渡邉医院

平常心で通常の日常を送ることの大切さ。

  感染者に発表人数が減少してきているとは言うものの、また再度感染者が増える可能性もあり、まだまだ収束の見えない新型コロナウイルスの感染。
 自粛生活が長くなってきています。そのような中で、一番大事なことは、難しいのですが、いつもと同じような気持ちで、これまで通りの通常の生活を送るということだと思います。

 新型コロナウイルスの感染の収束に向けて、あまり強い気持ちで、「収束させるんだ。」と思い詰めるのもよくない。非常時に対して極端に元気になってしまうのもよくないと思います。

 そんな強く張り詰められた気持ちが一端プツンと切れてしまった時、私たち人間は一気に深い闇の中に落ち込んでいってしまうと思います。

 私がまだ大学病院の救命救急センターに勤めていた頃、目の前にいる患者さんの命をどう守ったらいいのだろうか、どう救命したらいいのだろうかと悩み、仲間と共に懸命に治療をしていました。そんな時は時間が経つのも忘れて治療に当たっていました。1日のうちに何人もの急患が救命救急センターに運び込まれてきます。
 こんな日もありました。朝、交通事故で小腸穿孔の診断で緊急手術をしました。手術が終わってひと段落した時に、今度は肝破裂の患者さんの受け入れ要求。搬送された後、血液検査。そして画像診断等をして出血部位の特定をする。血管造影をしながら、塞栓術で止血できないトライする。でもどうしても出血が治まらないので、引き続いて開腹手術で止血術や場合によっては肝切除。気を許すことが出来ない状態が続きます。様々な処置をして術後の管理をしているうちに夜が明けるということもありました。

 救命救急センターに運ばれてくる患者さんは、私たちのちょっとした気持ちの緩みや、油断で一気に急変してしまうこともあります。刻々と変化する患者さんの状態を診ながら、その都度その都度データを集めそれを検討して治療法を的確に判断して、迅速に行っていく。そうゆう時間が日常でした。
 そんな中、当直明けや、手術が夜中までかかったりした後、気分としてはとてもハイな状態になります。疲れがでません。でも当直明けより、その次の日の方が疲れが出てきます。そんな時の方が、集中力にかけてしまいます。
 また、皆で力を合わせて、救命しようと治療を続けていても、どうしても救命できないことがあります。そんな時、患者さんが亡くなった時。張り詰めた糸が、やはりプツンと切れた状態になります。でも、そんな時に医師に求められることは、亡くなった患者さんには申し訳ないのですが、次に搬送されてくる患者さんの命を救命することに私たちの気持ち切り替え、強く気持ちを持っていかなければなりません。そんな時に大切なのことが、いつもと同じように、気持ちが昂ることなく、また落ち込むことなく、平常心で目の前にいる患者さんの治療へと向かっていくことです。とても難しいことです。

 今、新型コロナウイルスに立ち向かっている医師や看護師、そしてそれを支えていく医療スタッフも同じ状態にいると思います。また、医療にかかわる人たちだけでなく、日々の生活の困難や不安に立ち向かっている方々も同じだと思います。皆が戦っているのは新型コロナウイルスです。そしてすべての人たちがこの緊急事態に様々な立場で、その人その人が、それぞれ自分にできることを精一杯して立ち向かい、乗り越えていこうとしています。
 私たちはお互いを思いやる気持ち、優しさを忘れることなく、難しいですが、いつもと変わることない平常心を持っていつも通りの生活を送っていく。そのことを心にとめて、今を乗り越えていきましょう。