渡邉医院

今進められている医師偏在解消とという名のもとの医師のコントロール

 都道府県化された医療制度の下で、国は都道府県に対して病床のコントロールだけではなく、医師偏在解消と言う名の下で、医師のコントロールまで求める事態となっています。病床のコントロールはすでに決められた地域医療構想で今進められています。医師のコントロールに関しては、今国は医師偏在指標を示して、医師少数区域、医師多数区域を決め、医師偏在を解消しようとしています。しかし、今進めている国の政策では、今の現状を変えていくことが出来ないということが明らかです。            
 なぜこのようなことになってしまうのかを考えたみました。
「医師偏在指標」という指標を国は示しました。しかし、この指標を出すために使ったデータや指標を出すまでの計算式などは一切明らかにしていません。私達が本当にその指標が正しいものか、妥当なものなのかを検証することが出来ません。そういったデータを基にして、机上の計算ではじき出した指標を使って国は政策を進めようとしています。
 そして、はじき出された医師少数区域には医師多数区域から医師を確保するというものです。しかし、どういった方法で医師を確保していけばいいのかなどの具体的な方策は示されていません。その方法は国ではなく、各都道府県で考えろという丸投げの状態です。
 また、医師少数区域に医師を確保しようとしても、医師だけを確保しても地域には医療を提供することはできません。医師を支え、一緒に地域に医療を提供してくれるスタッフが必要です。医師少数区域には、医師だけでなく、医師以外の医療を提供するために共に働いてくれるスタッフの確保も困難な状況です。
 こういったことを考えると、医師偏在を本当に解決するためには、地域をどう活性させていくかが根本的に必要な政策だと思います。しかし、国はこういった根本的な問題に対しての議論を抜きにして、国は医師偏在の理由を医師の「自由」に押し付けています。目先のことだけを考えていても、根本的な問題を解決しなければ、本当の解決策にはなりません。 
 そもそも、現在医師は十分に足りている。偏在しているのが問題と言った立場に国は立っています。本当に今、医師が足りているのかと言った議論は全くありません。
 また、国は424病院の統廃合についても言及し、京都でも4病院がこの対象になりました。ただ、この統廃合を決める項目は手術の数や、がんや脳卒中などの限定された医療で決めたものです。それぞれの医療機関がどのような医療を地域や患者さんに提供しているのか、患者さんがどのような医療を必要としているか、またどんな思いで患者さんがその医療機関を受診しているのかなど全く考慮されていません。そしてこの統廃合の方針が民間の医療機関にも広げられようとしています。
 私は肛門科ですが、国の今の姿勢は、お尻が痛いと言って肛門科を受診された患者さんを、肛門の診察をすることもなく、風邪薬を出しているといった印象があります。
 本当におかしな状況になっています。
 ただただ、国が進めたい政策に都合のいいデータを使って、しかもそのデータなどは私たちには公表せず、そして私たちが検証もできない状況で、机上の計算で解決しようとしてもだめだと思います。
 もっと地域の現場に国自らが赴き、地域でどんな医療が提供されているのか。そして地域の医療をそして住民を守るために医療機関がどのような努力をしているのか。そしてその地域で今、何が足らないのか。今、何を支援すれば今の状況が好転していくのか。こういったことを、自らが体験して政策を作り上げていく。そういった姿勢を持たなければ、これから先もなんの解決にならないと思います。
 では私達は何をしなければならないかです。国が私たちの地域、現場に来ないのであれば、私たちがしっかりと声を上げて地域の医療の現状を国に届けなければなりません。そして私たちの声をしっかり聴き、それを政策に活かしていく、そういった国にしていかなければならないと思います。