いつの間にか便が出てしまっていて、下着を汚してしまったり、我慢しきれずに漏れてしまったりするということで受診される患者さんが多くなってきたような気がします。とても嫌な症状なのに誰にも相談できない。家族の人にも相談できず一人で悩でいる。そんな患者さんがいらっしゃいます。
「外出した時に勝手に出てしまったらどうしよう。」とか、「間に合わなかったらどうしよう。」などを心配され、外出することもできずに身体的だけでなく、精神的にも大きな負担になってしまっている患者さんがいます。
肛門の病気もなかなか敷居が高くて受診しにくいなか、いつの間にか便が出てしまう、下着が汚れてしまうといった症状は、なかなか診察にも来にくいと思います。でも同じ症状で悩んでいる患者さんは多いと思います。
こういったいつの間にか便が出てしまう、下着が汚れてしまうといった便失禁には大きく二つの要因があります。
便秘の場合
一つ目は、直腸に便が残ったままになっている場合です。
直腸の中に便が残ったままになっていてスッキリ出ず、腹圧がかかったときに知らないうちに便が漏れてきたり、硬い便が直腸に残ったままになってしまい、その硬い便の隙間をどろどろの便が通り漏れ出てくるといった、便秘が原因の場合です。
下痢の場合
二つ目は、下痢が我慢できない場合です。
大腸の動きが過敏になりすぎ下痢状の便が我慢できずに出てしまう場合があります。
治療方法はそれぞれで違う。
それぞれで治療方法は違ってきます。
前者の場合は、緩下剤などを使ってスッキリ便が出るようにして、直腸内に便が残らないようにすることで症状が改善されます。また、下剤が正しく使われていない場合も起きることがあります。例えば、いつもダラダラ便が始終出てきてしまうと、便秘ではなく下痢だと思ってしまって、下痢止めを飲んでしまっている患者さんもいます。そうするとますます症状は悪化していってしまいます。
また、直腸に便が詰まったままの状態ですとそれだけで肛門が痛くなってしまい、便が出せなくなってしまいます。スッキリ便が出るようにする必要があります。
反対に、また便が詰まってしまったら苦しいから詰まらないようにしようと、下剤をたくさん飲んで、本当に下痢をしている患者さんもいます。気持ちはとてもわかるのですが、下痢も肛門にはよくありません。また下痢でも我慢できずに、勝手に出てきてしまうこともあります。やはり形があって柔らかな便がスッと出るように緩下剤を調整して正しく内服する必要があります。
さて、後者の場合は、激しく大腸が動くことで下痢になってしまうことがあります。その時は、大腸の動きを整えたり、便の性状を柔らかく形のある便にする薬で改善することができます。また、脳と大腸には密接な関係があって、「また便が漏れたらどうしよう。」とか「我慢できなかったらどうしよう。」と思うことで大腸の動きが激しくなって、下痢が悪化してしまうことがあります。生活にリズムが狂ったり、ストレスによって大腸が激しく動くことで下痢になってしまいます。こういった場合は、内服薬を飲みながら、「具合よく便が出た。」、「いい便になってきた。」、「最近は便が漏れることが少なくなってきた。」といったポジティブな経験をすることでも大腸の動きが良くなり、便の状態が良くなっていくことがあります。
また、肛門の筋肉を鍛える運動もあります。
肛門を締める運動をするのですが、肛門をキュッ、キュッ、キュッと細かく絞めてもあまり鍛えられません。しばらくギュッと絞めたまま5秒ほど持続して緩める。またギュッと5秒ほど絞めては緩めるといった具合に、しばらくの間、持続して絞めるように10回ほどを繰り返し、2週間ほどすると段々肛門を締める筋肉は鍛えられます。
こういった、いろんな治療法を組み合わせることで症状を改善することができます。なかなか受診しにくい悩みですが、意外と多くの方が悩まれている症状です。一度思い切って診察を受けることをお勧めします。悩みを話すことでも気持ちが楽になると思います。