渡邉医院

皮垂を切除した405例の検討(臨床肛門病学、第7巻1号、2015)

 今回は臨床肛門病学、第7巻1号、2015年に投稿した「皮垂を切除した405例の検討」の論文を紹介します。
 皮垂はskin tag、スキンタグとも呼ばれています。肛門にできるしわのことですが、その原因には内痔核や裂肛、血栓性外痔核が原因となることが多いです。
 最近、皮垂が気になり切除を希望される患者さんが多いです。「皮垂が気になる。」、「違和感がある。」、「排便後、拭きにくい。」などの症状を訴えられる患者さんが多いです。また、内痔核が飛び出たままになっているのではないかと心配されたり、何か悪性のものができたのではないかと心配される方もいます。
 皮垂そのものは悪いものではなく、痛みや出血などの症状はありません。必ず切除しなければならないものではありません。でも、いつもいつも気になっているのもあまりよくないと思います。
 渡邉医院では、皮垂が気になる方は切除をしています。切除にあたって注意している点は、皮垂の原因となる内痔核や裂肛などの病気の治療ができていること。そして皮垂を切除する際は、なるべく大きく皮垂を切除することなどです。皮垂の切除は外来での手術になり、入院はしてもらっていません。
 今回紹介する論文は、男女差、年齢別による差、また原因疾患別の差、また、皮垂の発生部位などを検討しています。
 まずは要旨を紹介します。

 要旨

 当院で経験した皮垂切除例について検討した。皮垂切除は、患者が切除を希望した場合に切除した。【対象】H7年7月~H27年1月までに皮垂を切除した405例(男性46例、平均年齢57.5歳、女性359例、平均年齢45.2歳。)
【結果】①女性に皮垂切除例が多かった。②原因(内痔核、裂肛)では、女性の若年層では裂肛が、年齢とともに内痔核が原因の皮垂が多かった。③男性では、内痔核が原因での皮垂が多かった。④年齢では、男性と比較して女性では50歳以下群に多かった。⑤皮垂の発生部位は内痔核、裂肛の好発部位に多く、右側にはほとんど認めなかった。
【まとめ】皮垂は、それ自体は病的意義が少ないとされているが、皮垂があることで皮膚炎の原因になったり、また違和感など、患者にとっては不快なものとなることもある。患者の希望がある場合は、皮垂の成因を十分に考慮して切除するとともに、切除にあたっては、原疾患が十分に治療されている必要があると考える。

 論文を紹介します。

 はじめに
 肛門の皮垂は日常の外来診療でよく遭遇する。患者の主訴としては出血や痛みなどは認めないが、肛門部の違和感や不快感などがある。また、内痔核の脱出と勘違いし、押し込もうとする患者もいる。皮垂が原因で排便後に過度に拭きすぎ肛門周囲の皮膚炎を起こすこともある。しかし、病的な意義が少ないと判断され、特に治療せずそのままになっていることも多い。ただ患者にとっては皮垂があることが気になり、皮垂の切除を希望する患者も少なくない。今回、当院で経験した皮垂切除例405例に関して検討した。
 対象
 対象はH7年7月からH27年1月までに皮垂を切除した405例、男性46例(11.4%)平均年齢57.5歳、女性359例(88.6%)平均年齢45.2歳とした。
 検討項目
 対象症例について、①皮垂の原因、②皮垂の発生部、③性差、④皮垂の原因別の性差、⑤年齢差の5項目について検討した。
 皮垂の治療方針
 当院での皮垂の治療方針は、患者にとって皮垂が気になり、その切除を希望した場合に切除術を行っている。
 皮垂切除は1%塩酸プロカインによる局所麻酔下に左側臥位で切除を行っている。術後は1時間安静後に出血の有無等を確認して帰宅させている。
 皮垂の切除の際には、①切除する場合は、比較的大きく切除する。②裂肛が原因での皮垂では前後に皮垂ができることが多く、切除創が真正面や真後ろにできないように左右にずらして切除する。③内痔核が原因での皮垂の場合は、肛門管内まで少し創がかかるように切除する。以上3点について心がけている。

 結果
 1)性差
 性差では男性が46例(11.4%)、女性が359例(88.6%)と女性で皮垂切除例が多かった。また平均年齢では男性57.5歳、女性45.2歳と女性が若い傾向にあった。(図1)

 2)皮垂の原因
 皮垂の原因としては内痔核、裂肛が多く、肛門手術後の皮垂も認めた。内痔核及び裂肛が原因での皮垂を男女間で比較すると、女性では内痔核が162例(45.1%)、裂肛が177例(49.3%)と女性では、原因の差は認めなかった。
 男性では、内痔核が31例(67.4%)、裂肛が13例(28.3%)と男性では内痔核が原因での皮垂が多い傾向にあった。(図2)

 3)皮垂の年齢別男女の切除症例数
 女性では50歳以下で皮垂切除症例数が男性と比べて多かった。(図3)

 4)皮垂の原因別切除症例数
 女性では裂肛が原因での皮垂を切除した症例は30歳以下群にピークがあり、内痔核が原因の皮垂切除は40歳以下群から年齢とともに微増した。(図4)

 男性では裂肛が原因での皮垂切除例は少なく、内痔核が原因での皮垂切除例は70歳以下群にピークを認めた。(図5)

 内痔核が原因での皮垂切除例を男女間で比較すると、女性の場合は40歳以下群に一つのピークがあるが、その後は年齢とともに増加する傾向があった。男性の場合は70歳以下群にピークを認めた。(図4、5)
 裂肛が原因での皮垂切除例を男女間で比較すると、女性では30歳以下群にピークがあり、年齢とともに減少した。男性では裂肛が原因での皮垂がそもそも少ないが、年齢には差は認めなかった。(図4、5)
 5)皮垂の発生部位
 皮垂の発生部位を大きく前後左右に分けると、前方199例、後方138例、左84例、右2例であり、右側にはほとんど皮垂は認めなかった。(図6)

考察
 皮垂は日常の外来診療でよく遭遇する。しかしながら、病的な意義があまりないとされそのままにされている場合もある。患者にとっても、皮垂が気になる場合もあれば、全く気にならない患者も多い。患者の訴えとしては、「肛門に何かできていて気になる。」、「違和感がある。」、「異物感がある。」など皮垂そのものの存在が症状となる場合や、排便後きれいに拭けないと何度もこすり刺激を与えることで、皮膚炎を合併したり、このことが原因で肛門のべとつき感を訴えたり、皮垂による二次的な症状を訴える場合もある。

 皮垂の定義及び原因は、血栓性外痔核や嵌頓痔核が保存的治療によって治癒した後や、痔核手術後の治癒過程で発生した線維組織の増殖であったり、あるいは繰り返しおこる肛門皮膚の炎症などで肛門縁の皮膚に結合織の増殖をともなう繊維性のシワとしている。1)、2)、3)分類ではGoligherは皮垂を特発性と二次性とにわけ、特発性は明らかな原因のないものであり、二次性は出産、内外痔核・裂肛・などに関連しておこるものとしている。4)1)また、病理学的特徴では、肉眼所見では、外痔核領域にみられる肛門皮膚の線維性肥厚であり、組織所見では肛門皮膚の上皮の肥厚および上皮下の間質にみられる強い線維化を特徴とする。さらに、炎症細胞浸潤はなく、Fibro-epithelial polypの形をとるとしている。1)

さて、今回の皮垂はGoligherの分類での二次性の皮垂であり、特に内痔核と裂肛が原因での皮垂について検討した。

 性差では女性が88.6%と圧倒的に多く認められた。このことは、男性と比較して美容的な意味合いが強いのではないかと考えられる。このことは、皮垂切除の年齢別症例数をみても、女性では30歳以下群と40歳以下群に切除症例が多い点から、女性の若年者が美容的にきになる傾向があるのではないかと思われる。

 原因別でみてみると、女性では内痔核が原因45.1%、裂肛が原因49.3%と差は認めなかったのに対して、男性では内痔核が原因67.4%、裂肛が原因28.3%と内痔核が原因での皮垂が多い傾向にあった。
 女性全体では原因に差は認めなかったが、年齢別で比較してみると内痔核が原因の皮垂では40歳以下群に一つのピークがあるものの、年齢とともに皮垂切除例が増加していくのに対して、裂肛が原因での皮垂では逆に30歳以下群にピークがあり、その後年齢とともに減少していく傾向にあった。
 このことは、裂肛が若年者に多い傾向があるのと一致していると考える。
 また内痔核が原因での皮垂に関して、40歳以下群に一つのピークがあるのは、出産後に生じた内痔核による皮垂に対して、ある程度子育てが落ち着き皮垂の切除に踏み切るといった社会的な要素もあるのではないかと思われる。このような社会的要素は男性の内痔核が原因での皮垂切除でもあると思われる。男性の皮垂切除症例の年齢が50歳以下群から増え、70歳以下群にピークを認めるのも、仕事からリタイヤして手術の時間がとれるなどの理由もあると考えられる。

 皮垂の発生部位の検討だが、前方が199例と最も多く、次いで後方が138例であった。
 これは裂肛の好発部位であることが要因であると考える。また左側が84例であり、これに対して右側は2例であることも、やはり内痔核の好発部位に皮垂が発生しやすいことを現しているのではないかと考える。これらのことは、皮垂は原発性のものより、内痔核や外痔核、そして裂肛などによる二次的な変化として発生することが多いと考えられる。

 皮垂は、それ自体は病的意義が少ないとされている。しかし、皮垂があることで皮膚炎の原因になったり、また違和感など、患者にとっては不快なものとなることもある。
 当院での切除するにいたった症例は、全てが患者からの切除希望によるものである。患者の希望がある場合は積極的に皮垂を切除している。
 ただ、切除する場合、裂肛による皮垂の場合は、前後に発生していることが多く、皮垂の切除創を真正面や真後ろにつくった場合、切除後に治癒の遷延を起こすことがある。
 また、皮垂の原因である裂肛の治療が十分に行われていない場合、皮垂を切除した後に裂肛が悪化した症例も経験する。
 一方、内痔核が原因での皮垂の切除の場合、ある程度肛門管内まで切除しないと、術後の浮腫が起き、再度皮垂を発生させる原因にもなってしまうことがある。
 皮垂のみを切除する場合は、前提として、裂肛や内痔核などの原因疾患が十分に治療されていることが重要である。また、切除する範囲や切除後の創のデザインを十分に検討して慎重に切除する必要があると考える。

引用文献

1)高木 由利,荘司 輝昭:スキンタッグの治療“肛門美容形成”について,日本大腸肛門病学会誌61147150,2008
2)武藤 徹一郎:C.痔核, 武藤 徹一郎編 大腸肛門疾患の診療指針 p41-p47,中外医学社,1986.
3)Richard T Shackelford:C43 Hemorrhoids, Robert Turell Diseases of the Colon and Anorectum, 2nd ed. V,p895-p940, W.B. Saunders Company, Philadelphia, London, Toronto, 1969.
4)Goliger JC, Duthie HL, Nixon HH: External Piles. Surgery of the anus, rectum and colon. 2nd ed. London. Bailliere Tindall & Cassell, 1975, p165-166