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2021.05.16

医療政策を弱体化させ、コロナパンデミックを招いた新自由主義政策③

 地域医療構想の矛盾 

 2019年926日、厚生労働省は地域医療構想の実現に向けて「再編・統合の必要がある公立・公的病院」424病院のリストを公表した。これは、全都道府県が策定した地域医療構想の達成に向けて、まずは国がコントロールしやすい公立・公的病院を再編・統合させようとするものであった。この公表内容を医療界や自治体は激しく批判した。それに対して、厚労省は、混乱を招いたことについての手続き的な問題は認めたものの、地域医療構想達成のための公立・公的病院の在り方を再検証させるという方針は撤回していない。それどころか、2020117日に「公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証等について」という通知を都道府県知事宛に発出し、再編統合を求める公立・公的医療機関リストと、さらに民間医療機関リストまで添えて対象医療機関の再編・統合を迫まってきた。

 地域医療構想における「必要病床数」は、国が一律の計算式で弾き出した医療需要推計で、全国統一の算定式を使って導き出されたものである。形式上、都道府県が策定していることになっているが、実際は国の政策的意図に沿ったものである。医療需要は過去のレセプトデータを用いたもので、新型コロナウイルスのパンデミックなどを想定しない病床数である。コロナ以後の地域医療構想は無効化したといえる。さらに地域医療構想の土台である都道府県が6年に一度策定する医療計画も見直しが必要である。

 全国一律の計算式で算出した基準病床数においては、感染症病床についても人口比に応じて一律に病床数が定められている。京都府の感染症病床は38床、結核と合わせても188床に過ぎない。一方の感染症法は、指定感染症に感染した患者の例外なき隔離を定めている。そのため不足は当然起こるべくして起こった。その結果、本来は感染症患者の受け入れを想定していなかった一般病床への受け入れがなし崩し的に行われた。今や、コロナ以前の医療需要推計、必要病床数、基準病床数はすべて無効になった。医療計画上の感染症病床の配置基準や一般病床の指定基準の見直しは急務である。

 医師数政策も同様である。国は全都道府県に医師確保計画を2020年に策定させた。同計画は、医師偏在指標、診療所医師については外来医師偏在指標を用いて、全ての都道府県と二次医療圏を「医師多数区域」「医師少数区域」「どちらでもない区域」に色分けし、多数区域における他区域からの医師確保や開業の規制を行うことで、地域間の医師数を「フラット化」しようとするものである。一人当たり医療費の地域差を解消する仕組みづくりである。そこには医師の数が多いから医療費がかさむという発想がある。偏在指標に使われた医療需要は地域医療構想と同様の手法で導き出されており、当然ながら新興感染症の拡大などまったく想定しないものであった。

 コロナ禍の医療の逼迫

 医師数削減、医師養成の抑制、看護師不足の放置もコロナ禍の医療の逼迫に影響している。日本の人口千人当たり医師数は2.4人(OECD(経済協力開発機構)の加盟国平均は3.5人)である。OECD平均まで、約14万人の養成が必要である。G7のなかで日本の人口あたり医師数は最低である。1982年からの「将来は医師過剰時代」として、医学部の入学定員が抑制され、定員削減が2008年まで続いたことも影響している。

 このように、新型コロナウイルス感染症は、医師などの削減政策によって医療現場のマンパワー不足を露呈させた。感染拡大で危惧される「医療崩壊」とは、陽性者の増加に対して、受け入れる病院・病床や医師・看護師ら医療スタッフが不足し、対応不能となる事態を指す。新興感染症の危機と隣あわせであるにもかかわらず、それが現実となったときの備えがなされていなかった。そればかりか効率性だけを重視し、一貫して病床数・医療スタッフ数を抑制し続けてきたことの結果が今回の医療崩壊の危機をもたらした。

 これまでの国の医師政策は、医師数だけでなく医師の働き方さえコントロールしようとするものであった。外来医師の開業規制と並行して国が着々と準備してきたのが「かかりつけ医登録制」である。あらかじめ患者をかかりつけ医に登録させ、専門科受診や入院はかかりつけ医を通して行わせる仕組みであり、フリーアクセスと自由開業の制限をねらったものであった。実際、厚生労働省は、2020年2月18の医療計画の見直しに関する検討会で、地域医療構想と同様の発想で外来医療機関を「かかりつけ医」と「医療資源を重点的に活用する医療機関」に二分し、各々の必要数を定める制度創設に着手した。

 日本医師会の横倉義武当時会長は、2020428日、日本が諸外国に比べて感染者や死亡者数が少ない理由を医療従事者の努力に加え、国民皆保険制度ならではの医療へのアクセスの良さ、人口1000人当たりの急性期病床数の多さにあると述べた。指摘どおり、日本の皆保険体制は単にすべての人が公的な医療保険制度に加入しているだけでなく、皆医療保障、すなわち、必要なとき、必要なだけの医療を保障する仕組みであり、そのことが、初期段階の新型コロナウイルス感染症拡大防止に有効に機能した面はある。

次回は「保健所の機能後退」から始めます。

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