「肛門に痔が出たままになったので、戻して欲しい!」と受診される患者さんがいます。良く「いぼ痔は押し込め。」と言われています。患者さんもそうですが、医師の中にも出ている「痔」は押し込もうとしたり、無理やり押し込む人がいます。
「いぼ痔は押し込め。」は正しいの?
では本当に「いぼ痔は押し込め。」なのでしょうか?
違います。「いぼ痔は押し込め。」ではなく、「いぼ痔は元の位置に戻す。」が正解です。
渡邉医院を受診される患者さんの中には、「昨日まで何ともなかったのに、急にいぼ痔が出てきて、痛くて、押し込もうとしても入りません!」とか、「急にいぼ痔が出てきて、押し込んでもすぐに出てきてしまいます!」と言って来られる患者さんがいます。こういった症状の場合は、たいていが血栓性外痔核のことが多いです。
血栓性外痔核
血栓性外痔核は、肛門の外側に細かな静脈が網の目の様になっている部分が肛門1周ぐるりとあります。この静脈の流れは、冷えたり、忙しかったり疲れていたり、寝不足だったりとかストレスがかかるとどうしても悪くなります。またストレスがかかると血小板がくっつきやすくなって血栓(血豆)ができやすくなってしまいます。こういった条件がそろって、排便をする際にグッとお腹に力が入って頑張ったり、反対に下痢で何回も頑張ったり、また、重たいものを持つなど、お腹に力が入って頑張った時にたまたま運悪く血栓(血豆)が詰まってしまうことがあります。血栓が詰まって腫れてしまうと痛みが出てきます。このように、血栓性外痔核は昨日まで何ともなかったのに急に血栓が詰まって、腫れて痛くなります。この肛門の外側にできた血栓性外痔核を押し込もうとしても、戻すことはできません。無理やり押し込んでもすぐに出てきますし、そもそも腫れて痛いところを無理やり押し込もうとするととても痛いですし、かえって腫れが強くなってしまいます。
ですから、「いぼ痔は押し込め。」の「いぼ痔」は血栓性外痔核のことではありません。
「いぼ痔は押し込め。」の「いぼ痔」は?
では、「いぼ痔は押し込め。」の「いぼ痔」とは何かというと、それは内痔核です。
内痔核は突然肛門の外に出てくることはありません。はじめは排便時に出血したり違和感がある第Ⅰ度から、次に排便時に外に出てくる(脱出)するも、自然に直ぐにもとに戻る内痔核。そしてさらに悪くなると排便時に内痔核が外に出てきてもどらなくなり、指で押し込む第Ⅲ度になります。一番具合の悪いのが第Ⅳ度の内痔核で常に脱出したままで、押し込むこともできなくなってしまいます。ただ、内痔核だけですと、第Ⅳ度の内痔核になって、脱出したままになっていても痛みはありません。この第Ⅲ度の内痔核が「いぼ痔は押し込め。」の「いぼ痔」です。
急に痛くなって脱出したままになる内痔核、嵌頓痔核
でも今までは第Ⅲ度の内痔核を持っていて、それにストレスがかかって、排便時に強く力んだり、下痢が何度も続いたり、重たいものを持った時に、内痔核自身に血栓が詰まったり、血栓性外痔核を併発すると、「今まで押し込めたのに、急に痛くなって押し込めなくなった!」ということになります。こういった状態の内痔核を嵌頓痔核と言います。
この場合は、内痔核に血栓が詰まって腫れて痛くて戻せないときは、痛みがありますが、肛門の中に戻すことが出来ます。内痔核が外に出たままの状態になるとさらに血流が悪くなり、痛みが強くなり、場合によっては壊死に至ることもあります。この場合は頑張って押し込んであげます。中に戻るだけでも随分痛みは軽減されます。
ただ、血栓外痔核も併発してしまった場合はどうしても押し込むことが出来ない場合があります。こういった場合は消炎鎮痛剤の座薬を使って腫れがとれるのを待ったり、脱出し押し込まなければならない第Ⅲ度の内痔核は、そもそも手術の適応があります。そこで、場合によっては嵌頓痔核の時に一気に痔核根治術をして根本的に治すこともあります。
このように「いぼ痔は押し込め。」ではなく、「いぼ痔は元の位置に戻す」が正しいです。ただ、どうしてこのような間違いが生まれてしまうかを考えると、やはり内痔核も外痔核もまったく異なる病気なのに「いぼ痔」とか「痔」と呼んでしまうところにあるのだと思います。正確に「内痔核が脱出した場合は押し込みましょう。でも出てくる内痔核はしっかり治療しましょう。」「血栓性外痔核は押し込むことが出来ないのでそのままにしておきましょう。そして痛みをとる治療していきましょう。」と患者さんに伝えることが大切だと思います。