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2021.05.16

医療政策を弱体化させ、コロナパンデミックを招いた新自由主義政策⑤

 今回で最終回です。

 コロナ禍でも変えない国の医療政策

 新型コロナウイルス感染症を経験しても、国の政策は、コロナ以前と変わりなく粛々とすすめられている。新型コロナウイルス感染症の拡大に際して国から出された改革方針のうち、経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)にその傾向が見てとれる。骨太方針では、新型コロナウイルス感染症に対応する入院医療や検査体制の強化を打ち出す一方、コロナ以前に策定した20182019年の骨太方針のうち、とりわけ社会保障分野について「着実に進める」と述べ、これまでの医療政策に変更はないとの立場を表明している。その上で、「新たな日常」や「新しい生活様式」という言葉を頻用し、新型コロナウイルス感染症を梃に従来からの政策目標の実現が目指されている。2020年の骨太方針では医療提供体制の強化が謳われているが、今時の新型コロナウイルス感染対策に過ぎず、抜本的な見直しを図るものではない。病床・人材の確保も謳ったが、新たに病床を増やしたり、医師数を増やしたりするのではなく、今ある病床や医師をやりくりして強化するというものでしかない。

 今国会で「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」と「全世代型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」が審議され可決された。そのうち、医療法改正案で見過ごせないのは外来医療の機能分化の論議である。入院医療における地域医療構想と同様の仕組みを外来医療についても創設するとしている。厚生労働省は「かかりつけ医機能」と「医療資源を重点的に活用する外来を担う医療機関」を定義して各々の必要数を定めようとしている。

 「医療資源を重点的に活用する外来」については、①類型・範囲を明確化(例えば入院前後の外来医療など)、②実施状況について医療機関から報告を求め、実態を把握、③地域の医療関係者等で協議し、地域で基幹的に担う医療機関の明確化、という枠組みが浮上している。今のところ②の外来機能報告の対象から無床診療所は外されているが、かかりつけ医の登録制構想などとともに自由開業制とフリーアクセス制限強化の動きにつながりかねない。

 また、「医療資源を重点的に活用する外来」は、紹介状なしでの大病院受診時の定額負担拡大にも利用されようとしている。これまで対象としていた特定機能病院と200床以上の地域医療支援病院に、200床以上の「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う病院」を加えるというのである。さらに問題なのは、定額負担(5000円)に「一定額(試算例としては2000円を例示)」を上乗せする方法として、初・再診料を保険給付から除外してその分を患者から直接徴収させようという提案がされていることである。これまでも、180日超入院、一定日数超リハビリなどへの給付削減がなされてきた。これらに続く医療本体部分に対する給付削減である。これらはさらに患者のフリーアクセスを阻害するものとなる。

 さらに、健康保険法の改正案では、75歳以上の窓口負担について、すでに3割負担の現役並み所得層を除いて、年収200万円以上(平均的収入でもらう年金額、370万人=75歳以上の23%)の75歳以上の高齢者は2割化するという。窓口負担の2倍化である。これによって外来で平均年3.1万円の負担増となってしまう。コロナ禍での受診控えでの健康悪化も続く中での高齢者の負担増は、更なる追い打ちをかけることになる。このようにこれら二つの法案も廃案にしなければならない。

 新自由主義政治から決別を

  アベノミクスは株価を底上げし大企業の内部留保を積み上げてきた。しかし、賃上げや格差是正にはつながっていない。統計上の雇用は増えたが、多くは非正規雇用であり(全労働者の約38%、男性労働者の22.3%、女性労働者の56.4%)、コロナ禍で真っ先に雇い止めにされたのはその非正規雇用の人たちであった。自殺者数は7月以降4カ月連続で増加し、10月は前年同月比約40%増の2153人(警察庁速報)となった。中でも女性の増え方が目立っており、コロナ禍の経済悪化が直接・間接に社会的に弱い立場の人々を追い込んでいる。

 コロナ禍で新自由主義の破綻を認める論調が多くみられるようになった。かつて新自由主義を唱えた野党第1党の代表も「新自由主義から脱却し、支え合いや分かち合いを大切にする政治を目指すべき」と政権との対立軸を明確に示すに至っている。私たちはこのような状況の中にいるからこそ、コロナ後の医療・社会保障制度の在り方の基盤として、公的な社会保障でこの国に暮らすすべての人の生命と健康を守る国、新しい福祉国家をつくる構想が極めて重要となっている。京都府保険医協会と心ある研究者によって作り上げた「社会保障基本法 2011」は、健康に生きる権利は人間の尊厳に値する生活保障の基本であり、「国は医療保障の他、公衆衛生、食の安全、就業環境の安全、居住環境の整備・保全などへの十分な責務を果たさねばならない」と明確に謳っている。コロナ後の世界と日本の国の姿を見据え、私たち医師団体が問われている課題は大きい。いまこそ新自由主義政治から決別しなければならない。

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