前回は、内肛門括約筋と外肛門括約筋の役割の違いについてお話しました。今回は、肛門の血管についてお話しようと思います。
肛門管に行く動脈は、腹大動脈から下腸間膜動脈に枝分かれします。その下腸間膜動脈からさらに左結腸動脈、上直腸動脈に分かれていきます。この上直腸動脈が三本にさらに枝分かれしていきます。通常は左右の2枝にさらに分かれていきます。そして右枝はさらに前後に枝分かれしていきます。右枝は肛門管の7時と11時(右後ろと右前)の方向に、左枝は3時(左)の方向に流れていきます。この3方向に枝分かれしていくので、どんどん血液が流れ込んでくるので、この3時、7時、11時の方向に内痔核ができやすくなります。
また、総腸骨静脈から内腸骨動脈に枝分かれして、内腸骨動脈から分かれた中直腸動脈は肛門挙筋を通り直腸の壁と肛門管の上部を支配します。また、内腸骨動脈から枝分かれした下直腸動脈は坐骨直腸窩を通り肛門管の筋肉や肛門の皮膚に分布します。
医学書院の図が解りやすいので引用させてもらっています。
血管の走行と痔核根治術
内痔核に対して痔核根治術をする場合、肛門の外側から剥離して肛門管内の肛門上皮を剥離していきます。その時、肛門管内に剥離が進んだ時、動脈性の出血をすることがあります。これは下直腸動脈からの動脈の枝からの出血です。ただ、バイポーラという凝固止血器での凝固止血で十分に止血できる程度の出血です。さらに剥離を進めて、内痔核の根部、この根部が上直腸動脈が枝分かれした動脈ですが、この部分はしっかりと糸で結紮して止血する必要があります。この部分は凝固止血では無理な部分です。またこの内痔核に流れ込む上直腸動脈を結紮した部分から術後7~10日目の晩期出血が起きます。術後3時間後までに起きる早期出血の多くは下直腸動脈からの分祀した動脈からの出血で、これに対しては凝固止血で十分に止血可能です。
このように手術の際は血管の走行などをイメージして、確認しながら手術をすることになります。上直腸動脈からの枝分かれした動脈は、指で触ると、その動脈の拍動が触れ、動脈の走行を確認することが出来ます。痔核根治術の方法に、まずはこの動脈の拍動を確認してまずはその動脈を糸で得結紮してから剥離を始める方法もあります。
私はあらかじめ動脈を糸で結紮せず、剥離していき、か直腸動脈の枝分かれした動脈の出血はバイポーラで凝固止血しながら内痔核の根部まで剥離して最後に、根部の上直腸動脈を結紮して内痔核を切除します。
血管の走行とALTA療法
ジオンという痔核硬化剤での四段階注射法による痔核硬化療法(ALTA療法)においても、この動脈の走行が重要になってきます。
ALTA療法の四段階とはまず第一段階では内痔核の上極に注射します。これは上直腸動脈からの血流を遮断する目的があります。第二段階は、中直腸動脈領域の血流を遮断、第四段階は下直腸動脈からの血流を遮断する。そういった意味合いがあります。第三段階は内痔核そのものの静脈瘤に対しての注射です。このようにALTA療法はそれぞれの段階での意味がしっかりあります。したがってALTA療法を行う時はこの四段階注射法を遵守して行う必要があります。
前回の肛門の括約筋などの筋肉の役割、そして肛門に伸びる血管の走行をしっかりイメージすることが、手術や痔核硬化療法には重要となっていきます。