内痔核に対して痔核根治術を行った後の痛みの強さの差に、内肛門括約筋の緊張の強さが影響してきます。内肛門括約筋の緊張が強いほど、手術を行った後の痛みが強い傾向があります。
痔核根治術を行う際に、術前、術後に内肛門括約筋の緊張をどうとるかが大きな課題となります。
緊張をとるために、麻酔がかかった後の術前の十分なストレッチングや緊張がとても強い場合など、場合によっては、痔核根治術を行う際に、内肛門括約筋の緊張をとる処置を追加したりもします。
また術後、排便時の痛みが強いと、このことが原因となって内肛門括約筋の緊張が強くなることもあり、術後は十分に痛みをとるなど、疼痛管理も重要になってきます。
これまで、この内肛門括約筋の強さと術後の痛みに着目して、検討を重ねてきました。
今回紹介する発表内容は、内肛門括約筋の強さを反映する最大肛門静止圧を測定して、その圧の強さと、痔核根治術を行った後の痛みについて検討したものです。
発表内容
前回の第54回日本大腸肛門病学会で、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満との間で痔核根治術後の疼痛の強さに差があり、100mmHg以上で有意に術後の疼痛が強く、術前からある程度術後の疼痛を予測できることを報告しました。今回は100mmHg以上でも術後の疼痛が軽度である症例があることから、さらに詳細に最大肛門静止圧と術後疼痛との関係を比較検討しました。
対象は、平成10年9月から平成12年4月までに痔核根治術を施行した416例、男性221例、女性195例、平均年令51.8才としました。
方法は、術前と局所麻酔後に最大肛門静止圧を測定。術後3時間後の疼痛の程度を4段階に分類して、前回の発表で有意差のでた「痛くない」と「痛む・とても痛い」との間で、比較検討しました。また、内痔核の切除個数による術後疼痛と、術前及び局所麻酔後の最大肛門静止圧との関係についても検討しました。手術は全例局所麻酔下でおこない、同一術者が施行し、術式は半閉鎖式を施行しました。
術後3時間後の疼痛の程度は、「痛くない」241例、57.9%。「少し痛い」103例、24.8%。と全体の82.7%を占めます。「痛む・とても痛い」は72例、17.3%でした。
痔核根治術施行個数と術後3時間後の疼痛を、100mmHg以上と未満で比較してみました。1個所の場合、術後3時間後の疼痛は、最大肛門静止圧が100mmHg以上でも未満でも有意な痛みの違いは認めませんでした。2個所以上痔核根治術を施行した場合では、最大肛門静止圧が100mmHg以上になると有意に術後の疼痛が強くなりました。
術後3時間後の疼痛と局所麻酔後の最大肛門静止圧との関係をみると、痔核根治術を2個所施行した場合、「痛くない」において有意に局所麻酔後の最大肛門静止圧が低値でした。
術前と比べ局所麻酔後に、最大肛門静止圧が術前の静止圧の何%まで下がるかを低下率と定義して、これと術後3時間後の疼痛を比較すると、2個所痔核根治術を施行した場合「痛くない」で、有意に最大肛門静止圧が下がっていました。
以上をまとめると、
内痔核の切除個数が2個所以上では、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上になると有意に術後の疼痛が強くなる。しかし、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上でも2個所切除例では、十分に局所麻酔後の内圧が下がることで、有意に痛みが軽度となることがわかりました。
そこで、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上で、局所麻酔後の最大肛門静止圧が十分に下がらず、術後の疼痛が強くでる可能性のある症例に対しては、局所麻酔後に十分にストレッチングをおこない、局所麻酔後の最大肛門静止圧を十分に下げたり、また、局所麻酔後の最大肛門静止圧が十分に下がらない症例に対しては、LSISを施行したり、ニトログリセリンやボツリヌス毒素などを術前から使用し、最大肛門静止圧を十分に下げておくことで、痔核根治術後の疼痛はさらに緩和できると考えます。
抄録を紹介します。
抄録
術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上と未満との間で術後の疼痛の強さに差があることを報告した。今回さらに精細に術後疼痛と最大肛門静止圧との関係を比較検討した。
【対象】H10年9月〜H12年4月までに痔核根治術を施行した416例(男性221例、女性195例、平均年令51.8歳)を対象とした。
【方法】術前と局所麻酔後に最大肛門静止圧を測定。術後3時間後の疼痛を検討した。術前の最大肛門静止圧に加え、局所麻酔後の最大肛門静止圧、さらに内痔核の切除個数と術後疼痛との関連性について比較した。手術は全例局所麻酔下に半閉鎖式を施行した。
【結果】
①痔核根治術を施行した416例中「痛くない」241例(57.9%)、「痛む」72例(17.3%)であった。
②内痔核の切除個数による術後疼痛と術前最大肛門静止圧(100mmHg以上と未満で比較)との関連をみると、1個所切除例では100mmHg以上「痛くない」43例、「痛む」7例、100mmHg未満「痛くない」61例、「痛む」4例と有意差を認めず、2個所及び3個所では、それぞれ100mmHg以上「痛くない」31例、20例、「痛む」26例、18例、100mmHg未満「痛くない」52例、34例、「痛む」5例、12例と有意差を認めたp<0.0001。
③術前最大肛門静止圧が100mmHg以上の症例で、局所麻酔後の最大肛門静止圧と術後疼痛の関係をみると、1個所及び3個所切除ではそれぞれ有意差を認めなかったが、2個所切除例では「痛くない」28.3±10.2mmHg、「痛む」40.2±15.3mmHgとp<0.05で有意差を認めた。局所麻酔後最大肛門静止圧/術前最大肛門静止圧×100%を低下率とし比較すると、2個所切除例で「痛くない」20.9±8.4%、「痛む」30.1±16.4%とp<0.05で有意差を認めた。
【まとめ】内痔核の切除個数が2個所以上では術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上になると有意に術後の疼痛が強くなる。しかし、術前の最大肛門静止圧が100mmHg以上でも、2個所切除例では、十分に局所麻酔後に内圧を下げることによって有意に痛みが軽度となる。以上より、術前のストレッチングは術後の疼痛緩和に有効であると考えられる。また、局所麻酔後に十分内圧が下がらない場合は、LSISやボツリヌス毒素などで括約筋の緊張をとることで、術後の疼痛がより緩和されると思われる。