渡邉医院

裂肛に対して側方皮下内肛門括約筋切開術(LSIS)が最大肛門静止圧に与える影響。(第58回日本大腸肛門病学会)

 裂肛は、排便時の痛みによって内肛門括約筋の緊張が強くなってきます。内肛門括約筋の緊張が強くなることで、排便時の痛みが強くなったり。、排便後の痛みの持続時間が長くなってきます。また内肛門括約筋の緊張が強くなることで、排便時に傷がつきやすくなってしまします。この内肛門括約筋の緊張の程度を知るために最大肛門静止圧を測定します。内肛門括約筋の緊張が強いほど最大肛門静止圧が高くなります。
 裂肛の手術は、この内経文括約筋の緊張を摂って、正常にすることが目的になります。
 今回は、裂肛に対しての手術に、側方皮下内肛門括約筋切開術(LSIS)という手術がありますが、このLSISが最大肛門静止圧に与える影響について検討した発表を紹介します。

発表原稿
 
裂肛に対して、内肛門括約筋の緊張をとり、最大肛門静止圧を下げる目的で、LSISが施行されています。今回、術前の最大肛門静止圧の違いで、LSISがどのように圧の低下に影響を与えるかについて検討しました。
 
対象は、平成109月から平成153月までにLSISを施行し、術前、局所麻酔後、LSIS施行後、治癒時の最大肛門静止圧を測定した154例としました。
 
方法は、術前、局所麻酔後、LSIS施行後、治癒時の最大肛門静止圧を測定。術前の最大肛門静止圧の低い順にA群からD群に分類しました。局所麻酔後、LSIS施行後、治癒時の低下率をそれぞれスライドのように定義して、各群で比較検討しました。
 
局所麻酔後の低下率を比較すると、A群で低下率が有意に少なかった。
 
LSIS施行後の低下率は、有意差を認めませんでした。
 
治癒時の低下率を比較すると、術前の最大肛門静止圧が高い群ほど低下率は大きかった。
 
術前の最大肛門静止圧が高い群で、治癒時の圧の低下が著明です。これに対して、LSIS施行後の最大肛門静止圧の低下には、有意差は認めませんでした。ではどの時点で治癒時の最大肛門静止圧の低下率に差がでたかですが、
 
術前の圧が高い症例では、炎症のために括約筋が硬く器質化した状態で、LSISによって括約筋を切開したことが圧を下げることに影響を与えたのに対して、術前の圧が低い症例では、括約筋の線維化がまだ進んでなく、柔らかい状態で、局所麻酔後の十分なストレッチングが圧の低下に影響を与えたと考えています。したがって同じようにLSISを施行したつもりでも、術前の圧が高い症例では、十分に括約筋が切開されたのに対して、圧の低い症例では、括約筋の切開より、ストレッチングによる括約筋の緊張の緩和が主体となり、必要以上に括約筋を切開せずにすんでいると考えています。そうすると、ストレッチングだけで十分圧が下がれば、括約筋の切開を加えず、十分圧が下がらない場合は、LSISで括約筋を切開する。このように、術中に最大肛門静止圧を測定することもLSISを施行する際の一つの目安となると考えます。 
 LSIS施行後の低下率は有意差を認めず、治癒時の低下率は、術前の最大肛門静止圧が高い群ほど大きかった。これは、術前の圧の違いで、LSISとストレッチングとの内肛門括約筋の緊張の緩和に与える影響が異なるためと考える。

抄録

 裂肛に対して最大肛門静止圧(以下marp)を低下させる目的で、側方皮下内肛門括約筋切開術(以下LSIS)が施行されている。今回我々は、術前のmarpの値の違いで、LSISがどのようにmarpの低下に影響を与えるかについて詳細に検討した。  
 【対象】平成109月〜平成153月までに裂肛に対してLSISを施行し、術前(LSIS施行前)・局所麻酔後・LSIS施行直後・治癒時の4marpを測定した154例(男性50例、女性104例、平均年令41.8才)とした。
 
【方法】術前、局所麻酔後、LSIS施行直後、治癒時の4marpを測定。術前のmarpA群(100mmHg未満)、B群(100-150mmHg未満)、C群(150-200mmHg未満)、D群(200mmHg以上)の4群に分類。術前と治癒時のmarp、局所麻酔後の低下率(100-局所麻酔後marp/術前marp×100%)、LSIS施行後の低下率(100-LSIS施行後marp/局所麻酔後marp×100%)、治癒時の低下率(100-治癒時marp/術前marp×100%)の4項目について比較検討した。手術は局所麻酔下に同一術者が施行した。
 【結果】ABCD、の4群間での比較で、治癒時のmarpはそれぞれ82.2±25.8mmHg100.4±34.8mmHg108.9±34.0mmHg120.9±46.8mmHgで、A群で他の3群と比較して有意に内圧が低かった。(p=0.0264p=0.0023p=0.0026)局所麻酔後の低下率は66.2±18.1%、77.3±12.8%、78.0±11.5%、81.9±12.6%とA群で有意に他の3群より内圧の低下が少なかった。LSIS施行後の低下率は39.6±30.9%、42.4±33.0%、46.8±25.2%、32.1±36.3%と各群間に有意差は認めなかった。治癒時の低下率はそれぞれ-6.2±34.9%、18.1±25.8%、35.5±21.3%、47.2±21.6%と術前のmarpが高いほど有意に内圧が低下した。
 
【まとめ】LSISは、術前のmarpが高い症例ほど有意にmarpを低下させることがわかった。術前のmarpが低い症例では、LSISによる括約筋切開での圧の低下より、むしろ局所麻酔後のストレッチングが、一方高い症例では、LSISによる括約筋切開が治癒時のmarpに影響を及ぼしたのではないかと推察する。