今回は第3回目です。
新興感染症に対峙できる公衆衛生政策の実現へ
新型コロナウイルス感染症は日本の感染症対策の弱点と限界を明らかにしました。 日本においては保健所が感染症対策の中核に位置付けられています。根拠法は地域保健法ならびに感染症法です。保健所は「公衆衛生に精通した医師」を司令塔に、パンデミックに際しては、疫学調査・防疫措置、住民への情報提供、保健指導の最前線に立つとしています。ただこのことに関しては、公衆衛生の充実を求めるために、「公衆衛生行政の充実を求める京都実行委員会」を立ち上げましたが、その実行委員会において、京都市の職員に聞く限りでは、医師を司令塔にして保健所が機能しているかは疑問があります。
保健所に関しては1994 年の保健所法改正、地域保健法への移行を境に、保健所数は減少の一途をたどってきました。これは保健所設置の基準が人口10 万人に1カ所から、二次医療圏単位に1カ所となったことによります。
保健所の数を減らす政策が採られた理由として、大きく2つのことが挙げられます。
1つは保健所の役割の変更です。地域保健法には新たに市町村保健センターが位置付けられました。それ以降、保健所が企画・調整業務、そして保健センターが身近な対人援助を中心とした保健サービスを担うこととなりました。
2つめは地方分権改革です。1996 年、地方分権推進委員会は3月の中間報告において、必置規制を解除する対象例に「保健所・児童相談所・福祉事務所」を挙げていました。さらに保健所長の要件から医師資格を外すことも提言していました。その結果、必置規制は残りましたが、保健所の数は減少、保健所長の医師資格要件は「原則」化されました。
しかし指定感染症に関する行政検査に保健所が関与することは必須です。保健所設置数・人員数ともに大きく減らされた状況は、PCR 検査実施の足枷となっています。 政令市である京都市は保健所が必置ですが、かつて行政区に1カ所設置していた保健所を一カ所に統合し、地域密着で地区医師会とともに住民の生命・健康を守ってきた機能を後退させてきました。その結果、住民への保健指導どころか、帰国者・接触者相談 センター(それすら民間企業委託である)に電話すらつながらないという問題を引き起 こしていました。
このように、国は永きにわたり保健所の役割を過小評価してきました。それは新興感染症の脅威に対する過小評価でもありました。もとより保健所は、感染症以外にも高齢者、精神、難病、食中毒等、様々な役割を担う機関であり、求められているのは府市民に寄り添い、アウトリーチで健康課題の解決を図る機能です。今後も新興感染症流行が予想されるにもかかわらず、感染症対策を都道府県・保健所にまる投げし、国が何の責任も負わない現状のままで良いとは考えられません。協会は国立感染症研究所や地方衛生研究所の在り方も含め、国が責任を持つ感染症対策の在り方を提言すべく準備中です。