渡邉医院

痔核根治術後の1%の晩期出血。術後の痛み・出血の管理。

今回は術後710日目の患者さん、そしてそれ以降、治療が終了するまでにお話ししている内容を紹介します。内痔核術後に関しては今回が最後になります。

術後710日目は、痔核根治術を受けた患者さんが一便不安になる時期です。

【出血】

その一つは、術後の晩期出血です。術後の晩期出血は、私が手術を行った患者さんの約1%の方に起きています。他の肛門科の先生方とお話しても大抵どの医療機関でも約1%の頻度で晩期出血が起きています。

晩期出血は以前にもお話しましたが、内痔核の根元の動脈を縛った部分からの動脈性の出血です。どうしても止血処置が必要になります。晩期出血は動脈を縛った糸が自然に取れてきたときに起きるだけではありません。晩期出血が起きて止血処置を行うために麻酔をして、肛門鏡を挿入して出血部位を観察すると動脈を縛った糸がまだ残っているにも関わらず出血していることが多いです。考えられる晩期出血の原因にはいくつかあると思います。一つ目は、内痔核の根元を縛って内痔核を切除しますが、一部残っている部分があります。この部分は根元を縛っているので段々腐って脱落します。この部分に何らかの感染を起こして出血を起こす場合。二つ目は根元を縛ったところが壊死脱落していく際に脱落する傷からの出血。三つめは、明らかに動脈を縛った糸が外れて、その動脈からの出血。このような原因があるのではないかと考えています。一つ目のケースの場合は、基礎に何らかの病気を持っている場合が考えられます。例えば肝機能障害、糖尿病など傷の治りが悪い要素を持っている場合。またある程度の貧血がある場合などです。ですから、術前の検査で貧血のある患者さんや、肝機能障害で治療されている患者さん、そして糖尿病の治療を行っている患者さんに関しては、特にこの術後の晩期出血に関しては注意深く経過を診ていく必要があると思います。

でも、この術後710日が過ぎるとそれ以降ほぼ晩期出血はありません。また、術後710日目までに根元を縛った糸が取れてしまえば、出血を起こす場所がなくなるので、晩期出血の心配はいりません。患者さんにも、「今日で術後10日目です。術後の1%の晩期出血はもうほぼ起きることはありません。でも傷はあるので排便時に血がでたり、当てている綿花に血がついても心配ありません。まだ傷があるので、黄色い汁が綿花についても大丈夫です。術後10日が過ぎ傷が治っていく準備が整いました。これからは一気に傷が治っていく収縮という時期になります。これからは加速度をつけて治っていきます。」と話しています。

【痛み】

次に患者さんが心配されることは、痛みです。

術後710日までは傷が治っていく準備をしている期間です。傷の大きさなどは手術したときとほぼ同じ大きさの傷がまだ残っています。でも確実に傷は治ってきています。

ただ、排便時の痛みが、あまり変わりません。患者さんの不安は、「手術して710日間経ったのにまだ排便するときの痛みがある。大丈夫だろうか?」です。術後710日経ったのに、まだ痛みがある。術後に治り方の説明をしていても心配になるのは当然だと思います。ただ、排便時の痛みは、術後710日過ぎ、「収縮」という時期になると、スッと楽になります。感じとしては、今日も排便時に痛かった。今日も痛かった。今日も痛いんだろうと思って排便すると「あれ?昨日まで排便時に痛かったのに、今日は痛みが全然違う。急に楽になった。」という風に、突然スッと楽になっていきます。そしてこの痛みが取れる時期に個人差や年齢差はありません。

その理由は、内痔核の手術をすると、皆さんほぼ同じ傷の大きさになります。内痔核が大きいから傷が大きくなる。内痔核が小さいから傷が小さくなるではないからです。

内痔核のできる場所は、肛門の外側から23㎝奥の粘膜の部分にできます。ここは痛みを感じる場所ではありません。排便時に痛みを感じるのは肛門の皮膚、肛門上皮にできる傷が排便時に痛みます。内痔核に対して痔核根治術を行う場合、内痔核の根元まで剥離して、内痔核の根元の動脈を縛り切除して、肛門上皮の部分は縫合します。ですから、内痔核が大きくても、小さくてもこの肛門上皮にできる傷は同じです。そしてこの肛門上皮の傷、排便時に痛い傷を早く、具合よく治すために肛門の外側にドレナージという傷を作ります。ですから内痔核大きさに関わらず、ドレナージの傷の大きさは同じです。こういったことから、痔核根治術を行った場合にできる傷はほぼ皆さん一緒で、個人差なく術後34週間で治っていきます。この治る期間も以前お話したように、

傷の治る期間=(X傷の幅×1.19)+3.6日のXにドレナージの傷の幅15㎜を入れると約3週間です。みな同じように治っていきます。ただ、術後710日までの排便時の痛みには差があります。その痛みの差の原因は、一つ目は痔核根治術を行う傷の数です。1か所で済み人、2か所の人、3か所の人の痛みを比較すると、やはり1か所だけで済む人は排便時の痛みは楽です。2か所と3か所の人を比べると、あまり痛みに差がありません。

ですから、1か所ですむか、2か所以上になるかで排便時の痛みには差が出ます。二つ目は、術後に腫れが出るか出ないかです。どうしても術後に肛門の腫れが出てしまうと排便時以外にも痛みがあります。この術後の腫れの有無も痛みには影響します。最後に三つめは、排便の状態です。便が硬かったり、反対に下痢でも排便時の痛みは強いです。柔らかくて形のある便がスッと出る。そうすると排便時の痛みも楽です。こういった要素が術後710日目までの排便時の痛みに関係します。でも、いずれの場合も術後710日を過ぎると排便時の痛みもスッと楽になっていきます。

この710日目までの痛みを管理が重要だと思います。

この時期を過ぎると、次は術後2週間頃の傷を診せに来ていただいています。2週間を過ぎるともう80%程度治っています。まだ傷はありますが、排便時の出血や綿花につく出血汚れもずいぶん少なくなります。また排便時の痛みはこの時期になるとほぼとれ、楽になっています。これ以降困ったことは起きません。そして最後は術後34週間頃、もう治ってしまったところを診せていただいて、治療は終了となります。

これまで何回かに分けて内痔核の対しての出血や痛みなどに関して患者さんにお話ししている内容を紹介してきました。やはり大切なことは、術後710日目までの痛みや出血をどう管理していくかだと思います。傷の状態も大事ですが、不安を感じている患者さんをどう支えていくかが一番大切なことだと思います。この時に役に立つのが、患者さんにお願いしているアンケートです。以前、このアンケートに関しても紹介しましたが、患者さんの声を聴いて、それを整理して検討することで術後の治りを自信を持ってお話することが出来ます。よく父が生前、「目の前の患者さんを一人一人しっかり治していくことが一番大事だ。」と言っていました。その通りだと思います。そのことを通じて多くの患者さんに適切な情報を伝えていくことが出来るのだと思います。