5月も残すところ今日1日です。緊急事態宣言は解除されましたがまだまだ新型コロナウイルスの感染が収束したわけではありません。感染させない、感染しないに心がけて日常の生活を取り戻していきたいと思います。
渡邉医院も緊急事態宣言に合わせて、スタッフの勤務の体勢など変えて対応してきましたが、6月1日からは通常通りの体勢で診療をしていきます。
さて、Twitterなどの相談のなかで、「痔瘻は放っておいたらどんどんわるくなるのですか?」という質問を受けることがあります。放っておくとどんどん痔瘻が悪化して、瘻管がどんどん広がり、膿の出る場所が増えていくと思っている方が多いようです。でもこの答えは、「肛門周囲膿瘍の時の様に腫れてきて痛みが強くなって、それを放っておくと悪くなりますよ。」です。痔瘻は再度腫れてきて痛みが出ることが無ければ膿が出るなどの症状があっても、痔瘻そのものは悪くなっていきません。
このことは、どうして痔瘻になるかを理解していただければ納得してもらえると思います。
痔瘻になるには、まず肛門周囲膿瘍から始まります。いきなり痔瘻にはなりません。
肛門周囲膿瘍は肛門の出口から約2~3センチほど奥まで肛門上皮という部分があります。ここまでを肛門と言います。そしてその奥が直腸です。この肛門と直腸との境目に肛門腺といって分泌液を分泌する腺があります。ここの感染から肛門周囲膿瘍は始まります。
肛門腺の具合が悪く、そこに下痢などが多いのですが、便の状態が悪くて肛門腺に細菌が感染する。おそらく肛門腺の具合が正常でちゃんと分泌液を分泌していれば、最近が入ってきても分泌液が分泌されることで最近を押し出すことができて感染しないのではないかと思います。肛門腺の具合が悪く、そこに細菌感染を起こす。そして忙しかったり疲れていたり、寝不足だったり、自分の抵抗力が落ちていることで感染が広がり膿瘍を形成していく。そして膿瘍はどんどん広がり肛門周囲膿瘍となっていきます。膿瘍腔を形成してしまうと、抗生剤だけでは十分に抑えきれません。局所麻酔をして切開して膿を出す必要があります。
切開して排膿することで痛みはスッと楽になります。何もないところに物が溜まる。このこと自体がとても痛いことです。溜まっているものが出ることで痛みが楽になります。キンキンに腫れていることが痛みに繋がります。
さて、膿が出ることで痛みは楽になります。でも感染を起こした肛門腺はまだあります。またこの部分に感染を起こして膿が体に広がっていくと困ります。そうならないように人間の体は上手くできていて、感染を起こした原因と切開して膿を出した部分との間に硬い管、瘻管を作ります。そうすることで、もし原因となったところに再度感染を起こして膿が出来ても、体に広がっていくことはなく、この瘻管を通って体の外に出すようにしてくれます。
自分の体が、膿が体に広がらないように、自分の体を守るためにこの瘻管を作ってくれます。ですから、痛みが取れた後も、この瘻管の出口から膿が出てくるということは、原因の部分に感染を起こして有無が出来ているが、体に広がらないように瘻管が膿を外に出してくれているということです。
ですから自分が作った瘻管がちゃんとその目的、機能を果たしているということです。ですから、膿が出ていても、自分の体が自分の体を守るために瘻管が機能しているということです。こういった状態では瘻管があちこちに広がって、痔瘻を悪くしていくことは有りません。でも、膿が出たり治まったりする症状がやはり不愉快な症状なので、その症状を取り除くには原因と瘻管を取り除く痔瘻根治術が必要になります。
でも全然焦る必要はありません。「この際もうそろそろしっかり治してしまおう。」と思って、手術をする時間が取れたときにしっかり治せばいいと思います。
では、痔瘻を悪くしないために、早く受診してほしいときは何時かです。それは、瘻管の出口が塞がって(塞がること自体は悪くありません)、しかも原因の部分に再度感染を起こして膿が出来、瘻管を通って外に出ようとしても出口が塞がって出ることができない。大抵の場合は出口のところが破けて膿が出て治まっていくのですが、破けることなく膿が溜まっていく場合は早く受診して、塞がった出口を開けてもらう必要があります。
出口から膿が出ることが出来ずに腫れてくると、自分が作った瘻管の一番弱いところからまた膿が広がっていってしまいます。そうすると、そこにまた新たな瘻管が出来て痔瘻は悪くなっていきます。この場合は、一番最初の肛門周囲膿瘍と同様の症状が出てきます。肛門の腫れと痛みです。この時は早く受診して出口を開けることで、痔瘻は悪くなっていきません。
ただ、こういったことを繰り返したり、また痛みがなくても膿が出たり治まったりするようでしたら時期を見てしっかり痔瘻根治術を受けることをお勧めします。