皆さんこんにちは。渡邉医院の渡邉です。
今、私は「地固療法」と最終的に自家血幹細胞移植を行うときに必要な造血幹細胞を採取するために入院しています。今のところとても順調です。7月8日の段階で白血球数も700μLと正常の約20%までに減少しています。骨髄抑制が来ています。今回はこの骨髄抑制から骨髄が回復する際に末梢血に漏れ出てくる造血幹細胞を採取します。骨髄抑制も行ってみれば順調に目的を果たすために抑制されてきています。回復してくる予定の7月14日、15日の2日間にわたって造血幹細胞を採取します。そしてこの採取した造血幹細胞を使って最終的に「完治」を目指した自家血幹細胞移植をします。
さて「移植」ですが、「糞便移植」と言うものがあります。
この「糞便移植」は、そもそもクロストリジウムという細菌によって引き起こされる腸炎の治療法として確立したものです。クロストリジウムは、健康な人の腸管にも常にいる欣男一つです。いつもは悪さをしないのですが、感染症の治療などで、抗菌剤、特にいろんな細菌に効く広域スペクトルの抗菌剤を長期にわたって投与すると、それまで正常であった腸内細菌叢が破壊され、そうするとクロストリジウムが増殖して、毒素を出して発熱や下痢といった症状が出るクロストリジウム腸炎が起きることがあります。
このような時、まずは感染症に対して使っていた抗菌剤を止めて、クロストリジウムに効果があるバンコマイシンやメトロニダゾールといった抗菌薬を投与することでクロストリジウム腸炎を治療していきます。国内ではこのような治療をしていますが、欧米ではこの毒素を出すクロストリジウムに対して抗菌剤などで治療が上手くいかなかったときや再発したりする場合に糞便移植治療が非常に有効だと報告されています。
当初はこのようなクロストリジウム腸炎の治療として行われてきましたが、
その後、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群に対する治療法としても有効ではないかと、研究が行われています。潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群で一定の効果が認められているそうです。
この「糞便移植」ですが、以前にブログでお話しした「腸内細菌叢」、腸内フローラの機能を回復させる効果があるのではないかとされています。
腸内には約1000種類、約100兆個の腸内細菌が常在します。理想的には善玉菌:悪玉菌:日和見菌のバランスが2:1:7が理想的といわれています。
この腸内フローラは、人間にとってとても大切で、いろんな生理作用を持っています。有用な作用としては、病原菌が定着するのを阻害する、免疫機能を活性化する、ビタミンを産生するなどがあります。反対に有害な作用としては、腐敗産物や発がん物質を産生したり、様々な腸疾患にかかわります。また幸福物質といわれるセロトニンの約90%が腸内に存在すると言われ、このことは腸内細菌と精神的な状態とは密接に関連していると言われます。ストレスがかかった時に下痢や便秘をしたり、精神的な要素と排便状態がリンクするのもこのことが要因だと思います。そして、糞便移植をすることで自閉症、うつ状態などの精神にかかわる病気が改善したという報告もあるそうです。
このように、腸内フローラは人間の健康と、とても密接な関係があります。ですから、人間に有用な働きをする腸内細菌、善玉菌を増やして、反対に有害な働きをする腸内細菌、悪玉菌を減らすようにすることが、私たちの健康にとって良いことになります。
腸内フローラのバランスが崩れて、それによって生じる様々な腸の病気、さらには精神的な病気を発症した際には、腸内フローラの回復が必要となります。
「便移植」というのは、このようなバランスの乱れを整え、腸内フローラを回復させるために、健康な人の便をもらって、腸内の環境を整備してあげるといった発想から生まれた治療法だそうです。
方法としては、通常の大腸内視鏡検査と同じように、大腸ファイバーを大腸の一番初めの盲腸まで挿入して、そこに健康な人の腸内細菌を投与するといった方法だそうです。通常の大腸内視鏡検査と同じような要領だそうです。移植するために投与するものは、健康な人の便を生理食塩水で溶かして、固形物は濾過して腸内細菌の液体として生成したものを投与するようです。
しかし、まだまだ研究途上だそうで、まずは移植に用いる健康な人の糞便に関して、何が「正常なのか」「健康なのか」がまだしっかり定義されていません。今後も安全性を第一に考え、この「糞便移植」が一般的な治療になればいいなあと思います。
今回は「糞便移植」と言った新しい治療法について少し調べたことをお話ししました。