渡邉医院

「京都市の公衆衛生行政の充実を求めるフォーラム」を終えて

 11月になって、街の木々も段々色づいてきました。紅葉は次の連休辺りが見ごろかなあと思います。

 11月1日に「京都市の公衆衛生行政の充実を求めるフォーラム」を開催しました。そこで、開業医の立場で保健所とのかかわりについて少しお話させていただきました。その時の内容を紹介しますね。

 私と保健所とのかかわりは何かなあと考えてみたら、大学の時、結核性の胸膜炎にかかった時に自宅まで、保健師さんが訪問してくださり、今の健康状態や、生活状況を見に来て下しました。そして、医師国家試験に合格した時、おそらく板橋の保健所に医師免許証をもらいに行ったような気がします。

 さて、2010年4月まで京都市には11すべての行政区に保健所が設置されていました。地域保健法施行直後に、他の政令市のほとんどが保健所の統合を進めたのに対し、京都市は一定期間、踏みとどまっていたと評価できます。しかしその後、かつて行政区に1カ所設置していた 保健所を一カ所に統合し、地域密着で地区医師会とともに住民の生命・健康を守ってきた機能を後退させてきました。

 結核・疫痢でなくなる人がまだまだ多かった時代。地区医師会と医師である保健所長を中心とした地域の保健所との連携で、地域社会が支えられていました。かつて保健所が各行政区にあり、しかも保健所長が医師であった時代、保健所長も地区医師会会員でした。地区医師会の会合には出席し、地域の健康や衛生上の課題など、保健所の今ある課題を報告されていました。今行われている特定検診が実施される前、京都市が実施していた行われていた基本健康診査も、地区医師会の役員が保健所長室に集まり、打ち合わせしたりしていました。

 このように各行政区に保健所があり、その所長が医師であった時代は、地区医師会の会員であった保健所長と地域の開業医が一緒になり、連携して地域住民の健康や命、そして生活を守ってきました。また、地域の住民だけでなく、地域の「町」の健康を守り、より住みやすい環境を行政とそして住民と共に作り育てていたのだと思います。地域に医師を中心とした保健所がなくなってしまったことで、このことが失われてしまった。

 つい最近、数日前ですが、ドラマの演出で「町医者について聞きたい。」という話がありました。「町医者」。最近あまり「町医者」という言葉は使わなくなってきたかなあと思います。でもこの「町医者」という言葉、今よく使われている、かかりつけ医でも主治医でもない印象を受けます。

 昔の町医者のイメージは地域の住民の健康や生活を守るだけでなく、行政と一緒になって、地域の町の健康や環境を守ってきていたと思います。そういった立場で地域の住民を守ってきたことに、医師への尊敬が生まれ、「先生」と呼ばれるようになったんだと思います。残念ながら、今では、随分「町医者」が変わってきたのではないかなあと思います。その一つの原因が、身近な地域に保健所がなくなったことではないかと思います。今では保健所とのかかわりが極めて少なくなってきています。遠い存在になっているのではないかと思います。

 そのため、地域の開業医、特に京都市内の開業医は、目の前の患者さん、受診された患者さんの健康や命を守ることはしっかりしても地域、「町」の健康を守るといった意識が失われているのではないかと思います。

 また、最近では、患者さんの医療への様々なニーズが高まったったため、様々な医療形態が出てきています。昔のような自宅兼診療所であったり、ビル診であったり。また診療内容も、渡邉医院の様に肛門科に特化した診療所や、内視鏡専門の診療所など、専門に特化した診療所も多くあります。昔の町医者のイメージは、自宅兼診療所での開業で、診察時間外でも急患で住民が診療所の戸を叩くと医師が診察してくれていたといったイメージです。でまなかなか最近はそういったことは少なくなってしまったのではないかと感じます。診療時間が終わると自宅へに帰る。診療時間が過ぎると連絡がつかなくなることがある。電話しても留守番電話だったり。診察時間中に受診した患者さんのみを診て治療する。そういった形態にもなってきているのかなあと思います。

 私達医師の責務は「地域の住民、国民の健康を守るということです。健康とは精神的肉体的に病んでいないだけでなく、経済的、社会的にも満たされている状態です。

 やはり開業医だけでは患者さんを含めた地域の健康、そして命を守ることはできません。保健所を中心とした行政としっかり関わり合いながら、連携しながら、ともに力を合わせることで、地域の住民の健康や「町」の健康を守っていくことが出来るのだと思います。

 私達は開業医医療の復権を目指しています。それにはやはり、地域と密着した、そして医師が中心となって地域の公衆衛生行政を担う保健所があり、地区医師会、地区の開業医そして市民と共に連携することが必要だと思います。
 そのことによって、市民や地域「町」の健康や命、そして暮らしを守っていけるのだと思います。