ー内痔核と外痔核の見極めが大切ー
内痔核の治療に当たる際に、とても大事になるのが、どこまでが外痔核でどこからが内痔核かをしっかりと見極めるところにあります。
字が示すように、「肛門の外側にできるのが外痔核で、肛門の内側にできるのが内痔核でしょ!」と思う方が多いと思います。でもこれは間違っています。
内痔核と外痔核は全く違う病気です。特に外痔核を内痔核だと誤って判断して治療をしてしまうと、治っていかないばかりか、治療後の痛みが強くでてしまいます。どこまでが外痔核か、どこからが内痔核かをしっかり診断して、適切に治療していかなければなりません。
外痔核、内痔核をしっかり見極めるためには、まずは肛門の発生を知る必要があります。
ー肛門の発生ー
では肛門の発生、どのようにして肛門が出来るかをお話します。
肛門は、お母さんお腹の中で図に示すように、皮膚(外胚葉)段々めり込んできます。そして腸(内胚葉)が段々伸びてきます。そしてめり込んできた皮膚と、伸びてきた腸がドッキングします。このドッキングした部分が歯状線と呼ばれる部分です。このドッキングした歯状線より外側、皮膚(外胚葉)の部分にできた痔核を外側の成分(外胚葉)にできた痔核なので、外痔核。歯状線より奥の直腸粘膜側(内胚葉)の部分にできた痔核を内側の成分(内胚葉)にできた痔核なので内痔核と言います。このように肛門の外側にできたのが外痔核、内側にできたものを内痔核というわけではありません。この点をしっかり理解していなければ、外痔核と内痔核をしっかり見極めることはできません。
では、外痔核と内痔核をしっかり診断して治療に当たらないといけない理由ですが、外痔核、と内痔核は全く違う病気で、それぞれの治療法が違うことは言うまではありませんが、外痔核の部分は痛みを感じる、痛覚のある部分で、内痔核の部分は痛みを感じない、痛覚のない部分です。したがって外痔核を内痔核と誤って治療をすると、内痔核だから痛くないと思って治療したら、強い痛みを伴ってしまうことになってしまいます。
ー輪ゴム結紮法で痛みが出る理由ー
内痔核の治療方法に輪ゴム結紮法という方法があります。内痔核の治療方法ですので、輪ゴム結紮をしても本来は痛みを伴わないはずです。しかし、外痔核を内痔核と間違った判断をして輪ゴム結紮をしてしまったり、一部外痔核部分、肛門上皮に輪ゴムをかけてしまうと、痛みが伴ってしまいます。また、外痔核成分に輪ゴムがかかって、壊死脱落した際に、肛門上皮に潰瘍を形成して、裂肛のようになり、いつまでたっても痛みが治まらなかったり、場合によっては痛みがどんどん強くなってしまうこともあります。また潰瘍の外側が腫れてきてその部分にも痛みが出てくることがあります。そういった場合は再度手術が必要になってしまうことがあります。このように内痔核の治療方法を外痔核に対して行ってしまうと、痛みがともなうだけでなく、再度手術などの治療が必要になってしまいます。
ー痔核硬化療法で痛みが出る理由ー
同じように、内痔核の治療法に痔核硬化療法があります。痔核硬化療法には2種類あります。一つはパオスクレーといって5%フェノール・アーモンドオイルを用いたものと、ジオンといって硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸水溶液を用いたものとがあります。いずれも内痔核の治療に使う痔核硬化剤です。これも先ほどの輪ゴム結紮法と同様に、内痔核ではなく外痔核に痔核硬化剤を局注すると、激しい痛みを伴い、治っていきません。また内痔核に局注した痔核硬化剤が肛門上皮にまで広がっていくと、これもまた強い痛みが伴います。
ー内痔核・外痔核を見極めるには臨床の経験が必要ー
このように外痔核、内痔核をしっかり見極め適切に治療していくことが重要となってきます。また、知識として外痔核、内痔核の違いを知っていても、実際の診療にあたってどこまでが外痔核か、どこからが内痔核か。そして歯状線はどの部分かを見極める臨床の経験が必要となってきます。そして、痛みが出た場合は、その理由をしっかり検証し、そして修正していく必要があります。その意味でも、目の前にいる患者さんを一人一人しっかり治していくことが大切ですし、医師は常に謙虚でなければならないと思います。