渡邉医院

温水洗浄便座の功罪

 1980年、今から38年前、「お尻だって洗ってほしい」という衝撃的なCM で温水洗浄便座がこの世に出現しました。今ではずいぶん普及してきています。便座には様々な機能が付き、洗浄の仕方も驚くほど進化をしていると思います。

 私も以前、温水で洗浄すると肛門の血流がよくなるかどうかを実験し、調べたことがあります。常温水と42度の温水とで肛門を洗浄して血液の流れを測定して比べてみたところ、温水で洗浄することで血液の流れがよくなることが分かりました。やはり、温水洗浄便座で洗ったほうがお尻にはいいのだなと思い、この結果を学会にも報告したりしました。

 ところが最近チョット困った現象も起きてきています。洗浄しているうちに、洗浄する水圧が段々強くなってしまうようです。あまり強い水圧で洗うと、肛門がむずむずしてきたり、肛門を傷つけてしまったりすることがあります。また洗浄する温水が肛門に当たると直腸まで水が入ってしまうことがあります。直腸に入った温水は、後から出てきて肛門がただれてしまったり、洗浄しているのに汚れたりすることがあります。また、洗浄する温水が直腸に入ることで、また便がしたい感じになって、これを繰り返すことでなかなかトイレから出られなくなってしまうこともあるようです。

 洗っても汚れると、段々強く洗うようになる。強く洗うことで直腸に入った水が後から出てきてさらに汚れる。こんな悪循環にもなってしまいます。さらに温水で洗浄しても汚れてしまうと、肛門の締りが悪くなったのではないかと悩んでしまう人もいます。なぜか、洗浄のノズルのほうが悪いのでは、強く洗いすぎるのがよくないのではないかと考える人は少ないです。洗浄便座はずいぶん工夫され改良されてきていますが、完璧ではありません。その証拠に、洗浄の仕方もどんどん変わって新しいものが出てきます。私たちは、便利なものができると、それが完璧なものだと思い込んでしまうことが多いのではないでしょうか。

 正しいと思っていたこと、間違いなど起きないと思っていたもの、信頼していたものがもろくも崩れる去る昨今、自分のお尻の方が精巧で完璧だと自信を持って下さい。洗浄便座も完璧でなく、まだまだ進化の過程なのだなと優しく見守って、温水洗浄便座を使うときは、軽く洗って軽く拭く程度にしましょう。