渡邉医院

新型コロナウイルス感染症への予防接種体制に関する要請書

 今日で2月も終わります。いよいよ3月になります。少しづつ春の気配を感じる季節です。
 さて、今新型コロナウイルスに対しての医療従事者の先行接種が始まっています。今後、医療従事者に続いて高齢者、基礎疾患を持っている方、高齢者施設などの従事者、そして一般の方たちへと順次ワクチン接種が進められていきます。

 ワクチン接種は、ワクチンの安全性、有効性の情報がしっかり示されることが大事です。それをもとに私たちは、メリット、デメリットを考え、ワクチン接種をするかしないかの選択をします。そして、ワクチンを接種する場合は安全に、そして確実に接種されなければなりません。
 京都府保険医協会は、新型コロナウイルスに対してのワクチン接種に関して、要請を提出しました。その内容を紹介します。

 新型コロナウイルス感染症への予防接種体制に関する要請書

新型コロナウイルスワクチン接種事業の準備が急激な速さで進められています。
 戦後、国も地方自治体もこれほどの規模のワクチン接種を、このような短期間に進 めた経験はないはずです。新型コロナウイルス感染症の収束に向け、ワクチンは大切 な一要素となることは確かです。私たち医療関係者も大いに期待しており、安全性・確 実性が担保される限りにおいては接種事業への協力は厭いません。
 しかし、現在の接種体制構築はあまりに性急です。文字どおり「国策」として国が号令をかけ、地方自治体はその意を汲み、懸命に体制確保に勤しんでいますが、一度冷静 に考えていただきたいと思います。 ワクチン接種を受けるのは、一人ひとりの市民です。果たして市民の誰が、今回の新型コロナウイルスワクチンの安全性・確実性について、正しい情報を得ることができているでしょうか。
 同時に、一人ひとりのワクチンにアクセスできない人たちが存在する可能性につい て、どれほど真面目に想定し、対応を考えておられるでしょうか。ワクチン行政には常 にギャップがつきまといます。ある時は国家間のギャップ、そして国内では「情報のギ ャップ」による接種機会のギャップです。
 ワクチン接種を行うのは、地域の医療者です。これまで接種したことのないワクチ ンを市民に接種する際、頼れるのは自らの専門性に基づく安全性・確実性についての 知見しかありません。医師である以上、自らの責任で情報を収集し検討して、判断する こと自体は当然のことです。しかし、その時間自体が与えられていない中では、不安や 疑問に対して的確に答える仕組みは必要なのではないでしょうか。
 つきましては下記の点を緊急に要請いたします。何卒、よろしくお願いいたします。

                 

 国は全国民のワクチンを確保し接種させるとしているが、国民の何割が抗体を持て ば感染流行を抑えられると想定しているのか。市町村における接種体制の構築も手探 りで、自治体職員への負担は相当なものとなっている。国のワクチン接種に向けた前 のめりの姿勢を受け、都道府県及び市町村が対応に苦慮されていることは想像に難く ない。ワクチンは市民の健康と命を守るものである一方、一定数副反応が発生し健康 被害を起こすものでもある。自治体に対し、国からの情報提供や更なる人的・財政的サ ポートが必要である。
 また、ワクチン接種において大事なのは早さではなく、市民が安全かつ確実に接種 できる体制である。必ずしも全国一律ではなく、各自治体の実情に合わせた接種計画 を立てなければ、ワクチン接種が停滞し、結果として市民全体のワクチン接種率の低下が危惧される。万全を期して接種事業が実施できるよう、現場の医療従事者の声を 聴き、場合によっては接種スケジュールの見直しが必要と考える。

 ワクチンの有効性と安全性の情報が、医療にも市民にもわかりやすい形で提供され ていない。任意接種である以上、接種を進めるには徹底した情報の提供が必要である。 当協会代議員(医師)を対象にしたアンケート(配布数 88、回収数 65、回収率 74%) でも、ワクチンの安全性に不安を感じるかという問いに対して「感じる」が 75%にの ぼり、医療者でさえ不安が拭えない状況だ。こうした中、市民が不安を募らせ接種に消 極的になる一方、これとは正反対に確たる根拠はなくとも国が進めるのだからと接種 に積極的になることも考えられる。これらはいずれも正しいワクチンへの向き合い方 とは言い難い。リスクコミュニケーションの観点から、正確な新型コロナウイルスワ クチンの有効性・安全性を平易に情報提供していただきたい。特に情報が入手しにく く、ワクチンにアクセスしにくいと思われる方々への正確な情報提供を配慮いただき たい。外国籍の方については、多言語対応が必要と思われる。

 被接種者に副反応が起きた場合、特にアナフィラキシーショックを起こした場合へ の救急体制について、府医師会の救急委員会において対応マニュアルを作成し地区医 師会を通して医療機関に案内されると聞き及んでいる。京都府としても医療機関に求 められる副反応への体制整備、救急体制と個別接種を行う医療機関の連携イメージを明 確に示していただきたい。

 京都府内における医療従事者の優先接種では、多くの医療機関が集合契約を行い、 他院等の医療従事者も受け入れながら接種を進めていくとされている。しかしながら、 いままでに経験のない mRNA ワクチンであることから副作用や副反応を恐れて集合契約 をためらう施設は多い。集合契約した施設も自院の従事者のみへの接種とすることが 可能な体制であり、他院等の医療従事者を受け入れる施設には過大な負担が予想され る。国の示す優先接種では連携接種型施設となる病院での接種など集団接種を基本と しており、京都式では開業医により負担を求めるものとなっている。ついては、他院等 の医療従事者を受け入れる医療機関、地区医師会主導などで行うワクチン接種のため の医療機関のグループ形成に、補助および支援体制を構築していただきたい。

 高齢者には施設入所者や療養中、あるいは在宅療養・重度の在宅介護状態の方が多 数含まれる。また、障害がある方々をはじめ、自ら接種会場あるいは接種実施医療機関 へ出向くことができない人々がいる。国の方針における高齢者施設入所者の施設内接 種について、当該施設が接種実施医療機関となる、あるいはかかりつけの往診医らに よる接種方法が挙げられているが、そこに当てはまらない場合、施設が接種人数をと りまとめ、接種実施医療機関を市町村と相談するとある。しかし、例えばサービス付き 高齢者住宅などでそのとりまとめは誰が担うのか。国の方針は全体として抽象的で現 場任せにすぎる。多くの療養している人々へのワクチン接種を可能にするためには、 医師らによる訪問接種しかないが、現時点で訪問接種体制についての具体的な情報提 供はなされていない。地区医師会等の意見・協力を得ながら、具体的な訪問接種体制を 構築いただきたい。

 主に都市部では「個別接種」が中心となるが、その前提として医療機関においてイン フルエンザワクチン同様に通常の医療と並行しての接種が想定されている。しかし、 それは容易いことではない。予診の時間はインフルエンザの比ではなく、接種後経過 観察も長い時間となる。患者の殺到と三密回避の困難は明らかである。そもそも京都 の開業医は、午前診と午後診の間の時間を在宅医療に充てている医師も少なくない。 診療・検査医療機関をはじめ、発熱外来をその時間に充てている医師もいる。通常の診 療と並行してはできないという場合、休診日や日曜日、祝日にワクチン接種を行わざ るを得なくなる。医師自身の負担だけでなく、各医院におけるスタッフ体制の確保が 課題となる。こうした点を踏まえるならば、個別接種中心の仕組みは決して容易では ない。住民接種における集団接種を強化するとともに、個別接種の実施には通常以上 の人員と各医療機関の努力・工夫が求められるため、財政補助も含め、国・自治体から の支援を強めていただきたい。

 安全性・有効性の正確な情報を入手したうえでワクチン接種を望んでも、個々人の 状態によって接種に踏み切れない人々も存在する。ワクチンの接種者と非接種者にい われなき差別的取扱いが生じないよう十分な配慮が必要である。特に、「接種証明」の ようなもので、社会的・福祉的サービスなどが受けられないなどといったことになら ないよう対応を講じていただきたい。

                               以上