今回は内痔核に対して痔核根治術を行った際の手術前と治癒時の最大肛門静止圧に関して検討した発表を紹介します。
最大肛門静止圧は、内肛門括約筋の緊張の度合いを知るために測定します。裂肛などで、排便時に痛みがあると内肛門括約筋の緊張が強くなってきます。
内痔核に対して痔核根治術を行う際も、術後排便の際の痛みによって内肛門括約筋の緊張が強くなる可能性もあります。また、術前に内肛門括約筋の緊張が強いと、術後の痛みや、排便時の痛みが強い傾向があります。
内痔核に対して痔核根治術を行う場合も、この内肛門括約筋の緊張を十分にとることで痛みが軽減します。麻酔をした後に十分にストレッチングといって肛門の緊張をとることが、術後の痛みの軽減に有効だと思います。また、術前にあまりにも内肛門括約筋の緊張が強い場合は、痔核根治術を行う際に、内肛門括約筋の緊張をとる手術を一緒に加えることもあります。
今回は内痔核の手術個数による痛みの程度や治癒時の最大肛門静止圧、治癒時までの期間などを比較検討した発表を紹介します。
発表内容
内痔核に対して痔核根治術を施行した際に、どの時点で治癒と判断するかについてはとても難しい問題だと思います。傷がふさがった時が治癒ではないと思います。私は一応、排便時の痛みがなくなり、傷がふさがり、患者さん側の症状がなくなって患者さんがすっきりした時点で治癒と判断しています。しかし、一端治癒したと思っても排便の具合などで痛みがでてきたり、場合によっては裂肛様になってしまうことも有ります。また、治癒と判断した時点で器質的な狭窄がなくても肛門の緊張が強いと感じ、実際に最大肛門静止圧が高くなる症例もあります。このことは、術後の疼痛が術後の最大肛門静止圧や創傷治癒に影響があるのではないかと考えました。そこで術後の疼痛の程度が、治癒と判断した時点でどのように最大肛門静止圧に影響を及ぼすかを、比較検討しました。また治癒までの期間の差についても検討しました。
対象は平成10年8月から平成14年までに痔核根治術を施行し、術前と治癒と判断した時点でそれぞれ最大肛門静止圧を測定した581例、男性336例、女性245例、平均年令55.9才としました。
方法は、術前と治癒時でそれぞれ最大肛門静止圧を測定し、以下の4つの点について検討しました。
1)術後3時間後の疼痛の程度を切除個数で、比較。
2)切除個数で術前と治癒時の最大肛門静止圧を比較。
3)術前と比較して、治癒時の最大肛門静止圧が低下及び不変群と上昇群の2群に分類し、切除した内痔核の個数でそれぞれの群を比較。
4)治癒までの期間の差について比較しました。
術後3時間後の疼痛の比較ですが、2箇所と3箇所の間では術後の疼痛には有意差を認めませんでした。1箇所では、2箇所3箇所と比較して有意に術後の疼痛が軽度でした。
術前と治癒時の最大肛門静止圧との差をみたスライドですが、2箇所及び3箇所切除した症例では有意に治癒時の最大肛門静止圧が高くなったのに対して、術後の疼痛が軽度であった1箇所切除群では、術前と治癒時との間で最大肛門静止圧に有意差を認めませんでした。
治癒時の最大肛門静止圧が低下及び不変群と上昇群とに分けて比較すると、1箇所切除で、2箇所切除より有意に低下及び不変であった症例が多く、3箇所と比較しても、同様の傾向がみられました。2箇所と3箇所では2箇所切除群で上昇した症例が多かったです。
これは、治癒と判断して最大肛門静止圧を測定するまでの期間が、低下及び不変群と上昇群との間に差がないかを確認しましたが、両群間に有意差は認めませんでした。
手術から治癒までの期間を切除個数で比較すると、やはり術後の疼痛が軽度で、最大肛門静止圧が術前と比較して上昇しなかった1箇所切除群で有意に治癒までの期間が短かったです。
以上をまとめると、術後の疼痛が有意に軽度であった1箇所切除群で、術前と治癒時の最大肛門静止圧に有意差はなく、また低下及び不変であった症例を多く認めました。このことも一因で、術後治癒と判断するまでの期間が短かったと考えます。
最後に、治癒と判断した時点でも術後の疼痛の影響で、内肛門括約筋の緊張がまだ高まった状態が続いていると考え、その後の排便等のコントロールなどのフォローアップが必要だと考えます。また、術後の疼痛を早期より十分に取り除き、術後の内肛門括約筋の緊張が強くならないようにしていくことも術後の創傷治癒を促進させる一つの方法となりえると考えます。
抄録を紹介します。
抄録
我々は痔核根治術後の創傷治癒に関して、術前および治癒時での最大肛門静止圧とを比較し、術後の疼痛との関連について検討した。
【対象】平成10年8月〜平成14年2月までに痔核根治術を施行し、術前と治癒と判断した時点の2回で最大肛門静止圧が測定できた581例(男性336例、女性245例、平均年令55.9才)とした。
【方法】術前および治癒時での最大肛門静止圧を測定。1)術前と治癒時の最大肛門静止圧を、手術で切除した内痔核の個数(1個所・2個所・3個所)でそれぞれ比較。2)手術個数間で術前、治癒時の最大肛門静止圧を比較。3)術後3時間後の疼痛を「痛くない」、「少し痛い」、「痛い」、「とても痛い」に分類。手術個数との間で比較。
【結果】1)1個所では術前と治癒時の最大肛門静止圧には有意差を認めなかったが、2個所、3個所では術前の最大肛門静止圧がそれぞれ105.6±53.0mmHg、100.5±42.0mmHgであるのに対して、治癒時は115.9±52.2mmHg、107.7±48.7mmHgとそれぞれ有意に圧の上昇を認めた。(p=0.0035、p=0.0239)2)術前・治癒時で最大肛門静止圧が高くなった症例と低下もしくは変化のなかった症例についてそれぞれの群で比較すると、1個所で2個所と比較して有意に内圧の低下した症例の割合が高頻度であった。(p<0.0001)3)術後3時間後の疼痛については、2個所3個所と比較して、1個所で有意に痛みが軽度であった。(p=0.0018、p<0.0001) 【まとめ】術後3時間後の疼痛が有意に軽度であった1個所手術の群で治癒時の最大肛門静止圧が術前と比較して有意差を認めなかったのに対して、2個所3個所の群では術前の最大肛門静止圧と比較して治癒時の内圧が有意に高まっていた。このことは治癒と判断した時点においてもまだ術後の疼痛の影響で、内肛門括約筋の緊張が高まった状態が続いているものと考える。以上から、術後の疼痛を早期より十分に取り除き内肛門括約筋の緊張が強くならないようにしていくことが創傷治癒を促進させていく一つの方法となりえると考える。