渡邉医院

肛門周囲膿瘍344例の分離菌及び抗生剤の感受性の検討。

今回は、肛門周囲膿瘍344例の原因となった細菌と抗生剤の感受性について以前に検討した論文を紹介します。
 肛門周囲膿瘍は肛門小窩に細菌感染を起こして膿瘍形成をする病気です。肛門周囲膿瘍に対してはまずは早急に外科的に切開排膿することが大切です。それと同時に原因となった細菌に感受性のある抗生剤を適切に使用することが必要になってきます。今回はその原因となった細菌の種類や感染の形式。またその原因菌に対しての抗生剤の感受性を検討した論文です。
 原因菌の多くは大腸菌などのグラム陰性桿菌である腸内細菌が多く、セフェム系の抗生剤が感受性があります。ただ、肛門の深い部分に広がっていく肛門周囲膿瘍には嫌気性菌の感染が比較的多く認めます。この嫌気性菌にはセフェム系の抗生剤は感受性が低いです。嫌気性菌にはテトラサイクリン系の抗生剤が感受性が高いです。またニューキノロン系の抗菌剤も有効だと思いますが、原因菌となる大腸菌の中にはニューキノロン系に耐性の菌もあります。
 肛門周囲膿瘍の広がり具合、表面に広がっているのか、深部に広がっていくのかなど診断しながら、原因菌を予想して、適切な抗生剤を使用していく必要があります。
 今回の論文がその参考になればいいなと思います。
少し古い論文で、その当時のパワーポインとを開くことができなかったので、文章だけになってしまいました。

論文

        はじめに

 肛門周囲膿瘍の治療は、切開排膿や根治術が最優先される。また、適切な抗生剤の投与も必要である。今回我々は、肛門周囲膿瘍からの分離菌及び抗生剤の感受性を検討した。

       対象と方法

 対象は、H711月からH166月までに細菌学的検討を行った肛門周囲膿瘍344例(男性321例、女性23例、平均年令42.4才)とした。
 採取した検体から分離された菌について分離菌の種類、分離状況、抗生剤の感受性について検討した。
 
抗生剤は、第1世代セフェム系セファレキシン(CEX)、第2世代セフェム系セフォチアムヘキセル(CTM-HE)、マクロライド系ロキタマイシン(RKM)、テトラサイクリン系ミノサイクリン(MINO)の4種類について検討した。

        結果

 344例の肛門周囲膿瘍から562株の細菌が分離された。分離菌数が1種類が174例、2種類が121例、3種類が41例、4種類が6例、5種類が2例であった。
 分離された562株のうち、グラム陰性桿菌が388株(69.0%)と最も多く、好気性菌はEscherichia coli212株(37.7%)、Klebsiella属が59株(10.5%)であった。嫌気性菌はBacteroides属が64株(11.0%)であった。グラム陽性球菌は125株(22.2%)で、Streputococcus属が74株(13.2%)と最も多かった。これら4種類で全体の72.4%を占めた。
 感染状況は、単独感染が174例(50.6%)、混合感染は170例(49.4%)であった。単独感染では好気性菌が158例(90.8%)に対し、嫌気性菌は16例(9.2%)であった。混合感染では好気性菌のみの混合感染が90例(52.9%)に対し、嫌気性菌が関与する混合感染は80例(47.1%)と嫌気性菌の関与する割合が多くなった。
 嫌気性菌は、単独感染は9.2%であるのに対し、2種類混合感染では56.1%、3種類以上混合感染では61.2%と菌種が増えるほど有意に分離される割合が増加した。Escherichia coliとの混合感染ではStreptococcus属が23.3%と最も多く、Klebsiella属、Streputococcus属と
Bacteroides属ではいずれもEscherichia coliとの混合感染が多く、それぞれ41.3%、39.1%、32.9%であった。嫌気性菌との混合感染では、Escherichia coli14例(32.0%)、Streputococcus属は25例(28.7%)、Klebsiella属は8例(12.7%)であり、Klebsiella属の嫌気性菌との混合感染が少なかった。
 抗生剤の感受性は、最も分離株が多かったグラム陰性桿菌のうち、好気性菌に関してはCTM-HEが最も感受性がある一方、嫌気性菌に関しては感受性が低く、嫌気性菌に対してはMINOの感受性が最も高かった。

        考察

 今回、肛門周囲膿瘍334例から合計562株の細菌が分離された。分離菌中グラム陰性桿菌が388株、69.0%を占めていた。分離された菌のうち、好気性菌ではEscherichia coli212株、37.7%と最も多く、次いでStreptococcus74株、13.2%、Klebsiella59株、10.5%であった。また嫌気性菌ではBacteroides属が6411.0%と最も多かった。  感染状況では、334例中単独感染が174例(50.6%)、混合感染が170例(49.4%)と同程度であった。
 嫌気性菌は単独感染が16例(9.2%)であるのに対して、混合感染では80例(47.1%)と嫌気性菌の関与が高かった。
 2種感染と3種以上の混合感染とを比較すると、3種以上で有意に嫌気性菌の関与する割合が多かった。Bacteroides属は
Escherichia coliとの混合感染が多かったが、Bacteroidese属はβーlactamase産生菌であることから、β-lactam系の抗生剤がEscherichia coliに感受性があっても、効果を示さない場合が有る。また、深部の肛門周囲膿瘍ほど嫌気性菌の分離率が高いと報告されている。
 したがって、嫌気性菌が関与している可能性のある深部の肛門周囲膿瘍などに対して切開排膿する場合は、比較的大きな切開創を作り、十分なドレナージが必要と考える。排膿後は、創傷の治癒を早める上で抗生剤の投与は有用である。投与する抗生剤は分離される可能性の高い細菌に有効なものを選ぶ必要がある。したがって、好気性のグラム陰性桿菌に対して最も感受性の高かった第2世代セフェム系のCTM-HEが第一選択となると考える。ただ嫌気性菌に対しては感受性が低く、これに対してはテトラサイクリン系の
MINOが有効と考える。
 
今後、肛門周囲膿瘍の肉眼的所見や肛門指診などの臨床所見と分離菌の関係を検討していく必要があると考える。