11月9日、10日の二日間にかけて、東京の新宿で第73回日本大腸肛門病学会が開催されました。
この二日間、渡邉医院を休診にさせていただいて、発表してきました。9日の金曜日の午前中の発表でしたので、8日の木曜日の夜に東京に行ってきました。
今回の発表内容は、「血栓性外痔核926例と皮垂1784例の発生部位に関しての類似点と相違点の検討」という演題名で発表してきました。以前、学会で血栓性外痔核や皮垂に関して報告してきましたが、その時フッと血栓性外痔核と皮垂の発生部位に類似点があるのではと思い、それぞれの発生部位に関して検討してみました。
皮垂の発生に関しては、やはり血栓性外痔核が関与しているのではないかというのが、私の結論です。
例えば、内痔核にみられる皮垂ですが、手術をしなければならない内痔核でも皮垂を伴わない場合があります。
これまでは、内痔核が腫脹することで皮垂が出来るのではと思っていましたが、それでは手術をしなければならないほどの内痔核に皮垂が伴わない場合はどうしてか、ということになります。
おそらく、痛みなどの症状が出ない程度の小血栓が出来たり吸収されたりを繰り返すことで、皮垂が出来てくるのだと考えます。また裂肛にみられる皮垂も、皮膚のしわとしての皮垂もあれば、ポリープ状に硬くなった皮垂もあります。これらの発生にも違いがあるのだと思います。しわのような皮垂は、やはり小血栓が出来たり吸収されることでできた皮垂であり、ポリープ状の硬い皮垂は裂肛部分の炎症などが繰り返しての皮垂ではないかと考えています。このことは、裂肛で来られた患者さんを診察してみると、裂肛の部分に小血栓を伴っている患者さんがいます。このようなことを考えると、小血栓の発生が皮垂と深く関わっていると思います。したがって、血栓性外痔核と皮垂の発生部位に類似点があるのだと思います。
では、今回の発表で使ったパワーポイントを発表原稿に合わせて紹介します。
「血栓性外痔核926例と皮垂1784例の発生部位に関しての類似点と相違点の検討」
スライド1
今回は、血栓性外痔核926例と皮垂1784例の発生部位に関しての類似点と相違点の検討について報告します。
スライド2
さて、今回の検討のきっかけとなったのは、以前、血栓性外痔核や皮垂に関して学会で発表してきましたが、これらの発表を通じて、「うん?なにか血栓性外痔核と皮垂の発生部位に類似点があるのではないかな?」と思ったことです。そこで、今回、当院で経験した血栓性外痔核と皮垂の発生部位に関して、特に手術症例でその類似点と相違点について検討したので報告します。
対象ですが、H7年2月からH30年3月までに手術を施行した血栓性外痔核926例、血栓の数では982ヶ所、それと皮垂1784例、皮垂の数では2599ヶ所を対象として検討しました。
スライド3
検討項目は、血栓性外痔核及び皮垂の発生部位をパワーポイントに示すように、前後左右に分けて、それぞれの男女差、また発生部位の類似点や相違点を検討しました。
スライド4
結果ですが、まずは血栓性外痔核の発生部位をみてみると、男性では前方が42例(8.5%)、後方221例(44.6%)、左方217例(43.7%)、右方16例(3.2%)でした。
女性では、前方が90例(18.5%)、後方220例(45.3%)、左方173例(35.6%)、右方3例(0.6%)でした。
血栓性外痔核では男女とも左方及び後方の発生が多く、左方と後方をあわせると、男性では88.3%、女性では80.9%を占めました。
スライド5
次に皮垂の発生部位をみてみると、男性では前方が164例(29.3%)、後方325例(58.1%)、左方54例(9.7%)、右方16例(2.9%)でした。
女性では前方が928例(45.5%)、後方882例(43.2%)、左方182例(8.9%)、右方48例(2.4%)でした。
皮垂では男女とも前方及び後方の発生が多く、前方と後方をあわせると、男性では87.4%、女性では88.7%を占めました。
スライド6
次に、男性において、血栓性外痔核と皮垂の発生部位を比較すると、いずれも右方の発生頻度が低く、血栓性外痔核では16例(3.2%)、皮垂では16例(2.9%)でした。
スライド7
女性においても男性と同様に血栓性外痔核も皮垂も右方の発生頻度が低く、血栓性外痔核では3例(0.6%)、皮垂では48例(2.4%)でした。
スライド8
まとめですが、血栓性外痔核では男女とも左方及び後方の発生が多く、左方と後方とをあわせると、男性も女性も、いずれも80%以上を占めました。このことは、内痔核の好発部位の3時と7時に血栓性外痔核ができやすい傾向があるのだと思われます。また男性も女性、いずれも右方の発生率が低く、男性3.2%、女性0.6%でした。このことは、内痔核の好発部位が含まれていないからと思われます。また、男性と比較して女性で前方に血栓性外痔核が多い傾向にあるのは、前方は裂肛の好発部位の一つであり、女性では男性と比較して裂肛が多いことも一因であると考えます。
皮垂では男女とも前方及び後方の発生が多く、前方と後方をあわせると男性も女性も、ともに90%近く占めました。これは内痔核の発生部位である7時、11時、そして裂肛の好発部位である6時と12時が含まれているからだと考えます。また皮垂においても右方の発生が、男性、女性とも発生頻度低く、男性で2.9%、女性では2.4%でした。
スライド9
以上、これらのことを考えると、血栓性外痔核も皮垂も、その発生部位は内痔核の発生に関連する上直腸動脈の走行や、裂肛による血管損傷による血腫形成や小血栓の発生などが関連しているのではないかと考えます。また、外痔核の成因やその病態についての論文報告をみてみると、次のように書かれていました。肛門部の静脈叢において、怒責、硬便、頻回の排便などの物理的な圧力によって自覚症状が出ない程度の小血栓の発生と吸収が繰り返され、その膨隆と委縮の積み重ねにより血管壁の脆弱化、静脈の拡張、慢性炎症、支持組織の過伸展、線維化、上皮の肥厚などが進行していく。そして、歯状線遠位側において急性血栓症を主にしたものは血栓性外痔核となり、上皮の肥厚と線維化を主としたものは皮垂に、静脈瘤の拡張・膨隆を主としたものは静脈瘤性外痔核の臨床像をとるとされています。このことからも、血栓性外痔核と皮垂の発生の原因は同じであると考えると、内痔核や裂肛などの肛門疾患の発生部位に血栓性外痔核や皮垂が発生しやすいのではないかと考えます。
抄録
当院で経験した血栓性外痔核と皮垂の発生部位に関して類似点及び相違点に関して検討した。【対象】H7年2月からH30年3月までに手術を施行した血栓性外痔核926例、皮垂1784例。【検討項目】血栓性外痔核及び皮垂の発生部位を前後左右に分け、それぞれの男女差及び、発生部位の類似点、相違点を検討した。【結果】血栓性外痔核は、男性は前方42例(8.5%)、後方221例(44.6%)、左方217例(43.7%)、右方16例(3.2%)。女性は前方90例(18.5%)、後方220例(45.3%)、左方173例(35.6%)、右方3例(0.6%)であった。皮垂は、男性は前方164例(29.3%)、後方325例(58.1%)、左方54例(9.7%)、右方16例(2.9%)。女性は前方928例(45.5%)、後方882例(43.2%)、左方182例(8.9%)、右方48例(2.4%)であった。【考察】血栓性外痔核では男女とも左方及び後方の発生が多く、左方及び後方で、男性88.3%、女性80.9%を占めた。これは、内痔核の好発部位の3時と7時に血栓性外痔核ができやすい傾向があると思われる。また男女とも右方の発生率が男性3.2%、女性0.6%と発生頻度が低かった。これは内痔核の好発部位が含まれていないからと思われる。また、男性と比較して女性で前方が多い傾向は、前方は裂肛の好発部位の一つであり、女性では男性と比較して裂肛が多いことも一因であると考える。皮垂では男女とも前方及び後方の発生が多く、男性では87.4%、女性では88.7%を占めた。これは内痔核の発生部位である7時、11時と、裂肛の好発部位である6時と12時が含まれているからだと考える。また皮垂においても右方の発生が、男性2.9%、女性2.4%といずれも発生頻度低かった。これらのことを考えると、血栓性外痔核も皮垂の発生には、内痔核の発生に関連する上直腸動脈の走行や、裂肛による血管損傷による血腫形成や小血栓の発生なども関連しているのではないかと考える。また肛門部の静脈叢において、怒責、硬便、頻回の排便等の物理的圧力によって、血栓性外痔核の発生や自覚症状が出ない程度の小血栓の発生と吸収が繰り返して、皮垂へと進んでいくと考えると、内痔核や裂肛などの肛門疾患の発生部位に血栓性外痔核や皮垂が発生しやすいのではないかと考える。