Twitterでの相談の中で、とても大切な指摘を受けました。私も以前から思っていたことですが、技術の進歩はだれのためにあるのかということです。やはりそれは患者さんのためにあると思います。患者さんの病気を的確に診断して、その病気をしっかり治すにはどんな治療が必要で、どの手術が最適なのかを判断して提供する。そのことが一番大切なことだと思います。
何故このようなことをお話するかというと、Twitterでの相談でも、その内容は日帰り手術は本当に患者さんのためなのか?という趣旨だと私は受け止めました。
こんな相談でした。「日帰り手術を押している医療機関の中には、ネットで見ると輪ゴム結紮の適応ではなくても手術をされ、痛みが出ている方がおられるような気がします。ネットではいろんな情報が飛び交っていて、困っています。」私もこういうケースはあると思います。様々な情報がネット上では溢れかえっています。そのような中、ネットから正しい情報を得るということはとても難しくなっているのではないかと思います。
さて、「入院しなくても日帰り手術で治療しています。」という宣伝を良く目にします。この時に私が抱く疑問は、日帰り手術でできる手術を行っているのか?それとも患者さんが必要とする手術を行って、しかも日帰りでできるのか?です。
先ほどの相談にあるように、輪ゴム結紮の適応がないのに輪ゴム結紮を行うと、痛みがでるばかりではなく、内痔核が治らず、かえって悪化してしまうこともあります。また適切に輪ゴム結紮が行わなければ、深く潰瘍を作りそこから動脈性の出血を起こす可能性もあります。
やはり患者さんの内痔核が輪ゴム結紮法の適応であるかどうかを正しく診断して、そして適応があるならば正しく輪ゴム結紮を行う必要があります。
ではなぜ輪ゴム結紮をしてしまうのかを私なりに考えてみました。
おそらく内痔核に輪ゴムをかけるだけなので、輪ゴム結紮に要する時間はほんの数秒です。感じとしてはこんな感じです。「では今から輪ゴムをかけますよう。いきますよ。」でパチンと輪ゴムをかけると終わります。
また、輪ゴムをかけるだけなので、傷が出来ません。ですから当面の間は術後の出血が起き、止血処置をすることが無いというところにもあるのかなあと思います。当面の間とは、やはり内痔核に輪ゴムをかけ、内痔核が壊死して脱落していくのですが、その時に出血を起こす可能性があります。以前、他院で輪ゴム結紮を受けられて、動脈からの出血があり、止血処置をしたこともあります。また肛門科の先生方との懇談会の時、輪ゴム結紮後に動脈からの出血があり、一時出血によって心肺停止状態になった患者さんを治療した経験があるといった話を聞くこともあります。決して輪ゴム結紮法は出血しないという術式ではありません。でも輪ゴム結紮は短時間で手術が終わり、当面の間、止血処置をしなければならないことがないということから、安易に行われてしまうのかなあと思います。でもこれはとても怖いことです。やはりその患者さんの持つ内痔核が輪ゴム結紮法でしっかりと治すことが出来るかを真摯に判断して、適応がなければ他の手術方法に変更する。また、必要とするほかの手術を自分で行うことができないのであれば、しっかり手術をして治してくれる専門医に紹介するなどが必要です。そしてこのことが患者さんにとってはとても大切なことだと思います。
日帰り手術とは医療機関側の都合ではなく、患者さんにとってどうかをしっかり判断しなければなりません。
さて、渡邉医院でも日帰りの手術をします。
日帰り手術で大切なところは何かというと、まずはその患者さんの内痔核をしっかり治すための手術を日帰りでできるかです。
日帰り手術を可能にするのには二つのことが大事になります。
一つは術後の出血をしっかりコントロールできるかです。
手術が終わって帰宅した後、出血してまた直ぐに受診してもらうことが無いように手術ができるか。帰宅した後の出血が無いようにするには、術後どのくらいの時間、診療所で安静にしてもらってから帰ってもらうのがいいのか。また、帰宅後や外来通院中に止血術を行わなければならない出血が起きた場合に、止血術を行える体制をどう整えるかなどが大切なことこととなります。手術をしてもやりっぱなし。出血しても患者さんが医師と連絡が取れない。こんな体制では日帰り手術をしてはいけません。
またもう一つは術後の痛みがコントロールできるかです。
術後の痛みが強くて、帰宅するのもやっとの思い。帰宅しても動くこともできない。こんな具合では日帰り手術をしてはいけません。ある程度痛みがあるとしても、自力で帰宅でき、たいていのことは通常通りにできる程度の痛みでなければなりません。このためには術後に痛みが少ない手術はどうしたらいいのかを考えなければなりません。術後に痛みが出る原因は手術中の操作でどこにあるのかなどをしっかり検証して、痛みが少ない手術をする必要があります。
また術後の消炎鎮痛剤をどのように使っていくかも大切なことになります。
このように、その患者さんの持つ内痔核をスッキリ治すの必要な手術を行い、しかも日帰りで手術するということは、術後の出血や術後の疼痛のコントロールをどうするか。また術後の出血などが起きた場合の対応できる体制をしっかりとる等、様々な問題をしっかりクリアして初めて日帰り手術は行えるのだと思っています。