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2023.09.24

100年以上続く痔核硬化療法

 皆さんこんにちは。渡邉医院の渡邉です。

 今日は久しぶりに肛門科の話をします。今回は痔核硬化療法についてです。

 今、痔核硬化療法というとジオン(硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸水溶液)による痔核硬化療法を多くの方、医師も思い浮かべると思います。そして痔核硬化療法は新しい治療法だと勘違いされているかたも多いと思います。痔核硬化療法はすでに100年以上前から行われています。その痔核硬化療法の用いる痔核硬化剤がいろいろ開発され、一番最近に開発されたのがジオンです。

 現在、保険適応がある痔核硬化剤は、このジオンともう一つ随分昔からあるパオスクレ―

5%フェノール・アーモンドオイル)があります。
 パオスクレ―はとても良い、効果のある硬化剤です。ですが、なかなか肛門科の先生でも使うところが少ないです。とても良い痔核硬化剤なのになぜかなあと不思議に感じています。もっと広く普及してくれれば、出血など内痔核で悩んでいる患者さんを治すことが出来るのになあと思います。

 さて今日は、1979年、今から44年前に祖父が書いた論文をもとに、痔核硬化療法についてお話ししたいと思います。

 はじめに祖父はこんなことを冒頭に「一般に肛門疾患の患者は、その疾患の性質上、自らいわゆる保存療法を繰り返し行っても効果の認められぬ場合に、やむをえず外科、あるいは肛門科を訪れることが多く、」と書いています。今は随分変わっては来ていますが、まだまだ肛門科の敷居は高いようです。

 さて祖父は大正145月から昭和64月まで大阪の肛門科・加藤医院で痔核硬化療法の指導を受けました。大正14年というと98年前です。この時代にはもうすでに痔核硬化療法は確立していました。使っていた痔核硬化剤も今のパオスクレ―やジオンではありません。

 少し脱線しますが、内痔核に対しての輪ゴム結紮法に関して少し祖父が触れていました。「McGiveneyのゴム輪結紮器を用いての結紮法は、一時期施行したこともあるが、適応となる痔核が少なく、時として出血をみた例があり、現在ではほとんど施行していない」と書いてありました。私も同意見です。患者さんに聞くと、「肛門科を受診したら、直ぐに輪ゴム結紮法をされた。」とおっしゃる方が多いです。そんなに輪ゴム結紮の適応となる患者さんはいらっしゃらないと思うのですが、不思議です。もし輪ゴム結紮しましょうといわれたら本当に適応があるのかどうか、もう一度医師に確認してくださいね。場合によってはセカンドオピニオンをされた方がいいと思います。

さて、話を戻します。

 祖父は昭和6年に京都で開業して以来、第1度の内痔核には前例、第2度の内痔核の大半に痔核硬化療法をしていたようです。この際に使用していた痔核硬化剤はマグネシン(マグネシウム4g100mlのグリセリンに懸濁させたもの)を使っていました。しかし、戦争が始まって戦局が苛烈なものになるにつれてマグネシウムが入手できなくなりました。その時にマグネシウムの代わりに用いたのがヤトコニン(果糖燐酸カルシウム)でした。ヤトコニンをグリセリンに懸濁させたものを使用したそうです。そして入手できた第2燐酸カルシウムのグリセリン懸濁液を作り使用し、マグネシンと同等の効果を得ることが出来ました。この第2燐酸カルシウム・グリセリン懸濁液に関しては、昭和28年、第8回日本直腸肛門病学会で発表しました。

 その頃使っていた硬化剤は第2燐酸カルシウム4gをグリセリン100mlに懸濁させたものです。

 痔核硬化療法の時の注射の仕方ですが、内痔核のやや口側(奥の方)の粘膜下に浅く注射する。1回に1か所約0.3ml3か所。計約1mlを使用して隔日に3回注射するというものでした。必要があればその都度追加をします。

 注射を施行した痔核においては、静脈周囲の線維性結合織の増生が強く、そのために静脈は圧迫されたように裂隙状になり、炎症反応も軽度認められるという組織所見でした。

 特に内痔核第1度の出血に対して最も効果があります。パオスクレ―による痔核硬化療法とほぼ同等の効果を得るとしています。

 このような経過でパオスクレ―(5%フェノール・アーモンドオイル)が保険適応となり、そしてジオンが適応となり、痔核硬化療法の幅が広がりました。

 さて、祖父は次のようなことを言っています。「硬化療法は学問的に裏付けのある、きわめてすぐれた安全な療法であるにも関わらず、まったく普及されていないというのが現状である。」と。

 今、私たちの時代も祖父と同じような状況です。

 新しいジオンに飛びつくのもいいでしょう。でも痔核硬化剤がどのように進歩してきたかを、やっぱり知ってほしいです。そして今以上に普及して多くの患者さんを治療できればと思います。

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