11月に入って、グッと冷え込んできました。渡邉医院の玄関のハナミズキはだいぶ赤く色づいてきました。でも、中庭の紅葉はまだまだです。街の木々も色づいては来ていますが、紅葉の見ごろは次の連休かなあと思います。
外科的治療が必要な患者さんには最適な治療方法を提案する。
さて、今回は内痔核に対しての手術をする際の、手術方法の選択について少しお話したいと思います。
先日、受診された新患の患者さんの中に、問診表の自由記載欄に、「手術をしないで治したい。」とありました。患者も、内痔核をしっかり治したいという気持ちがあり、その決心で受診されていました。患者さんの思いとしては、痔核根治術ではなく、ジオンという痔核硬化剤での痔核硬化療法、ALTA療法を希望されていたのだと思います。
診察してみると、排便時に内痔核が脱出してきて、押し込まないと戻らない第Ⅲ度の内痔核でした。第Ⅲ度以上の内痔核になりますと、やはりスッキリ治すのには外科的な治療が必要になります。内痔核に対しての外科的治療には大きく三つあります。痔核根治術、ALTA療法、そして輪ゴム結紮法です。これらの中から、患者さんの内痔核を治すのに最適な治療法を選択しなければなりません。
受診された患者さんの内痔核の状態を診ると、内痔核だけではなく、肛門上皮の部分の外痔核成分も大きく脱出してくるタイプの内痔核でした。外痔核成分の脱出、肛門上皮部分の脱出がある内痔核はやはり痔核根治術の適応になります。ALTA療法や、ましてや輪ゴム結紮法の適応にはなりません。
そこで、患者さんには痔核根治術はどのようにするのか、また痔核根治術を行った際に起きること、例えば、術後の出血などについて話をします。また術後の痛み、排便時の痛みがどのくらい続くのか。また術後の入院期間、外来受診の間隔などをお話ししました。そして、もう一つALTA療法の場合はどのように痔核硬化療法を行うのか、また痛みなどのこと、また通院の仕方などをお話しました。そのうえで、今ある内痔核に対してスッキリ治すのには痔核根治術を行うことがベストであることをお話して、それでも最後は患者さんに決めていただきました。患者さんは痔核根治術を選択されました。
患者さんにとっては、やはり痛みが少ない治療方法を求められます。しかし、その一方でやっぱり、内痔核をしっかり治してしまいたいという気持ちも持っています。そんな場合は、今ある内痔核の状態を説明して、またそれに対しての治療方法や、それぞれの治療方法のメリットデメリットを説明して、最善の方法を私たち医師は示し、患者さんに選択してもらわなければならないと思います。
さて、痔核根治術、ALTA療法、輪ゴム結紮法ですが、やはり痔核根治術はどんな内痔核に対してもしっかり治すことが出来るオールマイティーな手術方法です。痔核根治術がしっかりできるということが肛門科医の基本です。その基本の上にALTA療法や輪ゴム結紮法があります。ALTA療法や輪ゴム結紮法はしっかりと内痔核の性状を診断して適応があるかどうかを決めなければなりません。これらの治療方法は万能な治療方法ではありません。安易に行うと内痔核が治らないばかりか、悪化してしまうこともあります。ALTA療法の適応は、大まかに言うと、内痔核部分の腫脹が強く、肛門上皮や外痔核成分が少ないものが適応になります。症状でいうと、出血が多い内痔核です。これに対して適応にならない内痔核は、反対に内痔核成分が少なく、外痔核成分や肛門上皮の脱出が多い内痔核です。症状でいうと出血よりは痛みが伴う内痔核の場合です。
また輪ゴム結紮法になるともっとALTA療法よりも適応が狭まります。ALTA療法と同じように内痔核の主張が強く、そして輪ゴムをかけようとする内痔核の大きさが輪ゴム結紮器の輪の中に入る大きさであること。大きい内痔核はその輪の中に入らないため輪ゴムが欠けられません。また肛門上皮に輪ゴムがかかると痛みが強く出てしまいます。また、その肛門上皮に輪ゴムがかかってしまうと、その外側の外痔核部分が腫れてしまったり、輪ゴムが壊死脱落したあとに肛門上皮に潰瘍を作り、深い裂肛様になってしまうことがあります。この様に輪ゴムをかけることはとても簡単です。でも適応を間違えると痛みが出たり、治らなかったり、別の病気(外痔核の腫脹や肛門上皮の潰瘍形成など)を作ってしまいいます。そのことは患者さんを不幸にしてしまうことになってしまいます。
私たち肛門科医は患者さんの内痔核の性状、状態をしっかり診断して治療法を選択していかなければなりません。自分が出来る手術をするのではなく、患者さんに必要な手術をすることが大事です。そしてそのためには、肛門科医の最も基本的で、そして最も大切な、どんな内痔核にでも対応できるオールマイティーな治療方法、痔核根治術は必ずマスターしておかなければなりません。痔核根治術が出来ない肛門科医は肛門科医ではないといっても言い過ぎではないと思います。