ここ毎日台風10号のことから始まりますが、本当に大きな台風が今日から明日にかけて近づき、上陸しようとしています。京都も診療所の中にいても、台風が段々近づいてくる気配を感じます。なにも被害が出ないことを祈りますが、できる備えはしっかりしておかなければと思います。
明日も患者さんのために診療所を開けますが、台風による周りの状況と自分の症状をみて、気をつけて受診してくださいね。
夜中に肛門の激痛が襲う
今日は肛門の痛みなついて少しお話したいと思います。
時々「夜中に急に肛門が痛くなって目が覚めてしまった。」という患者さんが受診されます。こういった患者さんの中には、「夜中急に肛門が痛くなって、その激痛で目が覚めました。次の日に痛みが強かったので、診察を受けに行ったのですが、肛門はどうもないと言われた。心配で受診しました。」と言ってこられる患者さんがいます。
患者さんの訴える症状は、この夜中に急に激痛が襲い、目が覚めたという症状だけで、いつもは排便時に痛みがあるわけでなく、また出血もありません。また排便時の内痔核の脱出があるわけでもありません。また常に痛みがあるのではなく、その夜中だけが激痛だったという症状です。
実際に診察しても裂肛(切れ痔)があるわけでもなく、血栓が詰まった血栓性外痔核があるわけでもありません。また肛門周囲膿瘍や痔瘻があるわけでもありません。ただ、軽度の内痔核を認めるときはあります。特に激痛が起きるような病変があるわけでもなく激痛が襲った。という状況です。ときどき、「特に肛門に病気は無いので神経のせいでしょう。」とか「精神的なことでしょう。」と言われることがあるようです。そう言われてしまうと、患者さんは自分の精神的なことが問題なのかなあと、自分を責めてしまうことになります。でもこの夜中に襲う激痛は精神的なことでない場合が多いです。
内肛門括約筋の過度な収縮が痛みを生む
肛門の痛みの原因の中に、内肛門括約筋などの肛門の筋肉が強く収縮することで強い痛みを感じることがあります。裂肛などは、肛門上皮に傷がついて痛みが出るのですが、その後内肛門括約筋がグッと締まって緊張状態にある間痛みが持続します。ですから裂肛の状態が悪く内肛門括約筋の緊張が強くなると、排便時も痛いのですが、排便後、内肛門括約筋が締まっている間痛みが持続します。また内痔核の手術をした後も、内肛門括約筋の緊張が強い人ほど術後の痛みが強い傾向にあります。また当院では局所麻酔で手術をするのですが、麻酔して手術が終わって完全に麻酔が切れるまで肛門が一端締まってくるので、これが原因での痛みもあります。
このように内肛門括約筋など、肛門の筋肉がグッと締まってくるときに肛門の痛みは強くなります。このことを示す良い例が、冬場の寒い時期に洗浄便座で洗浄するとき、温水で洗浄をすると大丈夫なのですが、温水ではなく水で洗うとすごく肛門が痛くなります。これは、冷たい水が肛門に当たることで内肛門括約筋などの肛門の筋肉が収縮して、さらに血流が悪くなることが原因となります。
このように何らかの原因で内肛門括約筋などの肛門の筋肉が過度に収縮する際に、肛門に何の病気が無くても痛みが出ることがあります。
痛みに対しては肛門の筋肉の緊張をとる
さて、話をもとにもどします。「夜中に突然激痛が襲い、目が覚めた。」「次の日に診察を受けても肛門は何ともないと言われた。」の原因ですが、肛門が過度に収縮した際に痛みを感じます。
一日、寝ているとき以外は肛門は心臓より下にあります。どうしても夕方から夜にかけて、肛門の静脈は誰しも鬱血していきます。こういった鬱血した血液を心臓に返そうと肛門の筋肉は収縮します。肛門の筋肉は、いつもじっとしているわけではありません。時々収縮したり弛緩したり、肛門の筋肉は動いています。こういった肛門の筋肉の収縮が、ストレスなどが加わった時などに、過度に収縮してしまい、これが激痛になることがあります。ですからこの激痛が襲うのは、たいていが寝ているとき、夜中です。こういった痛みが襲った時はあわてずにリラックスして、場合によってはどんな軟膏でもいいと思いますが、軟膏などを塗って肛門の緊張をとってあげたり、温めてあげることもいいと思います。よる夜中お風呂には入れませんので、トイレで温水洗浄便座の温水で柔らかく温めてあげるのもいいかなあと思います。
急に肛門に激痛が襲い、目が覚める。肛門に何か重大なことが起きたのではと心配されることがあると思いますが、まずはあわてず「肛門の筋肉がグッと収縮したんだな。」と思ってまずは軟膏を塗ってみたり、温めてあげて様子をみてもらえばいいと思います。同じような症状が続くようでしたら、出血などの症状がなくても内痔核があり、これが原因の一つになることもあります。そんな時は肛門科を受診していだたくといいと思います。