新型コロナウイルスの感染拡大が収束しないなか、激しいが日本を襲い、熊本など甚大な被害を出しています。これ以上被害が広がらないことを願い、早期の復興を願うばかりです。
京都は、今は雨も落ち着いてきています。しばらく梅雨が続きます。気をつけていかなければならないと思います。
さて、そのような状況の中ですが、先日患者さんと話をしながらふと「梅雨」はどうして「梅」何だろうと思いました。梅の花が咲く時期ではないのに。梅の花が咲いた後、梅の実の収穫の時期だからかなあと思い、少し調べてみました。
「梅雨」の語源を調べてみると、「梅の実が熟す頃に降る雨」という意味で、中国の長江の流域では「梅雨」と呼んでいたという説があります。もう一つは「黴(カビ)が生えやすい時期の雨」ということで「黴(バイ)雨」と呼んでいたところ、その「黴」を読み方が同じ「梅(バイ)」の字を使うようになったという説があるそうでです。
「梅雨」という言葉は、江戸時代に日本に伝わってきたそうです。「梅雨」という言葉が伝わる前までは「五月雨」と言っていたようです。「梅雨」バイウと「五月雨」サミダレ。音の響きだけですと、五月雨はなんとなく雨がしとしと降るような印象を受けます。梅雨の音の響きの方が最近の豪雨をイメージしやすいように私は感じます。
もう一つ「梅」を使った言葉があります。「塩梅」です。
「塩梅」の意味を調べると、こんな風に解説されていました。「塩梅とは、料理の味加減や物事の具合、懸鼓状態のことである。程よく物事を処理する、程よく並べる・配置するといった意味でも用いられる。」とありました。また、こんな風にも解説していました。「本来の塩梅の意味は塩と梅酢です。食酢がまだなかった時代に、塩と梅を付けた時にできる梅酢を使って料理の味付けをしていました。塩と梅酢が絶妙なバランスだったことから「料理の加減が良い」と言う意味で塩梅がいいと言ったのが語源です。」とありました。
肛門科的にもこの「塩梅」に深い意味が隠されています。
例えばここ2回、痔瘻に対してのシートン法の治療についてお話してきました。この時にあまり強くシートン法に使う輪ゴムを強く絞めてしまうと痛みが強くなってしまいます。患者さんが痛みを感じない程度に緩く、そしてゆっくりと絞めていかなければなりません。
そんな時に使うのが「いい塩梅で輪ゴムを絞めましょう。」です。この「塩梅」の中にシートン法の肝が隠されています。このシートン法の際の輪ゴムの絞め方の「塩梅」が科学的に数値で表せると、患者さんは皆、痛みなく治していくことが出来ます。
また内痔核の手術をする際にドレナージという傷が内痔核の術後の治りを左右してきます。この時も同じです。「内痔核の手術をする際に、いい塩梅でドレナージを作りましょう。」です。内痔核の手術後、具合よく治っていく傷の大きさや形が、「塩梅」でなく科学的に決まれば、皆が同じようにスッと治っていきます。
この「塩梅」の中にそれぞれの医師のこれまで経験してきた手術や、手術の際の何気ない工夫、技術が豊富に詰め込まれています。このそれぞれの医師が持つ「塩梅」をしっかり検討していくことで、すべての医師が同じように手術ができ、そして手術をした患者さんが同じように治っていくことに繋がるのだと思います。
さて、私が内痔核に対して痔核根治術をする際の「塩梅」を紹介します。
内痔核の手術をする際に、肛門縁と、肛門縁から約3㎝離れたところをそれぞれコッヘルで把持します。そして外側を把持したコッヘルの外側から剥離用のハサミを入れます。このコッヘルを引っ張るようにして、ハサミで切っていくというのではなく、引っ張ることで剥がしとるというイメージで内痔核を剥離していきます。
引っ張ることで皮膚は容易に剥がれ、ところどころに突っ張るところがあるので、そこだけを切っていくと、きれいに内痔核の根部まで剥がれていきます。こうすることで、「切る」のではなく、「剥がす」という操作をすることで出血も少なくて済みます。
また内痔核の根部を結紮した後、肛門上皮の部分を糸で閉鎖していくのですが、この際根部を縛った次の一針目は、根部から少し離れたところ、約1~0.5㎝に糸をかけて縛ります。そうすることで外側の皮膚が中に引き込まれるようになります。この操作を加えることで、術後の腫れが少なく、また皮垂が出来にくくなると考えています。
こういった「塩梅」の中に手術などを行う際に一番大切なことが含まれているんだと思います。