渡邉医院

新型コロナウイルス感染拡大で見直しが迫られる医療政策 Part1

 今回は、先日12月5日の土曜日に日本科学者会議が開催した第23回総合学術研究集会が開催されました。
 その1分科会の中の、A-1 分科会「コロナパンデミックと日本社会」での発表を依頼がありました。zoomでの開催でしたが、私も参加して報告してきました。
 私の演題は「新型コロナウイルス感染拡大で見直しが迫られる医療政策」です。
 約25分間の発表内容なので、少しながくなりますので、数回に分けて紹介しようと思います。

 新型コロナウイルス感染拡大で見直しが迫られる医療政策

 新型コロナウイルス感染症の拡大は日本の医療・福祉政策の脆弱さを露呈させました。 1990 年代以降、歴代政権は経済グローバル化に呼応し、構造改革(新自由主義改革)政治に舵を切っておきながら、経済活動によって世界中を物と人が行き交うことで当然予想すべき新興感染症への備えを怠ってきました。そればかりか 2009年に新型インフルエンザを経験したにもかかわらず、なお、感染症対策は後景に追いやられ続けてきました。今日の保健所の困難や医療崩壊の危機はその結果によるものだと明らかにしています。
 一方、緊急事態宣言時のように「自粛」を求め、感染症の封じ込めのために経済活動を停滞させれば、たちまち生活基盤が切り崩される労働者や自営業者等の存在も明らかとなりました。新型コロナウイルスの感染拡大は雇用分野で大きな影響を与えました。量産されてきた雇用者側にとって便利に「使い捨て」可能な不安定就労層は今回の経済活動の低迷で大きな打撃を正面から受けました。報道によると6万人以上の「コロナ解雇」が起きています。新型コロナウイルスに感染して、治療によって健康が回復したとしても、職を失うことはその後生活への保障がなくなってしまうということです。

 厚生労働省が発表した4月に申請された生活保護の件数は21486件であり、前年同月と比較すると、24.8%の増加でした。また、生活保護の支給を開始した世帯数も19362世帯であり、前年同月に比べ14.8%の増加でした。リーマンショックを超える増加でした。生活保護の審査が厳しくなる一方で受給者数が減少し、本当に必要な人に支給されていない状況のなか、この増加は新型コロナウイルス感染によって仕事を失った人が急増していることを意味しています。
 失業者も毎月増加傾向にあり、完全失業率も2.9%、男性が3.0%女性2.7%です。
 また企業の倒産も2月から9月までの総件数は563件にも及びます。業種別では飲食店が最も多く81件、次いでホテル・旅館が56件となっています。また、実質国内総生産も4月から6月期でー7.9%となっている状況です。

 これらのことは、構造改革政治による雇用破壊の結果であり、かつ最低生活保障の不十分さを示しています。そして、グローバル大企業を支援すべく社会構造を全ての方向から改変・解体してきた構造改革が日本の雇用・生産補償のシステムを著しく弱めてしまったという結果を新型コロナウイルス感染症拡大が明らかにしました。

日本は経済活動が低迷することによって、命までもが奪われる、そんな危険な国になってしまった。このことは感染症を防御できない国であることをも示しています。
 新型コロナウイルス感染症が医療分野にもたらしている困難の背景にも、新自由主義改革があります。構造改革が目指した医療・社会保障制度改革は端的に言って「公的保障のミニマム化と保障の多層化」です。
 即ち公的な給付の抑制と医療・福祉サービスの市場化によって、国による医療・福祉の保障は最低限に、それ以上のサービスは自己責任で市場から購入する。そのような仕組みへの転換が進められてきました。そうした路線によって進められてきたのが介護保険制度や障害者自立支援法の創設であり、医療保険制度の再編であり、今日も強硬に進められている医療提供体制ならびに医療提供「者」改革です。  

 このような、新型コロナウイルス感染症が世界に拡大する中、京都府保険医協会は4次にわたる提言書を京都府に提出、そして国に対しては診療報酬の改善や医療機関への経営支援を訴えてきました。

  3波が訪れている中、まだまだ新型コロナウイルス感染症の収束は見通せません。そればかりか、新興感染症は今後も流行します。今回のパンデミックが発生するまで、私たち医療者自身も新興感染症に対する危機感を持ち得ていたか、その反省も踏まえ、現場医療者から今後の医療・社会保障制度と感染症対策の在り方を発信していく必要があります。