渡邉医院

健康保険証廃止の狙いと危険性! 

 こんにちは渡邉医院の渡邉です。今回は「保険証廃止と医療の「デジタル化」(DX)の危険性についてお話ししたいと思います。
 現在来年の秋に保険証の廃止に関して国会で審議しています。衆議院は通過し、今は参議院で審議されています。
 私たちはこの保険証の廃止法案を食い止めたいと思っています。
 少し長い分ですが、ぜひお読みいただいて保健所廃止の危険性を知っていただきたいと思います。

 

保険証廃止と医療の「デジタル化」(DX)の危険性

 1. 健康保険証廃止の背景にある国策 ―社会のデジタル化―

(1) マイナンバーカード普及のために廃止される健康保険証

 健康保険証廃止という衝撃的な企ては、3月7日に国会提出された「行政手 続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を 改正する法律案」(マイナンバー法等改正案)に盛り込まれ、すでに衆議院では可決され、参議院での審議に移っています。
  なぜ、政府は健康保険証を廃止しようとしているのか。 それは簡単に言って「マイナンバーカードを普及するため」でしかありません。 ご承知のように菅政権時代の 2021 年、「デジタル庁」が創設されました。 日本を世界最先端のデジタル国家にすることを目標に掲げ、デジタル技術に よって社会の変革を進めることは、文字通り国策として取り組まれています。

 マイナンバー法改正とともに国会提出されている「デジタル規制改革推進の 一括法案」はデジタル技術の活用を妨げるすべての「規制」を(ことによっては 法改正もなく)取り払うという乱暴な内容です。取り払われる「規制」は約1 万条項とされています。 中でも注意が必要なのは、社会全体をデジタル化する、というのは単に効率的にする、便利にする、という意味ではないことです。

  大きく2つのことが狙われていると考えます。

  1つめは、デジタル技術を使い、企業利益を増大させること。つまり「経済成長」です。 2つめは、人々の個人情報を国家が把握し、政策に活用することにあり、はなはだしく「監視」に使うことです。 こうした企てのことを国は「DX」(デジタルトランスフォーメーション)と呼んでいます。 以上の2つに共通するのは人々の情報を大規模に収集・活用することです。 そのために必須となる条件が「マイナンバーカード」を全国民に持たせることにあります。

 (2) 医療・社会保障のDX

 国は 2022 12 16 日、「全世代型社会保障構築会議」報告書において「医療・介護分野等におけるDX の推進」を謳い、2つの柱を示しました。

 1つは、「医療・介護分野の関連データの積極的な利活用の推進」です。 416日現在、76.6%となっています。る(4⽉ 16 ⽇現在)

 ここで言われているのは、EBPM2 (証拠に基づく政策立案)の実現、PHR(パーソナルヘルスレコード)など、マイナンバー制度のもとで公共機関が持っている医療・福祉関係のデータと、関係事業者のデータの連携を推進すること、そして健康診断等の結果から、自らの健康・医療情報について自分で管理・活用する ことができるようにすることです。

 もう1つは「医療 DX の実装化」です。 ここで書かれているのが、オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、「予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療・ 介護全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットホーム=全 国医療情報プラットホーム」を創設することです。

 今回の「保険証廃止」は、以上の2つのことと深くつながっています。 そのスタートラインにあるのが「オンライン資格確認」です。

 2. オンライン資格確認、電子処方箋、医療機関間の情報共有

 (1) スタートラインはオンライン資格確認

 私たちが医療機関にかかるとき、現在月に一回は健康保険証を提示しています。 これは私たちの「保険資格」、つまり「どの公的な医療保険に加入している患者なのか」を確認するためです。 今回の保険証廃止につながった「オンライン資格確認」とは、医療機関での 「資格確認」を健康保険証ではなく、「マイナンバーカード」に埋め込まれた「IC チップ」を使って確認するものです。 国は、2023年4月からすべての医療機関に「オンライン資格確認」ができる 機械(カードリーダー)を設置することを義務づけました。ですから医療機関の入口に「顔認証付きカードリーダー」が設置されている医療機関が増えてきました(でも実態が追い付いておらず、京都では一般診療所で 56%、病院が 83.5% ※4月 16 日現在。経過措置もあります)

  マイナンバーカード(に保険証機能を持たせて「マイナ保険証」にしたもの) を持っていれば、保険証を窓口に提示しなくとも、この機械に「ピッ」とやれば、 資格確認が終了する。とっても便利!というわけです(ただし、実はオンライ ン資格確認は健康保険証でも出来ることは指摘しておきます)。 しかし、「便利」なだけではありません。 オンライン資格確認をすると、IC チップに内蔵された「シリアルナンバー」 (電子証明書)と医療 ID(被保険者番号)がつながって、回線の先にある「審査支払機関」(国保連合会、社会保険診療報酬支払基金)のコンピューターにつながって瞬時に「返信」が来て、資格が確認されます。 でも「返信」されるのは「資格」だけでははありません。患者さんが「同意」ボタンを押せば、「審査支払機関」に被保険者ごとに一元的・継続的に履歴が蓄積され、 管理されている被保険者番号、資格情報(有効期限、窓口一部負担金割合、 負担限度額情報等)、診療情報、特定健康診査結果等も医療機関には「返信」されます。 すると医療機関の側は「○×さんは年に○○の手術を受け、現在は、という治療薬を処方されている」という情報を知ることができる。

 (2) 医療情報の共有・連携から「全国医療情報プラットホーム」へ

 この仕組みを使えば、一人一人の医療の情報を患者と医師だけでなく、他の病院や診療所の医師同士が共有し、確認できる情報のネットワークをつくることができます。 そこで国が考えているのは今後、共有できる情報をもっと拡大して、医療だけでなく介護や自治体が持っている一人一人のデータをみんな共有し、確認できる「全国医療情報プラットホーム」(健康・医療・介護分野を含む情報システ ム)」をつくることにあります。 すでに国は「電子処方箋」(2023 年~)や全医療機関共通の「電子カルテ」(2025 )の導入を目指しています。 岸田首相が本部長を務める「医療 DX 推進本部」は、この超のつくビッグデータを使って、「誕生から現在までの生涯にわたる保健医療データが自分自身で一 元的に把握可能となり、個人の健康増進に寄与」できるようにする、「全国の医療機関等が必要な診療情報を共有することにより、切れ目なく質の高い医療の受療が可能」になる、「保健医療データを活用した質の高い健康サービスの提供 や二次利用による創薬、治験等の促進を目指す」と言っています。

 (3) 集積したビックデータを使った医療費抑制と「産業」での利活用へ

  ビッグデータを活用した「質の高い健康サービスの提供」って、どういうことなのか? ここに医療 DX の大きなねらいが隠されています。 国が考えているのは、民間事業者が個々人のデータを活用して、儲けることがきるようにすることです。 あらためて確認しておくと、マイナンバーカードのIC チップ自体に医療情報が搭載されているわけではありません。実際のところ情報は、医療機関、介護事業者、 自治体、保険者等の各組織それぞれに集積されています。マイナンバーカードはそれらの情報を個人単位で引っ張ってくる「鍵」に過ぎません。 しかし、これらの情報を個人が自分の手元に「ダウンロード」し、一元的に閲覧できる仕組みがあります。それが国の準備した「マイナポータル」(2017 年開設) です。マイナポータルには医療のことだけでなく、税務情報や、年金情報、世帯情報等も管理されていて、その内容はもっと増えていく予定です(銀行の預金口座とか、国家資格とか、あるいは犯罪歴とかも?)。これを閲覧するのに必要なのがマイナンバーの4桁の「パスワード」です。ここにはモノスゴイ情報漏えいリスクがあります。 でも怖いのはそれだけではありません。こうした情報を民間事業者との「同意に基 づいて国民に提供させ、事業者がその情報をAI によってプロファイリングし、 例えば医療分野であれば健康リスクを予測し、その人が必要としそうな(というか食いつきそうな)サービスを案内し、企業の利潤につなげていくことが企まれています。 さらに、マイナポータルが普通に利用されるようになれば、個人それぞれの生活全体が、国家や企業に「プロファイリング」されてしまう危険があります。そうしたら、「その人」に向けたメッセージ(広告・宣伝)が国や企業から届くようになると思います。そのことが個人の行動変容をもたらし、医療費抑制につながることを国は期待しています。 やがてそれは「社会保障個人会計」につながっていくものとも考えられます。

  マイナンバーカードを通じて、様々な個人情報の一元管理が進み、これを国家が活用すれば、医療・介護・税金・年金などに関わる個人情報を国は総体的に把握できることになります。すると個人レベルで「負担と給付」も明確になります。小泉 政権時代に提唱された「社会保障個人会計」(負担の範囲に給付を抑える仕組み) の導入も難しくなくなります。そこまでいけば日本の社会保障制度は完全解体してしまいます。

3. 保険証廃止法案の提出

 以上のような医療DX推進のために、国民全員にマイナンバーカードを保持させるために、保険証廃止が目指されているのが現時点の状況です。

 (1) 資格確認証を交付しても保険証廃止による受療権後退は避けられず

 国は最短で 2024 年秋の保険証廃止が目指しています。 保険証が廃止されると、医療にかかる時にはマイナンバーカードを用いたオンライン資格確認が基本となります。

  しかし、マイナンバーカードを自分自身が申請して発行できない人は大勢います。たとえば、高齢者施設や障害のある人の施設に入所している人は、マイナンバーカードの発 行手続き自体が難しいケースが多いと思います。それだけでなく「紛失」することもあります。そこでそういった人たちに国は「資格確認書」を準備しています。 「資格確認書」は被保険者がオンライン資格確認を受けることができないとき、「求めに応じて」交付されるもので、氏名、生年月日、被保険者記号・番号、 保険者資格を確認できる内容の他、自己負担割合も記載される予定です。 有効期限は「1年を限度」とされ(要するに毎年申請しないといけない)、各保険者が発行することになります。

 マイナンバーカードの取得・保持は任意です。それにもかかわらず健康保険証廃止によって保険医療機関にかかれない人々を生んでしまうことは決して許容されません。 だからこそ資格確認書は準備されるのだろうと思いますが、それでもなお保険証廃止自体、 国民皆保険体制における私たちが医療を受ける権利、受療権の著しい後退につながります。

  国民皆保険体制の基盤である「国民健康保険法」は第1条(この法律の目的)に「社会保障及び国民保健の向上」を謳っています。社会保障制度である以上、この国に暮らすすべての人に対して普遍的に医療保障がなされるべきです。第5条(被保険者)は「都道府県の区域内に住所を有する者は」「国民健康保険の被保険者とする」と定義しており、国保は強制加入です。健康保険法等の被保険者等 「適用除外」(第6条)対象者でない限り、住所を有する者は被保険者なのです。そして運用上、保険医療機関受診にあたり被保険者証の確認が求められて いる以上、保険証は全被保険者へ無差別・無条件に交付されるのが当然です。 でも健康保険証を廃止すると、マインナンバーカードを保険証として使用するにも、資格確認書の交付を受けるにも本人の「求め」=申請が必要になります。これは受療権の行使に新たな「申請主義」のハードルが持ち込まれることを意味します。極論すれば皆保険体制は希望者にのみ、療養の給付を保障する仕組みへ後退させてしまうことになります。もちろんこれは国家による社会保障責務の大幅な後退です。

(2) 医療 DX による給付と負担の明確化の先駆けとしての短期被保険者証廃止

 さらに看過できないのが、保険証廃止に連動した国民健康保険制度と後期高齢者医療制度における「短期被保険者証」「資格証明書」の廃止です。 資格証明書は「特別な事情」がないまま、1年以上保険料を滞納していると被保険者証に代えて交付されます。そうなると療養の給付が「特別療養費払い」(償還払い)に代えられます。すると患者は保険医療機関窓口で一旦全額(10割)を支払わねばなりません。事実上医療にかかれなくなってしまいます。 これは、保険料支払いの有無が「生存権」保障とダイレクトにつながったとんでもない制度です。 そこで住民運動は保険者(地方自治体)に対し、資格証明書を交付させず、せめて短期被保険者証を交付させ、自治体職員が滞納状態に陥った被保険者へ寄り添い、生活全体を把握し、相談しながら滞納解消を目指すように求めてきました。 でもこれも国が資格証明書を廃止し、短期被保険者証も廃止してしまうと、「歯止め」 が本当になくなってしまいます。これまで地域の運動が現場レベルで資格証明書交付を食い止め、「医療にかかれない」事態を防いできました。そのための重要な仕組みが失われてしまいます。地方自治体の国保行政における裁量が制限され、 保険料支払いの状況がよりダイレクトに受療権保障にリンクされる事態が危惧されます。 なお一方の医療機関は、先ほどの「オンライン資格確認」システムにより、患者が特別療養費の対象であるか(保険料滞納者であるか)どうかがわかります。 新たな資格確認書にも特別療養費の対象者である旨が記載されるといいます。 医療 DX は個人単位で「負担と給付」の関係が個人単位で把握され、負担しないものは医療を受けられず、という状態を作り出してしまいます。

 4. 医療を守り、人権を守るために

「(将来マイナポータルに)個人に関する情報が収集・蓄積・融合・解析・活用されるサービスが追加されるようになれば、日々の行動によって生まれる未来を予測して、悪い未来を予防するための情報が、プッシュ通知(自動通知)によってマイナポータルに日々届くようになるでしょう。一例として、医療費が高い人の行動が解析されて、未来における医療費抑制を目指して、現在の生活に関する指導がマイナポータルに自動通知されるようになれば、動物とは異なり、人権の基礎に存在する人間が自分の意思で自分らしく生きるという欲求までもが抑圧されるようになるでしょう。人権の歴史に立ち戻った考察が求められています。」(稲葉和正氏)。

  社会全体のデジタル化を人権意識の希薄な為政者たちに任せてはなりません。 自己の情報をコントロールする権利の保障なしに、DX の推進はあり得ません。 DX に罪があるわけではなく、DX 推進の動機が問題になっているのです。自身の情報を把握され、「管理」される側である私たちが、あるべき DX の姿を示していく運動が必要です。

 この健康保険証の廃止によってどんな影響が出るかを一度考えてもいていただければと思います。
次回は「健康保険証が廃止されれば、渡邉医院は廃業となる!」についてお話しします。