時々患者さんから「私で痔ですか?」と聞かれると同じように、「私は脱肛ですか?」と聞かれることがあります。
「痔ですか?」に関しては以前お話ししたことがありますが、国語辞書で「痔」と調べると、「肛門の病気」とあります。ですから国語辞書的には肛門の病気を「痔」ということになります。この「肛門の病気」=「痔」に症状を「痔」の前につけて肛門の病気を表しているようです。例えば肛門に「いぼ」のようなものができた肛門の病気を「いぼ痔」。肛門が切れた病気を「切れ痔」。穴ができた肛門の病気を「穴痔」。肛門がかゆい病気を「痒痔」のようにです。
ですから内痔核や外痔核は肛門にいぼのようなものができるので、まったく違う病気ですが「いぼ痔」とまとめられてしまっているようです。
また排便時に出血する場合は、傷がついて出血するというくくりで、内痔核からの出血でも、裂肛による出血でも「切れ痔」とくくられてしまうようです。このように、本当の病名ではなく、「○○痔」として呼ばれるので、混乱されてしまうことがあります。
例えば、内痔核がだんだん悪くなってくると、排便時に内痔核が外に出てきて、指で押し込まなければならなくなることがあります。これは内痔核が脱出してきたので、もとの位置に戻すといいので、押し込むことになります。それに対して外痔核は肛門の外にできるので、内痔核のように押し込むことはできません。時々、「いぼ痔が出てきたので、押し込もうとしても入りません。痛いだけです。」という患者さんがいます。これは外痔核なので、押し込むことはできません。血栓が詰まって腫れていたいので、押し込もうとするとかえって痛くなります。このように内痔核と外痔核は全く違う病気ですが、「いぼ痔」という言葉でひとくくりされていることで生じる誤解です。
さて、もう一つ患者さんに聞かれることに、「私は脱肛ですか?」ということがあります。
「脱肛」も同じです。脱肛は排便時に肛門上皮の部分が外に出るように動いて、スムーズに便が出るようにする肛門の動きを言います。
肛門の外側から約2~3㎝ほど中に皮膚の部分があり、ここを肛門上皮と言います。排便時には、ただただ肛門が広がって便がでるのではなく、排便時に力んだ時に、肛門上皮が外に出るようにして便が出ます。ですから具合よく、気持ちよく便が出るためには、肛門が具合よく脱肛することが必要です。ですから「脱肛」は排便時に気持ちよく便が出るための肛門の動きのことを言います。
ではなぜ「私は脱肛ですか?」になるかです。内痔核がだんだん悪くなると、排便時に内痔核が肛門の外に出てくるようになります。そして指で押し込まなければもとに戻らなくなります。この状態を第Ⅲ度の内痔核と言います。その際に内痔核が肛門の外に出ることを「脱出」と言います。おそらくこの「脱出」と「脱肛」がこんがらがってしまっているのだと思います。おそらく「私は脱肛ですか?」と聞かれた時の「脱肛」はこのようなことだと思います。それは、内痔核が第Ⅲ度の内痔核になると、排便時に内痔核が脱出して戻さなければ脱出したままになります。この時に起きていることはこうです。排便時に肛門は脱肛しながら便が出ます。その時に内痔核は脱出します。そして脱出したままにしておくと、肛門は脱肛したままの状態になります。この一連の動きを「脱肛」という病名にしているのだと思います。ですから、「私は脱肛ですか?」は「私は第Ⅲ度の内痔核ですか?」ということだと思います。
このように肛門の病気だけでなく、一般に呼ばれている病名と本当の医学的病名とは異なることがあります。例えば、「盲腸」と言っているのは「急性虫垂炎」ですし、「脱腸」は「鼠径ヘルニア」などの「ヘルニア」だったりします。
やはり私たち医師は「あなたはいぼ痔ですよ。」ではなく、「あなたは内痔核ですよ。」と正確な病名を患者さんに伝えなければなりませんし、患者さんも自分の正しい病名を憶えておく必要があると思います。