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2019.07.27

パオスクレーによる痔核硬化療法について

 今日はパオスクレーという痔核硬化剤による痔核硬化療法についてお話したいと思います。
 パオスクレーは内痔核の治療に使う痔核硬化剤です。パオスクレーの内容は、5%フェノール・アーモンドオイルで、アーモンドの油の中に5%の割合でフェノールが入っている注射液です。内痔核の治療に使いますが、特に出血や排便時に内示アックが肛門外に脱出してきても自然に治まる程度の内痔核、第Ⅰ度から第Ⅱ度の内痔核に対して適応があります。ただ、第Ⅲ度の内痔核(排便時に内痔核が脱出して、押し込まないと戻らない)でも比較的小さな内痔核に対しては、有効な場合があります。
 例えば排便時の出血が多かったり、軟膏や座薬などを使っていても症状が良くならない場合など、パオスクレーによる痔核硬化療法が有効です。漫然と軟膏や座薬を使うよりは、痔核硬化療法を行って、スッキリ治す方がいいと思います。
 現在、内痔核に対しての痔核硬化療法ではジオンという痔核硬化剤に注目が集まっていますが、パオスクレーも内痔核の治療にはとてもいい注射液だと思います。
 パオスクレーは1976年の1月から販売されています。もう43年もたちます。43年間長く使われていることは、その有効性、安全性がしっかり確立されているということです。ジオンももう発売から16年がたつと思います。まだまだパオスクレーと比べると歴史は浅いです。
 ただ、パオスクレーは昔から使われて、内痔核の治療にはとても有効です。そして、患者さんに対しての侵襲も少なくとてもいい痔核硬化剤ですが、なかなか知名度が低いです。肛門科を標榜している先生方もパオスクレー自体を知らなかったり、どう使ったらいいのかを知らない先生方も多いと思います。
 もっと多くの先生方が、このパオスクレーの良さを知っていただき、使っていただければ、患者さんにとってもとても利益になると思います。
 今日は、以前渡邉医院で行ったパオスクレーによる痔核硬化療法に関しての効果に関して日本大腸肛門病学会で発表した内容を少し古いですが、論文風にしたものを紹介します。
 内痔核に対してパオスクレーによる痔核硬化療法を広めていければいいなと思います。

「パオスクレーによる痔核硬化療法を施行した431例の検討」

はじめに

内痔核に対して比較的簡便でしかも効果も大きく、また患者に大きな侵襲を与えずに副作用も少ないという利点からPAOによる痔核硬化療法(以下痔核硬化療法)が広く施行されている。当院においても開設当初より痔核硬化療法を施行しており、良好な成績を得ている。一般に痔核硬化療法の適応はGoligher分類の第Ⅰ度及び第Ⅱ度の内痔核である。しかし、第Ⅲ度の内痔核に対して適応を広げるという意見もあり、痔核硬化療法の適応については明確でない点が少なくない。今回、痔核硬化療法試行後の再発例について、その適応や有用性について検討した。

対象と方法

平成6年に当院を受診さた患者のうち、以前に痔核硬化療法を施行し、再発を主訴とする431例を対象とした。

Goligherの分類によって第Ⅲ度以上をA群、脱出を主訴とする第Ⅱ度の内痔核をB群、脱出及び出血を主訴とする第Ⅱ度をC群、出血を主訴とする第Ⅰ度をD群と4群に分類し、1)再発までの期間、2)再発時の痔核の程度、3)再発時の治療法について比較検討した。

当院での痔核硬化療法の方法は、5Phenol almond oil (PAO)1か所につき1~2mlを内痔核周囲の粘膜下に局注し、通常これを隔日に3回から4回施行して、これを1クールとしている。(現在は1か所の内痔核に2.5mlづつ局注し、1週間の間に計2回施行している。)

結果

431例中、初回痔核硬化療法施行時A84例(19.5%)、B105例(24.4%)、C54例(12.5%)、D188例(43.6%)であった。平均年齢は、ABCD群はそれぞれ59.9歳、57.7歳、52.9歳、56.2歳であった。再発までの平均期間はそれぞれ14.8か月、24.9か月、17.7か月、24.2か月であった。再発時に手術を施行したものは、A群で25例(29.8%)、B群は6例(5.7%)、C群は11例(20.4%)、D群は7例(3.7%)であった。それらの平均年齢はそれぞれ53.4歳、58.2歳、58.7歳、45.6歳であった。再発に対して手術を施行んするまでの平均期間は、それぞれ17.2か月、15.2か月、22.1か月、31.3か月であった。また、手術までに施行した痔核硬化療法の平均クール回数は、それぞれ1.6回、1.7回、1.4回、1.7回であった。手術を施行しなかった症例は再度痔核硬化療法を施行した。
次に痔核硬化療法施行クール回数を各群で比較すると、いずれの群も3回までで全体の約80%以上を占めていた。

再発時にGrade downしている症例は、BC群、すなはち第Ⅱ度の内痔核ではそれぞれ52.4%、59.3%であり、A群すなはち第Ⅲ度の内痔核も17.8%は第Ⅱ度、第Ⅰ度の内痔核にまで軽快していた。

考察

痔核硬化療法は、患者に苦痛を与えず、また侵襲が少ない治療のため、現在内痔核の治療法として行われている。痔核硬化療法は、一般に第Ⅰ度~第Ⅱ度の内痔核に対して有効であり、比較的小さいか、中程度のもので、脱出せず出血している内痔核に対して有効であるとされている。

痔核硬化療法の出血に対する効果については、第一度、第Ⅱ度、第Ⅲ度の内痔核に対する一回の局注での有効率はそれぞれ97.1%、66.0%、66.7%であり、2回の局注での有効率はそれぞれ100%、88.7%、93.3%であると言われている。一方内痔核の脱出に対する痔核硬化療法の効果は、1回の局注では有効率は50%以下と報告されている。脱出している内痔核に効果が少ないのは、脱出しやすいものは静脈瘤というよりは、むしろ線維組織が多く、局注しても粘膜下層に正しく局注し難いためと考えられている。今回の検討においても確かに第Ⅰ度や第Ⅱ度の内痔核に対する痔核硬化療法の有用性を認めた。

 まず再発までの平均期間をみてみると、A群は約1年であるのに対して、B群、D群は約2年であった。次に再発後の治療についてみても、手術を施行した症例はA群では約30%を占めているのに対して、B群、D群ではそれぞれ5.7%、3.7%であった。ただC群はA群と比較して、再発までの期間や再発に対する手術までの平均期間が同等であり、第Ⅱ度の内痔核でも、脱出と出血を伴った場合には痔核硬化療法の適応を慎重にすべきと思われ、今後検討が必要である。

 再発時にGrade downしている症例は、B群、C群はそれぞれ52.4%、59.3%と約半数以上を占めているのに対して、A群では17.8%であった。以上の結果からも痔核硬化療法の適応は第Ⅰ度や第Ⅱ度の内痔核が妥当であると考えられる。しかし、今回の検討において、第Ⅲ度以上の内痔核に対しても痔核硬化療法の有効例が認められたことは注目すべきことである。全身状態の悪い患者や高齢者、また基礎疾患を合併していて手術による侵襲が患者に与える影響が良くないと判断した場合は、痔核硬化療法は比較的安全に施行できると考える。したがって、痔核硬化療法の適応も、第Ⅰ度や第Ⅱ度の内痔核に限定せずに第Ⅲ度の内痔核に対しても、症例によっては積極的に応用していくべきだと考える。

また、痔核硬化療法を施行したクール回数を検討してみると、どの群においても3回までで全体の約80%以上を占めている。手術施行例では平均クール回数は約2回であり、特にA群の手術施行症例では25例中24例までが3回以内であることから、再発した第Ⅲ度以上の内痔核に対して痔核硬化療法を施行する際、クール回数が3回以上になる場合は手術の適応も考慮する必要がある。

 内痔核に対する痔核硬化療法は、特殊な器具を使用することなく、だれにでも簡便に施行することができ、しかも、十分効果を得る必要がある。当院では開設以来痔核硬化療法を行ってきている。その方法は前述したとおり、外来にてPAOを内痔核1箇所につき1~2mlを内痔核の粘膜下に局注し、通常これを3回~4回施行し、これを1クールとしている。内痔核の出血に対する1回の注射液量の効果を報告した文献によると、液量が5ml未満では42.5%が完全止血し、5ml以上では83.1%が完全止血するとの報告がある。実際に痔核硬化療法を施行する場合、1回で5mlを粘膜下に完全に注入することは難しく、注入する際に漏れがあったり、針穴からの痔核硬化剤がどうしても漏れることがある。したがって1回の痔核硬化療法で十分に5ml以上を局注することは難しく、期待するほどの十分な効果が得られないことも多いと思われる。このことからも当院で行っている繰り返し何回かに分けて十分な量のPAOを局注する方法は有効であると考える。また投与の間隔については、1回目の局注からあまり間隔をあけると粘膜下の癒合が強くなり、痔核硬化剤の注入が十分にできなくなる。犬の大腸粘膜下にPAOを注入し、経時的に観察した研究によると、注入後1週間以内では線維化も軽度であると報告している。このことからも1回目の局注から1週間以内に数回に分けて34回局注することで、1か所の内痔核に対して十分に5ml

以上のPAOを注入することが可能となり、十分な効果が期待できると思われる。(発表当時はストランゲ型肛門鏡を使用しての痔核硬化療法であったため、1回のPAOの注入量が少なかったため、34回を1クールとしていた。現在2019年時点では、ヒルシュマン型肛門鏡を使って痔核硬化療法を行っているため、1回の注入量が多く局注することが出来るため、1回目から1週間の間にもう1回の計2回の施行になっている。)

 以上、痔核硬化療法施行後の再発症例について検討し、痔核硬化療法の適応や方法について報告した。

まとめ

痔核硬化療法の適応は第Ⅰ度や第Ⅱ度の内痔核が妥当である。しかし、第Ⅲ度以上の内痔核に対しても、有効例が認められたことから、全身状態の悪い患者や高齢者、また基礎疾患などを合併している症例に対しては第Ⅲ度以上の内痔核に対しても積極的に痔核硬化療法を施行するべきだと考える。また再発症例に対して3クール以上行う際は、手術の適応も考慮に入れる必要がある。また内痔核に対して十分な薬量のPAO局注することで十分な効果を期待できることから、1回目の痔核硬化療法から1週間の間に複数回施行する当院の方法が有効ではないかと考える。

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