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2020.12.06

新型コロナウイルス感染拡大で見直しが迫られる医療政策 Part5

 今回で5回目、最終回になります。

 皆保険体制、フリーアクセス保障の大切さ

  コロナ以前の医師政策は国が医師コントロールの手段を握り、医師数や医師の働き方さえ構造改革政治に従属させることをねらったものでした。外来医師の開業規制と並行して国が着々と準備してきたのが「かかりつけ医登録制」です。あらかじめ患者をかかりつけ医に登録させ、専門科受診や入院はかかりつけ医を通して行わせる仕組みであり、フリーアクセスと自由開業の制限を兼ね合わせるものでした。
 また厚生労働省は少なくとも、2020年2月18 日の医療計画の見直しに関する検討会時点では、地域医療構想と同様の発想で外来医療機関を「かかりつけ医」と「医療資源を重点的に活用する医療機関」に二分し、各々の必要数を定める制度創設に着手していました。それらの前提にもフリーアクセスの制限や包括払い化の意図がありました。

 当時、 日本医師会の横倉義武会長は 428 日、日本が諸外国に比べて感染者や死亡者数が少ない理由を、医療従事者の努力に加え、国民皆保険制度ならではの医療へのアクセスの良さ、人口 1000 人当たりの急性期病床数の多さがあると述べました。
 この指摘どおり、日本の皆保険体制は単にすべての人が公的な医療保険制度に加入しているだけでなく、皆医療保障、すなわち、必要なとき、必要なだけの医療を保障する仕組みであり、そのことが新型コロナウイルス感染症拡大防止に有効に機能しているものと考えられます。
 即ち感染症拡大を前に、フリーアクセスを前提とした日本の国民皆保険制度の優位性・有効性はあらためて明らかにされたと考えられます。

 厚生労働省も国民健康保険制度における資格証明書が交付された被保険者についても、帰国者・接触者外来においては現物給付を認める旨を通知しました。それ自体は不十分ですが、感染症防止にとっての医療へのアクセスを保障することの重要性を国自身が認めたものといえます。

  新型コロナウイルス感染症を経ても変わらない国政策

 今後、フリーアクセスを認めているから感染症拡大において医療機関が混乱するとか、あるいは公に任せているから PCR検査が進まない。保健所の仕事を民間企業に委託すれば良い、といったような主張が遅かれ早かれ出されないとも限りません。国の政策動向を注視する必要があります。

 この間、新型コロナウイルス感染症の拡大下において、国から放たれた改革方針のうち、経済財政運営と改革の基本方針 2020(骨太方針 2020)には既にその傾向が見てとれます。 骨太方針では、新型コロナウイルス感染症に対応する入院医療や検査体制の強化を打ち出す一方、コロナ以前に策定した 20182019年の骨太方針のうち、とりわけ社会保障分野について「着実に進める」と述べ、これまでの医療政策に変更はないとの立場を表明しています。その上で、「新たな日常」や「新しい生活様式」という言葉を頻用し、新型コロナウイルス感染症を梃に従来からの政策目標の実現が目指されています。

  このように、社会保障分野においては2018年、2019年の骨太方針を着実に進めるといっていることから考えると、2020年の骨太方針に医療提供体制の強化とあるが、新型コロナウイルス感染拡大に対しての強化であり、国が、これまでの医療提供体制改革を新型コロナウイルスの感染拡大を経験して、もう一度見直し強化するものではないとみれます。
 病床・人材の確保とありますが、新たに病床を増やしたり、医師数を増やすのではなく、今ある病床や医師をやりくりして強化するというものではないかと考えます。今後国の打ち出してくる具体的な内容に対して注視が必要です。

 私たちはこのような状況の中にいるからこそ、コロナ後の医療・社会保障制度の在り方の基盤として、公的な社会保障でこの国に暮らすすべての人の生命と健康を守る国、新しい福祉国家をつくる構想が極めて重要となっています。
 協会と心ある研究者の方々によって作り上げた「社会保障基本法 2011」は、健康に生きる権利は人間の尊厳に値する生活保障の基本であり、「国は医療保障の他、公衆衛生、食の安全、就業環境の安全、居住環境の整備・保全などへの十分な責務を果たさねばならない」と明確に謳っています。
 コロナ後の世界と日本の国の姿を見据え、私たち医師団体が問われている課題は大きいと言えます。

防疫だけでなく多様な視点から政策を考える必要性

 コロナ禍は人々の心を脅かし、その思想・行動にも負の影響を与えています。「自粛警察」と呼ばれる恫喝行為が拡大する様は、関東大震災時の自警団をも想起させます。一方、 感染者に対する誹謗・中傷、県境をまたいで従事する人たちやその子どもたちへの差別、医療従事者への差別等はウイルス感染同様、あるいはそれ以上の社会的脅威と言わなければなりません。
 コロナ以前から日本では差別や優生思想の台頭が問題となってきました。生活保護バッシング、終末期医療の否定、障害者差別、とりわけ在日コリアや中国系の人たちに対する排外主義の高まりが社会問題化する中で、日本はコロナ禍に見舞われました。
 社会的不安が増大すると排外主義が強まるのは歴史の常であり、これからも続く新興感染症とのたたかいはこうした潮流との闘いでもあります。

 コロナ対策を「防疫の観点から捉えるだけでなく、政治的・経済的・思想的・文化的な視点から同時並行で捉えること」が、国や自治体のみならず、私たち自身にも求められています。

 今私たちは、新型コロナウイルスの感染拡大の中、私たち自身の本質、生き方が問われています。国や自治体も同様です。国や自治体が出してくる政策に、国や自治体の本質が問われています。私たちがまわりの人々を優しさで包み込む、思いやりを持ち続けて生きていけるかが問われています。
 新型コロナウイルス感染拡大以上に私たちの心の中に潜む「人々の心を蝕むウイルス」の感染拡大が広がっている中、新型コロナウイルス、「人々の心を蝕むウイルス」のいずれに対しても打ち勝たなければなりません。

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