渡邉医院

私達医療にかかわるものなぜ平和を守る取り組みをするのか

 8月に入って戦争を考えるお話をしてきました。今回で5回目で、今回が最終回です。
 今回は、なぜ私達医療に係るものが戦争に反対し、平和を守る運動にかかわらなければならないかを考えたいと思います。
 さて、なぜ平和を守る、憲法をまもる運動に係らなければならないのかを考える前に、まずは私達の責務として守らなければならない「健康」とは何かを考えたいと思います。

 WHOの健康の定義ですが、ここに示したように、「健康」とは肉体的にも精神的にも病んでいない、病気ではないということだけでなく、社会的にも経済的にもすべてが満たされた状態であることと定義しています。このことを考えると健康である状態と戦争状態は全く逆の状態で、健康と戦争は真逆の存在です。戦争はすべてのものを奪ってしまいます。人の命だけでなく、人々の住む家、生活、そして心までむしばんでいきます。こういった状態は健康ではありません。私達医療に係るものは、目の前にいる患者さんの健康、そして国民の健康を守る責任があります。このことを考えると戦争へと進む、国民の「健康」を脅かすものには、どんな些細なことにも敏感になって、立ち向かっていくことが必要なんだと思います。ただそれは、街頭で戦争反対の声をあげたり、デモをするといったことだけではありません。目の前にいる患者さんの健康をどう守っていこうか、どうしたら守れるのか。患者さんと向き合うそのこと一つ一つが戦争反対、平和を守る運動につながっていくのだと思います。
 さらに私達は今ある憲法を変えるのではなく実現させていくことが必要です。これまで今ある憲法がその理念をしっかり実行されてきたのかな?と思います。今ある憲法の理念を一度も実行することなく変えてしまっていいのかと私は思います。
 私達医療に係るものの責務として、憲法第25条を実現させることにあります。後程憲法第25条については詳しく条文を紹介しますが、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。という、国民の生存権を保障し、国の社会保障的義務を規定した憲法です。でも憲法第25条だけを単独で実現させることはできるでしょうか?

 このことを考えるときに91325という数式を紹介しています。
 91325 これはなにを意味するかですが。
 9は憲法第9条です。9条は二項からなり、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を示したものです。
この憲法9条が壊されようとしています。
 戦後73年、平和を求め守り、戦争をしない国として、今の日本があります。安倍首相のこの12項を残して自衛隊を名文で書きこむという加憲論について憲法学者は、自衛隊保持の明文化は自衛隊合憲化が目的でなく、事実上の国軍化を意図するものと分析しています。「戦争する国」としての歩みが加速するのではないかと心配です。
 また、こうした、日本を軍事大国化するための一連の動きは、何も安倍首相のキャラクターや政治信念によるもののみではありません。日本を「世界一企業が活動しやすい国」にするための、新自由主義に基づく国家づくりの一環で、新自由主義改革の主要な標的である医療・介護・福祉制度を改悪していく改革と、根は一つです。私たち医療に係るものは、生命を守る立場からこの問題と正面から向き合う必要があります。
 13は憲法第13条です。個人の尊重、幸福追求権、公共の福祉を示しています。条文ではすべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。としています。
 25は憲法第25条です。条文では、1.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2.国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。としています。
 91325が表すように、憲法第25条単独では成立しないものだと思います。9条、13条がそれぞれが重なり合って、それぞれを補完することでなりたっています。
 だれもが健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有するためには、国そのものが平和でなければなりません。そして、個人として尊重され、幸福を求める権利が保障され守られていなければなりません。この91325は私達医療に係るものにてって、欠かすことのできない数式だと思います。
 私達医療に係るものは患者さんや国民の健康を守る、そして憲法第25条を実現させることを責務としています。このことを成し遂げるためには、私達は平和な国造り、そして憲法を生活に生かす。そういったことを日々の生活のなかで考えていかなければならないのだと思います。
 戦争はその正体をみせることなく、私達にそっと忍び寄り、そしていつの間にか戦争へと私達を巻き込んでいきます。戦争に向かうものに対しては、どんな些細なことも見逃してはならないと思います。そういったものは早期発見、早期治療です。
 では私達が日々できることはなんでしょう。それは目の前にいる患者さんをしっかりみて、健康を守っていくことだと思います。患者さんと係っていく中でいろんなことがわかり見えてきます。そのことがおのずと戦争をしない、平和な世界をつくる運動につながっていくのだと思います。
 また、こういった平和をまもる、憲法を守り実現させていく運動を行っていくうえで、やはり私達の本業である医療がしっかりとして充実したものでなければなりません。そのためには看護職員、介護職員、医師そして医療に係る人たちの処遇や基本となる生活が守られ保障されていなければなりません。そういった意味でも、充実した医療が提供できるよう国に求めていかなければならないと思います。

 この写真は私の父ですが、当時の診療所の中に「憲法を暮らしに生かす」というポスターがはってありました。
 私たち一人一人憲法を暮らしの中に生かしていくことが大切なんだなと思います。
 私の祖父は佐賀県出身です。佐賀医専をでて、大阪にある加藤肛門科で肛門疾患の治療の修行を受けながら京大でも勉強していたようです。なぜ肛門科を選んだのかは、聞くことができませんでした。その祖父が京都に肛門科を開業する際に、大阪の加藤先生からのれん分けとして、この看板をもらいました。渡邉医院のなかで最も古いものです。診療所を立て替える際に修理していただき玄関に掲げています。

 この看板がこれまでの渡邉医院の歴史を見守ってきました。私はこれから先も肛門科ただ一筋に診療を続けていきたいと思います。そのなかで患者さんとかかわりながら、平和な世界、そして憲法第25条が実現されるように生きていきたいと思います。