、とても参考になります。渡邉医院をよりよくするために、このアンケートの患者さんの声は大切だと感じています。
以前、このアンケートの結果をまとめ、検討したものがあります。今回はこのアンケートの検討について3回に分けて紹介します。
このアンケートをまとめたものは、「渡邉肛門科標準術式」という本を出すときに検討した内容です。この本も、当初は、自分のやっていることを、後輩に残せればいいなという思いで企画したものでした。
ではアンケートの検討についてご紹介します。
「アンケートの検討」
術前・術中・術後の管理など医者側からの考えをまとめたものは多くみられますが、患者側の立場で書いてあるものは少ないと思います。たとえば、出血ということについては、医者の立場では早期出血や晩期出血など、止血術を行わなければならなかったり、止血術を行わないまでも厳重に観察していかなければならない出血が問題となります。またこういう出血が医者を悩ませストレスを感じることです。
患者側に立つと、このような出血も問題にはなりますが、排便時にポタポタと落ちる程度の出血や、創部にあててある綿花に付く出血がとても気になり、排便時の出血の有無に一喜一憂し、これが患者側のストレスになります。
このように出血ということだけでも医者の考えていることと患者さんの考えていることでは大きな違いがあります。したがって治療する立場の医者としては、患者さんがどのようなことに不安をもっているのかは十分理解する必要があると思います。
最近 Day Surgery (日帰り手術)が注目され、今後さらに適応が広がっていくと思いますが、これも医者側の思惑だけの Day Surgery では成り立たず、患者さん不在の治療になってしまいます。やはり術前から十分に手術の内容や方法を患者に説明するだけでなく、麻酔の際や、術中、術後の痛みがどの程度のものなのか、術後何かトラブルが起きた際にどのように対処したらいいのかなど、より具体的に説明して、患者さんの不安を取り除いてあげる必要があると思います。
当院を受診される患者も、周りの人から「痔の手術はすごく痛いよ。手術の後はウンウンうなっているよ。」などと、おどかされて来る人もいれば、そうでなくても「肛門疾患の手術=とても痛い!」とゆう方程式を即座に頭に思い浮かべる人が多いと思います。実際に、手術をするのに迷った人の63%が手術中、手術後の痛みが不安であり、迷う原因だったとアンケートに答えています。実際の患者さんの声をとどけ、十分に患者さんの不安を取り除いてあげるのに次のアンケートの結果が役に立てばと思います。
アンケートは手術を施行した420名の入院患者におこないました。回収率は100%でした。アンケートの内容は、麻酔の痛み、手術中の痛み、それと手術後の痛みについてそれぞれ1)思っていたほど痛くなかった。2)思っていたとおり痛かった。3)思っていた以上に痛かった。の三つに分けて簡単に回答してもらいました。また回答できる人には、痛みについて自分が思っていた痛みを100%として実際に感じた痛みを%でも表してもらいました。全ての項目について%で評価してくださったのは300名で、全体の71%でした。
[1]麻酔の痛みについて。
当院では麻酔は全て局所麻酔です。このため肛門の周囲に何回か注射針を刺さなければならないため、どうしても痛いのですが、結果は、
「1)思っていたほど痛くなかった。」が80.1%、「2)思っていたとおり痛かった。」が14.5%、「思っていた以上に痛かった。」が5.4%でした。また%で表してもらった平均の麻酔の痛みは48.9%でした。
局所麻酔ということで、術前そうとう麻酔は痛いと覚悟されてきたのか、実際に局所麻酔をうけてみると、自分の思っていた痛みの半分以下で、想像していたほどではなかったと言うことでしょう。「最初の数回は痛みを感じたが、途中から痛みは感じなくなった。」という回答が多かったです。肛門の周囲を何周も麻酔するため、表面の1週と、括約筋への最初の1週の痛みを我慢してもらえば、後は麻酔をした部分にさらに麻酔をしていくので、途中から痛みを感じなくなるのは当然ですが、このことを十分患者に説明しておくと、局所麻酔の恐怖を取り除いてあげられますし、あとどのくらい頑張ればいいのかのの目安にもなると思います。
[2]手術中の痛みについて。
手術中の痛みについては、「1)思っていたほど痛くなかった。」が93.1%、「2)思っていたとおり痛かった。」が4.1%、「3)思っていた以上にいたかった。」が2.6%でした。また%で表してもらった平均の術中の痛みは31.5%で、想像していた痛みの3割程度の痛みだったとの結果でした。痛みを感じたときで一番多いのが、痔核根治術の場合は、根部を結紮するときに痛みを感じることが多いようです。
これは内痔核が十分に剥離できてなく、つっぱりが残った状態で根部結紮をし、粘膜と静脈瘤だけを結紮するのではなく、一部筋組織を含めて結紮をしてしまったときにでる痛みだと考えています。また根部まで十分麻酔薬が浸潤していないこともあると思います。これは局所麻酔を追加したり、術中の操作で十分取り除くことができる痛みですし、これがまた術後の疼痛ともかかわってくると考えています。根部を結紮するときの痛みは、局所麻酔だからこそわかる痛みで、腰椎麻酔や仙骨硬膜外麻酔の際は、同じような操作をして、知らず知らずのうちに、術後の疼痛の原因をつくっていることもあると思います。この点については私たち医者側が十分気をつける必要があります。また痛みを感じたと回答した人のなかには、術中引っ張られたような感じがしたとか、手術中肛門鏡を挿入して、肛門を広げることがありますが、この時の違和感が強いとか、便が出そうになる感覚がつらかった、と答える人もいました。術中の痛みと術後の痛みの関係については後で述べますが、局所麻酔後に痛みなく十分肛門が広がる人や、術中の痛みが少ないほど術後の痛みが軽い傾向にあります。術中の痛みはできる限り少なくなるように心掛ける必要があると思います。
[3]手術後の痛みについて。
手術後の痛みについては、「1)思っていたほど痛くなかった。」が82.4%、「2)思っていたとうり痛かった。」が12.0%、「3)思っていた以上に痛かった。」が5.1%でした。また%で表してもらった平均の術後の痛みは44.3%で、想像していた痛みの半分以下だったとの結果です。想像していた痛みが20%以下だった人が全体の50%を占めていました。たいていの人が、「この程度の痛みだったらもっと早く手術をしたほうがよかった。」と答える人が多かったです。手術をするのを迷った人の63%が手術中、手術後の痛みがその理由になっていることを考えると、術後の痛みについて十分説明してあげる必要があります。
術当日の肛門痛は、あったとしても術直後と術後3時間目の消炎鎮痛剤の座薬の投与に加え、後は内服の消炎鎮痛剤でおさえることができます。術後1日目からは、排便時以外の普段の痛みは軽いのですが、排便時及び排便後の痛みがあります。次に排便時の痛みの消失期間について示します。これについては351人(84%)の方が回答しています。消失期間はつぎの様な割合です。
消失期間(日) (人) (%) 合計%
0 1 0.3 0.3
1 37 10.5 10.8
2 53 15.1 25.9
3 39 11.1 37.0
4 33 9.4 46.4
5 44 12.5 58.9
6 35 10.0 68.9
7 44 12.5 81.4
8 31 8.8 90.2
9 11 3.2 93.4
10 19 5.4 98.8
11 1 0.3 99.1
12 1 0.3 99.4
13 1 0.3 99.7
14 1 0.3 100
排便時の痛みが消失する平均期間は、4.9日でした。順調にいくと、術後7日目から10日目の間で全体の99%の人が、排便時の痛みが消失又はすごく楽になってくるようです。
痛みのとれかたもだんだん楽になるというよりは、この時期に急に痛みがとれ楽になるようです。
たまに冗談で、「本当に痛みが取れるのだろうか?先生は嘘をついているんじゃないか?と疑い始めたころに痛みは取れますよ。」(お互いに笑い)などといったりしています。術後の創もこの時期になるとおちついてきます。排便の際の痛みもこれにほぼ一致しています。患者の中には、完全に傷が治るまで排便時の痛みが続くものだと思っている人が多いようです。「傷が完全に治らなくても痛みはとれてきます、それも7〜10日間の間です。」と説明するといいと思います。
ただいつまでたっても排便時の痛みがとれないときは、特にドレナージの傷が完全に治っているにもかかわらず、排便時及び排便後の痛みが続く時は、肛門上皮の部分の傷が裂肛様に取り残されていることが多いです。このような場合は、いつまでもだらだら外用薬を投与していると、慢性の裂肛のようになって患者さんにとっては苦痛が長引くだけです。なかなか患者さんには言いにくいことかもしれませんが、ドレナージ創をもう一度作り直すなり、なにか外科的な処置をしてあげたほうが患者さんにとっては早く治りいいと思いますし、是非そうして欲しいです。