渡邉医院

痔核根治術後の疼痛についてー特に術前肛門内圧による疼痛の比較検討ー(第54回日本大腸肛門病学会)

 今回は、「痔核根治術後の疼痛についてー特に術前肛門内圧による疼痛の比較検討ー」の発表を紹介します。
 新しい発表から順次過去の発表へと、遡って紹介しているので、学会の若い番号から順次みていただくと、私の痔核根治術後の疼痛についての考えが順序だってわかっていただけるかなと思います。また、この件に関しての論文もまた紹介していきたいと思います。
 さて、内痔核に対して痔核根治術を行った後、同じように手術をしても手術後の痛みに差があります。この差はどこにあるのか?どうしたら、術前に術後の疼痛に関して予測できるか?について考えた発表です。
 術前に、術後の疼痛の程度を予測できれば、その疼痛の原因となるものを取り除くことで、術後の疼痛を緩和することができます。
 これまで経験的に、肛門のしまり、括約筋の緊張が強い人ほど術後の疼痛が強い印象がありました。この経験上感じたことが正しいのかを検討しました。
 内肛門括約筋の緊張の度合いを反映するのが、最大肛門静止圧です。この最大肛門静止圧を測定して術後の疼痛との関係を比較検討してみました。
 今回は抄録だけの紹介となります。

抄録

 痔核根治術後の疼痛は、手術術式の進歩や術後の処置などで緩和されてきているものの避けては通れない問題である。同様の手術を施行しても患者個々で、疼痛の程度はまちまちである。術前からある程度、術後の疼痛(特に術当日)の程度を予測できないか、術前の最大肛門静止圧と術後疼痛との関係で比較検討した。
 [対象]術前に最大肛門静止圧を測定するようになったH109月〜H113月までに痔核根治術を施行した146例(男性76例、女性70例、平均年令48.3才)を対象とした。
 [方法]術前に最大肛門静止圧を測定。術後3時間後に疼痛の有無を「痛くない」、「少し痛い」、「痛む」、「とても痛い」の4段階に分類し、痛みの程度と最大肛門静止圧との関係を比較検討した。尚、手術は全例局所麻酔下に施行した。術式は半閉鎖術式を用いている。
 [結果]術後3時間後の痛みの程度はそれぞれ、「痛くない」58.2%、「少し痛い」27.4%、「痛む」13.7%、「とても痛い」0.7%であった。痛みの程度と術前最大肛門静止圧の関係は、「痛くない」と答えた患者の術前最大肛門静止圧の平均は93.4mmHgで、「少し痛い」102.3mmHg、「痛む」131.6mmHg、「とても痛い」160mmHgであった。統計学的見当をすると、「痛くない」と「少し痛い」及び「少し痛い」と「痛む」との間には有意差を認めなかったが、「痛くない」と「痛む」との間にはp=0.016で有意差を認めた。また最大肛門静止圧が100mmHg以下と100.1mmHg以上とで痛みの程度をみてみると、100mmHg以下では、「痛くない」57例、「少し痛い」22例、「痛む」6例、「とても痛い」0例に対して、100.1mmHg以上では、「痛くない」28例、「少し痛い」18例、「痛む」14例、「とても痛い」1例で、それぞれの群の間にp=0.012で有意差を認めた。
 [まとめ]1)術前の最大肛門静止圧は、「痛くない」と「痛む」の間でp=0.016で有意差を認めた。2)術前の最大肛門静止圧が100mmHg以下の群と、100.1mmHg以上の群との間には術後3時間後の痛みに関してp=0.012で有意差を認めた。以上より、術前の最大肛門静止圧が高くなるにつれて術後の痛みが強くなる傾向があり、100mmHg以上になると術後3時間後の痛みが出現する可能性が出てくる。したがってこのような症例に対しては、消炎鎮痛剤などによる「先取り鎮痛」を考慮したり、術前のストレッチングを十分におこない、術後の過度の括約筋の攣縮を予防したり、また最近裂肛の治療に用いられているニトログリセリンなどを術前に塗布することで術前の最大肛門静止圧を下げるなどの工夫で、術後の痛みをさらに改善できると考える。