7月も後半を迎え、明日からは4連休になります。新型コロナウイルスの感染が再拡大をしている中、今日からGo Toキャンペーンが始まりました。それぞれの立場で、色々戸惑いがあると思います。でも今私たちが一番に考えなければならないのは、新型コロナウイルスの感染をこれ以上拡大させないことだと思います。それに向けた行動をしっかりしていかなければならないと思います。
さて、こんな質問がありました。「内痔核は100%切除できますか?」という質問です。
この質問はおそらく、「今ある嫌な症状を、手術することでスッキリ取り除くことが出来ますか?」だと思います。
手術をしなければならないということは、これまで長い間お尻の具合が悪いのを我慢していた。そして具合の悪いのをずっと悩んでおられたのだと思います。
治そうと決心した時、やはり手術をすることで、これまで悩んでいた嫌な症状がスッキリなくなって欲しい。もう悩まなくて済むようになりたい。こんな思いで「100%切除することができますか?」という質問になるのだと思います。
でもこの「100%」の手術が100%できるか。このことはとても難しい投げかけです。
患者さんは100%治して欲しい。そして私たち肛門科医も100%治したい。そんな強い気持ちで治療に臨みます。
手術で治す。人の体にメスを入れて治していく。そこにはいろんなことが起こってきます。例えば、術前の診察以外に症状が加わる。内痔核であれば術前の診察した時以上に手術時に麻酔をかけたら腫れてくる。また、術前では腫れてこなかったところが少し腫れてくる。また麻酔をかけることで、予定していた部分以外にも少し腫れが出てくる。など、手術をする前にしっかり診断しておかなければならないのですが、どうしても手術をする際に術前の診察での診断とは違った状態が目の前に現れることがあります。
このような場合、麻酔をかけたために腫れてきただけで、その部分は切除しなくてもいいものなのか、またはこの部分もしっかりと切除しなければならないのか。そこを判断しなければなりません。とても難しい判断になります。
肛門の手術の場合、悪いところを取り除くを一番に優先してしまうと、手術の後の肛門の機能に影響が出てきます。毎日、気持ちよく排便できるというとても大切な機能を保つように手術をしなければなりません。できれば肛門にあまり大きな侵襲を加えることなく治していきたいという気持ちと、スッキリ取り除きたいという気持ち、この矛盾する二つのことを両立させなければいけない。ここに肛門の手術の難しさがあります。これにはやはり経験がものを言ってきます。
やはり、十分に肛門の機能を残し、柔らかく肛門が治っていくようにすることを心がけながら、患者さんのこれまで悩んでこられた嫌な症状をしっかり治す。このことを考えて手術をしていきます。
また、内痔核の場合、思い通りにスッキリ切除できたと思っても、術後に肛門の外側の外痔核部分が腫れてしまい、この腫れが治まった後に皮垂が出来て、その皮垂がまた患者さんの嫌な症状となり悩みの種にしてしまうことがあります。以前にもブログで紹介しましたが、手術後の皮垂が起きないように、術後の腫れを起こさないように手術をするのですがそれでもどうしても術後の腫れから皮垂になることは避けられません。その時は再度皮垂を切除することもあります。
このように人の体にメスを入れて治すということする以上、やはり様々なことが起きてきます。そういったことを考えると、「100%切除できますか?」という質問に明確に「100%切除することが出来ます。」と答えられないところがあります。
少し話は変わりますが、以前大学病院にいた頃先輩にこんなことを言われました。
「自分の持っている力を100%出してする手術はするな。80%で余裕をもって手術をしろ。そしてその80%でできる手術の質や技術力を高めろ。」と。
100%で目いっぱいの手術をすると、そこに何か予期せぬことが起きた場合、やはり余裕がなくなってしまいます。少し余力を残しながら、余裕をもって手術に臨むことで、何か起きた場合にも柔軟に対応できる、そんな余裕が生まれます。そして、この余裕をもってできる手術の質や技術を向上させることで、より良い手術ができるようになるんだと思います。そしてそのことが患者さんにとっても、術後に良好な経過や結果をもたらすことになると思います。