前回の続きを紹介します。
感染症対策における公の役割を問う提言
これまでに京都府保険医協会は感染症対策における公の役割を問う4つの提言を出してきました。
第1次提言
第1次提言は3月25日に出しました。主に入院医療に関しての提言でした。
第1次提言では、まず、「COVID-19に対する医療提供体制確立の目的は、死亡者を減らすこと、同時に人々の不安感を軽減することを1番に掲げました。そして、「感染症対策加算Ⅰ」という施設基準を届けている33入院医療機関を中心にネットワークを構築して空床確保など、新型コロナウイルス感染に対応していくものとしました。また、重症者以外の入院は急性期病床、地域包括ケア病床など病態に応じた適切な施設で対応することも上げました。また対応する医療機関や施設に対して、国や自治体の経済的なバックアップや施設基準の弾力的な運用等も求めました。また、医療者の健康を保護し、モチベーションを維持し、医療提供体制を維持し、守るために、マスクや、消毒液などの感染防護装備の緊急確保を求めました。そして、ワクチンや治療薬の早急な開発、供給を求めました。さらに最後に、第1次提言から、感染症拡大の中で起こりうる差別や人権侵害の防止のための施策を求めました。
第2次提言
第2次提言は4月16日に出しました。第2次提言では外来機能に関しての提言が主で、特に公的な責任で発熱外来を設置することを求めました。
提言の中でまず一番に国に求めたことは、「コロナ以前」からの政策検討は一旦ストップし、COVID-19 対策に注力するよう求めた。コロナ禍において、国民や市民の命と健康、そして生活を守るために必要な課題が明らかになってきた。しかし、国はこのような中、以前として、コロナ以前の医療政策、社会保障計画を進めている。一端立ち止まり、本当に今まで進めてきた政策が正しかったのかをしっかり検証する必要がある。そして新たな政策を打ち出す必要がある。このことをまず求めました。
そして、京都府に求めたことは、
①医療機関が COVID-19 対応に注力できる支援を
②新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる入院医療体制の強化を
③緊急に PCR・抗体検査にも対応する発熱外来設置、保健所機能の活用・拡充を④地域医療を支える医療機関を守る取組を
⑤府民の生命を守るガイドラインの整備を
特に協会が求めているのは公的な責任で発熱外来を設置することでした。
そこには、京都府、京都市の本庁内に、医師等専門職を含めた対策検討チームを常設し、同様のものを地域の保健所にも設置する必要があること。
そして、保健所には、その敷地内に発熱外来を臨時で設置し、地区医師会の協力を得て開 業医・病院勤務医による輪番診療にしてはどうか。なお、京都府は、帰国者・接触者外来を30カ所から5月中旬までに40カ所に拡充する方針を示していましたが、当会としては帰国者・接触者外来を上記の発熱外来に切り替え、ここを拠点にPCRや抗体検査などによって新型コロナ感染の可否を判別して通常の医療提供体制につなげるべきであると考える。
といった提言でした。
第3次提言
第3次提言は、4月30日に出しました。
第3次提言は、京都府が、PCR検査の迅速化・拡大に向けて「京都検査センター」の設置を決め、これに対しての意見でした。京都府は「京都検査センター」を府内に5か所設置するとしましたが、協会としては京都市内は行政区単位、そのほかは二次医療圏単位での設置を求め、再度公的な発熱外来の設置についても求めました。
第4次提言
そして、8月17日に第4次提言を打ち出しました。
第4次提言は、今後のさらなる感染拡大を見据え、外来・検査、保健所の在り方、入院等の医療体制の抜本的拡充を提案しています。 外来・検査体制について、秋冬の季節性インフルエンザとの同時流行を視野に、公的な発熱外来を設置し、新型コロナウイルス、季節性インフルエンザのいずれにも対応できる検査可能な体制を整備するよう提案。同時に京都府と契約し、PCR 検査を担う医療機関に対しても、万全の感染防御態勢がとれるよう、医療資機材の確実な提供を求めました。 保健所については、公的発熱外来設置の主体者となるとともに、地区医師会と連携して保健所医師・保健師はじめスタッフが分担する地域の感染防止策、住民の心構え、感染した場合の医療へのアクセス、濃厚接触者となった場合の生活面も含めたフォロー等、正しい情報を提供し、府民の不安に寄り添った取組を求めました。入院医療体制について、感染症病床を持つ基幹病院であっても、院内感染・クラスター発生が起こり得ることを前提に、地域医療構想調整会議の枠組みも活用し、病院群ネットワークを立ち上げ、治療方法も含めた情報の共有、医療提供体制上の役割分担の推進等を、医療機関参加型で組織的に行えるよう求めています。そして、社会問題化している差別、誹謗・中傷の防止に向け、国・自治体が必要な正しい情報を発信するリスクコミュニケーションの強化を、保健所機能の充実と一体的に求めました。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックについて、WHO は「リスクコミュニケーシ ョン及び地域社会への積極的な働きかけの準備とコロナウイルス疾患( COVID-19)への 対応」(2020 年3月 19 日)なる暫定ガイダンスを示しています。ガイダンスは冒頭「公衆衛生上の対応において最も重要かつ効果的な介入の1つは、予見的かつ積極的に情報を伝達することである」こと、そのことが「インフォデミックを防ぐことに役立ち、適切な行動への信頼を構築し、健康に関する助言に従う割合を高める」と述べています。つまり、未曽有のパンデミックの渦中にあって、府民の誰しもが感染拡大予防に努め、なおかつ生きるための日常生活を人間らしく営むためには、常に行政が正しい情報を公開し対話することが必要だということです。
私たちは、その取組が差別やいじめの根底にある不安と恐怖、その源泉と思しき感染症に対する非科学的な態度や無理解から人々を解放するのに役立つものと考えています。
今、自分や家族が感染した場合にどのような形で治療を受けるのか、軽症・ 中等症・重症、それぞれの場合、どのような場所に隔離されることを求められるか。濃厚接触者となった場合にどのような生活上のフォローが行政からなされるか。それらのことを正確に説明できる人がどれだけいるでしょうか。未知である、わからない、という不安・恐怖の渦の内に、人々は置き去りにされているのではないでしょうか。したがって今、感染症対策を主導する主体である国・地方自治体に求められている重要な任務の一つとして、リスクコミュニケーション策の意識的・戦略的展開が必要です。