今回は、「温水洗浄便座使用時における肛門粘膜下の血流量の変化について」の発表内容を紹介します。
以前、「温水洗浄便座の功罪」についてお話しました。温水洗浄便座を使い際は気を付けて使わないと、肛門や直腸に傷をつけたり、洗浄することで直腸内にお水が入って、それがあとから出てきて、肛門が汚れたり、ただれて肛囲皮膚炎になることをお話ししました。
今回の発表内容は、温水で洗浄することで肛門の血流が良くなるという実験内容の紹介です。ただ、温水での洗浄を5分程度すると血流が良くなるというデータです。タンク式の洗浄便座では、ためてある水を温めて洗浄に使います。1分間に1~2ℓの割合で洗浄します。そうすると、1~2分程度で温められた温水が使い切ってしまいます。また、なかなか5分も洗浄しません。こんなことからも、温水洗浄便座はさっと洗って軽くふくという使用方法がいいと思います。
発表内容 抄録
痔核の保存的療法は、局所の血液循環を促進し、循環障害を改善することが重要であるといわれている。今回温水洗浄便座を用いて、温水で肛門を洗浄することによって、肛門粘膜の血流の変化を測定し検討したので報告する。
(対象)痔疾患に罹患せず、常用薬の習慣のない健常成人男性7名を被験者とした。なお下剤の服用及び浣腸等の前処置は行っていない。
(方法)血流はレーザー・ドップラー法を用いて測定した。レーザー光の透過性及び血管の分布は測定部位及び被験者間で異なるため、血流量は相対量で表し、その変化量を比較した。血流量の測定は、プローブを肛門内に挿入装着し洗浄位置を合わせた後、洗浄前の1分間の血流量を測定、その後の10分間は洗浄中の血流量を測定した。最後に洗浄後の1分間における血流量を測定した。これを常温水と温水とで測定して比較した。
(結果)
1)常温水(24.5〜25.0℃)での血流量の変化。常温水では洗浄前後の血流値及び洗浄中の経時的な血流量の変化はほぼ一定、もしくは減少する傾向がみられた。
2)温水での洗浄による血流量の変化。温水(39.5〜40.0℃)を用いて肛門部の洗浄を行ったところ、7例中6例で洗浄前後及び洗浄中の経時的な血流量の増加を認めた。血流量の増加がみられた6例についてみると、洗浄前後の血流量の変化は洗浄前、洗浄後ともに平均血流量の絶対値は大きくばらついているが、相対的な血流量の変化率は平均281.7%であった。また洗浄中の血流量の変化についても、最大血流量の出現時期にはばらつきがみられるが、平均194.9%の変化率であった。またいずれの症例も洗浄開始から3〜4分にかけて血流量の増加を認め、5分後以降ほぼ一定となる傾向にあった。 (まとめ)
1)常温水での洗浄では血流量は変化なかった。
2)温水での洗浄では7例中6例で血流量の増加を認めた。
3)洗浄前後の血流量の変化率は平均281.7%であった。
4)洗浄中の血流量の変化率は平均194.9%であった。
5)血流量の増加を目的とする場合、温水での洗浄を5分以上おこなう必要がある。
以上より、内痔核や裂肛の原因とされている局所循環障害の改善を目的とする保存的療法として、また術後の創傷治癒を促進させる方法として温水洗浄便座による肛門部の洗浄は有用であると考えられる。