渡邉医院

医療政策を弱体化させ、コロナパンデミックを招いた新自由主義政策②

  コロナ禍における医療崩壊

 コロナ禍の京都では、今、3回目の緊急事態宣言発出中である。今年421日時点では累積患者数は11279人、新規陽性者の数も増えている。そして、2020年の年末から京都府でも医療崩壊が起きてきた。

 感染症法では今回の新型コロナウイルスのように二類感染症に感染した人は原則入院治療になる。京都府は114日以前までは、感染者を受け入れる病床は長い間「720床」と説明していた。しかし、実際はすぐに入院できる病床は「330床」であることが114日に明らかにされた。この時点ですでに病床利用率は82.7%であった。京都市でも自宅療養や「入院調整中」のまま、命を落とす人たちが出てきた。まさに医療崩壊が起きたということである。

 その原因は、大きく二つある。一つ目は病床数の不足と、医師数の不足。そしてもう一つは保健所の機能の後退、である。これらをもたらしたのは長年にわたる新自由主義改革である。それは、社会保障にかかる費用の徹底した抑制を目指す制度改革で、今なお医療費適正化政策が継続して展開されている。新自由主義改革からの転換なくして、日本は新興感染症に対応できる国にはなれない。

 病床数、医師数の抑制政策について見てみよう。これは医療費の「地域差是正」という政策である。国の医療費適正化の取り組みは、都道府県単位の「医療費の地域差」を縮減することを具体的目標に据えている。地域差を生む要因として、入院医療費の中から病床数と医師数が指摘された。ベッド数が多いから、入院医療にかかわる医師数が多いから、入院医療費が増えるというのである。外来では、診療所の医師の数が多いから外来医療費が増えるという。病床数や医師数を削減すれば医療費が削減できるという考えである。そして、都道府県の医療体制をフラット化し、しかも低位平準型を目指している。

 入院費では最も高い高知県が32.1万円に対して、最も少ないのが静岡県の18.5万円。その差は13.6万円。また外来医療費では、最も高いのが広島県の29.3万円に対して最も少ないのが新潟県の23.1万円。その差は6.2万円である。この差を低い方にフラット化していくという政策である。

「医療制度構造改革」

 都道府県単位の医療費適正化政策は、2001年、小泉政権が誕生して本格化した。小泉政権の「医療制度構造改革」がめざしたのは、都道府県の医療費管理・抑制を主眼に、都道府県が自主的に医療費を抑える役割を担うような制度をつくることであった。その皮切りに都道府県単位の「後期高齢者医療制度」がつくられた。同時に、協会健保も都道府県単位の財政運営になった。さらに、小泉政権の下で新設されたのが、「都道府県医療費適正化計画」なる法定計画である。

 現在この計画は6年を1期として、すべての都道府県が策定する。現在は、2018年からの第3期に入っている。この計画には「2024年の医療費の見通し」が書き込まれている。見通しは国の与える計算式に則って算出される。都道府県は、国が理想とする医療費の水準をめざし、医療政策を行うことになる。具体的に都道府県が担うのは、一つは、保険財政の管理・運営。もう一つは、医療提供体制である。

国民健康保険の都道府県化 

 2018年4月から、それまでは市町村が保険者を担ってきた国民健康保険が「都道府県単位」の保険制度になった。都道府県は市町村といっしょに、「保険者」として保険財政の運営に責任を持つことになった。これは、小泉政権のはじめた都道府県単位に医療費を管理・コントロールし、抑制を可能とする仕組みづくりの一環である。医療にかかる人が増える、そうすると保険給付が膨らむ、そして国・自治体の負担が増える、保険料も高くなる、都道府県はそうならないための医療政策を進める、といった具合である。

 国民健康保険の都道府県化によって、都道府県が国民健康保険の財政を管理することになった。都道府県は、まず、医療費の見込みを立てて市町村ごとに分賦金(ぶんぷきん)の額を決定する。市町村ごとの分賦金の額は、市町村ごとの医療費水準及び所得水準を反映している。その分賦金を市町村が都道府県に納めるために保険料を決定して、被保険者に保険料の賦課・徴収を行う。このことで、市町村は分賦金を抑えるために、医療費水準を抑えようとする。このことから、十分な国からの補助がなければ、ドミノ式に都道府県及び市町村レベルで医療費の抑制の方向に進んでしまうことになる。

 つぎに、都道府県が保険者になることで、都道府県が保険者機能を強める可能性がある。保険者機能を強めることで、医療機関への診療内容や範囲を管理する可能性がある。また、費用対効果の高い医療供給者や医療機関を受診させるといったことになりかねない。このことはフリーアクセスの制限となる。このように、国民健康保険の都道府県化は都道府県自らが医療費抑制へと進めさせる制度ということになる。

「医療制度構造改革」のめざす病床削減 

 2016年に国会成立した「医療・介護総合確保推進法」に基づいて、2018年度中に全ての都道府県が〈地域医療構想〉を策定した。地域医療構想は2025年の機能別医療需要とそれに対する機能別必要病床数(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)を構想区域(二次医療圏)ごとに算定させ、目標化させるものである。それに先立ち、内閣府に設置された「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」は2015年6月、「第一次報告」として、2025年の機能別必要病床数を示した。2013年の段階で病床数は134.5万床あり、そのうち一般病床が100.6万床、療養病床が34.1万床であった。20147月の病床機能報告で、病床数はすでに123.4万床と減り、高度急性期が19.1万床、急性期58.1万床、回復期11.0万床、そして慢性期が35.2万床となった。国の推計では、機能分化などをしないまま、高齢化を織り込んだ場合、2025年には152万床になる。国が目標としている病床数は115119万床、高度急性期が13.0万床、急性期40.1万床、回復期37.5万床、そして慢性期が24.228.5万床とした。この目標に向けて、病床の削減が目指されている。

 このように、病床を高度急性期、急性期、回復期、慢性期に機能分化することで病床数の削減を進めようとしている。しかし、このように機能分化することで、今回のコロナ禍のように病床が逼迫した状況においても、回復期、慢性期の病床が急に高度急性期、急性期の病床に対応できない状況にある。したがって、国が進めてきた病床の機能分化のなか、コロナ禍だからと言って急に急性期病床を確保しろと言っても無理な状況にある。

地域医療構想の医療需要推計  推計に用いられたのは、2013年度1年間のNDB(レセプト情報・特定検診等情報データベース)・DPC(包括医療費支払い制度)からのレセプトデータを使用した「医療資源投入量」である。医療機関不在や経済事情からの受診控え等のアクセスの問題が反映されていない。そのため「偏在」や「経済的事由による受診控え」を固定化した推計になっている。慢性期の需要推計は、「高齢化の進展による医療ニーズの増大に対応するため」、2025年には、「療養病床以外でも対応可能な患者」(医療区分1の患者の70%に相当する者と示唆)を病床ではなく「地域包括ケアシステム」で受け止めることを前提になされている。政策誘導そのものである。

2016年度末に京都府が策定した医療構想は、他府県とは違った特徴がある。一つは、必要病床数が「増える」と推計したこと。二つ目は、二次医療圏別にみても、必要病床数は現状維持もしくは増加するとしたこと。三つめは、高度急性期・急性期・回復期・慢性期など細やかな機能別推計値は京都府推計としては記載されなかったこと。私たちは、地域医療構想で使われた「医療需要」が地域の医療の実情を反映していないと批判してきた。しかし、厚生労働省はその批判に耳を傾けることはなく、ひたすら地域医療構想の実現を目指している。

次回は「地域医療構想の矛盾」から始めます。