渡邉医院

新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の動きへの危惧

 3月11日。東日本大震災から9年が経ちました。まだまだ避難生活を送っておられる方が4万7千人もいらっしゃいます。また、東京電力福島第一原発事故まだまだ先が見通せない状況です。9年前のことを私たちは決して忘れてはいけません。
 さて、そんな中、現在新型コロナウイルスの感染の拡大が広がっています。そのようななか、政府は「新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正を進めています。現行の法律でも十分に今の状況に対応できるのに何故今なのか?他に早急にしなければならないことがあるのではないかと思います。
 京都府保険医協会は、この措置法改正の動きに危惧しています。そしてそのことに対して談話をだしました。
その内容を紹介します。

【談 話】

新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の動きを危惧する

日本は戦後 70 年余、未だかつてない事態に陥っている。連日報じられる新たな感染 情報に人々は恐怖に襲われ、真偽不明の情報に振り回されている。自粛要請を受けた社 会生活の制限、経済活動の停滞、人心の荒廃が心配される。国においては、混乱と恐怖 が、国による人権侵害、感染者あるいはその家族、地域、職業、民族など社会における 多様な差別・排除や風評被害の蔓延につながった歴史と経験を忘れず、感染症対策にあ たっていただくよう、最初に求めておきたい。

さて、今般の新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下特措法)改正の動きにつき、 私たちの見解を以下に述べる。

第一に、私たちは、現行の特措法を改定する理由も必要もないと考える。 現行の特措法は、2012 年に成立した。もともと現行法の対象は「新型インフルエン ザ及び全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症」であり、現行法に基づくこと を行えば、病原体の既知・未知に関わらず新型コロナウイルス対策は可能と考える。

第二に、私たちは、今回の特措法改正議論が決して無条件に国権の強化を意図する ものであってはならないと考える。 もともと特措法には「新型インフルエンザ等緊急事態宣言( 32 )」が盛り込まれ ている。これにより検疫のための病院・宿泊施設等の強制使用、土地の強制収容、医療 関係者に対する「指示」、指定公共機関に対する総合調整に基づく措置の実施、施設の 使用制限、緊急物資等の運送・配送等が可能とされる。感染症の拡大・重症化防止が、 国の大切な役割であることは論を俟たない。だが政権による人々の統制が無条件に許 されるものであってはならない。

第三に、私たちは医療にかかる政策決定は専門家の意見を第一に尊重すること、な おかつその決定によって人々の生活や健康、経済にもたらす影響を具体的に想定して なされるべきだと考える。

全国一斉休校の要請は専門家への意見聴取もなく、政治判断として必要な準備もな く行われたとされる。中国、韓国からの入国制限については周回遅れとの批判が強い。

一方で医療体制の確保は都道府県に丸投げされ、責任ある対応をしているとは言えな い。人権の制約を振りかざす今回の特措法改正の前に、検討・実行すべきことは山積し ている。緊急事態宣言で政府の対応の遅れやまずさから目を逸らせるのでなく、人々の 命と健康を守る施策を遅滞なく実行するべきである。

私たちはあらためて、国が医学的知見・科学的根拠に基づく感染症拡大防止・重症化 予防を実施する体制を確立し、十分な医療提供体制の確保に責任をもち、国民が安心で きるよう遅滞なく情報提供を行うことを要請する。そのためまずは新型コロナウイル ス感染症対策本部のメンバーに感染症対策の専門家を加えるよう求める。

地方自治体における保健衛生行政の再生・拡充に向け、住民生活に密着し、不安に寄 り添う保健所機能の強化を要請する。

感染症対応の中核を担うべき公立・公的病院の再編・統合方針を撤回し、各医療機関 が存分にその役割を発揮できるよう地域医療構想の再設計を要望する。

最後に、私たちは医師として、人々が日常生活を失い、経済活動が低迷し、行動制限 を強いられる中、とりわけ子どもたちや高齢の方々、障害のある人たちが生きる喜びと 希望を持って日々を生きられるよう、全力で新たな感染症への対応に取り組む決意を 表明する。