渡邉医院

京都に帰ってきて25年を経て、肛門科への思い。

 今日は文化の日の振り替え休日。とてもいい天気です。お出かけ日和かなあと思います。
渡邉医院にも今日は庭師さんが入って、剪定を行って下さっています。大分庭の木々は生い茂っていたので、スッキリすると思います。
 中庭に山鳩が巣を造りましたが、残念ながら子育てが上手くいかなかったのか親鳥が帰ってこなくなりました。剪定にあたって、子育て中の山鳩の巣をどうしようかと思っていましたが、気兼ねなく剪定してもらうことが出来なあとホットしています。 

渡邉医院は90年、私が京都に帰ってきて25年
 さて、渡邉医院が開業した正確な年月日は調べたらわかるのかもしれませんが、即答ができません。ただ、私の父が京都で生まれたのが昭和3年。父が京都で生まれたときはもうすでに渡邉医院は開業していたので、そうすると今年で91年を迎えることになります。渡邉医院は肛門科一筋90年と言うことです。この歴史は凄いことだなあと感じます。私も34歳の時に京都に帰ってきて渡邉医院を継承したので、もう25年、四半世紀が経ったことになります。今から思うとあっという間の25年間でした。
 今回はなぜこんなことから話が始まったかと言うと、私が京都に帰ってきたのが11月と言うこともあって、以前にインタビューを受けたときの内容を踏まえて、この25年間を振り返ってみようかなあと思ったからです。

渡邉医院の歴史、祖父から父そして私へと3代続いてきました。祖父が渡邉医院を立ち上げ、その思いを父が受け継ぎ今の渡邉医院の基礎を作った。そして私へと繋がれてきました。長い歴史を通じて築き上げた患者さんとの信頼関係、そして肛門科医療へのあくなき探究心、そして患者さんへの思いなど、ちゃんと受け継ぐことが出来ているのか考えてみようと思います。

この間の肛門疾患に関しての変化は?

 まず、この間肛門の病気に変化があったかを考えてみました。
 基本的には内痔核、痔瘻、裂肛と言った三大肛門疾患で受診される患者さんが多いです。この割合もあまり変わっていないような気がします。それに加えて、最近では「勝手に便が出る」「知らないうちに便が漏れる」といった便失禁でお悩みで、「肛門が緩くなってしまったのでは?」とご相談いただくケースが増えています。
 こういった症状は、最近増えてきたわけではないと思います。でもどうしていいのか、誰に相談したらいいのか、また年齢的なことで仕方がないことなのか、また恥ずかしいということもあって、肛門科に受診するきっかけがなかったのかと思います。 でも今は、そうした状況が変わりつつあるのかなと感じています。

肛門科のイメージが変わってきた。

 まだまだ肛門科は「受診しにくい」「診察が恥ずかしい」という方がおられると思います。でま最近は肛門科の受診のハードルが段々低くなってきているような印象です。肛門科を受診するのは、内科などの他科を受診するのと変わらないということ、そして診察もイメージされているような恥ずかしいものではないということが、段々患者さんに広がってきているのだと思います。
 それを象徴する一つが、ボラギノールのCMかなあと感じています。女子高生がお尻の具合の悪いときはボラギノールと言った内容のCMでした。お尻の病気は年配の男性の病気ではなく、若い女性にも起きて、治療をするんだといった、肛門の病気に対してのイメージを変えたのではないかと思います。このような肛門疾患が極々一般的な病気で恥ずかしがらずに診察を受けましょうといった宣伝、広報が肛門科受診へのハードルを下げていったのかなあとも思います。

患者さんへの心配り。

 患者さんへの心配りはどうされていますか?という質問を受けました。
 まず答えたのが、患部がどういう状態であれ、「もっと早くに受診しないと駄目ですよ」などとは言わないようにしているということです。
 内痔核や痔瘻、裂肛など、肛門の病気は寮生の疾患であることがほとんどです。中にhあ肛門癌や直腸癌で受診される患者さんもいます。でも肛門の病気は基本的には寮生の疾患で、命に関わる病気ではありませんので、患者様が「治そう」と思われた時が受診、そして治療を開始するベストのタイミングだと考えています。
 肛門科が身近な存在になりつつあるとは言え、やはり見せにくい部分ですので、なかなか受診しにくい診療科です。そんな中、思いきってお越しになられた方の不安な気持ちに対して十分配慮しなければいけないんだなあと思います。
 後、病気の説明や治療方法の説明は解りやすく、そしてできるだけゆっくりと説明することが大切だと考えています。 

治療時に大切に考えていること。

 また、治療時に大切に考えていることはという質問を受けました。 
 大切なのは「患者様が何を求めるか?」であって、「私たち医療機関側が何を提供できるか?」ではないと思っています。 
 例えば内痔核を根治したいということでしたら、入院手術(痔核根治術、ジオン)できちんと治した方が良いでしょうし、今ある痛みを何とかしたい、出血を止めたいということでしたら、外用薬による保存的な治療や日帰りによる痔核硬化療法(パオスクレ―)で対応することが可能です。病状にあわせ、また患者様の希望に合わせて治療を提供することが必要だと思います。
 渡邉には19床の入院設備があって、入院手術と日帰り手術の両方に対応可能です。
このことは大切なことだと考えています。こうした環境を活かして、私たち医療機関側の都合で治療方法を制限することなく、最適な方法を複数ご提案して、その中から患者さん自身に一番合うものを選んで治療していくことが大切だと考えています。

 また治療方法に関しては、祖父(渡邉医院の創業者)の時代から痔核硬化療法を取り入れるなど、肛門科の治療の歴史とともに歩んできました。でも今の治療方法が決してベストであるとは考えていません。まだまだ治療方法には改良の余地、工夫の余地はあると思っています。 
 最先端の治療方法を積極的に取り入れる一方で、昔ながらの歴史と実績を持つ治療方法に立ち返り、それぞれをどう組み合わせていくことが良いか、そのベストマッチングを考えるなど、今なお試行錯誤が続いています。

まだまだ進化の途中

 まだまだ肛門疾患の治療は発展過程です。 
 例えば現在、いぼ痔に対する治療方法としてジオンと手術の併用療法が流行っています。ジオンだけでは治りきらず再発することがあり、結果的に根治手術が必要になることがあります。ジオンと手術の併用療法は、根治性を追求すればするほど痔核根治術に近づいていくのが実情です。

 こうした状況を見るにつけ、「では、何のためのジオンなのか?」「手術なしで肛門に傷を付けることなく治せるというジオンの最大の利点が失われてしまっているのではないか?」と疑問に思ったり、迷ったりすることがあります。
また手術にしても、毎回終えるごとに「もっと上手くできるのでは?」「もっと患者様の負担が軽減できるのでは?」と考えています。

 渡邉医院は90年の歴史があるとは言え、まだまだ治療法は通過点にあり、この先、もっともっと進化させられるはずだと思っています。