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2018.02.04

肛門周囲膿瘍切開排膿術後の経過についての検討(第68回日本大腸肛門病学会)

 今回は、肛門腺に感染をおこすことによって、炎症をおこし、化膿して痛みが強い肛門周囲膿瘍に対して切開排膿を行った後の経過について検討した報告を紹介します。
 肛門周囲膿瘍に対して切開排膿を行った後、必ず痔瘻になって、痔瘻根治術を行わなければならないと思っている方がいます。でも、今回の検討では、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を行った後、約70%の患者さんはその後何の症状もなく経過することがわかりました。このことからも、切開して排膿した後、切開部分(二次口)から排膿が持続したり、繰り返す痛みや腫脹を繰り返す患者さんなどに痔瘻根治術を施行するなど適応をしっかり絞ることが必要だと考えます。
  まずは発表原稿、そしてその後に抄録を紹介します。
「発表内容」
 肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行した後、再度の腫脹や痛み、そして排膿などの症状がなく経過し、再度の切開排膿術や痔瘻根治術を施行しなくてもすむ症例も少なくない。切開排膿術を施行した患者が久しぶりに肛門の症状で受診した際に、全く痔瘻の症状がないことを経験する。今回、当院で切開排膿術を施行した肛門周囲膿瘍のその後の経過について検討したので報告する。
 対象は、平成14年1月から平成24年12月までに肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行した526例を対象とした。
 検討項目は、①男女差、②切開排膿術施行後の外科的治療の有無、③2回目以降の外科的治療を施行するまでの期間の3項目について検討した。
 男女差は562例中、男性502例、89.3%、女性60例、10.7%と肛門周囲膿瘍は男性に多く男性:女性は約9:1であった。平均年齢は男性43.0歳、女性42.6歳と男女間に年齢による差は認めなかった。  
 切開排膿術施行後の外科的治療の有無に関しては、再度切開排膿術を施行した症例は、男性では40例、8.0%、女性では4例、6.7%。3回以上切開排膿術を施行した症例は、男性では10例、2.0%、女性では1例、1.7%痔瘻根治術を施行した症例は、男性では150例、29.9%、女性では19例、31.7%であった。
 いずれも男女差は認めなかった。また痔瘻根治術まで施行した症例は男女とも約30%であり、7割の患者が痔瘻根治術まで施行しなかったことになる。
 切開排膿術施行後、2回目以降の外科的治療を施行するまでの期間は、痔瘻根治術を施行するまでの期間は150.5±255.3日、再度切開排膿術を施行するまでの期間は621.1±574.7日と、痔瘻根治術を施行する症例よりも、再度切開排膿術を施行するまでの期間が長い傾向にあった。
 また、痔瘻根治術を施行した症例は切開排膿後6ヶ月以内に約80%が施行されているのに対して、再度切開排膿術を施行した症例は6ヶ月までには19.1%であり、22ヶ月以降が最も多かった。
 まとめです。
 肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行した後も、必ずしも痔瘻根治術を施行することはないのではないかと考えます。痔瘻根治術を施行することで、どうしても括約筋への損傷が少なからず生じます。究極の括約筋温存は痔瘻根治術を施行しないことだと思います。今回の結果で、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行した後、痔瘻根治術まで施行した症例は約30%で、約7割の症例は痔瘻根治術までには至りませんでした。このことを考えると、切開排膿術後も排膿が持続したり、繰り返す痛みや腫脹を繰り返す症例などに痔瘻根治術を施行する適応を絞ることも必要だと考えます。

抄録も紹介します。
「抄録}

 肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を行った後、痛みや腫脹、排膿などの症状もなく経過していく症例も少なくない。
 今回、当院で切開排膿を施行した肛門周囲膿瘍のその後の経過について検討した。
【対象】H14年1月からH12年12月までに切開排膿術を施行した肛門周囲膿瘍562例(男性502例、平均年齢43.0歳、女性60例、平均年齢42.6歳)を対象とした。
【方法】切開排膿術を施行した肛門周囲膿瘍について、男女差、切開排膿術施行後の外科的治療法の有無、また2回目以降の外科的治療を施行するまでの期間について検討した。
【結果】肛門周囲膿瘍は男性502例(89.3%)、女性60例(10.7%)と男性に多く、平均年齢は男性43.0歳、女性42.6歳と差は認めなかった。
 切開排膿術を施行後、痔瘻根治術を行った症例は、男性150例(30%)、女性19例(32%)、再度切開排膿術を施行した症例は、男性40例(8.0%)、女性4例(6.7%)、3回以上切開排膿術を施行した症例は男性10例(2.0%)、女性(1.7%)といずれも男女差は認めなかった。
 肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行後、痔瘻根治術を施行するまでの期間は平均150.5日であるのに対して、再度切開排膿術を施行するまでの期間は621.1日と、切開排膿術を施行するまでの期間の方が長い傾向があった。
【まとめ】肛門周囲膿瘍は男性に多く認めたが、年齢には男女差を認めなかった。
 肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行した後、二期的に外科的治療を行った症例は男女とも30%であり、他院での治療を受けている場合もあると思うが70%の症例が1回の切開排膿術でその後の外科的治療を受けずに経過している。
 また、切開排膿術後、再度切開排膿術を施行している症例は男性で8.0%、女性で6.7%であり、施行までの期間は平均621.1日であることから、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を行ったからと言って必ずしも痔瘻根治術を施行することはなく、繰り返す排膿や痛み、腫脹など何らかの症状がある場合など、適応をしぼることも必要だと考える。

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