渡邉医院

厚生労働省が通知した「インフルエンザ流行期に備え新たな新型コロナの体制整備」を考える

 厚生労働省が、「インフルエンザ流行に備え新たな新型コロナの体制整備」を通知しました。またその体制をとるために「新型コロナウイルス感染症に対応した医療機関等へのさらなる支援」を打ち出しました。インフルエンザ流行期への備えに対して、発熱外来診療体制支援というものです。予算額としては2170億円です。

 今回は、この内容について少し考えてみたいと思います。

厚生労働省が示している「発熱等の症状のある方の相談・受診の流れ」は三つのパターンがあります。

 一つ目は、患者さんが「かかりつけ医等」に電話相談し、相談した同一医療機関に受診するパターン①。

二つ目は、患者さんが「かかりつけ医等」に電話相談し、相談した別の「診療・検査医療機関」に受診するパターン②

三つ目は、患者さんが「受診・相談センター」に電話して相談し、「診療・検査医療機関」に受診するパターン③。

この三つのパターンが示されています。

 そして、補助金等の支援があるパターンは一つ目の相談した同一の医療機関、「診療・検査医療機関」受診のパターンの医療機関と、三つめの「受診・相談センター」の補助的機関として、夜間・土日祝日等に電話相談に応じる医療機関のみです。

 それぞれのパターンをもう少し詳しくお話します。

 基本的にはまず発熱した患者さんは医療機関や「受診・相談センター」に電話連絡するところから始まります。そして医療機関は一般の医療機関と、「診療・検査医療機関」、そして「受診・相談センター」の補助的医療機関に三つに分けられます。「診療・検査医療機関」と「受診・相談センター」の補助的医療機関は、都道府県が指定します。

電話して相談した医療機関が「診療・検査医療機関」であるので、電話相談した医療機関の指示に従って、受診する日にちや時間帯にその医療機関を受診する。

この「診療・検査医療機関」は都道府県の指定があります。国への報告の締め切りの第1回目は1012日です。そしてこの医療機関には国からの補助金が出ます。

 発熱した患者さんは自分がいつもかかっている「かかりつけ医等」の医療機関に電話をします。相談した医療機関が「診療・検査医療機関」であれば、電話した医療機関の指示された日にちや時間帯にその医療機関を受診することになります。電話相談した医療機関が「診療・検査医療機関」出ない場合は、電話相談した医療機関が「診療・検査医療機関」を紹介してくれるので、その医療機関に連絡して、その医療機関の指示で指定された日にちや時間帯にその紹介された医療機関を受診する。こういった流れです。

 この場合は、最初に電話した医療機関は「診療・検査医療機関」ではないので、都道府県の指定はありません。そしてくにからの補助金もありません。

こういった体制を厚生労働省は考えています。

 ただ、この体制にはいろいろ問題があるのではないかと思います。

 まず一つ目は、「診療・検査医療機関」は自治体のホームページ上に公開されます。対応可能な日時や時間帯などが公表されます。おそらく一般の市民の方もこのホームページにアクセス可能だと思います。そうした際に、二つのことが危惧されます。一つ目はPCRなどの検査等をして欲しいという患者さんが殺到する可能性があります。また反対に、新型コロナウイルス感染患者が受診する医療機関だということで、その医療機関に受診することを控えたり、医療機関や、そこに従事している医師や職員に対しての誹謗中傷や風評被害が広がるのではないかという問題です。国や自治体が、しっかりとしたリスクコミュニケーションが出来ていない中、必ずこの問題は出てくると思います。

 またどの程度の電話相談がくるか不明です。電話対応に終始して、本来の診療が出来なくなってしまい、その結果、地域医療が診療所などの開業医から崩壊していく可能性も秘めています。

 また、一般の医療機関もそうですが、「診療・検査医療機関」に対して、もしそこで従事する医師やスタッフが新型コロナウイルスに感染した場合の補償がなにもありません。またお金は出すが、診療に当たって感染防止のためのマスクやガウンなどの防御資材の安定した供給の補償もありません。こういった基本的なところがしっかり整っていない中で10月中の体制整備は難しいのではないかと思います。時間的に余裕はありません。インフルエンザの流行期が迫る中、早急に体制を整えなければなりませんが、見切り発車では医療現場が混乱してしまいます。それではいけないと思います。

 市民の命と健康を守るとともに、医療従事者の命と健康を守る。このことをしっかり押さえていかなければならないと思います。